第2話 判明
フクオカは男性の後ろをついていく。
この型式の宇宙船はそこまで大きくはない。そのため、数十mも歩けば運転席に着く。
その運転席に入る扉の前で、男性は止まる。
「一応ここから先は、旅客は立ち入れない場所になっている。入るには相応の理由が無くてはならない」
「どうするのよ?」
「身分証を見せろ。軍の強制捜査とでも言えば、簡単に入れる」
「それが民間の運転士が言うこと?」
「そうでもしないと後で始末書書かされるんでね」
フクオカは仕方ないといった表情で、荷物から身分証を取り出す。
「はい。軍学校の身分証」
「良し、入れ」
そういって、フクオカと男性は運転席に入る。
男性は運転席に座ると、現状の確認を始めた。
「現在スイッティ港からディロア港に向けてワープ中。本船は定刻より23分遅れで運行中。まもなくディアロ港周辺に突入。ワープアウト準備」
そして、船はワープアウトする。
そこには、スイッティとは異なった惑星が存在している。
その静止衛星軌道上に、ディアロ港は鎮座していた。
「こちらエプリオン線コスモスター707型機101便。まもなくディアロ港に入港する。入港許可を」
『こちらディアロ港管制塔。入港を許可。29番搭乗口に向かえ』
「了解」
そういって宇宙船を操縦し、目的の場所に向かう。
「ねぇ。さっきコスモスター707型機って言ったわよね?」
「それが何だ?」
「この船って銀河戦争よりずっと前に開発された、CO-707の民間転用型よね?」
「そうだが?」
「そんなおじいちゃんみたいな宇宙船がこんな所で運用されてたなんて、アタシ知らなかったわ……」
「CO-707の事を知っているなら、派生型のコスモスター707型機も知ってるようなものだがな」
そういって宇宙船は29番搭乗口に入っていく。
そこにはほんの数人の乗客がいるだけだった。
その乗客を乗せると、宇宙船はディアロ港を出発する。
そしてワープへと入っていく。
「さて、俺は乗客に運賃を徴収してくる。そこの予備の椅子にでも座ってろ。間違ってもコントロールパネルを触るなよ」
そういって男性は運転席を後にする。
フクオカは、言われた通り予備の椅子に座った。
しかし、ただ座っているのではもどかしい。
フクオカは、そっと、コントロールパネルを見てみる。
そこには、沢山の計器類が表示されており、逐一船の状態を報告していた。
「うわぁ……」
フクオカの表情は、まるで宝石を鑑賞している少女そのものの目をしていた。
「おい」
フクオカは、つい計器類に見入っていたせいで、男性が戻ってきていることに気が付かなかった。
「ひゃい!さささ、触ってませんから!」
「触ってないなら、別に怒らん」
むぅ、とフクオカはむくれる。
「そろそろ次の港だ。座席に座ってろ。旅客が運転席にいるのがバレちまう」
そう言われて、フクオカはいそいそと予備の座席に座る。
こうして、複数の港を経由しながら、だんだんと首都星に近づいていく。
すると、ある場所でワープアウトの準備を始める。
「どうしたの?首都星までまだ先でしょ?」
「次の場所は通常空間じゃないと通り抜けるのが困難な場所だからだ」
「どういう事?」
「見れば分かる」
そういってワープアウトする。
するとそこには、巨大な赤色超巨星があった。
「こいつが、この航路の名前にもなった恒星エプリオンだ」
「エプリオン……」
煌々と光を発する超巨星は、至る所からプロミネンスを放出している。
「こいつの重力が厄介でな。ワープ中でも容赦なく襲い掛かってくる。ブラックホール級の重力を発しているから、宇宙航路保全委員会によってここら一帯のワープを禁止する命令が出される程だ」
「そんな無茶を承知でここを通ってるの?」
「当時はそういう航路しかなかった上に、恒星からエネルギーを補給する時代でもあったからな。今でもその名残が残っているわけだ」
「こんな危険な地帯を通るんだったら、中央幹線航路を使うわね……」
