第11話:魔法:『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ』

ここから第86話までのネタバレを含む魔法の設定を紹介します。

『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜』の設定資料、今回は“他の幻獣と人間キャラクター”についての概説でございます。


さて、こちらの世界設定について。

よろしければ皆さんの作品でも使ってやってください。

その際、「『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜』世界観の一部を使ったよ」的なことを一言、明記していただければありがたい。

もとより、小生が著作権云々を言い立てることはやりたくありませんのでご利用いただければ幸いであります。

ひとつ、よしなに。


本編はこちら〜>https://kakuyomu.jp/works/1177354055528844202

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<<魔法:『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ』>>







11,魔法 3


<<魔法の歴史>> 3

<<人間の魔法>> 5

<<魔法の原理>> 6

 ・魔法の発動の手順 6

 ・自動式の魔法〜魔法トラップ〜 8

 ・魔幹の概念 8

 ・ふつうの魔法陣 10

 ・凝縮呪文と浮遊魔法陣 11

 ・魔力媒介物 11

<<魔法の概要>> 12

<<魔法の適正>> 13

<<幻獣専用の魔法とその開発者について>> 14

<<魔導師の格付けと消費魔気量と種族適正>> 15

<<魔気容量の上昇倍率>> 17

<<各種魔法の詳細>> 17

 ・精霊魔法 18

  <火> 19

  <氷> 20

  <風> 20

  <土> 20

  <雷> 21

  <水> 21

  <光> 22

  <闇> 22

<精霊魔法の応用:幻術> 23

 ・強化&弱化魔法 23

  <筋力の強化> 24

  <感覚器の強化> 25

  <神経の伝達速度の強化> 25

  <骨や腱の強化> 25

  <血管の強化> 26

  <現実的な効果> 26

  <他者に掛ける場合の準備について> 27

  <他者から掛けられる場合の準備について> 27

  <強化魔法> 27

  <弱化魔法> 28

 ・回復魔法 29

 ・夢幻魔法 29

 ・防御結界魔法 30

 ・封印結界魔法 31

 ・聖魔法 31

 ・邪魔法 32

  <付加の魔法> 32

 ・時間魔法 33

 ・空間魔法 33

 ・運命魔法 33

 ・重力魔法 33

 ・幻影魔法 34

 ・死霊魔法 35

 ・召喚魔法 35

  <幻獣製作方式> 35

  <動物愛護方式> 36

 ・生活魔法 36

<<魔法の干渉〜対魔法戦の技術〜>> 37

 ・粒子性と波動性 37

 ・魔法の管理権 38

 ・対魔法戦 39

<<儀式魔法>> 40

 ・集団魔法 40

 ・奴隷魔法 41

 ・生贄の儀式による魔法 41

<<マジックアイテム>> 42

<<幻獣の魔法>> 42

 ・瞬間魔法陣 44

 ・魔法修得魔法 44

 ・変化の魔法〜旧来の人化〜 45

  <夢幻魔法による変化の術> 45

  <光学的な変化の魔法> 46

  <ライカンスロープの特殊能力> 47







 さて、ここに永劫えいごう不滅の意志なるものが存在する。

 何人なんぴとがその神秘にてる意志の秘密をはかり知ろうか。

 思えば神とはその強烈のさがにより万物ばんぶつみ渡る意志力の意謂いいである。

 人もそのか弱い意志の甲斐かいなさによらぬ限り、天使にもににも屈従し終わるものではない。


〜ジョウゼフ・グランヴィル〜


エドガー・アラン・ポー『ベレニス』前文より。







11,魔法





<<魔法の歴史>>

 人類の文明が生まれるずっと前、太古の昔、始原のアーク魔道師メイジアストライアーが魔気を利用して現実の時空間に干渉する技術“魔法”を生み出した。

 天龍アストライアーはこれにいたく喜び、様々な魔法を開発しては遊んでいた。これに触発された他の孤高の八龍オクトソラスが興味を持ち、魔法技術は一気に発展した。

 すると、利便性に気づいた他の竜種から請われてアストライアーが教えるようになったが、希望者の数を考えるとどうしても手が足りない。そこで“魔法習得魔法”という、魔法を習得させる魔法をアストライアーが開発した。

 けだし、始原のアーク魔道師メイジアストライアーの偉大さは比類なき。

 そうして魔法は竜種に広がり、更に竜種から他の幻獣に広がっていった。

 そして、人類が生じた頃、孤高の八龍オクトソラス天翼人ハルピュイア族の後見を務めるようになり、最初の人類文明が発祥した。そこで様々な技術が下賜され、魔法もまたその1つであった。

 生物である人間の肉体では直に魔力を操ることができない。そこで始原のアーク魔道師メイジアストライアーが“魔力媒介物”と“呪文”を発明し、人間にも使えるよう仕様を整えた。これにより、ハルピュイア文明へ魔法の下賜がなされた。

 けだし、始原のアーク魔道師メイジアストライアーの偉大さは比類なき。

 その後、ドラゴンに近いハルピュイア文明は竜文字による呪文をそのまま受け継いだ。続いてマタンゴ文明、そして、エルフ文明とダークエルフ文明にハルピュイア文明から魔法の下賜がなされ、彼らは難解な竜文字による呪文をエルフ語に翻訳してより平易な魔法技術を発展させた。

 やがて、他の人種も文明を築いたのでリザードマン文明にハルピュイア文明から魔法が下賜された。この魔法は難易度を考慮して平易なエルフ語による呪文が採用された。

 その後はリザードマン文明から一気に人間へ魔法技術が広がっていった。




<<人間の魔法>>

 人間と幻獣では魔法を使い方がだいぶ違う。

 まず人間は魔法を使うに当たって呪文の詠唱が不可欠である。強力な魔法であるほど詠唱の手間は伸びる傾向にある。

 また、魔法陣を描く必要も出てくる。魔法陣は予め魔気伝導率の高い特殊なインクで書いておいてもいいし、特殊な技術によって空中に描くこともできる。いずれのせよ、厄介な手順を踏まなくてはならない。

 強化魔法も同じく手順が必要なので臨機応変に強力な強化を人間がかけることはできない。

 それに対して幻獣は呪文の詠唱なしで魔法を操る。

 彼らは魔法陣を体内の魔石に刻んでいる。そして、魔法修得魔法によって新たに獲得する場合も魔石に刻む。

 ほぼ手間がかからず一瞬で魔法を発動できるので強い。

 また力率にも違いがある。

 人間の魔法は強力なものほど力率が低下する傾向にあり、超特級魔法にまでなれば威力は注いだ魔気の半分以下に低下してしまう。時間も手間も多くかかる超特級魔法をあえて使うのは瞬間的な威力を求めてのことである。

 人間同士の戦場では複数の魔導師を集めて強力な魔法を使う、集団魔法もたびたび見かけられる。

 幻獣の魔法は力率の低下がなく、いずれも込めた魔気の分だけ威力が上昇するので強力だ。

 更に人間には魔気の回復速度が圧倒的に遅い欠点がある。魔気をすべて使い切ってしまうと回復するために休まねばならず、個人差はあるものの10分から30分ほどの休憩を要する。

 幻獣の場合はおよそ2秒程度で息を吸って吐くくらいの間で魔気を最大値まで回復できる。

 そのため、知能が高い幻獣であっても力任せに強力な魔法を連発したがる。戦闘に於いてはそういった単調な攻め手を読まれて意外な敗北につながることも少なくない。

 また、トロールなど大きな魔気容量を持っていてもまったく魔法が使えない者も多い。

 それでも、魔女や吸血鬼などに魔法で真っ向勝負を挑まれてしまうと人間の圧倒的な不利は否めない。

 けれども、人間の魔法にも幻獣に勝る点がある。

 応用力である。

 人間はその場で魔術式を組んで魔法陣を描かねばならないが、逆に言えば、その場の状況に合わせて魔法にアレンジを加えられるということでもある。

 これが意外に強力で自分よりも10倍も魔気容量がある幻獣に勝ってしまうこともある。




<<魔法の原理>>

  “魔法”とは意志力により魔気を操り、現実にはありえない物や事を発現させしむるものである。

 時に重力を弱め、時に時間の損失なく物体を離れた場所に出現させしめ、時に無から有を生み出し…と理不尽は枚挙に暇ががないものの。

 魔法で生み出した物体や現象が現実の物理法則から逸脱できるものではない。

 非現実の物体や現象でさえ、現実になった瞬間から現実の法則に従うのだ。

 つまり。

 魔法が効力を発現した瞬間からもはや運動の法則から免れ得るものではないのである。


・魔法の発動の手順

人間による魔法の使用は…

1.魔術式を構築する。

2.自身の肉体を通る魔気力線を感知する。

3.魔力媒介物(魔術杖など)によって魔気力線を操作する。

4.魔術式に従って魔法陣を展開する。

5.呪文(エルフ語の魔法言語など)を詠唱して制御する。

6.十分な魔気容量から魔力を引き出して魔法陣へ流し込む。

7.魔幹を宣言する。

8.呪文の詠唱によって魔法を発動させる。

…という手順を必ず積まなければならい。

 魔気は自分自身の魔気容量から引き出されるものと大気中に漂う自然精霊の霊気によるものがある。

 これらを感知して意志力で操作できるようになれば魔導師と言える。

 魔気力線で現実の時空間に干渉させるための魔術式を構築しなければいけない。魔術式は魔法を構成する原理であり、設計図であるから、これなしで魔法は発現しない。

 魔術式が決定すれば魔法を発現させるための装置として魔法陣が、魔法陣を制御する呪文が、それぞれ決定する。

 魔法陣がきちんと構築されていなければ魔法は発現しないか、暴走して異常な現象を引き起こしてしまう。また、呪文が詠唱されなければ魔法は十分に制御されず、意図せぬ、思いがけない現象を引き起こしてしまう。

 従って、魔法陣と呪文の詠唱は欠かせない。

 呪文は詠唱されることで魔法を発動させるタイミングや方向、大きさを制御する。

 呪文の詠唱を短縮する“凝縮呪文”という技術はあるが、詠唱そのものをなくすことはできない。

 魔法陣は魔気を通すことで魔法が現実の時空間に干渉させるための魔力場を構築する装置である。

 魔力線を通しやすい線を地面に描いたり、特殊なインクで紙に描いておく、魔力線そのもので空中に描く浮遊魔法陣サークルフロートなどの方法がある。

 いずれにせよ、魔法陣の位置は固定されているので魔法を使いながら移動することは出来ない場合が多い。出来たとしても儀式魔法の1つの例として、せいぜい魔法陣の周りで踊るくらいである。

