第22話 復興

 巨大流星群の餌食になった惑星の都市では、現在もなお復興作業に追われていた。


「E-2班は、ここから24ブロック行った場所のがれきの撤去をお願いします」

「重機が通るぞ!道を開けろ!」

「A-3班へ。まもなく活動時間の限界です。救助活動を終了してA-1班と交代してください」

「C-4班から、新たな遺体を3体発見したとのことです」


 ここは郊外に設置された、現場指揮所である。そこで現場の指揮官が、被災した都市の再建に奮闘していた。


「ビルの破損具合は半壊といった所でしょう。こちらが現場の写真になります」

「どれどれ?」


 現場指揮官が、撮影された画像を見る。古いインスタントカメラで撮影されたものであるが、アナログだからこそ、圧倒的な耐久性と最新技術が崩壊した現場では重宝されるのだ。

 その画像によると、今にも崩れ落ちてきそうな高層ビルが写されていた。


「こりゃかなりの被害だな。やっぱりこのまま直すよりは、一回壊したほうが速いかもしれないな」

「しかし、それをすれば、生存者の捜索はより困難を極めます」

「それは分かっている。しかし、このような被害になってしまっているんだ。実際にかかる費用を計算したら、一度更地にしたほうが効率がよいとは思うだろう?」

「その意見には反対しませんが……」

「それに、半壊した状態で放置しておくのも、危険だ。いつ崩落するか分からないものを放置するわけにもいかんだろう」

「となると、やはり宇宙軍に頼むしかないですかね?」

「爆撃隊による、周辺地域の一斉爆撃……。確かに方法としては楽ですが、街を再建させるには難しい選択だと思いますよ」

「物事には一長一短がある。これもその一つだな」


 そういって指揮官は写真を地図に貼り付けた。

 今回の惑星災害の特徴は、何といっても、その被害の大きさにある。

 居住可能な惑星数個が巻き込まれ、そこにある大都市数個、中規模都市が数十も被害を被ったのだ。

 あまりにも被害箇所が広すぎたため、ロクシン共和国の災害対策本部は、まず大都市圏からの復興に着手する事を決定した。

 まずは人口500万人以上の都市を中心に復興していくことになった。

 それに伴い、避難民が発生することになる。その人数、実に2500万人に上る。

 当然、それだけの人間を収容出来る土地は簡単には見つからない。

 仮に見つかったとしても、到底この人数を収容出来るわけがないだろう。

 そのため災害対策本部は、軍の所有物である艦艇建造用の巨大ドッグを使って、簡易的なスペースコロニーを建造することにしたのだ。

 勿論、スペースコロニーを建造するのは、並大抵のことではない。

 これと平行して、比較的開けた場所に設置可能な階層型仮設住居、つまりマンションを建設することにした。

 これにより、新しい街を一から作り上げることになるのだ。

 そしてここからは共和国の悪い癖なのだが、こうした仮設住宅を仮設ではなく実際の住居にしてしまう所が問題である。

 住む家を失い、新しい場所に移動するだけのお金もない避難民は、いつまでも仮設住宅に住む事を余儀なくされる。そしてそこが本籍になってしまうのだ。

 これを防ぐには、政府の積極的な介入が必要になる。

 しかし、介入のしすぎはプライバシーの侵害にも発展してしまう。

 今回の惑星災害では、この悪い癖を出さないようにするのが問題だろう。

 それから約1ヶ月が経過した。

 連日の復興支援によって、がれきのほとんどは撤去された。

 その中には、意図的に破壊した建物も存在したが、特に問題が発生したという記録は残っていない。


「何とか再建出来るレベルにまで持ってこられたね」


 宇宙空間から、フクオカが光学装置を使って、地上を観測していた。


「しかし、これからが問題だ」

「というと?」


 同僚の男性幹部が言う。


「再建には、それなりの労力と金が必要になる。今回の惑星災害で、共和国政府が補助金なり助成金なりを出してくれるかは怪しい所だ」

「そうかもしれないけど、こればっかりは期待するしかないよ」


 フクオカの言葉通り、災害対策本部はこれまでの災害とは脅威度が異なるとして、政府に対して、様々な金銭面の援助を行うべきという提言を示す。

 それに対して、共和国政府は提言を全て飲み、被災者や避難者に対する全力の支援を行う事を公表した。

 普通の政府なら、提言を全て飲むなんてことはしないだろう。

 しかしこの時期は、共和国の総選挙が間近に迫っていた。

 報道機関はこの政策に対して、『総選挙を迎えたアメの政策』と銘打って一斉報道するのだった。

 しかし、その影響もあって、選挙では与党が圧倒的多数で勝利することが出来たのである。

 選挙終了後、政府は災害派遣に出ていた軍を撤退させることを決定した。


「長かった災派もいよいよ終わりかぁ」

「戻ったら、また書類とのにらめっこだな」

「そんなこと言わないで。憂鬱になる」

「ほんと、フクオカって書類仕事だけは好きになれないのね」


 新人3人はそんなことを言いながら自室に戻っていく。

 こうして、長かった惑星災害も終わり。

 そう思われた時だった。

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