鎖与の魔女

総督琉

少年アビス

 それはとある辺境の町。

 そこに生まれた少年は、日々魔法の鍛練を刻々と積んでいた。


「アビス、相変わらずお前はよく頑張るな」


「僕はアローお兄ちゃんみたいなカッコ良くて強い魔法使いになるんだよ」


「そうか。なら俺みたいになれるように頑張れ」


「うん。僕頑張るよ」


 アビスは剣を構え、模擬人形スピリットと呼ばれる意思を持つ人形と戦っていた。模擬人形は素手であり、武器も持っていない。ただアビスの攻撃を避けるだけ。

 そんな模擬人形に必死に攻撃を仕掛けるも、アビスは攻撃を当てられない。


「アローお兄ちゃん、今日の模擬人形速すぎるよ」


「攻撃ひとつ当てられないようじゃ俺のようにはなれないぞ」


 アビスは足を止め、剣を振るう手を止めた。


「アビス、もう疲れたか?」


「ねえ兄さん、一回でも攻撃を当てられれば兄さんのようになれるってこと?」


「ああ。さっきのことか。まあそうだな。そいつに一撃でも与えられるようになったら、その時はきっと、お前は俺のような強くて格好良い魔法使いになれるんじゃないか」


「強くて格好良いって、自分で言う人初めて見たよ」と言いながら、アローの背後からは女が現れた。

 水色の瞳をした可愛らしい女の子。


「アクア、今ちょうどアビスの修行中だ。見ていくか?」


「アビス君がか。ちょっと気になるかもな。アクアお姉さんが見てあげよう」


 アローだけでなく、アクアにも見られたことでアビスの緊張は一気に高まる。

 模擬人形に攻撃を思いついていたアビスであったが、アクアが現れたことでその策も忘れてしまった。


(ヤバイヤバイ。早く攻撃を当てる方法を……)


 アビスが剣を握る手は震えている。

 その時、突如模擬人形はアビスを殴った。模擬人形が危害を加えることはないはずだ。アローたちは模擬人形の行動に呆然とする。


「模擬人形が暴走してる。速く止めないと」


 アローたちは止めに入るも、アビスは剣を地面に置いたまま起き上がる。


「てめえ、やりやがったな」


 模擬人形は手で「来いよ」と言わんばかりに挑発をしている。それに腹を立て、アビスは模擬人形へ殴りかかる。

 しかしアビスは一撃を拳を当てられず、模擬人形の打撃を受け、気絶して倒れた。

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