「仕方ないだろう。こう見えても、エプリオン線は創業120年を超えるからな」
そういって宇宙船は、恒星系内を移動する。その速度は時速1億km前後。光速の1割程度だ。
光速を超える機関を手に入れてからは、人類の活動範囲を大きくさせた。これが繁栄の糸口になっているのだろう。
そんな中、宇宙船のオンボロコンピュータが、ある警告を発する。
「プロミネンス直撃警報だと?」
「え?それって結構ヤバい奴じゃ……?」
「今すぐ席に戻ってシートベルトしろ!振り回すぞ!」
男性はマイクを取り、船内放送をする。
『現在、エプリオン表面からプロミネンスが発生しました。本船はこれを回避するべく、緊急回避行動を取ります。乗客の皆さんはシートベルトをしっかりと締めてください』
放送を終えると、男性は速度を上げる。
今でも分解しそうなガタつく音が、だんだんと大きくなっていく。
時速は2億kmに到達しそうだ。
しかしそれでも、プロミネンスの到着がわずかに速い。
「大丈夫なの!?もうすぐでプロミネンスが襲ってくるわよ!」
「そんなこと分かっている!……使いたくはなかったが、アレに頼らざるを得ないな」
そういって男性は、まるで自爆ボタンのような、仰々しい赤いボタンに手を伸ばす。
「……南無三!」
そういって男性はボタンを押す。
その瞬間、宇宙船は強く揺れる。外の景色は暗転し、無の空間に放り出されたような状態だ。
そして、再度壁に衝突したような強い揺れが起こると、外の景色は元に戻っていた。
一つ違うとすれば、エプリオンは後方にいた事だろう。
「今のは一体……?」
「緊急脱出装置だ。この宇宙船に危険が及んだ時、宇宙船ごと緊急ワープさせて危機を脱する」
「それにしては、宇宙船がバラバラになるかと思ったわ」
「その時は重大なインシデントとして後世に語り継がれるな」
「そんな不名誉はいらないわ……」
その後は、順調にワープを繰り返して無事に首都星に到着した。
「さぁ、終点の首都星だ。荷物を持ってさっさと降りろ」
「はぁ、良かった。今日中に間に合って」
そういって、フクオカは宇宙船を降りる。
「それで、今日のホテルには間に合うのか?」
「へっ?」
フクオカは時間を確認する。
ホテルのチェックイン間近であった。
「うわっ、ヤバい!」
そういってフクオカは荷物を持って港内を駆ける。
「まったく、落ち着きがないな」
そういって男性は、再び宇宙船に乗りこんだ。
フクオカは無事に、予定のホテルに泊まることが出来た。
そして翌日、ロクシン共和国の軍学校の入校式に出席する。
そして、教室に移動して担任の話を聞く。
「……ですから、皆さんはこれからのロクシン共和国を支えていく大事な人材となる訳です。私は皆さんのこれからの活躍に期待しています」
長かった担任の話も終わる。
すると、担任が急に話を変えてくる。
「ところで、今日はある人を呼びたいと思います。非常勤講師としてすでに退役された、先の銀河戦争の英雄、コーウェン・ドレイク大尉です」
その言葉に教室が騒めく。
コーウェン・ドレイクと言えば、銀河戦争で大戦果を挙げたエース中のエースだ。
敵機撃墜198機、戦艦8隻、巡航艦31隻を沈め、悪魔とも呼ばれている。
そんな生ける伝説が、非常勤講師として授業をしてくれるのだ。それだけで価値があるというものだろう。
「では、早速入って来てもらいましょう。どうぞ」
そういって候補生一同、拍手で迎え入れる。
軍服に身を包んだ男性が入ってきた。
そして入ってきた男性に、フクオカは見覚えがある。
「あれ?あの人どこかで……」
フクオカは記憶を頼りに、思い出す。
そして思い出した。
「あー!」
思わず大声で立ち上がる。
その瞬間、周囲の注目を集めることになる。
フクオカは、顔を真っ赤にして静かに席に着く。
フクオカは確信した。先日乗った、エプリオン線の運転士である事を。
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