第39話 帰還
ライブは無事大成功で終了し、ルクリューナは満足げな顔をして戻ってきた。
「今日も楽しかった!やっぱライブって良いね!」
笑顔で舞台袖へと戻ってきたルクリューナは、フクオカたちにそう声をかける。
「シシュナちゃんが楽しそうで何よりだよ」
フクオカの男性同僚はそんな事を言う。
その顔は完全にファンの顔であった。
「気持ち悪い顔……」
それを見たフクオカの女性同僚が、そんな事を言い放つ。
言われてみれば、男性同僚の鼻の下は伸びきっており、正直言って見るに堪えないような顔をしている。
それを言われた男性同僚は、露骨に落ち込んでいた。
そんな男性同僚は置いといて、フクオカはルクリューナに話しかける。
「それで、この後の人生の計画とか決まってるの?」
「とりあえず、今は共和国政府のいう通りにしておこうと思ってるわ」
「そ。とにかく、今後の事が決まったようで良かった」
その後、ルクリューナは着替えのため、控室に戻る。
そして着替えを終えたルクリューナを、連絡用小型飛行艇に乗せ、第219巡航艦隊の旗艦へと移送した。
帰りも、第219巡航艦隊がルクリューナの事を首都星まで送り届けるように、総司令部より命令が下る。
そのため、再び女子部屋の予備を使うことになった。
「それじゃあアタシたちは自分の部屋にいるから、何かあったら内線で呼んでね」
「分かったわ」
そうして第219巡航艦隊は、特に何事もなく、首都星へと帰還することが出来たのだった。
小型飛行艇に乗って、ルクリューナの事を総司令部の屋上に送り届ける。
「短い時間だったけど、本当にありがとう。なんだか気分がすっきりしたわ」
「それは良かった。アタシたちも楽しかったよ」
そういってルクリューナに別れを告げる。
彼女は護衛に連れられるように、総司令部の屋上から去っていった。
「アタシたちの仕事も、これで終わりか……」
「今回の仕事、なんだかいい感じで終わったね」
「アイツを除けば、ね」
そういってフクオカは男性同僚に目を向ける。
そこには、涙を流す男性同僚の姿があった。
「シシュナちゃん……!せめてサインは欲しかった……!」
そういって男性同僚は四つん這いで悔しがっていた。
「どこで泣いてるんだか……」
「ファンにとっては、ご褒美に近かったんでしょうよ」
そういって二人は、あきれたように彼を眺めていたのだった。
そんな彼を無理やり飛行艇に乗せると、旗艦へと戻り、そのまま第13艦隊の管轄へと戻る。
それから数ヶ月後。第219巡航艦隊作戦課に、ある荷物が届く。
それは、シシュナ・ルクリューナからであった。
中身は高級ワイン10本セットである。
そして、そこにはメッセージも添えられていた。
『親愛なる第219巡航艦隊作戦課の皆さんへ。この度は私の凱旋ライブの移動を手伝っていただきありがとうございました。今回の凱旋ライブで、アイドルを続けることこそが、私が進むべき道である事を実感しました。そして、家族や親戚、そしてなにより、私たちのような少数民族のために、人生を費やす事を決めました。特に、フクオカさんらとの交流は、私にとっても有意義なものになりました。そこで、今回の感謝の意を込めて、私が買える最高級のワインを送らせていただきます。最後になりますが、皆さんにニボラ民族に伝わる言葉を伝えたいと思います。
せっかくなので、作戦課一同はそのワインを開けて楽しむことにした。
すっきりとした味わいをしている赤ワインである。
生産地は、共和国でも食料生産量第1位の惑星で熟成された、年間1万本しか製造されない貴重品だ。
それを贅沢に10本も送ってくれたのだから、太っ腹だ。
そんな赤ワインを飲んだフクオカは、こう言い残した。
「意外と苦いね」
庶民派のフクオカにとっては、高級品の味を堪能できる程の舌を持っていなかったようだ。
それから約1ヶ月が経過した。
「相も変わらず平和だねぇ」
フクオカの男性同僚は、そんな事をいう。
そう、第13艦隊司令部に向けて資料を作ったり、過去の戦闘履歴を見て今後起こりうる戦闘での作戦案を立案したりと、平時の生活そのものであった。
「まぁ、平和なのはいい事だよね」
「そうそう。こういう時間を満喫するのが、一流の軍人のたしなみだね」
「そうか?初めて聞いたぞ」
「いいの、そういうのは。雰囲気だよ」
そういってフクオカは、食堂の隣にある売店で買ってきたスコーンを頬張る。
フクオカたちが、ゆったりと午後の時間を過ごしている時、第13艦隊司令部では、あるアラームがなっていた。
「司令官、銀経12.44度、銀緯88.43度から不明な電波をキャッチしました」
「既存の周波数帯との照合は?」
「どの周波数帯とも一致しません」
「軍用でもか?」
「はい。過去にも使われたことのない周波数帯です」
司令官は少し考える。
既存の周波数を使ってない、謎の電波。
そして、その電波が来ている場所が、銀河の北極側から来ているのだ。
「これは調査する必要があるな……」
こうして、司令官は出撃命令を下す。
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