 ただし、魔法陣を描いた紙を持ったり、自分の体を基準に浮遊魔法陣を発現させていれば、移動しつつ魔法を発現できる。

 しかし、その場合、呪文も走りながら唱えねばならず、息切れなどの問題が生じてしまう。


・自動式の魔法〜魔法トラップ〜

 術者が介在する限り、呪文の詠唱は欠かせないが、自動式の魔法陣がある。これはあらかじめ、センサーを用意した魔幹を設定しておき、特定の条件下で自動的に起動する魔法である。

 このような自動式の魔法陣は魔法による罠を用意するのに使われる。

 起動の方法はパッシブな反応型方式とアクティブな誘導型方式、遠距離から対象を監視して起動させる司令誘導方式があり、それぞれに利点と欠点を有するので扱いは慎重にしなければならない。

 魔法陣に込められた魔力は自然な状態だと徐々に大地に流れてしまうので、大気中の精霊の霊気の状態にもよるが半減するのに2〜3時間かかる。逆に言えば、より短い時間でしか威力は期待できない。

 そこで魔法陣に込められた魔力が流れ出さないように処置する必要があり、専門的な技術が必要になる。


・魔幹の概念

 ここから示すものは半分以上、愚痴であるが。

 例えば土魔法で巨大な岩石を出現させたとする。そしてその巨岩を遥か彼方で立ちはだかる怪物にぶつけようと力を込めた…とする。

 その時、作用反作用の法則はどうなるのか。

 魔法によって巨大な岩石が出現した…この瞬間に岩石は現実世界に存在しているのだから古典力学の法則から免れ得ない。これを飛ばそうとすれば当然、作用反作用の法則に従う。例えば、その巨岩が1㌧ならばすなわち1000kgのそれを秒速20m(時速72km)で10m先の怪物に激突させるべく飛ばすとして、

    2as=v2²−v1²  a:加速度[m/s²]

               s:変位[m]

               v2:時間t2の速度[m/s]

               v1:時間t1の速度[m/s]

               f:力[N]

               m:質量[kg]

に従うので、初速度v1=0[m/sec]として

2*a*10=20²−0²

であるから、

a=20

なので加速度20[m/s²]を得る。当然、運動方程式

f=ma

にも従うので

f=1000*20

より、f=20000[N]を得る。この考察は直射で巨岩と大地と間の摩擦係数を0と仮定するものだから、実際は2万ニュートン以上の力が必要である。つまり最低でも2万ニュートンの力で巨岩を吹き飛ばさねばならない。1[kg重]=9.8[N]として

20000[N]=2040.8[kg重]

であるから、件の怪物に命中させるまでおよそ2㌧重の力で巨岩を推し続けなければならない。

 これだけの力を、だ。

 魔法使いが発する。

 それはまだいい。

 魔法だからエネルギー保存則を破れる。質量保存の法則を破れる。

 いいではないいか。

 無から有を生じる、まさしく魔法である。

 けれども、生じた有は現実世界に存在してしまったわけだから、当然、現実世界の物理法則に従うべきだ。

 仮初の物質であっても存在してしまった以上は現実の物理法則に従う。

 当然、作用反作用の法則から免れ得ない以上、同じ力、すなわち2㌧重の力を魔法使い自身が受け続けることになる。

 魔法使いが腕からこの力を発するか、脳から力を発するか、それは問題ではない。間違いなくこの魔法使いは押し潰されるに違いない。

 上記、定量的な議論を差し控えるとしても…魔法使いは重さ1㌧の巨岩を押すのだから吹き飛ぶのは自分である…と考えるのが妥当だ。

 いや、「魔法だから」と突き放すのはかんたんであるが、やはりおかしい。

 例えば、雲つくような巨人(体重1㌧)が棍棒で殴打する、聖女(体重50kg)がそれを防御魔法で受け止める、いわゆる“マジックバリア”だ。強力なマジックバリアだから見事に受け止められた。それはいい。でもこれをマジックバリアではなく強力な大盾で行ったらどうなるか、考えてほしい。

 大盾が無事であっても間違いなく聖女がふっとばされる。男女の別に関わりなく、よしんば大盾の重さが20kgだとしても聖女+大盾(重さ70kg)で1㌧の巨人にぶん殴られたら盾ごと吹っ飛ぶのが道理だ。

 魔法盾“マジックシールド”なら受け止められる? 魔法だから?

