第11話 演習その2前前編

 それから約1ヶ月ほど経過した。

 その間、フクオカは艦隊指揮官役の候補生や、他の重役周りに手あたり次第に声を掛け、今回の作戦を立案した。

 シミュレータ室に入る前、フクオカは軽く深呼吸する。


(大丈夫。今回の作戦案は万全を期すために、いろんな人に話を聞いた。相談に乗ってもらった。何回も何回も作戦を練り直した。そして完成した、この作戦。絶対に失敗させない!)


 そう意気込み、シミュレータ室に入っていく。


「では、これより第2回図上演習を開始する。今回の想定は、惑星要塞防衛戦だ。今回の演習では、片方のチームが惑星要塞を使い、攻撃と防衛に分れて演習を行う。先に赤チームが惑星要塞で防衛を担当。青チームは攻撃役だ。それが終わったら、今度は青チームが防衛、赤チームが攻撃する形を取る。防衛側は相手の攻撃を退けたら、攻撃側は惑星要塞を攻略したら勝利だ。以上説明終わり。何か質問はあるか?」


 ここでフクオカが手を上げる。


「質問あります」

「なんだ?言ってみろ」

「今回の演習、時間制限はあるんですか?」

「いい質問だ。今回は時間制限を設けていない。即ち、無制限戦闘だ。存分に戦うがいい!」


 今日の演習の先生はテンションが高いらしい。

 とにかく、今日も長い一日になりそうと感じるフクオカであった。

 その後、各員が配置に着き、準備は整う。

 その様子を、ドレイクはアーカイブ室で中継を見ていた。


「全員、準備はいいか?有無は言わせないぞ。では演習開始!」


 こうして、惑星要塞防衛戦が始まった。

 攻撃役である青チームは、早速行動を開始する。


「戦力は十分とはいえ、惑星要塞を攻略するのはたやすいことではない……。しかし、それでも軍人には、やらねばならない時があるのだ。それが今だと思え!」


 艦隊指揮官役の候補生は、青チームの士気を向上させるために、気合を注入する。

 しかし、現場はそんなに盛り上がっていない。理想だけ高くても、現実はそんなものである。

 だが、それを埋め合わせるのが、作戦参謀役のフクオカだ。

 作戦というものは、現場の士気に関わらず遂行出来るようになっていなくてはならない。

 そのために、これまで何度も話し合いをしてきたのだ。


(まず第一段階……。艦隊を分断し、攻撃を分散させる……!)


 前回の図上演習で、艦隊の分断は危険行為であることを学んだが、今回はあえてそれをする。

 惑星要塞は、その表面を様々な口径の、無数の主砲によって構成されている。

 そのため、一点集中にはものすごく強い。

 しかし、全体的に分散し、面で襲ってくる敵にはあまり強くない。攻撃対象が増え、火力が分散してしまうからだ。

 そのため、現在惑星要塞を攻略する方法の一つとして、この手法が取られている。


「艦隊分散完了です」

「了解した。さて、向こうはどう出てくるか……」


 一方、赤チームは淡々と攻撃準備に入っていた。


「超長距離レーザーカノン砲、長距離レールガン砲、惑星間弾道ミサイル準備完了」

「今の所、敵艦隊は予想通りの動きをしていると言えるだろう。しかぁし!そんな単純な方法で惑星要塞を突破出来るわけがない!我々も対策を講じてきている!さぁ、盛大に勝利の祝砲を上げるとしよう!」


 そう言って、赤チームの艦隊指揮官役は一喝する。


「我々に敗北はない!全主砲、攻撃開始!」


 こうして、すぐに攻撃が始まる。

 多種多様な主砲弾は、惑星要塞の重力を振り切って、青チームの艦隊に降り注ぐ。

 分散した攻撃とはいえ、惑星要塞の攻撃力は高い。そのため、初撃で何隻かの艦艇が沈む。


「被害艦多数!攻撃に支障をきたす艦も出ています!」

「うろたえるな!ここで引いてしまえば相手の思うツボ。ここは突撃あるのみ!」


 そういって、青チームの艦隊は前進を続ける。

 それに合わせるように、赤チームも、惑星要塞の攻撃を強める。


「こちらも、駐留軍を使うぞ!艦隊発進!」


 惑星要塞の中から、配備されている無人艦隊が出撃する。この無人艦隊は、一人1隻ずつ操作しているため、人員を削減することは出来るが、それでも人手は足りない。せいぜい惑星要塞の前に、あるかどうかも分からないほど薄い壁が出来る程度だろう。

 そんな中、青チームの艦隊は順調に惑星要塞に接近していく。


「よし、作戦第二段階に移行せよ!」

(第二段階……。艦隊の機動力をもって、絶えず移動することで、惑星要塞の攻撃を混乱させる……!)


 艦隊は10隻単位でまとまり、方向も速度も無茶苦茶にして移動する。

 こうすることで、敵の攻撃を攪乱するという目的があるのだ。


「青チームの野郎……、こっちの攻撃をさせないつもりか?」


 赤チームの艦隊指揮官役の候補生は少し苛立ちを見せる。

 しかし、一呼吸おいて、冷静に考える。


「照準が合わないのなら、そもそも照準が不要なものを使うのが得策だ。確か、クラスターミサイルがあったはずだ」


 そういって惑星要塞の武器庫を漁ると、残弾たっぷりのクラスターミサイルがあった。


「良し、すぐさま装填だ。敵に我々の強さを思い知らせてやれ」


 こうして機動力の高いクラスターミサイルが順次発射される。

 それを受け、青チームの艦隊は回避行動を取るハメになる。

 そして、ミサイルを回避しようとして、主砲に撃沈されることが多くなった。


「これは不味い……!このままでは、艦隊が全滅してしまう……!」

(確かに状況は最悪……。時間が経てば、状況はどんどん不利になっていく……!)


 フクオカは考える。この状況を打開出来る方法を。

 どこかにヒントはないものか、モニターを全て確認する。

 そして、ある事に気が付いた。


「これってもしかして……」


 フクオカは軽く考える。

 そして艦隊指揮官役の候補生に伝える。


「指揮官。意見具申があります」

「なんだ?許可しよう」


 そういってフクオカは、自分の考えた内容を話す。


「……それは成功するのか?」

「分かりませんが、しないよりはマシでしょう」


 しばらく艦隊指揮官が考えると、口を開く。


「確かにそうだな。他に作戦があるかと言われれば、ないと言わざるを得ない。ならば、その作戦に乗っかってみよう」

「ありがとうございます」


 こうして、青チームの反撃が始まる。

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