第34話 命令
ナリムトルでの紛争が終結して数ヶ月。
その間、共和国陸軍は治安維持の名目でナリムトルに降り立っていた。
宇宙軍も大気圏内まで降下し、上空から陸軍の支援を行う。
「まさかデモ隊が蜂起するとは思わなかったよ」
「ホント、何を仕出かすか分かったものじゃないわ」
「その上、そのデモ隊を排除するためにナリムトル各国が共同するとはな。敵の敵は味方というか、そんな感じだな」
そんな事をフクオカたちは話す。
まさに、共和国の敵であるデモ隊の敵は、ナリムトルの文明であった。
結果として、ナリムトルの首脳陣は結束し、こうして共和国に加盟する事になったのだ。
「何が起こるか分からないのが政治と人生だよな」
そんなことを呟く、フクオカの同僚であった。
その後、ナリムトルは共和国の送った使節団と会談し、正式に同意文書に署名をする。
こうして、ナリムトルは名実共に、共和国の仲間入りを果たしたのだった。
それから約2週間後。
ナリムトルの治安もだいぶ良くなったこともあり、共和国軍はナリムトルから撤退することになった。
これには、フクオカたちも安堵のため息をつく。
「やっと帰れる……」
「ずっと張り付いているのも疲れるからな」
「とにかく、広いベッドでぐっすり眠りたいね」
愚痴をこぼすような会話をしながら、撤収に向けた準備を進める。
そして撤収の日。陸軍も既に輸送艦隊に収容済みだ。
「では、我々は帰るとしよう。全艦、ワープ」
そうして宇宙軍は、惑星ナリムトルから去る。
長かったナリムトル紛争も、本当の意味で終結した。
ナリムトルのその後の様子を追いかけてみよう。
ナリムトル紛争終結文書に署名してから約1ヶ月は、惑星連合政府が市民に対して事情を説明することを強いられていた。もちろん、これは想定されていた事態であり、市民の暴動やデモが繰り返し発生する。
それに対して、惑星連合政府はありのままを受け入れることにした。つまり、彼らの怒りは最もであり、そしてそれを抑え込むことは間違っていると考えたのだ。
そのため、連日のデモ行進も1ヶ月もすれば、ほとぼりが冷めるのだった。
そのタイミングで、惑星連合政府は共和国への加盟に必要な、様々な手続きを一気に行う。
結果として、その作戦は成功を収めた。共和国の加盟については、共和国憲章に同意の上、外交や貿易に関係する諸々の設定をする。これにより、共和国への加盟が正式に認定されるのだ。
かくして、ナリムトルは共和国の一員となり、宇宙文明の一角として成長を始めるのだった。
それから再び数ヶ月程の時間が経過する。
このところ、平和な時間が続く。
「いやー、のんびりとした時間もいいものだねぇ」
「お前、いっつもそれ言ってるよな。たまには別の言葉が出てきてもいいんじゃないか?」
「それだけ平和だって事だよ」
そんなことを言っていると、執務室に上官が入ってくる。
「おい、お前ら。ちょっと顔を貸してくれないか?」
「え、アタシたち何かやっちゃいました?」
「いや、ちょっとした命令が下った。作戦課として、聞いておいてほしいだけだ」
フクオカたちは顔を見合わせる。
叱られるのではなかったら、一体なんなんだろうか?
そんな疑問を胸に秘めつつ、フクオカたちは、上官の後を追いかける。
上官に連れて来られたのは、とある会議室であった。
中に入ってみると、そこには第219巡航艦隊指揮官や艦隊参謀、モニター越しであるが、各艦の艦長が揃い踏みである。
「なんか、やたら豪華な顔ぶれじゃない?」
「あぁ。これから何されるのか分かったものじゃないぜ」
「というか、私たち関係あることなのかな?」
フクオカたちは小声で話し合う。
そんな疑問が湧き出るものの、上官の指示通りの場所に座るしかなかった。
フクオカたちが着席したのを確認すると、艦隊指揮官が言葉を発する。
「これより、緊急作戦会議を開始する。今回は、トップシークレットの作戦だ。くれぐれも口外のないようにお願いしたい」
そう艦隊指揮官が告げる。
その言葉に、フクオカはこう思った。
(帰りたい……)
しかし、この場の雰囲気が逃がしてはくれない。
艦隊指揮官は言葉を続ける。
「今回の作戦については、総司令部直々の命令だ。各員、心を引き締めていけ」
そう言って艦隊指揮官は、封筒を取り出す。今時、紙を出すことすら珍しいだろう。
封筒から紙を取り出すと、そこに書かれていた内容を読み出す。
「発、ロクシン共和国軍総司令部。宛、第219巡航艦隊指揮官。本文、第219巡航艦隊においては、次の命令を遂行するべし。命令、首都星より、ある人物の護送を担当せよ。護送対象は、総司令部庁舎屋上にて待機させる。護衛対象受取日時と目的地は、第219巡航艦隊が出発してから別途命令する。……以上だ」
今まで以上に、謎の命令文であった。
「これまで以上に、雑な命令であるが、総司令部から直々に発信されている。それだけ重要度の高い命令なのだろう。よって、我ら第219巡航艦隊は、これより命令を遂行するため、首都星に向けて出発するものとする」
この決定に、誰もがざわつく。
当然だろう。命令としては、何をするのかさっぱり分からないのに、それを遂行するのは無茶にも程があるからだ。
しかし艦隊指揮官は、それを遂行すると言っている。
ならば、部下はそれを聞き入れなくてはならないのは当然の義務だ。
「では、すぐに艦隊を出航準備させます」
「今回は作戦期間がどれだけあるか分からん。燃料、食料、水は満載で持っていけ」
「了解」
そういって通信士は会議室を出ていく。
一方でフクオカは、面倒な事態に巻き込まれたと感じる。
(これ、大丈夫かなぁ……)
そんな不安がよぎるのだった。
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