第7話 月日

 翌日の朝。フクオカは朝早く叩き起こされて、業務の準備を始める。


「朝って言っても、まだ協定時間4時半ですよ……」

「エプリオン線は始発が5時27分だからな。これでも遅い方だ」

「大変ですねぇ」

「他人事みたいに言うな。社長から聞いた話だが、出身であるギャリオ帝国には、24時間走っている航路もあるくらいだからな」

「えっ、ホロギン社長ってギャリオ帝国出身だったんですか?」

「そうだ。これは言ってなかったな」


 ロクシン共和国の平均身長は165~170cmであるが、ギャリオ帝国はそれを上回って2mを超える。ホロギンは平均身長よりも低い身長であるが、ロクシン共和国出身のフクオカやドレイクにしてみれば、身長は高く見えるだろう。


(通りであんなに背が高かったんだ……)


 妙なところで納得するフクオカである。


「そんな事よりも、今日も首都星とスイッティの往復だ。だらけるんじゃねぇぞ」

「はーい」


 こうしてフクオカの長期休暇は、エプリオン線での接客業務を行うことで終わっていった。

 最終日には、社長であるホロギンから、わざわざ給料を手渡しされた。


「いやぁ、こうやって若い子に給料上げられるのって、なんだか新鮮だねぇ」

「社長、本日までありがとうございました」


 そう言ったフクオカの目には、涙があった。


「あれ、こんなつもりはなかったのに……」

「まぁ、出会いがあれば、別れもあるってことだよね」

「その感情を、少しでも俺に向けてくれればいいんだがな」

「ドレイク先生は……、まぁ、アレですね」

「アレとはなんだ」


 そんな感じで、約ひと月の間お世話になった会社を去る。


(社長には来年も来てねって言われたけど、この感じなら行ってもいいかなぁ)


 そんな事を思いつつも、フクオカは軍学校の寮に戻るのであった。

 新しい学期が始まり、フクオカは久々に同期と会う。


「久しぶりー。元気だった?」

「うん。久々に実家帰れたんだけど、もーお父さんが大変でさぁ……」


 長期休暇中の話題で一杯だった。


「そういえば、アリサって休暇中何してた?」

「アタシはずっとバイトしてた」

「バイト?どこで?」

「エプリオン線っていうローカル航路」

「それまた、どうしてそんな所に?」

「実はね、その航路の運転士、ドレイク先生なんだよ」

「えぇ!そうなの!?」


 同期たちが騒ぎ出す。


「それじゃあ、ドレイク先生とずっと二人っきりだったわけ?」

「いや、ずっとじゃないけど……」

「でもそういう時間があったのは間違いないんでしょ?」

「う、うん。そうだね……」


 そういうと、同期たちはキャーキャー言い出す。

 おそらく恋バナと勘違いしている節があるようだ。


「はーい、席についてくださーい。ホームルーム始めますよー」


 タイミングよく、担任の先生が入ってくる。


「後で詳しく聞かせてね」


 去り際に、同期たちからそんなことを言われる。


(なんだか面倒な事になっちゃったな)


 そして授業が始まる。

 こうして、フクオカやその同期たちは、順調に学び進んでいく。

 時には、実際に自分たちが立つであろう練習艦艇に乗って、ロクシン共和国の国境近くまで行く航海練習があったり、シミュレータを使って実際の戦闘を模擬体験したりする。

 そして約1年の月日が経った。

 この日は重要な授業として、全員が集められていた。


「えー、これから皆さんには、図上演習を行ってもらいます」


 その言葉で、教室が騒めきだす。


「はいはい、静粛に。学校の演習室を使って、疑似的に艦隊運用をしてもらいます。これから演習に関する資料を配りますので、各自目を通しておいてください」


 そういって、候補生たちの端末に資料がダウンロードされる。

 フクオカは資料に目を通す。

 今回の舞台は架空の星系での占領戦である。赤チームと青チームに分かれ、それぞれ艦隊を引き連れて星系に進入するという想定だ。

 チーム分けは、既に自動的にされている。知っている同期や、話したこともない人もいた。


「演習は再来週行います。来週のこの時間と再来週までの時間に、互いのチームの顔合わせを済ませ、大まかな作戦を立ててもらいます。では皆さん、それぞれのチームに分れてください」


 早速、二つのチームは教室内で分れて、作戦会議を始める。

 フクオカは青チームに分けられた。


「さて、早速だけど、まずは艦隊指揮官から決めていかないといけないね」


 そう男子候補生が言う。


「その辺は、成績順で決めていった方がいいんじゃないか?」


 別の候補生が、そう提案する。


(妥当な提案ね……。となると、アタシは分艦隊レーダー担当くらいかな)


 そんな事を考えていると、早速指名が始まった。


「まず艦隊指揮官は、彼に決定するとして……。作戦参謀にはフクオカにお願いしたい」

「はい。……え、アタシ!?」

「この間のテストの結果や、適性診断の結果を鑑みた結果だよ。フクオカは参謀に向いている」

「でも、そんな大役アタシじゃ絶対無理……」

「大丈夫。これは演習なんだから。失敗しても何かしら損はないよ」

「そうかもしれないけど……」

「じゃ、決まりだね」


 そういって他の候補生も役割を貰っていく。

 その裏で、フクオカは不安に駆られていた。


(どうしよう……。アタシ作戦参謀なんてやっていいのかな……)


 しかし決まってしまったことはしょうがない。

 フクオカは、やれる範囲の事をやろうと決意したのだった。

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