第37話 海賊
フクオカたちは艦橋に急いで向かう。
途中、同僚の男性を呼び出し、一緒に走った。
「仮に宇宙海賊だとしたら、対処の方法はいくつある?」
「艦載機による攻撃以外だと、貧相な対艇機銃を使うしかないだろうな」
「現代宇宙艦艇建造思想だと、大艦巨砲主義な所があるしね」
「やっぱり簡単に撃退するのは難しいか……」
そう言っている間に、艦橋へと到着する。
そこでは話していた通り、宇宙海賊が第219巡航艦隊の中を闊歩するように、縦横無尽に駆け巡っていた。
「状況はどうです?」
フクオカは、上官に状況を尋ねる。
「あまり良いとは言えないな。宇宙海賊は中規模だが、練度が高い。連携が上手く作用していて、こちらの攻撃はあまり通っていないという印象だ」
「艦載機の方は?」
「既に出撃命令は出している。だが、宇宙海賊にどこまで善戦出来るかは未知数だ」
何も出来ないのがむず痒い。
そうフクオカは感じるのであった。
作戦課としては、艦橋でじっと状況を分析するのが仕事みたいな所がある。
しかし、それはフクオカの性格には合っていない。
どちらかと言えば、フクオカは何か行動してから物事を考えるタイプだ。
こういう時もまずは行動してから考えたい所だが、まさか生身で宇宙空間に飛び出す訳にもいかないだろう。
「さて、我々の仕事を始めるぞ。作戦で艦載機の連中を支援してやるんだ」
そういって上官は、海図が表示されているホログラムへと移動する。
フクオカたちもそれに続く。
海図上では、リアルタイムで第219巡航艦隊と宇宙海賊の位置が表示されていた。
「さて、貧相な我が方の対艇機銃群をどのように運用していくかだが、何か意見はあるか?」
そう言われて、フクオカたちは考える。
この状況を打破する方法を。
しかし宇宙艦艇では、宇宙海賊の機動力には追いつけない。
対艇機銃でも、宇宙海賊の宇宙船には大きすぎる。
ならばどうするか。
その時、ふとフクオカの頭の中にある考えがよぎる。
「宇宙艦艇の機動力で勝てないのなら、最初から機動力で戦わなければいいのでは?」
「というと?」
「我々の艦艇には凸凹した場所があるはずです。そこを狙って宇宙海賊を誘い出すんです」
「つまり、艦隊の艦を使って、壁代わりにするというのだな?」
「宇宙海賊の機動力の限界を引き出すことが鍵になります」
「普通なら不許可を出す所だが、今回ばかりは損害を気にしている場合ではないしな。よし、許可しよう」
そういって上官は、艦長に対して具申する。
「艦隊指揮官、今の話聞いていたでしょう?」
「艦艇を壁として、宇宙海賊を退治するという事だな」
「えぇ、その通りです。了承して頂けないでしょうか?」
「うむ、発想は面白い。面倒な相手には面倒な手法を使うのがちょうどいい。やってくれたまえ」
艦長からの許可が下りた。
なら実行しないわけにはいかないだろう。
「艦載機全機に通達!艦艇表面を滑るように、ギリギリの操縦を行え!」
すぐに艦載機が宇宙艦艇のまわりに集結する。
ある艦載機は漁のように宇宙海賊を追い立て、ある艦載機は逃げるフリをして宇宙海賊を誘いこむ。
そして艦艇は主砲や装甲板を動かし、宇宙海賊の誤操作を招こうとする。
そしてその作戦は功を奏した。
一隻の宇宙海賊の船が、艦艇の主砲に正面からぶつかる。
それを機に、次々と宇宙海賊の船は艦艇にぶつかり、数を減らしていく。
「艦隊指揮官、そろそろ戦略的撤退をなさってもよろしいのでは?」
「そうだな。いつまでも艦艇を傷つけるわけにはいかないからな」
そういって、第219巡航艦隊は移動を開始する。
そして、そのままワープ準備に入った。
「全艦、ワープ準備よし」
「艦載機収容しました」
「よし、ワープ!」
第219巡航艦隊がワープをしようとした時には、既に宇宙海賊は遠くの方へ逃げていた。
その隙に、第219巡航艦隊はワープをする。
どうにかして、第219巡航艦隊は宇宙海賊の魔の手から逃れることが出来た。
ワープから出た第219巡航艦隊は、まず艦の損傷具合を確認する。
「各員、艦の被害状況を確認せよ」
「了解」
船外活動も行い、詳細な艦の損害状況を確認する。
「暫定版ですが、損害表一覧が上がってきました」
「読み上げてくれたまえ」
「まず、装甲板の損傷を65ヶ所で確認しました。その内、直ちに影響が出る可能性がある箇所が9ヶ所です。その他、主砲の損傷や、艦橋へのかすり傷等々……。直ちに影響のある箇所は応急処置を施しましたが、任務が終了したら、すぐにドッグに入れるべきでしょう」
「なるほど、分かった。ドッグの方には私から話を通しておこう」
「ありがとうございます」
そういって上官は、艦隊指揮官の執務室から出る。
一方で、仕事がひと段落したフクオカたちは、ルクリューナのいる部屋に向かう。
そこでは、護衛の人がルクリューナの事を今も守っていた。
「もう大丈夫ですよ。宇宙海賊はいなくなりました。警戒を解いても問題ないですよ」
「……現在確認中。問題なし、対象の護衛レベルを1に引き下げ」
そういって、ルクリューナのまわりから離れる。
そして部屋から出て行った。
「ルクリューナさん、大丈夫ですか?」
「えぇ。大丈夫よ」
そういってルクリューナは、ベッドの上で体育座りをする。
その時、フクオカはある質問をする。
「ルクリューナさん、貴方一体何者なんですか?」
一瞬、空気が凍るような感覚が彼女らを襲った。
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