第16話 卒業
それから月日が経過した。
様々な演習や、実物の艦での訓練、その他学科試験等を経て、フクオカたちは晴れて軍学校を卒業する。
「アリサァ……、私たちもう卒業だよぉ……!」
「泣かないでよ。こっちまで泣きそうになるじゃん」
「だってぇ……。皆と離れ離れになっちゃうしぃ……」
「大丈夫だって。軍にいれば、いつか会えるから、ねっ?」
「ぅん……」
フクオカの同期は、そんな感じで涙を流し続けていた。
こうしてフクオカたちは、卒校式に出席する。
「こうして、入校式から誰一人として欠けることなく、全員がこの式に臨めた事を、大変嬉しく思います……」
長い学校長からの言葉を聞くのも、これが最後であると思うと、なんだか感慨深いだろう。
その式には、当然のようにドレイクも参加している。
学年主席が舞台上で挨拶をしている横で、フクオカの事を見た。
フクオカはキチンとした面持ちで式に臨んでおり、これからの進路もちゃんと見据えているようだ。
「いい顔になったな」
そんな事をポツリとこぼすドレイクであった。
式も終わり、翌日になれば、各々が各地の部隊に配属される。
よって本日中に、寮の荷物を片付け、部屋を引き払わないといけない。
幸い、フクオカは荷物が少なかったため、段ボール一つ程度で収まった。
「荷物良し、捨てるもの良し、衣服良し。後は大丈夫かな」
そういってフクオカは、荷物を持って部屋を出る。
すでにフクオカの配属先は通知されていた。
第13艦隊司令部。ここの所属である第219巡航艦隊の作戦課に所属することになる。
(なんか作戦に関わる仕事に就いちゃったけど、この際は仕方ないか。実際作戦参謀役として、演習で成果出しちゃったし)
そんな事を考えながら、荷物を宅配サービスで運んでもらう。おそらく、所属する部署に到着する頃には、荷物も届くことだろう。
「さて、後は何をしていようかな?」
しかし、特に何も思いつかなかった。
そのため、思い出を掘り返すために、学校の設備を回る事にした。
まずは図書館。レポートを書くために、古い文献を探したり、同期と一緒にレポートを書いたりした。
(皆で文献の奪い合いしたっけな)
また、興味のある本があったりすれば、それを借りて寮の自室で読んだりもした。
そう思えば、良い思い出とも言えるだろう。
次に訪れたのは、食堂である。
実際に軍で提供されている食事を堪能する事も出来る。年に何回かは、訓練と備蓄の処理のために、戦闘糧食を出されたこともあった。
(ここのご飯、おいしかったな……)
こう見えて、フクオカは食欲旺盛なのかもしれない。
そして最後に訪れたのは、シミュレータ室であった。
ここでフクオカのイメージが根付いたと言っても過言ではないだろう。
(よくよく考えたら、無茶な作戦ばかりしてたなぁ……)
フクオカは、アーカイブ室に入ろうとしたものの、それを止める。
アーカイブ室に入ったところで、何もすることがないからだ。
それに、もうすぐで出発の時間である。乗り遅れたら、後のスケジュールに影響が出かねない。
こうして踵を返した時だった。
アーカイブ室から、誰かが出てくる。
ふと、フクオカは振り返ってみると、そこにはドレイクの姿があった。
「ドレイク先生、何やってるんですか?」
「ん?あぁ、フクオカか。今度入ってくる候補生のために、何か参考になるものがないか探してた」
「へぇ、ちゃんと講師やってるんですねぇ」
「なんだ、そのニヤけた顔は?」
「いえー?別にー?」
しかしフクオカは意外だと思った。ドレイクは元エースパイロット。誰もが認める天才だ。
(天才は肌感覚で物事を考えがちだとばかり思ってた……)
「おい、フクオカ。今失礼なこと考えただろう?」
「ソンナコト、ナイデスヨ」
「……まぁいい。俺は来年以降もここで講師をしているし、エプリオン線にもいる。何かあったら連絡をよこせよ」
「そんな頻繁に連絡しちゃっていいんですか?」
「……やっぱ駄目だ。連絡しなくていい」
そういってドレイクは教員室に向かう。
「ドレイク先生ー……。もしかして寂しいんですかぁ?」
ここでフクオカは、思いっきり煽りに出る。
「うるさい。お前、宇宙船の時間は大丈夫なのか?」
「後1時間くらい時間ありますよ」
「こういう時は5分前行動じゃないのか?」
「走れば間に合います」
そういって教員室まで、ドレイクの事を煽り続けた。
そして出発の時、同期たちに見送られ、宇宙船に乗り込む。
(エプリオン線以外の航路に乗るの、なんだか久しぶりだな……)
エプリオン線の乗り心地と比べたら、圧倒的にこちらの方がいい。
しかし、エプリオン線にしかない何かが、この航路にはなかった。
(一体何なんだろう……)
そんな疑問を置き去りにするように、宇宙船は目的地に向かって、ワープを開始するのであった。
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