第24話 書類

 災害派遣から帰ってきて数日。

 第219巡航艦隊の作戦課では、今回の災害派遣に関する書類の整理に追われていた。


「ひー、こんな場所なんて普通見ないよー……」


 フクオカがそんなことを言いつつ、ダメ出しされた書類の修正を行っていた。


「やっぱりフクオカは、書類整理は好きになれないね」

「フクオカは効率が悪いんだよ。もっとザーッと見て、必要な所書いてけばいいのさ」

「そんなこと言われたって、簡単にはできないよぉ……」


 そんなことを言いつつも、フクオカはしっかり書類の訂正を行う。

 学生の時は、時々紙での提出をさせられるが、軍では完全なペーパーレスである。

 基本、宇宙が中心の社会では、電子機器がデフォルトで用意されているものだ。

 幼い頃から電子機器に囲まれ、育ってきた人々が数世代ほど続けば、否が応にもその環境に順応するというものだろう。

 もちろん、それに伴う弊害も同時に出てくる。しかし、そこは宇宙文明の科学力。諸々の症状は簡単に治せてしまう。

 自分のDNAを政府管轄の医療機関へ提出すれば、有料で自分の体のコピーを作ることだって可能だ。そのコピーを使って、体に移植すれば、症状は最初からなかったことになる。

 しかし、この方法にも弱点または落とし穴があり、体を入れ替え続けたら、それは元の個人と同一なのか、という議論が絶えない。いわゆるテセウスの船である。また、それによって寿命が伸びることも問題視された。

 そのためロクシン共和国では、法律によって脳の複製を禁じ、最高寿命を150年としている。

 そんな科学力の発達した社会ではあるが、こうした小さなミスはいつまでもし続けるというオチだ。


「なんで書類書いてる時に、間違いや抜けてることを指摘するAIがいないんだろうね」

「それしちゃうと人間のいる意味がなくなるからだろ?」

「でも現代の資本主義的社会では、そういう社会を迎えることが本質のような……」

「結局、人間の行き着く先は社会主義的国家なのかもしれないわね」


 そんな雑談をしつつも、フクオカたちは書類を片づける。

 その時、近くで雑談していた上官たちの会話が聞こえてきた。


「おい、聞いたか?うちの隣の第14艦隊の管轄領域でも、巨大流星群による惑星災害が発生したらしいぞ」

「マジ?今回の被害でも相当だったのに、同じようなやつがもう一度来ちゃったのかよ」

「今回は国境付近でも、一番栄えてるディリー星系の行政区画に落下したそうだ」

「そりゃ気の毒だな。あそこが落ちれば、経済的なダメージは計り知れんだろ」

「しかし問題は、この流星群がどっから来ているか、だな」

「噂じゃ、ラサイド連邦から来てるとか言ってるぜ?」

「いつもの陰謀論だろ?信用に値しねぇよ」


 そんなことを話していた。


(ディリー星系にも巨大流星群?こんな偶然あり得るのかな?)


 そもそも、恒星間天体が惑星に接近してくる事が珍しい。

 直径数m程度の小惑星なら、ガス惑星を持つ星系から簡単にはじき出される。

 しかし、それが人の居住区や街に降り注ぐということは確率的に見ても、かなり低いことは直観的に分かるだろう。

 そのため、ネット上のユーザーには、これが陰謀論であることを裏付けるような資料を提示する人も少なくない。もちろん、そのほとんどはデータに基づいていないデタラメなものばかりだ。

 だが、中には矛盾なく平然と整理された証拠を持つ人間もいる。

 その人物は、フクオカがSNSでフォローするほどだ。


(でも、デマって可能性も捨てきれないから……)


 そう、ロクシン共和国では、かつて一つのデマによって、惑星1個が破壊された過去を持っている。そのため、情報リテラシーというものは、他国に比べて一段と強く出来ている。

 しかし、そんな中でも、情報に疎い人物は出てきてしまう。

 そんな状況である上、軍に所属しているフクオカとしては、陰謀論を信じるわけにはいかない。


(そうだ、誰かが言っていた。陰謀論はエンタメだって)


 そう、退屈な日常に一振りのスパイスを振りかけるような行為。それが陰謀論を正しく認識する方法なのである。


(これを考えるのは止そう。このまま行けばズブズブになること間違いなしだし)


 こうして、フクオカは密かに固い意志を持つのだった。

 話は大きく変わるが、クィリアム星系で設置された災害対策本部はまもなく解散される予定だったが、ディリー星系で同じような災害が発生したがために、継続を余儀なくされた。

 そのことに関して、本部長は次のように述べた。


「災害が発生したのなら、我々はどこまでも仕事をするつもりだ。しかしそれとは別に、休暇を与えてくれる程の人員を割いてほしいのが事実だ」


 その言葉には、災害対策本部の劣悪な労働状態が見られるのだった。

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