25. やっぱり貴方だったのね


「この御令嬢は俺の標的なんでね。ドロシー・ケイ・プライヤーに依頼されてるもんだから、アンタらに殺されると報酬が貰えないんだわ。だからさ、とりあえず俺が預かって行くから。」

「お前は確かにあの日の殺し屋だな!あの女の依頼はもう無効だ!その女は僕が殺す!」


 そう喚きながらも、護衛騎士もジョシュア様も動けずにいるのです。

 それほど、この刺客の腕は確かなのでしょう。


 いつの間にか傍に来ていた彼は、私を抱き上げてその場を去ろうとしています。


「待て!その女を置いていけ!」


 ジョシュア様が喚き、護衛騎士がこちらへ向かおうとした時……。


――シュッ……!


 護衛騎士の喉元に小刀が突き刺さり、護衛騎士はおびただしい量の血を噴き出しながらその場に倒れました。

 騎士は口をパクパクとさせていますが、その度に喉元から血が溢れて声にならないのです。

 もう、きっと助からないでしょう。


「なっ……!」


 ジョシュア様はその惨劇を目の前にして動けなくなったようです。

 こちらを睨みつけるだけで足元は動こうとしておりません。


「じゃ、コイツはもらって行くから。」


 そう言って彼は私を横抱きにしたまま林の中を走り抜け、そのうち私は意識が遠のくのを感じました。

 血を流しすぎたのかも知れません。




 ガタガタと身体が揺れる気配がいたしました。

 硬い板の間に寝かされているような感覚で、頭の下にだけ柔らかな物が敷いてあるようです。


 それでも、瞼がとても重くて目を開けることが出来ないのです。


 また意識が深いところに沈んでいくような気がして、聞こえていた音も感覚も途切れました。




「とりあえず、このまま固定してしばらくは安静にするように。だけどまだ随分痛むと思うから薬はここに置いておくよ。」

「歩けるようになるのか?」

「……分からないな。安静にして、落ち着いたら歩く稽古をしてみることだな。」

「……そうか。すまなかった。助かったよ。」

「お前が頭を下げるなんてな。珍しいこともあるもんだ。ま、しばらく大事にしてやれよ。」

「何かあったらまた頼む。」


 誰?あの人と誰か他の男性の声?


 もう起きなきゃ……。ああ、瞼が重いわね。



 深くて暗いところから、段々と明るいところに急浮上していくような感覚を覚えて、自分の瞼が揺れる気がしたのです。


 ゆっくりと目を開けると、邸の天井より低い位置に見たことのない木目の天井が見えました。


「ここ、どこ?」


 頭を動かすのも億劫で、目線だけで周りを見渡すと広いとは言えない部屋の中で寝かせられているようなのです。


 初めて見る部屋、窓も小さくて可愛らしい大きさで、調度品は華美ではないデザインで全てパイン材でできていているようです。


――ガチャッ……


 部屋の扉が開く音でしょうか?頭が重くて身体も動きそうにありません。


「……貴方なの?」


 そう問いかけると急いだような足音がして、こちらへと向かってきました。


「エレノア!」


 ああ、やっぱり貴方だったのね。

 名前も知らない銀髪で紅い宝石眼の人。


 安心した私は身体の力が抜け、軽く微笑みました。

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