第6話 本社

 格納庫にコスモスター707型機を格納する時はドレイクが運転した。まだ細かい操縦が出来ないフクオカにとっては難しいからだ。

 それでも、本日は法律違反をいくつかしているので、それがバレないか心配になるフクオカであった。

 ドレイクと共に宇宙船から降りると、事務室の方に通される。


「ここがエプリオン線の本社事務室だ」

「なんか……狭いですね」

「仕方ないだろう。今の収益では、ここを維持していくのがやっとだからな」


 そういってドレイクは、奥のほうにある席に座る。


「まぁ、俺も聞いた事しかないんだが、最盛期は本社ビルなんてあったらしいからな」

「ビル持ってたとは思えない程の変容っぷりですね……」


 フクオカから、素直な言葉が飛び出る。


「それをいっちゃあ、お終いな気もするがな」


 そんな事を言っていると、隣の部屋に通ずる扉から、誰かが出てくる。

 その人は男性であるが、身長が高い。190cmはあるだろうか。


「で、デカい……」

「おっ、ドレイク君お疲れ様。この子が言っていたバイトの子?」

「はい、そうです」

「初めまして。僕は現在のエプリオン線運行会社の社長、リフィック・ホロギンだよ」

「は、初めまして!バイトのアリサ・フクオカです!」

「うんうん。元気で結構」


 そういってホロギンは、ドレイクの元に行く。


「今日の売上はどんな感じだった?」

「6000リエンです」

「おっ、今日は多いほうじゃないか。まぁ学生が夏休みに入る時期だしね」


 そういって、ドレイクから徴収した運賃を受け取るホロギン。

 それを大事そうに金庫にしまうのだった。

 その時、フクオカに疑問が生じる。


「ちょ、ちょっと待ってください。今日の売上がいいほうって、普段は一体どれだけ運賃がないんですか?」

「そうだねぇ……。普段は2000リエンくらいかなぁ……」

「そんなにないんじゃ、アタシのバイト代って出ないんじゃ……?」


 フクオカはハメられたと思った。

 バイト相手なら、不当な給料を出しても問題はないとでも思っているのだろうか、と。


「大丈夫だよ。君の給料はちゃんと出す。一応営業利益は黒字だからね」

「そ、そうなんですか?」

「勿論」


 何か裏があるんじゃないかとフクオカは思う。


「大丈夫だよ。違法薬物とか売りさばいていないから」


 ホロギンは笑いながら否定する。


「人も乗ってこないのに、どうして売上が出るんですか?」

「簡単さ。うちの業種は旅客運送業じゃなくて、エネルギー業だからだよ」

「え、旅客じゃないんですか?」


 フクオカは驚く。


「そうだ。エプリオン線の由来は、恒星エプリオンである事を前に言ったな?」

「そうですね」

「実は恒星エプリオン近くにある惑星に、エプリオン線が所有しているエネルギー供給所があってね。そこでエネルギーを販売しているんだよ」

「そうなんですか……」

「今の売上比を見てみると、運送業で全体の2割、エネルギー販売で8割っていったところかな?」

「そんな事あります?なんで運送業やってるんですか?」

「いやぁ、自転車操業だから……。宇宙船の運行をやめるとなると、何かと出費が多くてね……。なかなか踏ん切りが着かないんだよねぇ」

「しかし、エプリオン線を利用してくれている旅客がいるのも事実です。航路廃止はまだ先の話かと」

「ほら、運転士もこう言ってるし、なかなか、ね?」


 ホロギンは困ったように笑う。

 その笑いには、ちょっとしたジレンマを感じるフクオカであった。


「それじゃあ、今日の業務は以上ってことで。ドレイク君はこのまま寝ていくのかい?」

「そのつもりです」

「フクオカ君は?」

「俺と一緒に寝るつもりだ」

「えっ!?」


 その言葉に、思わず反応したフクオカ。

 しかし、その言葉に語弊がある事に気が付き、顔を真っ赤にする。

 それを察したのか、ドレイクが気怠そうに言う。


「安心しろ。仮眠室はベッドが二つある。それで十分だろ」

「安心かもしれませんけど……」


 いろいろと想像してしまうフクオカ。

 そして結局顔を赤くするのである。

 ドレイクとフクオカが仮眠室に向かうと、そこには簡素な二段ベッドがあった。


「上でも下でも、好きな方を使うといい」

「じゃあ、下で」


 そういってフクオカはベッドに横になる。

 すると、一気に疲れが押し寄せてきた。


「あぁー……」


 そのまま眠りにつこうとした時だった。


「フクオカ。この会社どう思う?」


 突然、ドレイクがそんなことを聞いてくる。


「なんですか、薮から棒に?」

「いや、なんとなく聞いただけだ」

「そうですね……。正直、ローカル路線で売上もそんなにないと思ってましたけど、意外とちゃんとしてましたね」

「それが組織というものだ」


 一呼吸置いてから、ドレイクが続ける。


「いいか?これは全てに通ずることだが、大事なのは数で、次に作戦だ。だが作戦がまともに機能しなければ、数を揃えたとしても意味はない。これだけはしっかり覚えておけよ」

「それ、いつ役に立つんですか?」

「幹部士官候補生だからな。活かせるチャンスは自然と転がってくるだろ」


 そういってしばらくすると、ドレイクの寝息が聞こえてくる。

 フクオカはさっき言われた、ドレイクの持論を思い出す。


(いつ役に立つんだろう……)


 そんな事を思いながら、フクオカは眠りにつくのであった。

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