 ふざけるのも大概にしてほしい。

 魔法だから何でもOKというのは思考放棄とのそしりを免れ得ないであろう。

 もしも超能力者が念力で1㌧の自動車を空中に持ち上げて敵軍に向かって投げ飛ばせば…その超能力者の脳が潰れて死ぬ。念力で自動車を持ち上げればその念力を発生させている脳が同じ力を受けるからだ。さもなくば自動車を押した力で自分が吹き飛ぶ。キックボクシングの選手が自動車を蹴ったら飛ぶのは自動車か、自分か? 考えるまでもない。

 そもそも「念力」が存在するならば自動車を持ち上げなくても敵司令官の頸動脈を抑えて血流を阻害するだけでいい。殺せぬまでも昏倒して軍を指揮できなくなる。

 「念力」という設定はドラマトゥルギー上、それくらい危ういものなのだ。

 したがって「念力」やら「魔法」というものを世界観に取り入れるのならば最低限、こういった問題を処理しておかねばならぬ。

 そこで…

 魔法使いは魔法を使う際に魔力の発現の前に「魔幹」を宣言しなければならない。

 魔幹は魔法を使う際に必ず発生する反作用を受け止める「芯」である。

 巨岩を彼方の敵にぶつける時、加えた力を受け止める芯である。

 それ故、魔幹はある程度、しっかりしたものに設定するべきである。

 石礫ていどのものをぶつけるのであれば魔幹を自分自身の肉体に設定して宣言すれば、十分な威力で飛ばせる。それでも速度を秒速500mほどに高めればやはり返ってくる反作用が強すぎて自分が吹っ飛ぶ。

 そこで魔幹は大地などしっかりしたものに結びつけて宣言すれば、たとえ巨岩であっても十分な力を込められる。

 津波を起こしてぶつける水魔法、巨岩をぶつける土魔法、氷の塊を叩きつける氷魔法などを使う場合、大地に結びつけて宣言した魔幹が必要である。


・ふつうの魔法陣

 魔術式に基づいて魔法を発現させるための装置で魔力媒介物で描かれる。

 地面に描いてもいいし、特殊なインクで紙に描いてもいい。指で描ける術者もいる。

 紙に描いた魔法陣はそれなりの期間、使えるが、劣化して動作が怪しくなるのでそれほど長くは保たない。地面に描いた魔法陣は一回きりの使い捨てである。

 自分の肉体に刺青いれずみとして彫ってもそれは変わらず、長くは保たない。

 また、魔法陣は魔術式を実現した装置であるから、その場に適した形式にすることで応用が効く。

 人間の魔法が幻獣に勝る点の1つである。


・凝縮呪文と浮遊魔法陣

 人間は呪文を詠唱したり、魔気操作の儀式として魔法陣を描かねばならない。

 そのため、魔法の発動にはかなりの時間がかかり、不意の襲撃を受けるなど予測不能の緊急事態には対応しづらい。

 そこで魔気力線そのもので空中に魔法陣を描く技術が存在する。これは杖や指輪など魔力の媒体にあらかじめ概形を刻んでおき、必要に応じて適宜、修正を加えながら魔流を流して発動するものである。魔気力線で空中に魔術式を実現するので浮遊魔法陣サークルフロートは指や魔力媒介物で描くよりも速く描ける。

 浮いてはいるが、空中に描いただけなので動かすことは出来ない。

 更に魔法の魔術式を構成する呪文を縮めて唱えることで発動にかかる時間を短縮できる。凝縮呪文(コンデンスクライ)である。

 浮遊魔法陣と凝縮呪文が使える魔導師は優秀である。


・魔力媒介物

 石や木に幻獣の魔石を埋め込んで魔気を操作することに用いる。無属性の魔石が望ましい。属性のある魔石で製作されたものは力率に偏りが出てしまうので実質的にその属性専用の道具になってしまう。

 また、使える石も限定されていて鉄や銅などを含む鉱物は使えない。魔力媒介物を一部の金属で包むことも効率が下がるので奨励されない。

 したがって、剣や金属製の鈍器を魔力媒介物に仕立て上げることは非常に難しい。

 魔力媒介物としては魔術杖メイジスタッフ魔術メイジ指輪リング、そして指がある。

 魔術メイジ指輪リングは高価であるが、携帯性に優れ、効果も期待できる。

 財布と相談して効果が2〜3割下がる携帯用魔術杖メイジスタッフを用いる者も少なくない。

 歩兵や工兵が使う携帯用魔術杖メイジスタッフは使える属性や魔法に制限があるものの、効果が期待できる特殊なタイプである。

 自分自身の肉体、主に指を魔法媒介物として利用する方法はあるが、最も難易度が高く、使える術者が少ない。やり方としては砕いた魔石を爪に塗布するか、埋め込んで魔力媒介物とする。




<<魔法の概要>>

 おおよそ魔法は7つに分類される。

・精霊魔法:魔気を炎や冷気に変えて観念動力で動かし、現実に影響を及ぼす。様々な属性から系統別に分類される攻撃的な魔法で、圧倒的な破壊をもたらす。

・生理魔法:身体と魂に影響を及ぼす。疲労回復、滋養強壮、傷の治療などに用いられる回復系。敵を弱らせたり、味方を強める。主に肉体の機能を操る強化&弱化魔法。更には幻を見せたり、思考を読む以心伝心、人格の改変にも研究対象が広げる夢幻魔法がある。

・結界魔法:魔力で防御壁を築き、味方を守る。聖女が得意とする。また、強力な幻獣を何らかの媒体に閉じ込める封印する。

・倫理魔法:祝福したり、呪ったり。

・時空魔法:時間を操作して予知&過去視実現する、空間を操って無限収納のアイテムボックスを作ったり瞬間移動したり、質量を変化させたり、魔力を利用して幻を生み出し遠く離れた場所や微小世界を見通すなどの千里眼をやってのける。

