第2話 100年越しの勇者

 目を覚ますと、そこには見慣れない風景が広がっていた。石造りの壁に石の柱が数本立っていて俺はその中心にある魔法陣のようなものの上に立っていた。


「おお……」


 その場にいた鎧を着た兵士が、驚いた様子でこちらを見てくる。そんなに俺がおかしいのだろうか。空耳の言うとおりにしたがってこっちの世界に来たのにそんな物を見るような目で見られるのは溜まったもんじゃないぞ。


 そんなことを思っていると急に兵士の様子が変わった。


「勇者様!対応が遅れて申し訳ありません。王様の元までご案内いたしますのでこちらへお越しください」


 俺は言われるがままに案内に従った。流石は勇者。ここまで丁寧な対応をされると気分がいい。今まで過ごしてきた世界とは真逆だ。


 部屋を出ると石煉瓦の階段を登る。


 階段を登り終えた後に見えた景色は、大草原だった。木が一本も生えていない真っ新な土地。その景色には夜中に見上げていた星のない夜空に劣らないくらいの何かを感じた。


しばらく歩くと赤色の屋根が目立つ、いかにも洋風な城が見えてきた。屋根の上に国旗と思われる旗が刺さっている。おそらく国を象徴するものだろう。

 兵士が城の大きな扉を開けると、中へ案内され謁見の間にたどり着いた。


「グラム王様!勇者様をお連れいたしました」


 そこには、玉座に座ったおじいさんとその隣に秘書らしき若い女が立っていた。王様はまだしも女の方は俺への目線からしてあまりいい印象を持てない。自分のことを偉いと思っていそうな顔をしていた。まぁ実際偉いのだろう。王様の横で同じような対応を受けているのだから。


 王様は勇者の言葉を聞き、驚いたような声で言った。


「な、何!勇者だと?!」


 どうして驚いているのか俺にはわからなかった。異世界の国に勇者がいるのは普通なんじゃないのか?


「おい!なぜそんなに驚いている。俺が勇者だ。」


 俺が強気な口調で勇者を名乗ると隣の女が口を開いた。


「剣すら持ってないのに、何が勇者よ。お父様!きっとこいつは勇者の存在に慣れていないことをいいように利用して私たちを騙そうとしているのですよ!」


 なんだなんだ。なぜ俺は勇者と認められない。確かに俺は剣も持っていないし、服装もジャージのままだけど、俺は確かに勇者として召喚された。しかも勇者の存在に慣れていないってどうゆうことだ。


「まぁ、落ち着きなさい。勇者のコインをこの勇者が所持していればそれは勇者である証拠だ。この勇者がコインを持っていれば勇者と認めよう」


 証拠がないと勇者と認められないことに納得がいかないがまあ良い。

 俺は財布に入っていたコインを取り出して見せた。


「ほら、これの事だろ。これで俺は勇者ということでいいな」


「チッ!」


 隣にいた女は俺のコインを見て舌打ちをしていた。やはりあまり印象が良くない。出来るだけ関わらないようにしよう。


「おお……。これはこれは疑ってしまって申し訳ない。まだ私の名前を名乗ってなかったですな。私はグラム=ウィルロード。この国、ウィルロード国の国王を務めております。どうぞよろしく。そして横にいるのが」


「ウィルロード国王第一候補、現国王秘書のイーナ=ウィルロードよ!」


 グラムとイーナか。やはり異世界なだけあってあまり聞かない名前だ。

 グラムはいかにも王様って感じで髭が長く、白髪の上に王冠がある感じの想像してたまんまの容姿だ。それに対してイーナは、本当に国王の血をひいているのかと思うくらい人のことを考えるのが好きではなさそうな、いわゆる自己中のイメージが強い。容姿は親が娘におしゃれな衣装を着させたみたいな感じだ。

 二人の流れに乗って、俺も自己紹介をした。


「俺は、雨宮豊晴。20歳。急にこのコインからお前が勇者にふさわしいみたいなこと言われてここに召喚された。前の世界では、高卒で事務系の一般企業で働いていた社会人2年目だった」


 すると、イーナが煽るように首を前に出した。


「何よコウソツって。訳のわからないことを言わないでもらって良いかしら」


 喋り方がムカつく。この国では向こうの世界の言葉は伝わらないものもあるらしい。まあいう前からなんとなく察してはいたが、流石に王様まで首を傾げていた。まあでも仕方ない。前の世界で特に特別なことをしていた訳でもなかったから紹介する内容がこれしかなかった。

 まあそんなことは置いといて、問題はこの国の現状だ。勇者の存在に慣れてないという発言も含めこの国のことについて俺は王様に尋ねた。


 すると王様は一から説明し始めた。


「それは、遡る事およそ100年前。ウィルロード国は魔物との接触が国の立地の問題もあり少なかった。それが理由で必然的に勇者の出番か少なかった。ウィルロード国は平和だった……のだがある問題が発生した。それはウィルロード国には勇者は必要ないんじゃないか。この問題が他国から発生した。

そもそも勇者のコインは国が所持しているものではなかった。だが勇者のコインを発見したという国民たちの拡散により、争いが発生し国が管理することになったと言われておる。現在存在しているコインの数は明らかになっていないが、発見数は3枚で勇者のコインの存在を知っている3ヵ国が一枚づつ管理していた。なのだがその問題により、ウィルロード国のコインを所持する権利は剥奪された。」


 俺はイーナが視界に入りつつも、真面目に話を聞いた。


「じゃあ俺はなんでここに召喚されたんだ?」


 率直に気になったことを質問した。


「詳しいことはわからないが、今の話は100年前の話であって今はもう関係ない。他の二つの国もコイン争いでぶつかってお互い自爆し、コインも紛失したと言われている。おそらく新しいコインが見つかったのだろう。だから争いもなく魔物も出ないので正直勇者の出番はない」


 俺は一瞬思考が停止した。


「は?関係ないのかよ!今の真面目に聞いてた時間返して欲しいんですけど!しかも出番ない勇者なんてありかよ!」


 するとイーナがこちらに向かって歩いてきた。


「めんどくさい勇者ね!あんたが聞いてきたんでしょ」


 なぜ、強い口調でしか話すことができない。イーナのせいで王様と勇者の立場関係が確率しない。


 「腕出して!」


 イーナが細長い紙のようなものを俺の腕に巻きつけると、紙が腕の中へ吸収されていく。

 急な出来事に俺は焦りながら紙を振り払うように腕を振った。


「お、おい!なんだよこれ!」


「私は認めてないけど、この国の勇者になったからあなたの詳細とかがみれるようにしたの」


 紙を巻きつけた方の腕を腕時計を見るようにのぞいた。



ステータス


 勇者 Lv.1

 名前 雨宮豊晴

 服装 ダサい服

 スキル なし



 真っ先に目に入るものが一つあった。


「おい!なんだよダサい服って」


「あんたが今来ているそのダサい服よ。見た目がダサいからそうやって登録しといたわ」


 俺に指を刺しながら偉そうに言う。


「せめてジャージって書けよ。ダサい服は流石にひどくないか」


「何よジャージって。ちなみに服着替えたら勝手に変わるからぐちぐち言わずに早く勇者らしい服買ってきなさいよ」


 この国の奴らは、ジャージすら知らないのか。


「はい!あとこれ!援助金の金貨10枚。お金の価値は説明するのめんどくさいから本かなんかで調べて」


 いや、そこ一番重要なんだが。

 ステータスと援助金を受け取り謁見の間を後にした俺は街の方へと向かった。


 王に挨拶をしただけなのに、かなりのストレスと疲れが溜まった。今日は宿に泊まって明日に備えよう。

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