第32話 脅迫
地上軍をピックアップして、安全地帯まで移動する輸送艦隊。それを護衛する宇宙軍。
どうにか地上軍の損害は防ぐことが出来た。
「後は、ナリムトル側がどう出るかだな」
「最悪な展開はやめてほしいなぁ……」
「最悪な展開って、どんな展開だ?」
「うーん……。ICBMを使って私たちに攻撃してくるとか?」
「確かに良くない展開だな。俺たちがいるのは大気圏と宇宙空間の狭間だから、核兵器なんか使われたら、艦へのダメージは計り知れないぞ」
宇宙空間にほど近い大気圏、高高度で核爆発をさせる事を高高度核爆発、その英文の頭文字を取ってHANEと呼ぶ。
HANEは強い電磁パルスを放ち、通信機器や情報端末、電気を使うものに対して作用する。
なんの対策も講じていなかったら、電気機器は一発でお釈迦になるだろう。
現代の宇宙軍の艦艇は、電子パルス等の攻撃に対して、あまり強く出来ていない。勿論、完全に対策を講じてないわけではない。しかしそれは、あくまで宇宙空間における放射線防護を目的としたものであるため、汎用性が求められる。
宇宙艦艇が極端な極限環境に対応しているかと言われれば、否という他ない。ガンマ線バーストが発生しているブラックホールに、通常の艦艇が接近するという状況は考えにくい上、そもそもそんな場所に通常艦艇が行く必要性もない。
よって簡単な放射線遮断区画を設けるしか出来ないのだ。
そんな不安の残る通常艦艇に、HANEが放つ電子パルスが襲い掛かってきたらどうなるだろうか。
答えは火を見るより明らかだろう。一瞬にして高エネルギーのX線が放たれ、脆弱な艦艇に襲い掛かる。それによって艦内のシステムはダウンし、最悪の場合、惑星に墜落というシナリオが考えられるだろう。
「うぅ、考えただけでも背筋が凍るな。ナリムトル側が賢明な判断をしてくれる事を期待するしかないね」
フクオカの同僚の男性幹部が、そう感想を述べる。
いまだナリムトルからは、惑星全体の各文明が結束し、共和国に立ち向かうという声明が、公共放送を使って発信され続けていた。
それに対して、共和国から返信とも言える通信がナリムトルにもたらされた。
『そちらがそのような態度ならば、こちらも対処の方法がある。その前に警告として、島一つを消滅させる事にした。態度を変えるならば、今のうちだ』
それと同時に、宇宙軍の元にある命令が下される。
それを見た第219巡航艦隊指揮官は驚きを隠せなかった。
「本当にアレを使えというのか?」
「えぇ。万が一の戦略級兵器ですが、使用の許可が下りました。というか使えって脅迫受けてる状態です」
「しかし、使うには細心の注意が必要とのことだったじゃないか」
「総司令部から念押しされています。なんでも首相直々の命令だとか」
「そんなに使ってほしいのか……!」
艦隊司令官は、いろいろと感情を含ませる。
それほどまでに、重要な兵器が積まれているのだ。
「首相の命令です。無下には出来ないでしょう」
「うぅむ、しかし……」
「指揮官、ここは決断をしてください」
艦隊指揮官は、しばらくウンウン唸った後、決断する。
「首相が行けと言ってるんだ。ここでやらなきゃ、いつやる」
そういって艦隊指揮官は、その戦略級兵器の使用を許可した。
そして、その戦略級兵器が準備される。
「まさかこいつを使う日が来るとはな」
「整備長も初めてですか?」
「あぁ。日の目を見ることはないと思っていたが、時代は変わったものだな」
そう言って、その兵器の投下準備をする。
命令が下ってから数時間後。全ての準備が整った。
「目標地点、光学で確認。相対誤差0.28」
「艦底装甲板解放、最終安全装置解除」
「指揮官、いつでも行けます」
「よろしい。投下!」
「投下!」
そういって戦略級兵器が落とされる。
それは、しばらく自由落下を続け、そして目標である島に到達する。
その瞬間、島を覆いつくすような巨大な閃光が、島を照らした。
そして次の瞬間には、島は文字通り蒸発していた。
その場所には、最初から島なんてなかったかのように、シンと静まり返っていた。
巨大なきのこ雲を除いて。
「反物質爆弾、まさか本当に使う日が来るとはな」
「理論ばかりの役立たずと思っていましたが、そうでもないようですね」
「実験は続けていたようだからな。実戦では我々が最初に使ったのだろう」
そんなことを、遥か上空から眺めている第219巡航艦隊であった。
一方で、反物質爆弾の威力を見たナリムトルの高官らは、戦々恐々していた。
文字通り、島を消滅させた爆弾が存在しているのだから。
共和国政府は、反物質爆弾を使用した直後に、次のような声明をナリムトルに向けて発信する。
『我々の持つ力の真意をご覧頂けただろう。我々はこのような爆弾は複数個持っている。場合によっては、ナリムトルに対して宣戦布告を行う事も考えられる。72時間待とう。その間に方針を転換する事を期待している』
そう言って、最終的な判断をナリムトルに預けたのだった。
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