・人外魔法:人外を呼び出す、または生み出す。そして操る。またアンデッドモンスターを癒したり、強化する。

・生活魔法:炊事、選択、掃除などの家事一般に使える便利な魔法。力率が高く、消費魔力が少ない。生活の様々な場で利用される、ある意味もっとも奇跡的な技。

 精霊魔法はまず甲種が6つの属性に分かれる。

 火は氷を溶かし、氷は風を遮り、風は土を吹き飛ばし、土は雷を吸い、雷は水を蒸発させ、水は火を消す。

 火、氷、風、土、雷、水、これら、8属性の攻撃的な魔法は「魔法のモノを生じさせる」ような魔法である。望む場所に魔法の火を、魔法の水を、魔法の氷を、魔法の土を、魔法の電荷を出現させるのだ。

 これに加えて乙種が光と闇、2つの属性を加える。

 闇魔法は物質を蝕む闇、生命を蝕む闇、精神に直接影響を与える闇を操る。

 光魔法は物質を整える光、生命を育む光、精神に直接影響を与える光を操る。




<<魔法の適正>>

 ヒト族の場合、相性があるので精霊魔法の属性は1つしか使えない。複数の属性を操れる者は稀。また、精霊魔法の1つに加えて他に1つ使える者が多い。精霊魔法以外であれば単純に2つの魔法に適正がある者もいる。

 合計二つである。

 エルフやマタンゴなど魔法に長けた種族であれば精霊魔法をより多く習得できることもある。

 自由自在に空を飛ぶ魔法は存在しない。複数人で風魔法を駆使すれば飛べなくもないが高度を上げることは非常に危険。そもそも魔気の消費が激しすぎてヒト族などでは短時間しか保たないし、高度も維持できない。人間でありながら自由自在に空を飛べるのはミュルミドーン族の羽アリとハルピュイア族だけである。人間をやめて上級魔族になればかろうじて飛べる…こともある。

 また魔気容量の最大値は鍛えることで増える。初期値より10倍ほどである。




<<幻獣専用の魔法とその開発者について>>

 以心伝心、あらゆるものに影響する汎観念動力、瞬間移動、千里眼、予知&過去視は人間の使えない技である。したがって夢幻魔法、時間魔法、空間魔法、幻影魔法は幻獣専用であり、人間で使える者がいない。

 これらに幻獣専用の魔法については…

以心伝心テレパシー………夢幻魔法:黒龍テネブリス

パン観念動力サイコキネシス……精霊魔法:青龍カエルレア

瞬間移動テレポーテーション………空間魔法:赤龍ルブルム

千里眼クレアボヤンス……………幻影魔法:緑龍テアル

予知プレコグニション過去視ポストコグニション…時間魔法:天龍アストライアー

…である。金龍オーラム、銀龍アージェンタ、白竜ノヴァニクスには専用魔法についての功績がない。別に困らないが。

 金龍オーラムが開発した運命魔法は非常に稀少だが使える人間もいる。




<<魔導師の格付けと消費魔気量と種族適正>>

人種によって異なる。

ヒト族やドワーフ族など魔法の苦手な種族なら魔気容量100gdrもあれば立派なものであり、200gdrを超えればエリート魔導師である。

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以下に、階級と接頭辞と消費魔気と威力を示す。

初級ドジロード:1.00[gdr],威力1.00

下級チンプラ:4.81[gdr],威力4.17

中級イッチョマ:23.1[gdr],威力17.4

上級ズゲイ:111[gdr],威力72.5

特級メダマグ:535[gdr],威力302

超特級ゲルグンド:2680[gdr],威力1260

消費魔気:MP=ε^{π(n-1)/2}

威力:E=ε^{π(n-1)/(2*1.1)}

 階級が上がるに連れて消費される魔気に比べて実際の威力が劣るようになる。

 生活魔法がもっとも利用者が多い。

 魔力の効率がよく、少ない魔気で発動する。

 魔法には適正があり、それは種族や個人によって異なる、先天性の資質である。

 精霊魔法は6属性を甲種、2属性を乙種として…例えばヒト族は精霊魔法を甲種&乙種から1つだけ習得でき、生理魔法、結界魔法、倫理魔法、時空魔法、人外魔法の中から1つだけ習得できるので合計2系統である。

 生活魔法はヒト族の一般人でも使えるがオークやゴブリンは使えない。なので以下の「合計」には生活魔法を数えていない。

 人間は精霊魔法の凡観念動力、夢幻魔法(以心伝心)、時間魔法(予知&過去視)、空間魔法(瞬間移動)、幻影魔法(透視)が使えない。

 これらは一部のモンスター専用である。

 また各種魔法の希少性について人種それぞれであるが、概ね……

甲種精霊魔法……多

乙種精霊魔法……少

回復魔法…………少

強化&弱化魔法…少

夢幻魔法…………皆無

防御結界魔法……少

封印結界魔法……極小

聖魔法……………極小

邪魔法……………極小

時間魔法…………皆無

空間魔法…………皆無

運命魔法…………極小

重力魔法…………極小(特定の人種に限定)

幻影魔法…………皆無

死霊魔法…………少

召喚魔法…………少

生活魔法…………極大

汎観念動力 ………皆無

……と言った状況である。




<<魔気容量の上昇倍率>>

以下に、階級と倍率と累積効果と志望者比率を示す。

初級:1,11

下級:1.7783,1.7783,0.21544

中級:1.7783,3.1623, 0.074206

上級:1.7783,5.6234,0.046416

特級:1.7783,10,0.010000

超特級:1.7783,17.783,0.0021544

聖女&魔族:2,-,-

勇者:1.3335,-, 0.074206

10^(1/4)=1.7783 10^(1/8)=1.3335




<<各種魔法の詳細>>

 人種それぞれによる魔法適性について以下に示す。

ヒト族:{甲種精霊魔法1,乙種精霊魔法1,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,運命魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値8gdrゲーデル

エルフ族:{甲種精霊魔法6,乙種精霊魔法2,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値120gdrゲーデル

ダークエルフ族:{甲種精霊魔法6,乙種精霊魔法2,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値120gdrゲーデル

ドワーフ族:{甲種精霊魔法1}:MP平均値7gdrゲーデル

ホビット族:{甲種精霊魔法1,回復魔法}:MP平均値6gdrゲーデル

パタゴン族:{甲種精霊魔法1,強化&弱化魔法}:MP平均値5gdrゲーデル

獣人族:{甲種精霊魔法1,乙種精霊魔法1,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,生活魔法}:MP平均値9gdrゲーデル

マタンゴ族:{甲種精霊魔法6,乙種精霊魔法2,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値320gdrゲーデル

ハルピュイア族:{甲種精霊魔法6,乙種精霊魔法2,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,運命魔法,重力魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値2000gdrゲーデル

リザードマン族:{甲種精霊魔法2,乙種精霊魔法1,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,運命魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値50gdrゲーデル

マーフォーク族:{甲種精霊魔法2,乙種精霊魔法1,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,運命魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値30gdrゲーデル

ゴブリン族:{甲種精霊魔法1,乙種精霊魔法1,回復魔法,防御結界魔法,邪魔法,死霊魔法,召喚魔法}:MP平均値16gdrゲーデル

オーク族:{甲種精霊魔法1,乙種精霊魔法1,強化&弱化魔法,封印結界魔法,聖魔法,死霊魔法,召喚魔法}:MP平均値16gdrゲーデル

コボルト族:{甲種精霊魔法1,乙種精霊魔法1,回復魔法,強化&弱化魔法}:MP平均値9gdrゲーデル

ミュルミドーン族:{甲種精霊魔法1,乙種精霊魔法1,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,運命魔法,重力魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値18gdrゲーデル



・精霊魔法

 魔気を炎や氷に変えて操る、主に攻撃的な用途に使われる魔法である。

 現実の時空間を歪め、可燃物のない空中に炎を出現させたり、大量の水を生み出す。それらは仮初の存在であり、時間経過で消滅してしまう。だが、仮初の存在であっても炎の熱は本物であり、対象を発火させたり焼ける。発火した炎は仮初の存在ではないので時間経過では消えない。

 従って、水の精霊魔法で出現させた水を飲んでも渇きは癒せない。その場で喉は癒せるが、大腸に到達する前に消え失せてしまうから。

 それでも氷の精霊魔法で飲み物を冷やすことはできる。熱エネルギーとしては本物だから、仮初の氷でも接した物体の熱を吸い取れるのだ。

 このように魔法で出現させた物質は仮初の存在であるが、すでにそこにあるものを操作する分には魔気の消費も少なくて済み、消えることはない。元からそこに存在する大岩を土魔法で飛ばす、空気を風として風魔法で飛ばす、この辺が該当する。

 従って、海上や河川では水魔法の威力が上がる。また、空気はどこにでもあるので風魔法の威力は高い。当然、土魔法もそこにある岩を只、ぶつける方が魔法で岩を作り出してぶつけるよりも威力が高い。

 観念動力は基礎である。

 ただし、固有属性に適したものにしか影響を及ぼさない。火属性の精霊魔法であれば炎(電離したプラズマ)のみを操れる。それは魔気が変化したものか、自然なものであるかを問わない。


<火>

 魔法の火を生じさせて焼く。

 現実の火を操る。

 これは仮初の火であるために酸素を消費しない。閉鎖された空間で火魔法を炊いても一酸化中毒にはならない。

 最も一般的な攻撃のための魔法であるが、料理や鍛冶など利用範囲が広い。


<氷>

 魔法の氷を生じさせて凍らせる。現実の氷を操る。氷の精霊魔法で作った氷は飲料を冷やせるが時間で消滅するので薄まらない。

 食糧の保存などにも使えるため、使い手は引く手あまたである。


<風>

 魔法の風を生じさせて吹き飛ばしたり、切り裂く。

 現実の風も操れる。

 特殊な風を操作して音声を伝えることができる。

 あらかじめ用意した呪文を風魔法で詠唱させる、多重詠唱の技術は風魔法にある。相手の魔道士の声を封じて魔法の発現を妨害する手段もあるが、あまり意味はない。声を封じられるほどに対象を特定できる状況なら殺してしまう方が早いからだ。

