第30話 破壊

 第219巡航艦隊は、片方の目標である文明保守派の本拠地を叩くため、地表へと降りていく。


「目標は、大陸沿岸部の地下150m地点に存在します」

「了解。全艦、地中貫通弾装填。スキャンを見る限り、本拠地はかなりの広さを持っている。撃ちもらしがないように、各艦注意して撃て」


 第219巡航艦隊指揮官は、細心の注意を払うように言う。

 第219巡航艦隊の艦は、データリンクをして、互いに射線が重ならないようにする。

 そして、全艦の射線が決まった所で、艦隊指揮官が命令を下す。


「全艦、射撃開始!」


 艦艇から、幾千もの砲弾が飛び出す。

 それは遠くから見れば、流星のように見えただろう。

 そして砲弾が地面に着弾する。

 発射時のエネルギーと、落下時のエネルギーが合わさり、地表に思いっきり突き刺さる。

 その衝撃でクレーターが出来上がるが、それでも砲弾の威力は収まることなく、地下に存在する文明保守派の本拠地に到達した。

 そして、目標深度で砲弾の信管が作動する。

 幾千もの砲弾が、ほぼ同時に爆破した。

 その衝撃によって、着弾した一帯の地面が持ち上がる程である。

 爆破直後、持ち上がった地面によって、地下の本拠地が崩壊したと思われる。


「すぐに惑星スキャンだ。敵本拠地が崩壊したか確認するんだ」

「了解」


 すぐさま周辺に向けて、スキャンが行われる。

 その結果はすぐに出た。


「スキャンの結果、文明保守派の本拠地は崩壊したと思われます。目標達成です」

「よろしい。総司令部に連絡を。保守派の本拠地は破壊した旨を伝えてくれ」

「了解」


 そういって伝令が走り去っていく。

 その後、伝令が総司令部からメッセージを持ってきた。


「指揮官、総司令部から伝言です。『科学技術推進派の司令部も破壊した』とのことです」

「それは吉報だな。我々の仕事は終了した。あとは陸軍と空挺団の様子を見守るくらいだろう」


 そういって、第219巡航艦隊は再び大気圏外に退避する。

 互いに味方の司令部をなくした両陣営は、指揮のない中、混乱することになった

 しかし、肝心の紛争地帯はというと、少々不味い状況に陥ることになる。

 なんと、どこからともなくデモ隊の市民が紛争地帯に突入してきたのだ。


『こちら第301師団、市民が乱入している。対応求む』

『こちら総司令部。市民の殺害は認められない。非殺傷ゴム弾による排除を最優先』

『了解』


 そのままデモ隊を交えて排除に向かう。

 陸軍だけでなく、空挺団も状況の変化に伴い、空挺戦車を投入することを決定する。もとより、防衛用に降ろしていた戦車を使うのだ。素早い上に小回りが効き、なおかつそこそこ防御性能も持ち合わせている。市街地で使うには持ってこいの戦車だろう。

 そんな空挺戦車も使って、市街地を駆け巡る。

 しかし、デモ隊はゲリラ戦法を使って、共和国軍のことを翻弄する。


「くそ、デモ隊の動きが不規則で全然わからんぞ」

「データリンクはどうなんですか?」

「数が多い上に、レーダーで捉えにくい。も少し高性能なレーダーなら問題ないんだろうが、今はそんな贅沢は言ってられんな」

「団長、宇宙軍に要請しましょう。上空から観測して、そのデータをネットワークで繋ぐんです」

「しかし、我々と宇宙軍では使っているC4Iシステムが異なっているはずだ。互換性はないぞ」

「大丈夫です、団長。最新のシステムでは、新たなフォーマットによって、互換性が生まれています。これにより、宇宙軍のデータをそのまま利用することが可能です」

「そういえば、そんな情報も上がっていたな。よし、宇宙軍に連絡を取ってくれ。宇宙軍を目として使うんだ」


 すぐさま第219巡航艦隊に連絡が届く。


「今度はデモ隊の観測ねぇ……」

「こう、仕事があるのはありがたいけど、本来の仕事を全うしてないように見えるんだよね」

「仕方ないよ。軍ってそういう所あるから」


 そんなことをフクオカたちは言う。

 しかし、要請とあるならば、それに従わないことはないだろう。

 早速、第219巡航艦隊は、紛争地帯となっている市街地に降りていく。

 観測がしやすい、高度100m前後まで降りてくると、地上をつぶさに観測する。


「どうだ?デモ隊の行動は観測できるか?」

「えぇ、外に出ている市民は観測可能です。情報処理も合わせて行うことで、個人を特定することも可能です」

「ならばよし、空挺団と陸軍のC4Iシステムとデータリンクせよ」

「了解」


 こうして、宇宙軍の観測によって、デモ隊の排除は一歩前進する。

 しかし、デモ隊もただやられているわけではない。

 うまく宇宙軍の観測をを躱して、空挺戦車に近づく人影があった。

 そしてその人影は、空挺戦車に対して何かを投擲する。

 命中したそれは、一瞬で空挺戦車を火だるまにした。

 そう、デモ隊は手軽で定番な火炎瓶を投げたのである。

 現在の戦車は、軽量化や小型化を目指した、バッテリー内蔵のモーター戦車だ。

 密閉されているものの、わずかな隙間から車内に炎の手が回ってきた。


「不味い!脱出!」


 キューポラから車長が飛び出した瞬間、バッテリーが膨張し、火を噴きだす。

 それによって車内に保管してあった弾薬に火が回り、戦車が爆発した。


「これ……、不味くない?」


 上空から見ていたフクオカが同僚に話しかける。


「不味いだろうな」

「どうにかしないと……!」

「どうするんだ?まさか、律儀に機銃で掃射するとかいうんじゃないだろうな?」

「それは……」

宇宙軍俺たちには宇宙軍俺たちの仕事がある。それを全うしてこその仕事だろ?」


 フクオカは、何もできないという焦燥感に駆られることになった。

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