一方的に結ばれた鎖
「おーいおーい、早く起きないと君のファーストキス奪っちゃうぞ」
目を覚ました瞬間、視界に広がっていたのは美しく魅力的な女性の唇だった。
「……って、アクアさん!?ちょっと待ってください」
アクアさんの唇が僕の唇に合わさる寸前で、アクアさんは止まった。目と鼻の先の距離でアクアさんと目が合っている。
「あ、あのー、アクアさん?」
「ねえねえアビス君、やっぱ君ってカッコいいっていうよりかは可愛いね」
「可愛い……ですか?」
「うん。まだまだ君は可愛いよ」
「そうですか……」
僕はまだまだ、兄さんのようには慣れないんだな。
早く強くなって、兄さんのような力が
「アビス君、お腹減ってるでしょ」
「そういえば……」
と言いながら、お腹もぐうっと音を立てる。
模擬人形との戦いをする二時間前から何も食べていなかった。腹が空くのも当然だろう。
「ご飯つくってあるからさ、食べな」
アクアさんはそんな僕を見かねてか、食卓へ案内してくれた。
食卓には、僕の大好物のゴブリンの焼かれた肉が脇にサラダを添えて置かれていた。
健康面にも配慮してくれているのだろう。アクアさんのような人が妻だったら幸せだろう。
「アビス君の好きなゴブリンロースだよ」
「ありがとうございます」
大好物はあっという間に食べ終わった。
「もう食べ終わったの!早いね」
アクアさんは私の横に顔を近づけ、優しい笑みでそう言った。この人は相変わらず罪な人だ。
きっと僕の気持ちには全くといっていい程に気付いていないのだろう。こんなにも僕はあなたのことを思っているというのに。
「美味しかったです」
「なら良かった」
僕は立ち上がり、食卓を後にする。
「どこに行くの?」
「修行してきます。早く兄のようになりたいですから」
アクアさんの家を後にし、僕が向かった場所は仄かに薄暗い森であった。
いつもはその森は恐ろしく避けてしまう場所なのだが、今日に限ってどういうわけかその森に入ることへの躊躇いはなかった。むしろ、自ずと足が森へ進んでいた。
自分でも分からない。ただ足が森の奥へ奥へと進んでいき、ふと冷静になった時、僕はとある小屋の前に立っていた。
「ここは……」
唖然としていると、小屋の中から白色のローブを纏い、仄かに異質な雰囲気を漂わせる女性が僕の前に現れた。
そういえば兄さんが言っていた。この森には"魔女"がいるから入ってはいけないと。
じゃあこの人は、魔女。
魔女は命を奪う。だから魔女に逢ったら最後、生きて帰ることはできない。そんな噂は村の誰もが知っている。
僕は死ぬ……この魔女に殺される。
恐怖で足が動かない。指先も目も、髪の毛一本すら動かない。
「契約の鎖」
魔女の瞳には鎖が映っている。それを見た瞬間、僕の体にも鎖が絡み付くような感覚に襲われた。全身が鎖で縛られ、身動きもとれなくないまま。
「あなたの色は何色なの?」
魔女は僕へ近づき、間近で僕の瞳を凝視する。
「その色、欲しいな」
魔女の真っ白な瞳が、徐々に真っ黒い色に染まっていていた。
桃色の唇が近づき、そのまま口づけを交わされた。口づけをされている最中、体内に鎖が入ったような感覚に見舞われる。
「あなたの中に眠る超常的な力を解放してあげましょう。その代わり、その力を使った時、あなたには徐々に死が訪れる」
魔女は僕の輪郭をなぞりながら、徐々に距離をとる。
「さよなら。アビス君」
そう言い残し、魔女は闇に消える。
いつの間にか僕は森の中から抜け出しており、そこはアクアさんの家のベッドで眠っていた。
「やっと起きたね、アビス君」
アクアさんの優しい声が聞こえる。
先ほどまで森にいたはずなのに、どうしてこんなところにいるのだろう。
あれは夢だったのだろうか、それともーー
分からない、分からないまま、僕は考え込んでいる。
「アビス君、どうかした?」
「いえ……なんでもないです」
「そう。なら良かった。森の前で倒れているところを発見した時は驚いたよ。あそこは魔女がいるから入っちゃダメだぞ」
「はい、すいません……」
魔女のことを考えようとした時、お腹が鳴る。
「ご飯つくってあるよ。食べるでしょ」
「あ、ありがとうございます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます