第3話 スキル習得

「あ“あ”あ”あ“……。死ぬぅ……」


 なぜこんなことになっているのかと言うと、昨日の疲れのせいで完全に食事を取るのを忘れていた。目が覚めた時にはお腹と背中がくっつきそうな程腹が減っている状態だった。せっかく援助金をもらったのだから街でご飯でも食べよう。


 街に出て一番近くにあった店に入った。まだこの街に来たばかりで美味しい店など分からないので飯が食えればどこでもよかった。


「へいらっしゃい! ご注文は?」


 朝からテンションの高い店主だ。今の俺には少しきついが、お店のイメージを保つためだろう。

 メニューを見ると朝食ランチとか言うやつが真っ先に目に入った。目玉焼きが乗った食パンに焼いたベーコンが2枚添えられている。このメニューを作った人は少し頭が悪そうだ。まあいい。この舐め腐った名前のものを注文してやろう。


「このなめっ……朝食ランチを一つ」


「はい了解! 兄ちゃん珍しい格好してるね。どこから来たんだい?」


 突然の距離の縮め方に困惑したが、この店主らしいやり方だ。


「異世界から召喚されてここに来ました」


 すると、店主は周りを気にせず大声で笑い出した。


「兄ちゃん! 冗談きついぜ! 召喚なんて勇者しかされないよ」


 多少は予想していたが、王様の時もそうだった。何か証明できるものを提示しないと俺は勇者と信じてもらえない。これから生きてく上で俺の顔が覚えられないのはかなり不便だ。どうにか解決策を練っておこう。


 飯をそそくさと食べ終えると、会計を済ませる。


「朝食ランチ1つで銀貨1枚だ」


 俺は、金貨一枚を渡すと銀貨9枚が帰ってきた。そう、俺は一つ確認したいことがあったので外食をした。あの秘書のイーナが教えてくれなかったお金の価値を確認したかった。今帰ってきたお釣りから考えるとおそらく銀貨が10枚で金貨1枚になるのだろう。複雑な仕組みでなくてよかった。

ただ今冷静に考えてみると、あの朝食ランチで銀貨1枚は高すぎる。日本円で金貨1枚が1万円とするとあれは一皿1000円ということになる。完全にぼったくられていた。まあ、お金の価値を確認するためだったので仕方がないということで片付けよう。


 とりあえず今日やることはまだある。まずは服などを買うために装備屋へ向かった。


 先程の飯屋のせいで、どの店を信用して良いのかが分からない。今度はマシな店に入りたい。

 すると、銅貨の値段が書かれている看板の店があった。おそらくこの店は信用しても大丈夫だろう。もしぼったくりだったとしても銅貨の時点で気持ち的にもまだマシだ。


 店に入ると、中は想像以上に広く商品も装備だけでなくスキルブックや魔法書まで売られていた。


「魔法書? 俺のステータスには表示されてないぞ?」


 店主に魔法のことを聞くと、どうやらレベルを10まで上げないと習得できないらしい。レベル10だと聞くと簡単そうに聞こえるがこの国だと魔物に遭遇する確率がかなり低い。おそらく10あげるだけでもかなりの時間が必要になるだろう。国を出て経験値を稼ぐのは今の俺にはまだ早い。スキル習得などで稼げないだろうか。


 スキル習得で経験値を稼げることを願い、青マント付きの服と小さな短剣、そしてスキルブックを1冊購入した。値段は銀貨5枚だった。今回は相応の値段だろう。

 店を出ると、先ほどより人からの視線を感じた。少しは勇者らしく見えるようになっただろうか。スキルをいくつか習得したら王様に出番がないか聞きに行ってみよう。



……



早速スキル習得のため、スキルブックに目を通す。本を見る限り、スキルごとに魔法陣が描かれていて習得したいスキルの魔法陣に触れるとスキル習得の第一歩を得れるらしいとのこと。まあそう簡単に習得はさせてくれないということだな。

あと、関係ないがこういうところにも魔法陣として魔法が使われているあたり、おそらく魔法を習得した方が今後この世界で生きていく中で得することが多いだろう。


 


スキルブックに書いてあるスキルは3種類。自動再生、魔力感知、身体防護だった。



 まず、スキルについて。スキルとは、この世界に存在する特殊な身体能力を強化するものであり、身体強化の延長線のようなもの。スキルには種類があり、スキルブックなどから得るスキルを習得スキルといい、その習得スキルから派生されて得たスキルを派生スキルという。

 習得スキルは、スキルブックに載っている物のみで限りがあるが、派生スキルは獲得しているスキルの組み合わせや人によって得ることができるスキルなどがあり、限りがなく新種のスキルが見つかることも不思議ではない。


 最初の説明のページを読み終え、隣のページを見ると、そこにはそれぞれのスキルの魔法陣とそのスキルの効果が書かれていた。



 自動再生


 効果:このスキルの所有者は、受けたダメージの3分の1が自動で回復される



 魔力感知


 効果:このスキルの所有者は、魔物から出てる魔力を感知した場合、鼻にツンと香りを感じるようになる。魔物との距離によって香りの強さが異なる。



 身体防護


 効果:このスキルの所有者は、受けたダメージの3分の1が無効になる。





 最終的には3つ全てのスキルを習得する予定だが、まずは一番使い勝手が良さそうな魔力感知を習得してみるか。

 俺は、そっと魔法陣に手を翳す。すると腕からステータス画面が勝手に表示され何が起こったのかと確認するとスキルの欄に魔力感知が表示されていた。



ステータス


 勇者 Lv.2

 名前 雨宮豊晴

 服装 青マント付きの鎧

 スキル 魔力感知



 手をかざした瞬間は状況が理解できなかったが、おそらく勇者なのが関係して習得が早いのだろう。そう、完全に忘れていたが俺はどれだけ信用されてなく、戦うことが少なくとも勇者なのには変わりはない。これくらいの忖度があったとしてもおかしくはないだろう。

 さらにレベルも上がっていた。やはりスキルを習得すると多少の経験値がもらえるらしい。ただ、習得スキルの3つを効率よく得ることができてもおそらく一つにつきもらえる経験値はすくない事を考えてみると、多くてもレベル3が限界だろう。魔法が習得できるようになるには、レベル10であることが必須だからそれまでは派生スキルを習得して経験を稼ぐしかない。それかもう一つ手がある。試しに国王に頼んでみるしかない。


 その後、すぐに他の2つのスキルを習得すると、俺は国王の元へと向かった。


 相変わらず機嫌の悪そうなイーナがいる中、俺は国王に一つ頼み事をした。


「魔法習得のための経験値を稼ぐために、魔物が出る他の国に行かせて欲しい」


 すると、国王は眉間に皺を寄せる。


「それは厳しい頼みだな。悪いが、かなり厳しい」


 頼む前から、すぐに許してくれると思っていた俺は想定外の返答に困惑した。

 なぜ勇者なのに他の国へ魔物を討伐しに行ってはいけないのか全く意味がわからなかった。


「なぜ、勇者が他の国の魔物を討伐しようとしているのに止めるんだ?」


 すると、国王は急に真面目な顔に変わる。


「それは、お前が勇者だからだ...」

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