第42話 共同体

 一行は、ゆっくりと地下に繋がる回廊を降りていく。

 階段状になっているそれは、フクオカたちを一切拒むことなく、地下へと誘っている。

 ライトの調子は良く、足元を煌々と照らしていた。


「まだ先は見えないか?」

「えぇ。まるで暗闇が俺たちの事を食っているようだ」


 入口を振り返ってみても、そこには暗闇しかない。

 フクオカたちは、暗闇の胃袋にいるような感じである。

 しかし、それも数分くらいであった。

 いや、その数分は数十分も数時間にも感じられただろう。

 一行は、ライトの明かりも届かないような、巨大な空間に出た。


「こんな空間あったか?」

「いや、惑星スキャンだとこんな巨大な空間はなかったはずだ」


 科学者たちは、端末にダウンロードしてあった惑星スキャンのデータと照らし合わせる。

 しかし何度見ても、推定500mを超えるような巨大な空間があるようには見えない。

 それはまるで、生き物のように動いているようだった。


「とにかく、この辺のサンプルを回収しよう。数は多ければ多いほど良い」


 そういって科学者たちは、その辺の土壌を回収に回る。

 その時、何か小さな振動が始まった。


「なんだ?地震か?」

「いや、この程度の惑星で地殻変動が起きるのはありえないのでは?」

「だが、それ以外にどう説明する?」


 困惑している科学者の横で、フクオカたちはある物を目撃する。

 それは遠くのほうで、わずかに揺れ動く地面があった。


「あ、あれ!地面が動いてます!」

「何?地面が動いているだと?」


 そういって、一行は全員がフクオカが指した方向を見る。

 すると、その方向で地面が粘度のある液体のような挙動を見せていた。


「なんだあれは……」

「こんな現象、普通はありえない……」


 そんな波打つ地面は、次第にフクオカたちの方へと近づいてくる。


「不味い、こっちに来るぞ!」

「出口だ!全員出口に向かえ!」


 そういってフクオカたちは、階段のある出口へと向かう。

 しかし波打つ地面の方が速く進み、出口を塞いでしまう。


「しまった!」


 出口を塞がれたことによって、フクオカたちは行き場を失う。

 地面はフクオカたちの周りを威嚇するように波打つ。

 すると、地面の下から何かがせり上がってくる。

 それは、機械部品の一つのようだった。

 歯車、円盤、金属ベルト、シャフト。

 大小様々な金属が、あちらこちらから出現する。


「なんだなんだ?一体何が起きている?」


 フクオカたちは、状況が飲み込めていない。

 そんな中、一行の目の前で地面がせり上がる。

 そしてそれは、ほんの数秒でヒト型に変形した。


『ようこそ、ロクシン共和国の皆さん。お待ちしておりました』


 ヒト型実体のそれは、男性の声で共和国の言葉を発する。


「き、君は一体何者なんだ?」


 科学者の一人が、思い切って尋ねる。


『あぁ、怖がらないでください。我々はあなた方の味方です』

「味方?それは本当か?」

『えぇ。一切のケガをさせないことをお約束しましょう』


 フクオカたちは顔を見合わせる。

 今のところ、この謎のヒト型実体の話に合わせるしかないだろう。


「と、とりあえず、君は一体何者なんだ?」


 先ほどの質問を繰り返して聞く。


『我々はンラシュット文明の代表です』

「我々、ということは、他にも誰かいるということか?」

『いえ、我々は一にして全、全にして一。アルファでありオメガの存在なのです』

「……どういうことだ?」

『我々は精神世界に住んでいます。そして、その意識は全員と共有し、魂が一つに溶け合っている精神共同体なのです』

「オカルトの話か?あいにくとオカルトは信じないたちでね」

『今は信じなくても構いません。しかし、あなた方はいずれか、我々のように目覚めることでしょう』

「とにかく、ンラシュット文明とは一体なんなんだ?目的は何だ?」

『我々の目的は、精神世界へと移住したンラシュットという文明が存在していた事を後世に伝えるため。そして、その功績を称え、新たに精神世界の住人である精神共同体となる仲間を増やすべく、布教活動を行うため、この銀河を放浪しているのです』

「そうなると、あなたはンラシュット文明の代表であり、その意識はンラシュットの住人と繋がっていると?」

『その解釈で間違いありません』


 なんとなく話は見えてきた。

 すると、次の疑問が出てくる。


「その精神世界に、我々を誘拐しようっていうのか?」


 科学者は尋ねる。


『いえ、これは強制ではありません。我々は布教するという立場上、その思想を強制することは出来ません。布教は強制するものではなく、相手の思う最適な時間に誘われるものなのです』


 ンラシュットの代表は、そういってにっこり笑う。


「と、とにかく話は分かった。早くここから出してくれ」

『えぇ。勿論そうします。しかし、一つだけ約束してください』

「な、なんだ?」

『あなた方は今、この状況を映像で記録していることでしょう。その記録は必ず持ち帰って、厳重に保管してください。この映像は後々、共和国内で誕生するであろう精神世界に誘われる人々の道しるべとなるでしょう』

「わ、分かった。我々としても、このような現象に遭遇出来たのは幸運なことだ」

『それなら歓迎のし甲斐があるというものです。さぁ、気を付けてお帰りなさい』


 そういうと、塞がっていた出口の階段が開く。

 一行は、恐る恐る階段を昇る。


『あなた方はまだ、我々の領域に達していません。しかしいずれか、我々と歩みを共にすることでしょう。その時を楽しみにしていますよ』


 そういってヒト型実体は、地面に吸い込まれていく。

 フクオカたちは無事に地上へと出て来れた。


「……我々は夢でも見ていたのだろうか?」

「分かりません。しかし、映像には残っています。あとで検証することも可能でしょう」

「……とにかく、今は帰ろう。このことを報告するんだ」


 そういって一行は、小型飛行艇に乗り込んだ。

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