第29話 突入

 空挺団と陸軍が、実際に銃弾飛び交う戦場に足を踏み入れようとしている。


『今回の作戦目標は簡単だ。両陣営を撤退させること。しかし、我々の介入によって生じる損害は少なくしなければならない。よって、各員の使用する弾薬等は、非殺傷武器を中心とする。くれぐれも死人は出さないようにしてくれ』


 総司令部から、このように通達が来る。


「しっかし、総司令部も無茶なことを言うよな。軍事介入だっていうのに、死者を出すなって、ほとんど無理じゃん」

「総司令部の命令なら仕方ないけど、少しは現場というものを考えてほしいものね」

「こら、お前ら!口動かす暇があるなら、手を動かせ!」


 フクオカたちは怒号を飛ばされる。

 それに怖気ついたのか、真面目に仕事に取り組むのだった。

 さて、空挺団と陸軍が戦場に足を踏み入れようとしている。


『こちら陸軍第301師団。目的地の手前に到着した』

『了解。宇宙軍、牽制射撃開始』

「出番だ、射撃開始!」


 静止衛星軌道上で待機していた宇宙艦艇は、一斉に戦場に向け精密射撃を行う。

 その弾道は、まるで一点に集中するかのごとく、収束するように地上に吸い込まれていった。

 そして大気圏に突入し、弾道がぶれる。空気の密度、風、屈折など、様々な条件が重なり合い、そして戦場へと降り注ぐ。

 戦場では、前世代的な戦車や歩兵が、入り乱れるようになっていた。

 彼らの文明レベルは、原子力を中心とした前近代と呼ばれるレベルである。

 しかしそんな文明レベルでは、到底起きようのない戦闘が、そこでは平然と行われていた。

 戦場は、とある市街地であったが、そこを行進射撃する戦車。建物の影から狙うスナイパー。そしてそんなスナイパーを排除すべく、飛んでくる迫撃砲。

 もはや無茶苦茶である。

 そんな戦場となった市街地に、宇宙艦艇からの砲撃が飛んでくる。

 砲撃は市街地の郊外から、中心部まで様々な場所に着弾した。

 もちろん、それに伴う被害者は出てくる。

 だが、この砲撃によって、戦場を混乱させることには成功した。


「突撃!」


 宇宙艦艇の砲撃が着弾したのを確認した空挺団と陸軍は、そのまま市街地の中心目掛けて突撃を敢行する。

 混乱はすさまじいもので、ナリムトルの両陣営は、どちらが敵で味方なのか、さっぱり分からない様子だ。

 しかし、共和国の空挺団と陸軍は、自前のデータリンクを使って、どこに誰がいるのか個人レベルで分かるようにしている。

 これが、正しく技術を使っている証拠だろう。これを行えなかったのが、今のナリムトルだ。

 市街地に入ってきた空挺団は、近くの建物に入っていく。

 そして、そこに即席の指揮所を設置し、防御を固める。

 そのうえ、指揮所に関わらない空挺団員は散開して、幾重もの防御陣形を組む。

 こうして空挺団は、防御陣形を整えるのに成功した。

 一方で陸軍のほうは、ローラー作戦と称して、道路を一つずつしらみつぶすように前進する。

 そして、敵戦車や歩兵を見つけた瞬間に射撃を行う。共和国の戦車には、最新の暗視スコープと赤外線カメラが搭載されている。また、それを処理するコンピュータや、データリンクによって、敵の位置は丸見えだ。

 こうして陸軍は、簡単にナリムトルの兵士を無力化していく。


『現在、推定兵力の半分を無力化にすることに成功した。このまま残存兵力を無力化していく』

『了解。慎重に進め』


 共和国陸軍は、慎重になって市街地を進む。もしかすれば、スナイパーによる狙撃の可能性もあるからだ。

 だが、そんな心配はよそに、ナリムトルのほうが劣勢になってくる。

 それは宇宙軍による艦砲射撃が効いているからだ。艦砲射撃によって、戦場となっている市街地は、半壊状態にある。そこに、最新鋭の装備を詰め込んだ戦車や、練度の高い兵士がやってくればどうなるかは、火を見るより明らかだろう。

 その後、1週間ほどの掃討戦を行うことになる。しかし、その成果も上々といった所だ。

 幸い、弾頭にはゴム弾を使用しおり、死者は今のところ報告はされていない。だが、弾の当たり所が悪くて、重症に陥る例がいくつか公表されている。

 この戦果を良く思った総司令部は、そのままナリムトルに存在する二つの勢力の本拠地を攻撃するように命令を下した。

 その本拠地を割り出すのは、宇宙軍の仕事である。


「なんでこういう時に限って、宇宙軍の出番になるんだろうな」

「何だか、便利屋みたいな扱いされているよね」

「私、こういうことするために宇宙軍に入ったわけではないんだけどなぁ……」


 そういうフクオカたち3人は、文明保守派の本拠地を探すために、情報整理を行っていた。

 地表を観測するだけではまったく分からない、地中にあるような基地まで探せるように、惑星スキャンを用いて観測を行う。

 そして、とある都市のある場所に、それらしきものが存在することを発見した。


「第219巡航艦隊指揮官、それらしいものを発見しました」

「よろしい。では攻撃開始だ」


 こうして第219巡航艦隊は、惑星地表へと降りていくことになる。

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