第4話 追跡

 翌週のドレイクの授業。

 フクオカはドレイクの授業を聞きながら、この後の行動をシミュレーションしていた。

 ドレイクの授業は、その日の最後の授業。つまりその後は寮に帰宅するだけなので、後を追いかけることが出来る。

 授業も終盤に差し掛かり、フクオカは静かにタブレットをしまう。ドレイクは、授業が終わればあっという間に教室を去ってしまうからだ。

 そのため、授業終了と共に、ドレイクを追いかける準備が必要なのである。


「……という訳で、戦艦を動かす際には慎重にならなければいけない。そうでないと、先ほども説明したように、簡単に敵の的になってしまうからだ」


 ここで鐘がなる。


「今日の授業はここまで。来週は小テストをするつもりだから、しっかりと復習するように」


 そういって候補生は全員立って挨拶する。

 その直後、フクオカは動き出す。

 鞄を持って、素早く教室の外に出る。

 まだ廊下の先にドレイクがいる事を確認した。


(この距離なら、まだ間に合う!)


 フクオカは廊下を走る。

 ドレイクは階段に差し掛かり、そのまま教員室に向かうようだ。

 フクオカはドレイクの姿を見失わないように、全力でダッシュする。

 そして階段を駆け降り、教員室のほうを見る。

 そこにはドレイクの姿はなかった。


「あれっ?さっきまでいたはずなのに……」

「そんなに俺のことが気になるのか?」

「気になるというか……、えっ?」


 フクオカは思わず声のする方を見る。

 するとそこには、ドレイクの姿があった。


「ドレイクっ……先生、どうしてそんな所に?」

「お前がついてきているのが見えたんでな。慌てた様子だったから、少し様子見してたんだが……」

(しまった、ドレイクのファンみたいなことしちゃったじゃん!)


 冷や汗が出てきそうになった所で、ドレイクが詰め寄る。


「で?俺に何の用だ?」

「そ、それは……」

(やばーい……。口が裂けてもドレイクの後を追いかけてたなんて言えない……)


 だんだんとドレイクの顔が近づいてくる。


(てか顔近っ!ちょっと待って、これどういう展開!?)


 ドレイクの顔が近づくにつれて、顔が赤くなってくるフクオカ。

 そして目をつむった瞬間。


「あでっ」


 ドレイクがデコピンをしてきた。


「まったく。俺の事を追いかけるなら、もう少しまともなスニーキング技術を磨いてからにしろ」

「は、はい……」

「それで、俺に何か用があるんじゃないのか?」

「そ、それは……」


 ここまで来ると、なかなか言い出しづらい。

 しかし、またとない機会でもある。

 フクオカは思い切って聞くことにした。


「あのっ!ドレイク先生!」

「なんだ?」

「授業のない時って何してるんですかっ!?」

「……授業の話を聞きに来たと思ったんだがな。俺のプライベートに入ってくるか」


 その時フクオカは、自分の放った言葉の意味に気が付く。


「あっ、いやっ、そうじゃなくて……!」

「まぁいい。この際だから教えてやる。俺は授業がない時は、エプリオン線で本業をしている」

「本業……?運転士ですか?」

「そうだ」

「非常勤講師なのに、本業やってるんですか?」

「いいんだよ。そういう契約で講師やってるんだから」


 そういってドレイクは、フクオカの前から離れる。


「もういいだろ?質問には答えた」

「あ……」

「次の授業は小テストだから、しっかり勉強しろ」


 疑問はまだ尽きない。それを知るまでは戻れない。

 そんなフクオカは、無意識に叫んでいた。


「あのっ!バイトさせてくださいっ!」

「……は?」

「エプリオン線でバイトさせてください!」

「いや……俺に言われても……」


 ドレイクが見たこともない表情をする。

 それでもフクオカは必死に頭を下げた。


「お願いします!」

「いや、社長に言ってくれ……頼むから」


 そういってドレイクはフクオカの肩をつかむ。


「とりあえず、落ち着いてくれ。社長には話を通しておくから、落ち着け」

「はっ、すいません……」


 フクオカはハッとする。

 落ち着いたフクオカに、ドレイクは紙切れを渡す。


「俺の名刺だ。もうすぐで長期休暇があるから、それに合わせて連絡をくれ」


 フクオカは、ドレイクの名刺を受け取る。


「それじゃあな」


 そういってドレイクは教員室へと向かう。

 当のフクオカは、しばらく廊下で突っ立ったままだった。

 そして先ほどまでのやり取りを思い出す。


(なんか、さっきまでの押し問答……、少女漫画みたいな感じだったな……)


 それを想像した所で、フクオカは顔を真っ赤にする。


(いやいやいやいや!何を想像してるんだアタシは!)

「そんなんじゃないからぁ!」


 周囲にいた人々が驚いてフクオカの事を見る。

 それに気づいたフクオカは、恥ずかしさのあまり全力で廊下を走るのであった。


「おいこら!廊下は走るなぁ!」


 一般教員がフクオカに注意する。

 しかし、そんな声も届かず、フクオカは走り去っていった。

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