 空気がどこにでもある状況であれば攻撃魔法として強力。

 操船などにも応用が効く。


<土>

 魔法の土を生じさせて押しつぶしたり、砕く。

 現実の土を操る。

 土木建築にも応用され、珍重される。

 トンネルの掘削などにも利用できるため、軍隊の工兵にも使われる。


<雷>

 魔法の雷を生じさせて破壊する。

 現実の雷を操ることは理論的には可能だが、速すぎるので現実には無理。

 また、磁束は円電流によって発現するので“磁力魔法”という分類は存在しない。

 魔幹を2つ設定して電位差を生じさせ、大気絶縁を破壊するなど他の精霊魔法と異なる部分が多い。雷魔法は絶対に外れないので同じ雷魔法で異なる位置に電圧を印加する以外の方法で逸らすことが不可能である。

 自然現象としてほとんど知られていない雷であるから、対策できる者がおらず、攻撃魔法としては最強。

 敵に使われたらほぼ防げないし、味方が使えたら天下無双の働きが期待できる。


<水>

 魔法の水を生じさせて溺れさせたり、貫ぬいたり、斬る。

 現実の水を操る。

 水の精霊魔法で作った純水は飲料可能だが、時間の経過で消滅するので乾きは癒せない。もっとも、大気中の水分を凝集することで作った水ならば実体があるので飲んで乾きを癒せる。ただし、この方法は術者の力量によるので農業用水など大量の水を得ることは難しい。

 海や河川で使えば現実の水が利用できるので大変強力。また、操船にも使われるため、使い手は引く手あまたである。


<光>

 魔法の光で三次元映像を組み上げて動かしたり。

 現実の光を操って顕微鏡や望遠鏡、光を屈折させて遮蔽物の裏側を観られる。

 光信号による精密な通信もできる。

 最大級の光魔法は高エネルギーのコヒーレントな光である。雷と同じく光魔法も絶対に外れない。波動性を示すため、同じ光魔法をぶつけたところで干渉するだけで止めることは不可能である。

 強力なコヒーレント光は暗殺の手段としての狙撃にも十分に使える。しかし、魔法で発現させた光も媒体の屈折率に従うので対抗する手段も多い。

 光を屈折させて姿を隠す術はあるものの、その場合、自分も外を見えなくなるので移動できない。敵地への潜入のための技術として使えなくもないが、光魔法の気配を探られると簡単に露見してしまう。

 また、精神を高揚させる、集中を高めるなど、低レベルの精神干渉の効果を持つ。

 邪魔法とは干渉しないので光魔法による精神集中に邪魔法は効果がない。


<闇>

 魔法の闇を生じさせて命を蝕んだり、物質を蝕んだり。

 現実の闇を操って影を動かしたり、光魔法を妨げたりもする。

 精神を錯乱させる、集中を乱すなど、低レベルの精神干渉系の要素を持つ。

 聖魔法とは干渉しないので闇魔法による精神錯乱に聖魔法は効果がない。


<精霊魔法の応用:幻術>

 これら精霊魔法の応用として「幻術」がある。風魔法と光魔法を組み合わせれば音声を伴う、非常にリアリティのある幻を創造できる。これは実体こそないものの、視覚と聴覚に訴えるので見破ることが難しい。

 当初は戦場で敵を謀ることに用いられ、時に劣勢を覆したり、時に敵の主力を誘導するなど強力な魔法として知られてきたが、近年、幻術は芝居小屋などで客を楽しませることにも用いられるようになった。吟遊詩人が自分の人気を高めるための宣伝用に用いることもあり、目にする機会が増えた。

 術者の技量が露骨に反映されるため、効果は様々。

 敵に迫る大軍の幻影などが好まれるものの、そこまで派手な映像は見破られやすい。

 術者の技量にも関わるが、人間の幻影を動かすことは難しく、多くの幻影は棒立ちである。

 当然、敵の幻影を切って血しぶきが跳んでも濡れないからバレてしまう。もちろん、手応えもない。

 芝居小屋では火炎やカマイタチなどの派手な魔法を特殊効果で見せる。血しぶきや効果音も造られて観客を沸かす。

 また、政治的な演出を助けることにも用いられる。風魔法による拡声術などはその典型である。



・強化&弱化魔法

 例えば代謝を強化して少ない呼吸回数でより多くの酸素を消費するようなことは出来ない。免疫を強化して回復魔法の代わりにすることも出来ない。

 肉体の意志で動作させられる部分についてのみ強化したり、弱化したりできる魔法である。

 筋力の強さ、骨や腱の頑丈さを増す。

 感覚器官を強化して聴力や視力を上げることもできる。

 ただし、耳を強化したところで必ずしも耳を動かせるようになるわけではない。もともと耳を動かせる者がかければ高速で耳を動かせるようになるが、そもそも動かせない者が掛けても無駄である。


<筋力の強化>

 能力の上昇率は概ね、

ρ=ρ0*a^x

ρ:倍率

ρ0:強化魔法定数

x:魔法レベル

a:強化魔法の底

の形で表される。初級で1.05倍、超特級で16.0倍とされるので

1.05=ρ0*a^1

16.0=ρ0*a^6

より、

a=1.7242

ρ0=0.60898

…と、わかるから倍率はおよそ…

ρ=0.60898*1.7242^x

…の式で表される。

単純に筋力であれば、だいたい、以下のような倍率になる。

初級………1.0500(倍)

