第10話 復習

 翌日、フクオカは自分のチームの艦隊司令官役と航海長役の候補生と共に、前日の図上演習を確認していた。


「やはり、艦隊を分断したのが、一番の問題点だと思う」

「今だから言えることですが、まさか赤チームは索敵機を最小限にしか出してなかったのは驚きですね」

「赤チームの艦隊指揮官役の人は、鋭い勘と洞察力を持ち合わせているのね」

「しかし、フクオカの後半の作戦は素晴らしいものだった」

「そうですね。それに、システムにも助けられた所もあるでしょう」


 そう、フクオカが提案した惑星逆包囲と、それを理論上最強の布陣と認識したシミュレータのおかげとも言えるだろう。


「いやぁ、あの時は偶然分かったというか、閃いたって感じで……」

「とにかく、これによって我々には強力な作戦参謀がいる事を相手に感じてもらっただろうな」

「えっ」

「えぇ。フクオカさんが居れば、何とかなることでしょう」

「ちょ、ちょっと……」

「次回も期待しているぞ、フクオカ」


 こうしてレポートを書いた艦隊指揮官役の候補生は、それを演習の先生の元に送信する。


「これで総評のレポート課題は終了だな。では行こうか」

「あ、はい……」


 結局言いたいことも言えずに、フクオカたちは演習のシミュレーションを保存している部屋を出た。

 そしてその場で解散する。


「……はぁ」


 フクオカは一つため息をついた。

 それは、これからも作戦参謀として、適切で最適な作戦案を提出する事を期待されていることだ。

 先の演習での盛り返しは、偶然勉強したところをふと思い出したに過ぎないだけで、期待されているほどではない。

 しかし次も、今回のような起死回生を狙った作戦を立案しないといけないだろう。


「あぁ!もうどうしたらいいのー!」


 思わず叫んでしまう。

 周辺にいた候補生たちが、びっくりしてフクオカの方を見る。

 フクオカはちょっとした恥ずかしさで、萎縮してしまった。

 そこで声を掛けられる。


「どうした、フクオカ。そんな叫んで」


 そこには、ラフな恰好をしたドレイクの姿があった。


「ドレイク先生……。どうしてここにいるんですか?」

「さっきまでお前たちの演習をアーカイブで見ててな。しかしまぁ、大胆な作戦を思いついたもんだ」

「それは……、偶然です」

「いや、偶然じゃない。お前がしっかりを勉強して、考えて、そして導き出した答えだ。それは胸を張ってもいいことだぞ」

「先生……」


 フクオカは思わず、涙がこぼれそうになった。

 それは、誰かに認めてもらったという感情なのだろう。いわゆる嬉し涙というやつか。


「でも、ドレイク先生。次の図上演習での作戦が思いつかないんです」

「次回の演習内容は?」

「確か、惑星要塞防衛戦です」

「惑星要塞か……。なるほど、防衛は基本的な事だからな。重要度もそれだけ増していることだろう」

「そんなぁ!何かいい考えはないんですか!?」

「それを考えるのがお前の役割だろう?俺が答えを教えちゃ、幹部士官として失格だからな」


 思わず、フクオカは肩を落とす。

 相手は百戦錬磨の元軍人だ。そう簡単に答えを教えてくれるわけではない。


「作戦そのものは教えないが、ヒントは教えてやろう」

「ヒント、ですか?」

「あぁ、そうだ。俺の実体験とも言える」


 フクオカはすぐさまメモを取り出した。


「教えてください!」

「食い気味だな、おい……。まぁいい」


 そう言ってドレイクは、わざとらしく咳をする。


「では、迷える子羊に、ヒントを与えてやろう」

「お願いします!」

「機動力は攻撃に勝り、攻撃は防御に勝る。しかし防御は積み重ねるほど強くなる」


 フクオカは、ドレイクの言った内容を素早くメモする。


「……今はこれだけだな」

「えっ、それだけですか?」

「そうだ。後は自分で考えて答えを探し出すんだな」


 フクオカは、メモした内容とドレイクの顔を交互に見る。


「……これってヒントになってます?」

「十分なっているだろう。まぁ、戦術や戦略からして見れば的外れな事を言っているかもしれないが、ヒントにはなっているだろう」

「えぇ……」


 フクオカは思わず困惑した。


「ま、そんなわけだから、せいぜい足掻くことを期待しているぞ」


 そういってドレイクは去っていく。

 一人残されたフクオカは、再度メモに目を落とす。


『機動力は攻撃に勝り、攻撃は防御に勝る。しかし防御は積み重ねるほど強くなる』


 寮に戻ったフクオカは、ベッドに身を投げる。


「あぁー……。作戦どうしよ……」


 脳内はいろんな考えがグチャグチャに巡り巡っていた。

 この日は結局考えがまとまらず、机で寝てしまうのであった。

 翌日。

 フクオカは頭を抱えたまま、教室に向かうことになった。


「あっ、おはよーアリサ」

「あぁ、うん。おはよ」

「どした?元気ないね?」

「実は、次の図上演習での作戦が思いつかなくてね……」

「あー、アリサは作戦参謀に選ばれちゃったからねぇ」

「運が悪かったとしか言いようがない」

「だよねぇ……」

「でもさ、一人で抱え込むのはどうなんだろう?」

「え?」

「ほら、相談する人ならいるんじゃない?」

(確かに、艦隊指揮官の彼なら相談に乗ってくれるかもしれない……)


 そう考えたフクオカは、少し元気が出た。気がした。


「うん、そうだね。素直に相談してみることにするよ」

「ガンバ!」

「アリサならやれるよ!」

「うん!少し元気出たかも」


 そういって次の図上演習に向けて、作戦を考えるフクオカであった。

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