第15話 演習その2後後編

 青チームの指揮系統は若干ながら混乱していた。


「今すぐ艦隊を引き返せ!」

「すぐに発艦出来る機体はあるか?」

「しかしそんな事をしたら、敵主力がこっちに来ます!」

「無人機ならすぐに出せます。オートモードで出してやれば、それなりに墜としてくれるでしょう」

「クソ、こんな事になるなら、惑星要塞に艦隊を張り付かせておくべきだった……!」

「それで、この後はどうしましょう?」

「指揮官!無人機ならすぐに出せそうです!これを使いましょう!」

「……分かった。無人機、発艦せよ!」


 そういって艦隊指揮官役の候補生は、無人機の発艦を許可する。

 惑星要塞の南極側から、多数の無人機が発艦した。

 知能は10歳児程度の低いモノを使用しているため、戦闘に若干の不安はあるものの、それでもないよりはマシという感じだろう。

 早速、無人機群と重爆撃機隊が接触する。

 人工知能のレベルが低いとはいえ、人間に出来ない挙動を行うことが出来るのは有利な点だ。ありえないようなマニューバによる攻撃を行うことで、複数機を一気に墜とす。


「重爆撃機隊、なおも接近中!」

「くっ、やはり無人機だけではなんともならなかったか……。中距離砲、散弾準備急げ!」

「了解!」


 攻撃担当の候補生が、攻撃の準備をする。

 最新の技術を詰め込んで設計された惑星要塞は、攻撃準備をものの数分で完了させてしまう。


「攻撃準備良し!」

「攻撃開始!」

「発射!」


 中距離砲から母弾ぼだんが発射される。

 それは、惑星要塞の重力を振り切って、宇宙空間に到達する。

 ちょうど攻撃直前の重爆撃機隊の目の前だ。

 その瞬間、母弾の先端から、子弾しだんが一斉に発射される。

 この弾丸の特徴は、旧日本海軍で使用されていた三式弾と似ているだろう。


「敵機約30機が落ちました!」

「いいぞ!このまま撃墜だ!」


 しかし、既に重爆撃機隊は爆弾を投下しており、いくつかの砲塔が攻撃の対象になっていた。


「敵機の攻撃で、南極側の対艇機銃と中距離砲がいくつか破壊されました!」

「くっ、このまま逃しはしない!」


 しかし、そんな艦隊指揮官役の候補生は意気込むものの、残念ながら重爆撃機隊は蜘蛛の子を散らすような感じで、バラバラに散っていった。


「逃げ足だけは速いな……」

「司令官!敵主力艦隊が接近してきています!」

「駐留艦隊はどうした!?」

「残念ながら、抑えるには至らなかったようです……」

「クソッ……!残っている艦艇は、すぐに惑星要塞にまで撤退!以降は要塞防衛に努めろ!」

「了解!」


 こうして、惑星要塞駐留艦隊はすぐに撤退を開始し、惑星要塞の防衛に回る。

 しかし、艦隊の数はかなり減っており、防衛も出来るかどうか怪しい程だ。

 その間に、赤チームは艦隊の陣形を変え、惑星要塞に向けて進撃を開始していた。


「さぁ!我々の時間だ!今こそ要塞を攻略する時だ!」


 そういって、赤艦隊は鋭い円錐形に陣形を整える。


「敵艦隊、突撃陣形になりました!」

「ならこちらも迎え撃つのみ!駐留艦隊は敵艦隊を取り囲むように円形に展開!要塞砲は旗艦を中心に砲撃開始!」


 青艦隊はドーナツ状に展開し、穴の中心に敵艦隊を捉えるように前進していく。

 そして円の中心に向けて砲撃を開始する。

 それに合わせるように、要塞からの砲撃も、旗艦に向けて発射された。

 その砲撃により、旗艦含め敵艦の何隻かが沈む。


「命中!」

「よし!このまま砲撃を続行!駐留艦隊も総攻撃だ!」


 こうして赤チームの艦隊を屠っていく。

 しかし赤艦隊も負けじと応戦する。

 艦隊による砲撃は一点集中によって、要塞砲を少しずつだが確実に壊していく。

 こうして若干膠着状態が続く。

 そんな中、先に動いたのは赤チームの方だった。


「旗艦が沈んだ今、最大の戦力は戦艦群である。その戦艦群の攻撃力を最大にするのは、突撃するしかない。今こそ、戦艦の最大の防御力を見せつける時だ」


 そういって赤艦隊の戦艦群が、惑星要塞に向けて突撃を敢行する。


(結局、行きつく回答は同じか……)


 フクオカはそんな事を思う。

 自分が提案した、艦艇を惑星要塞に突撃させるという考えは、どうやら共通認識であったようにも思われる。

 もしかすれば、それが戦術的に行き着く最終地点なのかもしれない。

 しかし、青チームも簡単に突撃なんてさせない。


「長距離砲、中距離砲は敵艦隊を狙え!駐留艦隊は敵艦隊の後方に陣取れ!」


 艦隊指揮官役の候補生が細かく指示を出していく。

 その影響もあってか、赤艦隊はどんどん沈んでいった。

 そして、演習開始から数時間。

 その時はやってきた。


『現在、惑星要塞の耐久値は72%、赤チームの艦隊は壊滅状態。赤チームは既に旗艦をやられ、残存艦艇も指揮系統が滅茶苦茶。よって、今をもって演習を終了する!』


 その瞬間、青チームの演習室は歓声に包まれた、


「良かった……。なんとか勝てた……」


 フクオカは、そっと胸を撫でおろす。

 いつやっても、艦隊を動かすのはプレッシャーである。

 しかし、それを乗り越えたときの達成感は素晴らしいものだ。


『以上で本日の演習を終了する。今日の感想や学んだ事をレポートにして提出する事。期間は来週までだ。では以上!解散!』


 こうして、フクオカたち候補生は演習室から出てくる。


「ふぅ、疲れた……」

「とりあえずお疲れ様、と言っておこう」


 そこにドレイクがやってくる。


「ドレイク先生」

「アーカイブ室で見てたぞ。なかなかやるじゃないか」

「ドレイク先生がそんなこというなんて、何か裏がありますね?」

「そんなことはない。純粋な言葉を言ってるのだぞ?」

「……ま、今は素直に受け取っておきます。それで、何か用事でも?」

「いや、ねぎらいを言いに来ただけだ。もう行っていいぞ」


 そう言って、ドレイクは去っていく。

 あのドレイクが褒めた。それだけでなんだか嬉しくなってしまう。


「……ふふっ」


 フクオカの足は軽やかに、寮の自室へと向かっていった。

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