24. 狂気の滲む瞳で高笑いをするアナタ
「ジョシュア様はドロシー嬢と私を亡き者にしようと画策なさっておりましたわね。」
怒りも忘れて一瞬の間、時が止まったように瞠目したまま固まったジョシュア様。
まさか私がそのことを知っているとは夢にも思わなかったのでしょう。
「私が死んだら、ドロシー嬢とご結婚なさるとか。そのようにお約束なさっておりましたわ。」
「僕はあんなアバズレと結婚したりしない。」
何ですって?何だか酷い言葉が聞こえましたけれど。
「ジョシュア様がおっしゃっていたのを私はこの耳で聞いたのですよ?あの夜会の日、休憩室の寝台でドロシー嬢と睦あっていたではありませんか!」
「あの女は僕を騙していたんだ!アイツは娼婦でアバズレで、歳も二十七の行き遅れだ!あんな女と結婚などと、本気ですると思うのか?」
ジョシュア様、ご存知だったの?いつから?
それではなぜ?
「まず夜会であのようなダンスを僕にさせて恥をかかせるだけでは飽き足らず、娼婦の手練れで僕を誘惑をしておいてまんまと結婚する気でいるなど馬鹿馬鹿しい!たかが伯爵家の令嬢のくせに。しかもプライヤー伯爵の手垢付きだ。あんな女は僕に相応しいはずもない!」
「ジョシュア様、何故それを?ドロシー嬢の秘密を何故ご存知なんですか?」
「ご親切にもあのプライヤー伯爵が教えてくれたよ!自分の情婦を取られるのが癪に触ったんだろう。どいつもこいつも僕を馬鹿にしやがって!」
プライヤー伯爵がジョシュア様にドロシー嬢の秘密を話したから、今日のドロシー嬢はあのような態度だったのかも知れないわね。
怒りに打ち震えるジョシュア様はまともな目をしておりません。
最早何を言っても激昂するでしょう。
「それでは、ジョシュア様はどうなさりたいのですか?」
私は努めて冷静に話しかけるようにいたしました。
「この国に侯爵家はアルウィン家だけではない。他の侯爵家の令嬢でもいいし、他国の姫でもいいな。僕ほどの血筋ならば陛下はまた相応しい令嬢を見つけてくれるだろう。この僕と婚約破棄したいなどと言うお前など、もう必要ないんだ。」
ジョシュア様はもう、私が幼い頃から知っている婚約者のジョシュア様ではないような気がいたしました。
いつからこのような方になってしまったのか、もう私にも分からないのです。
「おい!出て来い!コイツを殺せ!」
「はっ!」
ジョシュア様と私がいる少し離れた茂みのそばから一人の騎士が出てきました。
着ている鎧の紋章から、ジョシュア様付きの護衛騎士だと思われます。
「まず、そいつが逃げ出せないように脚の腱を切れ!」
「はっ!」
早く逃げなければと思うのに、恐怖で足が思うように動かないのです。
そして、何とか逃げ出そうとした時にはウィリアムズ公爵家の騎士が振り下ろした剣が私の右足の腱を切りつけました。
――ドサッ……!
私はとても熱く鋭い痛みを右足に感じ、その場に倒れ込みました。
右足首の辺りから暗赤色の血が流れ出しています。
「ハハハハハ……ッ!侯爵令嬢ともあろうお前が、地面に這いつくばっていいザマだな!」
「……ッ!ジョシュアさまッ……!おやめください!」
私は動けない体で青色の狂気の滲む瞳で高笑いを続けるジョシュア様を睨みつけながら。
それでも足の痛みに堪え、出血する傷を強く押さえながら私は叫ぶことしかできないのです。
「もういいか。おい、殺せ。」
命じられた護衛騎士が再度剣を振りかざしたのがスローモーションで見えた時、目の前に現れたのは肩下までの銀の髪を黒の髪紐で縛った背中でした。
――キンッ……ッ!
護衛騎士の剣を受け止めて振り払い、切りかかったのは愛しい銀髪の彼でした。
何度か切り結ぶ彼と護衛騎士でしたが、どうやら彼の方が先んじているようで、次第に押し勝っていきました。
そして呆然としているジョシュア様と護衛騎士が私から少し離れたところまで下がった時、彼が二人に向けて声を上げたのです。
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