第9話 演習その1後編

 劣勢に陥っているフクオカのいる青チーム。

 そんな絶好の機会を逃すまいと、赤チームは全力で攻撃を仕掛ける。


「損害を気にするな!どんどん前に出ろ!戦艦は円錐陣にて全力攻撃!巡航艦は艦隊をかき乱せ!空母は後方待機、艦載機の発着艦に集中だ!」

「了解!」


 赤チームの艦隊指揮官役の候補生は、定石を守りつつも、独自の運用方法を編み出しているようだ。

 その作戦が功を奏したのか、次第にベータ艦隊は撃破されていく。

 アルファ艦隊も、観測によれば、ベータ艦隊の援護に回ろうと行動を開始しているらしい。


「ふふふふ……。そうだ、来い……!そうやって我々の罠にハマっていくがいい……!」


 赤チームの艦隊指揮官役の候補生は、悪い顔をしながらモニターを眺める。

 青チームの艦隊は、アルファ艦隊が前進、ベータ艦隊が後退をしている状態だ。

 赤チームは、空母を除く艦隊をベータ艦隊の方へと寄せていく。一方、空母は最低限攻撃出来る艦艇を残して、艦載機の攻撃能力を最大化するために尽力していた。

 そんな追い込まれている青チームのベータ艦隊であったが、運よく、巨大な衛星を持つ惑星の領域に逃げ込むことが出来た。


「あの惑星と衛星が邪魔だな……。しかし、今の状況で惑星破壊をするのは得策じゃない……。これから艦隊はあの惑星を目指す。まずは敵の分艦隊を殲滅せよ!」


 赤チームの艦隊は、空母艦隊を残して前進を続ける。

 そしてベータ艦隊が逃げ込んだ惑星の衛星まで接近してきた。


「よし。艦隊、上下左右に分れて反対側にいる敵分艦隊を叩きのめせ!」


 その指示を飛ばした直後だった。


「艦隊指揮官!敵の主力艦隊が惑星に接近してきています!」

「何っ?」


 彼がモニターを確認すると、そこにはかなりの速度で突っ込んでくる青チームのアルファ艦隊があった。


「何をするつもりだ……?通信員!何か通信を傍受したか!?」

「傍受しましたが、暗号化されており、解読は困難です」

「ここでディラクション暗号が効いてくるか……。仕方ない。艦隊は分艦隊を攻撃!重爆撃機隊は敵主力艦隊への攻撃を続行せよ!」


 そういって攻撃を続ける赤チーム。

 しかし、青チームのアルファ艦隊とベータ艦隊の合流の方が一歩早かった。


「クソ、合流させてしまったか……。しかし、合流した所で問題はない。既に青艦隊の4割は沈んでいる。勝機は貰ったと同義!このまま押していけ!」


 艦隊指揮官役の候補生は、思わず命令に力がこもる。

 いまだ、青チームの艦隊は惑星の影にいた。

 赤チームは艦隊を分散させ、囲い込むように惑星を覆いつくそうとする。

 しかし、その前に青チームが行動を起こしていた。

 なんと、惑星表面を覆いつくすように、球状に展開し始めたのだ。


「なんだ、あの陣形は?」

「分かりません。惑星を守るような行動に見えますが……」

「何が何だか分からんが、とにかく攻撃を続けよ!」


 赤チームの作戦参謀も、青チームの行動原理は分からない。

 しかし、その行動原理は、実際に攻撃してみてから分かった。


「艦隊指揮官!ありとあらゆる方向から敵の攻撃が飛んできます!」

「すでに戦艦2、巡航艦5が沈んでいます!」


 その時、赤チームの作戦参謀が気が付いた。


「そうか!わざと惑星を覆うことで、疑似的に球状の攻撃形態を取っているのか!」

「何だと!?」


 現在のロクシン共和国の軍事学では、球状に配置した兵器は、あらゆる方向からの攻撃に最も耐えやすく、そして攻撃能力も高いと考えられている。

 そこで、惑星を覆いつくすよう艦艇を配置することで、疑似的に球状の兵器として運用することを、フクオカは提案したのだ。


「なんとか間に合ったか。まさか、まだ理論段階の兵器を模すとは、考えたものだね」

(日々の勉強が役に立ってよかったー……)


 フクオカは胸を撫でおろす。ここでこの作戦が失敗してしまったら、もう後がないと覚悟していたからだ。

 青チームの思惑は、驚くほど命中し、どんどん赤チームの艦隊を撃沈していく。


「艦隊指揮官!このままでは我が方が一方的にやられてしまいます!」

「くそぉ……!空母艦隊!艦載機を直ちに全機発艦させよ!これ以上の損失は許されない!」


 そういって艦載機がどんどん発艦していく。

 しかし、それにも青チームは冷静に対処していった。

 赤チームの艦艇は、面白いように墜ちていく。

 そして演習開始から数時間後。決着が着いた。


「赤チーム、撃沈8割超。これ以上の戦闘は不可能と判断し、青チームの勝利とする!」


 その瞬間、青チームのシミュレータ室では歓声が湧き上がる。


「良かったぁ……」


 そんな歓声の中、フクオカは安堵していた。

 無事に作戦参謀役として、任務を遂行することができたのだ。これ以上喜ばしいことはないだろう。

 その後は、演習の先生と共に、今回の演習の振り返りを行う。


「まず、青チームの前半の動きは教本通りだな。しかし、教本に倣い過ぎて、艦隊を分断してしまったのは失点だな。一方で、赤チームの初動は大変素晴らしいものだった。索敵機も最低限しか出さなかった上に、ほぼ読み通りに場所を特定出来たからな。そして問題の後半、青チームの追い上げは目を見張るものがあった。理論上最強と言われている球状の構造を作り上げた努力は称賛に値する。それでは、両チームの艦隊指揮官役、作戦参謀役、航海長役は、今回の演習での総評レポートを書いて来週までに提出すること。場合によっては、演習のアーカイブも使ってもよろしい。以上」


 こうして長い1日が終わった。

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