第28話 降下
声明を発表した翌日、早速政府は動いた。
紛争を抑え込むため、陸軍3個師団をナリムトルに送り込む。
それと同時に、第219巡航艦隊にも出撃命令を下した。
「いよいよ出撃か。この瞬間だけは慣れないな」
「珍しいわね。アンタ、緊張なんてするのね」
「俺だって人間だ。緊張の一つくらいするだろ」
「どーだか。腹の中では涼しい顔でもしてるんじゃないの?」
「俺は欲や感情には忠実でいるつもりだよ」
そんなことを言いつつも、フクオカたちは出撃の準備をする。
そんな時、艦内放送がかかった。
『あー、艦隊指揮官だ。今回の政府からの命令は非常に単純明快である。ナリムトルの惑星大気圏外から、宇宙艦艇の砲撃で紛争地域周辺を吹き飛ばすというものだ。総司令部からは、紛争に関して、影響のない程度の攻撃を頼むと言われたが、そんな甘っちょろい考えは無しだ。端的に言う。紛争地域に直接照準を向けろ。主砲の弾種はビームだ、どうせ惑星の影響を受けて直進はしないだろう。だからこそ、紛争地域を直接狙い、我々の力を見せつけてやるのだ。以上』
その発言に、フクオカたちはビビる。
「あの発言はどうなのさ?」
「はっきり言って、やばいと思う」
「一応私たち軍人だから、命令には従わないといけないんだけど……、どっちの命令聞いたほうがいいの?」
「そりゃあ、偉い方の命令を聞くべきだよねぇ……?」
「だが、時には現場の命令が最適解ってこともある。そういう事例もいくつかあるしな」
「……とりあえず間取って、紛争地の外縁部を狙いにいく?」
「それが賢明だろうな」
こうして、第219巡航艦隊は出撃する。
目的地であるナリムトルまでは、ワープ1回で到着した。
「しかし、ナリムトルってアタシたちの管轄に存在してたんだね。正直知らなかったよ」
「そりゃあ、文明促進プログラムが適用されるのは、国境ギリギリの地方だったり、過疎地域にある惑星が多いからな。知られてないほうが多いのは確かだろうよ」
「そういや私たち、地方に飛ばされた身だったね……」
「そういう現実を見るのはやめろよ。こっちも悲しくなるだろ」
そしてそのまま、ナリムトルへと到着する。
すでにナリムトルの静止衛星軌道上には、陸軍3個師団を乗せた輸送艦隊と、第1から第6空挺団を乗せた輸送艦隊が待機していた。
その時、通信が入ってくる。
『こちら総司令部。これより「惑星ナリムトル紛争介入に関する作戦」を実行する。空挺団、降下準備』
すると、空挺団を乗せた宇宙艦艇が、惑星大気圏に向けて降下を開始する。
ナリムトルの対流圏である15km前後まで降下すると、フルフェイスの空挺団員が準備を行う。
15kmもの上空では、空気が薄すぎてまともな呼吸ができずに死亡する可能性が十分にある。そのため、空挺団員には、酸素供給や
そして空挺団員は、この15kmという高さから自由落下することになる。もちろん、並大抵の精神力ではこんな高さから落下などできない。そのあたりは特殊な訓練を積んだ人間しかできないだろう。
そんな空挺団員は、それぞれの艦から自由落下を開始した。
空気の薄い場所から落下するため、最高速度は一時的に時速300kmを超える。
減速のため、体の表面積を大きく取ると、その速度は大きく減る。
そして十分に減速したら、パラシュートによる最終的な減速を行うのだ。
こうして、落下傘の群れが紛争地域の北側に次々と着地する。
それと同時に、空挺団員が使うための武装も落とされた。主に迫撃砲や小型レーザー砲搭載戦車などだ。
それらを武装し、空挺団はとある地点へと進軍を開始する。
『空挺団、目的地点に降下確認。作戦行動開始』
空挺団の作戦目標。それは、陸軍3個師団を安全に降下させるための場所を作ることである。陸軍3個師団もの人員や武装を降ろすとなると、相当広大な土地が必要になるだろう。
その土地を確保するために、安全な場所かどうかを確認する作業が必要なのだ。
幸い、紛争地域の北側は穏やかな丘陵地帯になっており、さらに北に進むと平原になっていることが確認されている。
パワードスーツを装着している空挺団は、あっという間に陸軍が降下する用地を確保する。
『空挺団が陸軍揚陸地点を確保。このまま陸軍は地上に降下してください』
その命令とともに、陸軍を乗せた宇宙艦艇がナリムトルに降下していく。
そのまま、空挺団が確保した草原に向かっていった。
降下時間としては、わずか数分程度である。ほぼ自由落下に近い速度で降下する。
そして空挺団員の誘導によって、ようやく地表に降り立つ。
そこからはあっという間であった。
陸軍の兵員と装備品を素早く降ろし、臨戦態勢を整える。
こうして、空挺団と陸軍は1時間もしないうちに、戦闘準備を整えた。
『こちら総司令部。空挺団と陸軍の展開完了を確認した。これより本作戦第一段階を開始する』
いよいよ、ナリムトルへの軍事介入が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます