第23話 究明

 その問題は、今回の惑星災害が発生してから数時間後に発覚する。

 この時、すでに首都星では、情報収集のための災害対策本部を首相官邸に設置していた。


「えー、人が集まったようなので、簡単にですが挨拶を。私が今回本部長を務めさせていただきます。今回、巨大流星群が共和国国境付近に落下したとのことですが、詳細は不明です。各自治体からの詳細な報告がなければ動けません。現在、第13艦隊の第219巡航艦隊が情報収集のために動いており、迅速な情報収集をしてくれるでしょう。それでは、各々仕事に取り掛かってください」


 その言葉を合図に、様々な部署の人間が災害対策本部を行き来する。


「主な被害地出ました。クィリアム星系です」

「あそこか……。地方でもかなり大きな惑星ほしに分類される都市だったかな」

「現在、第219巡航艦隊が光学で観測中。情報が上がり次第、支援策を練ります」


 こうして第219巡航艦隊とクィリアム星系の自治体が協力して情報の収集に勤しむ。

 そして上がってきた情報や要請をもとに、陸軍や宇宙軍輸送艦隊を災害派遣する。

 それらの手筈が整った所で、災害対策本部の役割は、惑星災害発生の原因追及に切り替わる。


「しかし、今回の災害は流星群なんだろ?一体どこから来たってんだ?」


 本部長は、これまで集まった情報がまとめられたボードを見て呟く。


「星系外からの恒星間天体なんじゃないですか?珍しいですが、可能性がないわけじゃないし」

「ですが、そうした場合の落下地点の散布具合が非常に小さいと思われます。これは意図的にやった可能性も否定できません」

「現在、小惑星専門の研究員を派遣して、現場に落下したと思われる流星群の破片を探してもらっています」

「こちらは大気圏外で偶然撮影されたデータをもとに、流星群がやってきたと思われる位置を特定しようとしていますが、現在までの所、データ不足でまだなんとも言えません」


 災害対策本部の主要メンバーが、口をつぐむ。


「最も有力な情報源は、この静止衛星から撮影された、たった1分8秒の動画だけか……」

「ほかにも、それらしいものがないか探していますが、難題であることには変わりないでしょう」


 それから数日。いよいよ救助活動も本格的になってきた頃。

 災害対策本部では、地道に集めたデータをつなぎ合わせて、流星群の出所を調べていた。


「ありがたいことに、国境警備網システムに蓄積されていたデータがありました。このデータを使えば、どこから流星群がやってきたのかが分かります」

「分かった。早速計算システム研究所に頼んで、詳しい軌道を計算するように打診してくれ」

「了解」


 こうして、国境警備網システムのデータを中心に、様々なデータを重ね合わせて、量子コンピュータで処理する。

 翌日には、計算結果が出ていた。


「これは……」


 その計算結果は、災害対策本部のメンバーを驚かせるような内容であった。


「ラサイド連邦の旧軍事惑星から飛来した可能性が89.737%となりました」

「この旧軍事惑星は、先の銀河戦争の降伏文書の中にあった、放棄すべき惑星の一つでしたよね?」

「はい。まさしく。仮にこれが本当だとすれば、ラサイド連邦は未だ軍事惑星を利用し続けており、研究もそれなりに進んでいるということでしょう」

「ですが、終戦条約の中には恒星間兵器の開発は禁ずる条約もありましたし、そういう人材は、ほとんどラサイド連邦の外に流出しているはずですよね?」

「おそらく、残っていた科学者が賭けに出たのだろう。わずかに残った資源と科学力を使って、恒星間兵器として巨大流星群を飛ばしたんだ」

「でも、この軍事惑星は国境から比較的離れてましたよね?そんな遠くから放り投げたとは到底考えられません」

「生き物、必死な時は何を仕出かすか分からないものだからな。実際、クィリアム星系に到達した数十から数百倍の岩石を放出したはずだ」

「生物の賭けって怖いですね……」


 そんな所に、一人のメンバーがやってくる。


「先ほど小惑星専門の研究者たちが、流星群の一部と思われる落下物の回収に成功したとの報告が!」

「それは吉報だな。それで、現場はなんて言っている?」

「手持ちのX線分析計を用いた分析によりますと、主にタングステンで構成されていることが分かりました」

「タングステン?タングステンといえば、自然界では普遍的に存在しているはずだが……」

「その量が問題なんです。表面を測定しただけでも、全体の7割程度を占めていることが分かったんです」

「そりゃあ不思議なことだな」

「つまり、これまでの話をまとめると、ラサイド連邦の旧軍事惑星が稼働していて、そこから高純度のタングステンを含む岩石が、流星群としてクィリアム星系に落下したと?」

「……そうなると、かなり問題だな」


 災害対策本部長は少し考えると、ある決断をする。


「この事実を、第13艦隊司令部と軍総司令部に報告しよう。ただし、機密レベルは最大で頼む」

「分かりました。すぐに手配します」

「……あとはこれ以上の被害が出ないことを祈るだけだな」


 そう本部長はつぶやいた。

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