第5話 バイト
その後に行われた小テスト、そして学期末テストを無事にパスしたフクオカは、エプリオン線のバイトをするため、ドレイクに連絡を取ろうとする。
「……この番号で合ってるよね?」
何度も電話番号を確認し、電話をかける。
しばらくコールが続いた後、電話が繋がった。
『もしもし?』
「先生、こんばんは。フクオカです」
『あぁ、お前か。こんな時間にどうした?』
「エプリオン線でのバイトの件、考えてくれました?」
『社長には連絡済みだ。あとはお前のやる気次第だが……』
「やります!させてください!」
『……そうか。分かった。明後日の始発、首都星の中央港にあるエプリオン線に来い』
「はいっ!分かりました!」
そして翌々日。首都星中央港のエプリオン線にやってきたフクオカ。
そこにはすでに、ドレイクとコスモスター707型機が待っていた。
「やっと来たな。すぐに乗れ。業務は口で説明する」
そういってドレイクはコスモスター707型機に乗り込む。
「よーしっ」
フクオカは気合を入れなおして、宇宙船に乗り込んだ。
早速首都星中央港を出発する。今のところ乗客はいない。
「早速だが業務の内容を説明する。今のところ、お前に与えられる仕事は、運賃の追加徴収だ。オンボロ船だからな、船内販売などはやっていない。運賃の徴収の仕方は分かるか?」
「大体分かります」
「なら良し。徴収用の鞄を渡しておくから、乗客が来たら徴収に向かってくれ」
「はい」
そういってコスモスター707型機は、予定の航路を進んでいく。
道中、何人か乗客が乗ってくる。その人たちに、フクオカは運賃を徴収しに行った。
「すいません、運賃の徴収です……」
「あら、若い子ね?新しく入ったの?」
「いえ、今日からバイトで入らせてもらっているんです」
「あら、そうなの?でも嬉しいわぁ、こんな若い子がエプリオン線に来てくれるなんて」
「そ、そうですか?」
「そりゃそうよ。運転士の人、イケメンだけど態度は素っ気ないじゃない?それに比べたら、貴女の方がよっぽどいいわよ」
「あ、あははは……」
そういって運賃を徴収する。
その後も、このようなやりとりを何度かするハメになる。
その時、フクオカはある事に気が付く。乗客のほとんどが老人であるという事に。
確かに、エプリオン線はローカル航路ではある。中央幹線航路は主要な惑星に到着するのに対して、エプリオン線は過疎地域を設定しているような感じだ。
(まさか、こんな具合で需要と供給が一致しているってこと?)
大昔、まだ惑星から飛び出す前の話では、過疎地域にはバス等の公共交通機関が少なからずともあり、住人はそれを生活の足にしていた事を、フクオカは思い出す。
(でもそれって、結局採算が合わないから廃止されるって運命にあるわよね?)
そう思いながら、フクオカは接客を行っていく。
そして、それもひと段落すると、運転席に戻ってくる。
「どうだ?仕事のほうは」
「まぁ、このくらいの仕事なら、誰にでも出来ますよ」
フクオカは皮肉たっぷりに返事する。
「そうか。なら、こいつを運転してみるか?」
「……はい?」
「お前はいずれ、戦争の舞台に立つことになる。その時に、無茶な作戦を立てないようにするのも、お前の仕事になる」
「でもそれって、無免許運転になりません?」
「バレなきゃ問題じゃねぇ」
(横暴過ぎるわね……)
そんな事を思いつつも、フクオカは操縦席に座る。
「いいか?宇宙船の操縦方法は、惑星重力圏とは違って相当難しく出来てる」
「その辺は理解してます。学校の授業でも宇宙船の操縦はやらされているので」
「そうか。ではその腕前を見せてもらおう」
そういって、ドレイクはフクオカの後ろから様子を見守る。
フクオカは各種計器を見ながら、慎重に宇宙船を動かしていく。
まず最初の難関として、宇宙港から出なければならない。意外と宇宙港の出入口は狭く出来ているので、船体を擦らないようにしなければいけないのだ。
「こう……かな?」
慎重に宇宙港から発進する事が出来た。
「及第点だな。船体を擦らなかったのは良かったが、時間がかかりすぎている。次はもっと速く出来るように」
「無茶言わないでください」
そのまま宇宙船は、次の目的地に向けて航路を進む。
宇宙港を出発してからは、順調な航海であった。
ワープに入る時も、非常にスムーズである。
「なるほど、一通りの運転技能は持ち合わせているようだな」
「そりゃ、アタシは優秀なものでして」
「幹部士官候補生なんて辞めて、戦闘機乗りでもなったらどうだ?」
「あいにく、家族には幹部士官以外はやめろと言われていましてね」
「そいつは残念だ」
そういってワープアウトをし、次の宇宙港に入っていく。
フクオカが運転しているのがバレないように、管制塔との会話はドレイクが行う。
この時も、慎重に入っていったため、若干時間に遅れが生じてしまった。この後は回復運転のために、ドレイクが操縦することになる。
こうして、一日の業務を終えたフクオカは、そこそこ疲れていた。
「初日からご苦労だったな」
「やることは少ないとはいえ、なんだか疲れました」
「そういう事もある。それが労働だ」
そういって運行終わりに、エプリオン線の本社兼格納庫に向かう。
その場所は、首都星の衛星、極近くの3等地にあった。
「明日も早いからな。本社で寝ていくといい」
そういって本社の格納庫に入っていくのだった。
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