第33話 決断
共和国が宣戦布告を仄めかす発言をしてから、1日が経過した。
共和国政府としては、脅しとして、島一つを消滅させた事が効いている事を期待する。
「あの戦略級兵器を使ったんだ、これでおとなしくしてくれなければ困る」
閣僚の一人がそんな事を言った。
確かに、あんなものを見せつけられた側としては、とんでもなく厄介な上に恐怖を感じることだろう。
しかし、現場では異なる見解が見られる。
「もし、共和国の技術を使って、アレを再現出来ることに気が付いたら、ナリムトルは大変なことになるだろうな」
フクオカの同僚がそんな事をいう。
反物質による、強力なエネルギー。それは知的生命体が目指すべき道のりである。
仮にそんな事になると、ナリムトルは全力で技術を促進させ、あっという間にその場所まで到達してしまうかもしれない。
しかし、技術というのは一日二日で出来上がるようなものではない。
基礎となる研究や技術が存在してこそ、その上位の技術が出来上がるというものである。
それを加味した上で、もし今後の発展を願うならば、共和国の言う通りにした方が得なのかもしれない。
それを選択するのは、まぎれもなくナリムトルに住む市民だ。そして、それを代表するのが国家の機関であり、文明の長である。
共和国の閣僚たちは期待を込めて、ナリムトルからの返事を待った。
そして公共放送に乗せて、返信が返ってくる。
しかし、その内容は意外なものであった。
『我々はナリムトルの一市民として、国家に頼らずに、敵対する勢力と戦う事をここに誓う。我々は目覚めたのだ。そして今、立ち上がるのだ』
なんと、デモ隊の中から蜂起したカルト集団が公共放送局を乗っ取り、勝手に共和国と戦争することを選んだのだ。
この様子に、関係閣僚は困惑を隠しきれなかった。
「どうしてそんなことになる……?」
「事前の調査では、そこまで愚かな文明ではなかったはずだ」
「私は前々から言ってたんだ、文明促進プログラムは悪い政策だと」
「しかし、今更そんな事を言ってどうする。今はこの事態を、どう収束させるかだ」
首相は決断を迫られる。
「首相、このままナリムトルとの戦争に突入しますか?それとも治安維持のために介入しますか?」
「だが、今更治安維持のための介入はおかしいだろう。既に我々は紛争を止めるために、軍事的な介入を行っているのだから」
「しかし、そんな事を言ったってこの事態を止められるのは軍しかいない。今は内政干渉と言われても軍を介入させるしかない」
「……っ!」
首相は決断に迷っていた。
どちらの決断をするにしても、軍が動く事には間違いない。
問題は、どちらのほうが犠牲が少なく済むかにかかっている。
いよいよ首相は決断を下す。
その時であった。
公共放送局で声明を発表していたカルト集団が次々と取り押さえられていったのだ。
「何が起きている?」
首相はすぐさま、情報を収集するように指示する。
そして、その原因はすぐに分かった。
『我々ナリムトルに存在する文明は全て統合し、ナリムトル惑星連合となって出発する事にした。そして、我々は共和国に加盟する事をここに約束する。どうか、我々を受け入れてほしい』
ナリムトルに存在する複数の文明が一つに統合する事になり、共和国の一部になる事を懇願してきたのだ。
カルト集団は、ナリムトルの軍によって取り押さえられ、逮捕という形になる。
このような事態に、共和国は異例の対応を取らざるを得なかった。
「我々共和国としては、ナリムトルの併合に敬意と感謝、そして称賛を与えたい。共和国はナリムトルと我々の繁栄のためには、協力を惜しまないつもりだ。しかし、現状のナリムトルは少しばかり荒れている。我々の統治下に入って、この環境を整えるところから始めないといけないだろう」
そんな声明を、首相が発表する。
結果として、ナリムトルは共和国に併合されることになった。
しかし、これは各文明の長が市民の総意を取らずに、勝手に決定したことであり、市民に対しては事後報告になってしまったのだ。これにナリムトルの市民は強い反発を起こした。
結果、治安維持のためにナリムトルの軍隊と警察当局が出動することになる。
さらに応援として、宇宙軍がナリムトルに降下する対応を取った。
「結局こういう事になるのか……」
そうフクオカの同僚が愚痴をこぼす。
「仕方ないよ。政府が決定した事なんだもの。一応軍人としては、上層部のいうことに従っておかないと」
「お堅い頭をしているな。もう少し柔軟な対応を取るべきだと思うぜ」
「古典的な軍人で悪かったわね」
そうフクオカは返す。
それから数か月後。
ナリムトルは正式に共和国の統治下に入ることになった。
多少の混乱はあったものの、ナリムトルの政府機関は市民に粘り強く説明を行うと共に、共和国の技術を貪欲に吸収した結果、こうして共和国の一部となり得たのだ。
こうして長きに渡って動乱を見せた、ナリムトル騒動は無事に終結を見せたのだった。
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