ローカル航路エプリオン線の嗟嘆
紫 和春
第1話 エプリオン線
ここは我々が認知している世界とは異なる銀河系。
人類は遥か昔に宇宙へと飛び出し、開拓を続けてきた。
そしてそれは、他の生命体との邂逅をも意味する。
人類は他の種族と手を取り合い、そして共に進んでいこうとしていた。
しかし、そうも言ってられない事態に陥る。
銀河戦争だ。
約20年に渡って繰り広げられた戦争は、共和国・帝国の連合艦隊によって、連邦が一方的に殴られるという展開で終了した。
その中にはエースの誕生もあり、終始優位的に戦うことが出来たのだ。
そして時は流れ、数年が過ぎた。
ここはロクシン共和国。地方星のスイッティの宇宙港で、とある女子が全速力で走っていた。
「やばいやばいやばいやばい!時間に間に合わなーい!」
彼女はアリサ・フクオカ。ロクシン共和国軍幹部士官候補生として、翌日から首都星にほど近い軍学校に入学する予定である。
しかし、この日最後の中央幹線航路の出発時間に間に合わない状態に陥っていた。
原因は複数あるが、主たる原因として、乗り換えを間違えたのである。
その結果、本日中にチェックイン予定のホテルに間に合わなくなっていたのだ。
「中央幹線航路の乗り場は……!?」
手元の端末を使って、乗り場を検索する。
今から走っても30分はかかるだろう。
「間に合えー!」
フクオカは全力で宇宙港内を全力で駆ける。
そして……。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
『本日の便は、全て出発しました。またのご利用をお待ちしてます』
「間に合わなかったー!」
残念な事に、出発に間に合わなかった。
翌日の最初の便に乗り込んでも、軍学校の入校式に間に合わない可能性が出てきた。
どうにか本日中にホテルに到着しなければ、という焦燥感に襲われる。
「他に方法はないかしら……」
そういって端末で、軍学校に行くまでの航路を検索する。
個人タクシーに乗ってもいいが、確実に高くつく。
かといって翌日まで待つのは、遅い。
「どうすれば……?」
途方に暮れていると、端末がある選択を提示してくる。
「……エプリオン線?」
それは、聞いた事もない航路であった。
しかし、今日中に首都星に到着する。
しかも運賃は中央幹線航路より安い。
「……しょうがない。行ってみよう」
そういってエプリオン線のある乗り場へ向かう。
港内を移動すること数十分。
人通りがなくなり、フクオカ一人になる。
「本当にここで合ってるのかな?」
しばらく行くと、それっぽい宇宙船がポツンとあった。
「もしかして、これ?」
そこにあったのは、所々塗装が剥がれ、整備が行き届いていなさそうなオンボロの宇宙船であった。
「これ、乗っていいのかな……?」
周辺を見渡してみても、乗り口が見当たらない。
既に時刻は出発時間を超えている。
「本当にこれで合ってる?」
不安になるフクオカ。
そんな時、後ろの方から誰かが歩いてくる音が聞こえる。
フクオカがそちらを見ると、そこに一人の男性がいた。年齢にしておよそ30代だろうか。
男性はフクオカを見ると、声を掛けてくる。
「……お前、この船に乗るのか?」
「え、えぇ。そうですけど」
「珍しいな。エプリオン線に乗客が来るなんてな」
そういって遠隔操作で、宇宙船の入口を開ける。
「乗りな。出発だ」
そう言って男性は宇宙船に乗り込んでいく。
「……何あの態度!?あれで運転士なの!?」
フクオカは怒りながら、船の中に入っていく。
適当な席に座ると、先ほどの男性の声が聞こえてくる。
『えー、この度はエプリオン線をご利用頂きありがとうございます。本線は恒星エプリオンを経由して首都星までまいります。シートベルトをしっかりと締めてご乗車ください』
ほぼ棒読みのような感じで言っているのが分かる。
「最悪な航路ね……」
そうフクオカは思う。
そして宇宙船は出発した。
しばらくすると、ワープに入る。
だが、そこは旧式の宇宙船。ワープの速度はそこまで速くない。
しかも船体にガタが来ているのか、あちこちがガタガタ音が鳴る。
そんな時、乗客席に運転士の男性が現れた。
「ちょっと!今ワープ中でしょ!?運転席離れてていいの!?」
「最新の自動操縦装置を乗せているから問題はない。そんなことよりお前、軍の幹部士官候補生だろ?」
「なんでそんなこと分かるのよ?」
「この時期に首都星に向かうのは、移住か軍に入隊くらいしかない。それに持っている荷物は軍指定のバッグ。それに身分証が軍のものになっている」
「え?いつの間に身分証なんてスキャンしたの……?」
「危機管理がなっていない。これで軍に行けるんだから不安しかないな」
そういって男性は黙って運賃を請求する。
「この航路は余計に運賃を回収するのが定番な訳?」
「最近自転車操業でな。3割増しだ」
正直、フクオカにしてみれば払いたくはなかったが、仕方がないので払うことにした。
キッチリ徴収したことを確認した男性は、フクオカに声をかける。
「運転席に来るか?」
「え?」
「将来、指揮を担当するんだ。現場の運転席を見られるのは貴重な体験だろう?」
そういって男性は運転席に戻っていく。
「確かに貴重な体験かもしれないわね……」
そう思ったフクオカは、前の方にある運転席に向かうことにした。
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