第43話 報告書
小型飛行艇に乗り込んだフクオカたちは、そのまま第219巡航艦隊の元へと戻っていく。
艦隊に合流する前、旗艦から一つの通信が入る。
『大丈夫だったか?目標に対して惑星スキャンを行っていたら、いきなり惑星内部が液体のように流動し始めたんだぞ』
その話を聞いて、一行はゾッとする。
もしあの時、ンラシュット文明の代表が、フクオカたちの事を飲み込もうとしていたら、タダでは済まなかっただろう。
ンラシュット文明の代表が、穏便なヒトで良かったと、一行は感じたのだった。
艦隊に合流すると、科学者は早速報告書を作成する。
「……まず最初に、この報告書は事実を述べたものになる。添付する映像は、編集等の改変を一切行っていないことを注記する」
そのような前置きをした所で、科学者は本文を書き始める。
「我々は、銀河外から飛来してきた謎の天体の調査に赴いた。事前の調査では、特筆すべき点は見受けられなかった。惑星スキャンでも、上空からの観察でも異常な点はなかった」
そこに、艦隊から撮影された恒星間天体の写真を添付する。
「連絡用の小型飛行艇に乗り込み、目標の天体に降下した。至近距離からの観測でも、異常な点は見られなかった」
そういって、小型飛行艇から撮影された映像が添付される。
「その後、目標の天体に着陸すると、我々は電波の発生源を調べるために、小型の電波探査装置を使って、電波の出所を調べようとした。しかし、電探はエラーを吐いてしまい、使用することが出来なかった」
電探のエラー発生時の写真が貼られる。
「電波の出所は第219巡航艦隊によって調べられたが、その際電波は天体全体から一様に放射されていることが分かった」
艦隊が出したデータを添付した。
このデータから、この天体の異常性が確認出来ることだろう。
「さて、我々は調査のために土壌を調べた所、その成分は鉄系やアルミ系といった金属類で構成されていることが分かった。通常の惑星生成を経ていない、人工の惑星であるという可能性を考え出した」
ハンディタイプのX線分析器のデータを貼り付ける。
これによって、天体を覆っている砂のようなものが、金属類である事を示している。
「我々は周辺の調査のために、周囲の探索を開始する。その際、地上に巨大な構造物がある事を発見した。我々は、その構造物に接近する」
そういって、その時の映像を添付する。
「それはまさしく、門というべきような風体をしていた。実際それは、地下に通ずる門として機能していたが。その際、門の上部では謎の言語が書いてあり、それはすぐさま共和国の公用語に変化した」
文字が変化する瞬間の映像が添付される。
「文字は『ンラシュット』と書かれていた。我々は、文字が変化する前の文字をンラシュット異文体と命名。今後の研究対象にする事を考えている」
映像から読み取れるンラシュット異文体の文字と、共和国の文字が並べられる。
「この門をくぐり、地下に進むと、惑星スキャンでは確認出来なかった巨大な空間に出た。推定で奥行き500m以上あると考えられる」
巨大空間を捉えた映像が貼られた。
「その数秒後、地面が液体のようにうねった。そのうねりは我々が入ってきた階段をふさぎ、退路を絶った」
うねる地面の中で、もがき続けるフクオカたちの姿が映し出される。
「その時、目撃証言によると、地面からヒト型のような何かが現れたという。現れたそれは、自らの事を、ンラシュット文明の代表だと名乗った」
ヒト型のようなものを映した写真が貼り付けられる。
改めてそれを見ると、ヒト型は青白く淡く光っていた。
「彼らは精神世界に意識を移植した、精神共同体という存在である。魂が一つに溶け合ったとも証言していた」
科学者とンラシュット文明の代表との会話を文書化したものが添付された。
「彼らは精神世界に誘う事を布教活動と称して、放浪の旅に出ていると発言した。また彼らは、自分たちを記録した媒体を厳重に保管する事を強く臨んだ。いずれ我々共和国民も、精神共同体としてステップアップする、などと言った内容を示唆した発言をしている」
別れ際に放った文言を文書化したものが添付された。
「結果として、我々は異なる文明と接触した事になる。幸い、彼らの文明は高度に発達しており、我々の事を敵視している様子はなかった。彼らはこれからも、気の赴くままに放浪を続けることだろう」
そういって報告書は完成した。
「ふむ、こんな所か」
「後でこっちの回してくれ。ちゃんと書けているかチェックする」
「了解」
一方でフクオカたちは、宇宙服を片付けながら、先ほどの話をする。
「あのヒト型実体って、結局の所、何だったんだろうね?」
「自分で名乗ってただろ。精神共同体だっけか?」
「なんかオカルトじみてて、よく分かんなかったな」
「私も」
「いや、オカルト界隈なら結構有名な話だろ。精神を高次元に持っていくって話なんだから」
「自分のものさしで語らないください」
こうして、第219巡航艦隊は恒星間天体から離れていく。
ちなみに、この調査書は機密文書にされることなく、一般に公表された。
そのため、一部の界隈で大いに盛り上がったそうな。
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