第8話 演習その1前編

 こうして2週間後。

 図上演習の時間がやってきた。

 結局フクオカは、教本通りの作戦を立てることしか出来なかった。


(一応形にはなっているし、ある程度は問題ないはず……)


 とにかく自分を信じるしかない。そう考えたのだ。

 図上演習を行う演習室は、宇宙船の艦橋のように出来ている。

 そこで、二つのチームが作戦指揮や艦隊を動かして、コンピュータ上でシミュレーションするのだ。


「それでは、各員配置に着いたか?」


 そう、演習の先生が聞いてくる。

 赤青とも問題なしの信号を送った。


「ではこれより、演習を始める。戦闘開始!」


 こうしてシミュレーションが始まった。


(始まっちゃったよー!大丈夫かなぁ……)


 フクオカは固唾を飲んで見守る。

 フクオカのいる青チームは、まず索敵のために艦載機を発艦させる。

 艦載機は空母を起点として、放射状に広がっていく。勿論、全部を見渡すことは不可能であるため、適宜艦載機を帰艦させたり、再度発艦させたりする。

 こうして索敵を行うこと数十分。星系の一番外の惑星軌道の内側まで入ってきたときだった。


「指揮官!前方下方より敵の艦隊らしき影を発見しました!」


 艦載機によるレーダーを確認してみると、主力艦隊と思われる大艦隊が迫って来ていた。


「良し。この場合の作戦はどうだったか?作戦参謀」

「えーと、確か分艦隊を敵艦隊後方に回して、主力艦隊で打撃する……です」

「定石通りの作戦。だが手堅い方法でもあるな。分艦隊を編成して敵艦隊の後方に回せ!」


 そういってフクオカの作戦通りに艦隊は二分していく。

 そして片方の艦隊が星系をグルッと回るような航路をとって、敵艦隊の後方に回ろうとする。


(お願い……!上手くいって……!)


 フクオカは祈るように、手を握る。

 残った主力艦隊をアルファ、分艦隊の方をベータとしてラベリングし、ベータはそのまま迂回を続けた。

 その間も、艦載機による敵艦隊の動向を探るため、監視活動を続ける。

 敵艦隊はそのまま、監視されているとも知らずに前進を続けていた。


「指揮官、敵艦隊進路を変更しません。どうしますか?」

「赤チームも、何かしら定石通りの動きをしているはずだ。となると、索敵機が近くにいてもおかしくはないが……」

「レーダーの反応、アルファ、ベータ共に無しです」

「何か隠していることでもあるのか?その目的が分からないな」


 艦隊指揮官役の候補生は、おかしい点がないか探る。

 艦隊を運用する、他の候補生たちも一緒になって考えるものの、明確な答えには至らなかった。


「指揮官、まもなくベータ艦隊が敵艦隊の側面に入ります」

「仕方ない。敵は目の前にいる。それは事実だ。よって、攻撃を開始する。ベータ艦隊、攻撃始め!」


 こうして分艦隊が敵艦隊の側面を捉えて、攻撃を開始しようとした。

 その時だ。

 突如として、分艦隊の何隻かが撃沈判定となる。


「な、なにが起きた!?」

「敵艦隊です!敵艦隊からの攻撃を確認しました!」

「なんだって!?」


 シミュレータ室が真っ赤に染まる。

 警告音が鳴り響き、緊急事態である事を知らせていた。


(これってかなり不味い状況!?)


 そう思うフクオカ。

 実際そう思わなくても非常に不味い状態である。


「ベータ艦隊、戦艦1、巡航艦4、空母1が撃沈!」

「敵艦隊、ベータ艦隊に方向転換しています!」

「まさか、敵艦隊は最初から我々の動きを読んでいたというのか!?」


 その頃、赤チームは順調に進軍していた。


「艦隊戦とは数で戦うものだ。艦隊を分断するなど言語道断!俺がしかとその眼に刻み込んでやる!艦隊、火力を敵に集中!攻撃隊、敵主力艦隊を攻撃せよ!」


 赤艦隊は青のベータ艦隊に対して全力で攻撃を仕掛けていく。

 そしてもう一つ、隠し玉を持っていた。

 それを青チームが確認したのは、直後のことである。


「指揮官!艦隊下方より重爆撃機隊が接近してきます!」

「何だと!?」


 青チームにとっては青天の霹靂であった。

 赤チームの重爆撃機隊は、そのままアルファ艦隊を目指して爆撃を敢行する。

 それによって、アルファ艦隊は多大な被害を被ることになった。


「各艦にて被害発生!」

「戦艦、巡航艦、計8隻が撃沈しました!」


 被害の報告が各所から上がってくる。


(これ、アタシのせい……?)


 もとはと言えば、作戦参謀役であるフクオカが立てた作戦である。

 その責任はフクオカにあってもおかしくはない。

 しかし、ここは軍である。作戦を容認したのは艦隊指揮官役の候補生であるため、責任は彼にあるはずだ。

 しかしフクオカはそんな事も忘れて、一人罪悪感に襲われていた。

 一方で艦隊指揮官役の彼は、この現状を何とかするために、必死に対応に追われている。


「ベータ艦隊は近くの惑星の影に隠れろ!アルファ艦隊は機銃掃射開始!一機でも巻き添えにしろ!」


 そうは言っても、シミュレーションに用いられるのは疑似乱数。敵機が落ちるのは確率でしかない。

 そうして青チームのアルファ艦隊とベータ艦隊は、ジリジリと行動不能に追い込まれていく。


(あぁー。これ絶対アタシのせいだよぉ……。どう責任取ろう……)

「そうだ!作戦参謀!現状を打破出来る策はないか!?」


 フクオカに話が回ってくる。


「……へ?アタシ?」

「そうだ、君に言ってるんだ!この状況を何とか出来ないか考えてくれ!」


 やっと罪悪感から解放されたフクオカは、この状況を打開するための策を考える。


(考えなきゃ……!この状況を打開出来る方法を……!)


 必死に艦隊の配置を見て、どうにか形勢逆転出来ないか、方法を探る。

 すると、一つの案が浮かんできた。


「この方法ならもしかして……」

「何か思いついたか?」


 艦隊指揮官役の候補生が聞いてくる。


「多分出来ると思うんですけど……」


 そういって、フクオカは考えをその場にいる全員に話す。


「……そんなことが可能なのか?」

「システムとしては問題ないと思いますが……」

「出来るんだったら、やるほかないと思います」

「……分かった。その作戦を実行に移そう」


 こうして、青の反撃が始まる。

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