下級………1.8104(倍)

中級………3.1215(倍)

上級………5.3820(倍)

特級………9.2797(倍)

超特級……16.000(倍)

 これは術者の技量や練度、体調にも依存するので一概にこの通りの上昇率であると明言することはできない。

 単純に考えれば、下級の強化魔法であっても筋力が1.8倍ほどになるわけで、少女が使っても余裕で大の男を上回るパワーが出せることになる。

 しかし、そう上手くはいかない。

 筋力だけ1.8倍にしても骨や腱が耐えきれず骨折や筋肉の断裂を起こしてしまうからだ。更に強い強化魔法をかければ加速度に耐えきれず、血の流れや血管も保たなくなる。

 つまり、強化魔法で高い能力を望む場合、身体の頑丈さや血管の保護、動体視力、そして、神経の具合なども考慮しなければならないのだ。

 これを怠ると人間の脆弱な肉体は容易に崩壊してしまう。

 強化魔法は魔力の消費が少ない魔法だが、これらの処理を同時に行わなければ肉体の負担が大きくなってしまう。したがって、強化魔法の上級者は単純な魔気容量ではなく技量の高さで評価される場合が多い。


<感覚器の強化>

 魔法で強化された筋力で動く場合、動体視力の強化もまた必要である。

 操作しているつもりの腕や足が自分や味方を攻撃してしまうことも十分ありうるからだ。

 斥候として働くならば聴覚や嗅覚の強化も望まれる。


<神経の伝達速度の強化>

 思考加速に通じる能力の強化であり、出来なければ望ましい結果も得られない。

 生き馬の目を抜くような状況で自分だけが判断に時間を掛けられることは非常に有利である。

 もっとも難しい術なので修得には熟練を要する上、あまり注目されないため、使い手は極めて少ない。


<骨や腱の強化>

 強化された筋力に耐えきれず、腱を痛めたり切れさせたり、果ては骨折まで有り得る。

 魔法で筋力を強化した場合、骨や腱も強化しなければならない。


<血管の強化>

 強化された筋力で手足を振り回した場合、遠心力の影響もあって毛細血管が損傷してしまう。

 それは仕事の後、肉体のダメージとして残り、徐々に故障を大きくしてしまう。

 筋力の強化を持続させたければ血管の強化も必須である。


<現実的な効果>

 強化魔法の効果は下級ですら肉体の負担が大きすぎる。単純に筋力が1.8倍になった時、骨や腱が耐えられなくなって折れたり切れたりしてしまう。

 魔力の消費量ではなく、掛けられた肉体が故障する可能性が問題なのだ。

 強化魔法で筋力の増強を望む場合、骨や腱、血管の強化も不可欠である。また、増強した筋力で動くのであればそれに見合う動体視力も必要になる。

 だから、望ましい持続可能な筋力の上昇率は中級者でさえ1.5倍ほどである。それを越えてしまうと肉体への反動がひどくなり、軽視できない肉体の故障を起こしてしまう。

 もっとも、一瞬だけ強い打撃を放つくらいなら中級者は理論値通りの上昇率3倍ほどのハイパワーで技を繰り出せることもある。

 当然、長時間の使用は肉体への負担が大きすぎるため、危険すぎて無理。

 ギュディト百卒長ほどの熟達者にもなれば最大級ゲルグンドの強化魔法をフルパワーで発揮できるので物凄い数値を叩き出した上で戦闘中、しかも、ずっと掛けっぱなしなんて非常識なこともできるが、極めて稀な例外である。

 通常の利用としては筋力よりも動体視力や身体の頑丈さを増して戦闘を有利に進めようとするものである。


<他者に掛ける場合の準備について>

 強化魔法は非常に効率がよく、下級であっても驚くほど高い効果が望めるものの、細心の注意を払わないと大怪我をしてしまう。

 パワーアンクルやパワーリストなどの人体に荷重を加えて鍛える運動器具で過度に肉体を鍛えた者がスポーツ競技の本番でいきなりそれらを外して運動するとまともに動けなくなる。それこそ、足に力を込めすぎて転んだり、力が強すぎてパンチがあらぬ方向へ飛んでしまうなどの症状が見られるのだ。

 強化魔法の効果はそれを上回るので悲劇も起こりやすい。

 そこで強化魔法を他者に掛けることは術者の技量と練度、及び、掛けられる者と掛ける者の間で意志の疎通が十分に成り立っていることが最低限の条件となる。

 それを以て更に日頃から強化魔法が掛かった状態での運動に慣れていないとまともに動けるものではない。

 とりわけ戦闘中はきちんと合図を決めて強化魔法に掛からないと敵の真ん前で転倒するなど致命的な結果に及びかねない。


<他者から掛けられる場合の準備について>

 最も考慮すべきは敵に掛けられて肉体のコントロールを失う可能性についてである。

 そこで戦士は対魔法戦の準備として先ず強化&弱化魔法に対する“抵抗レジスト”を修得しなければならない。

 これは多くの戦士達が最初に越えるべき壁であり、前線にとって出る前に修得が完了していなければならない。


<強化魔法>

 味方がより強い力を出せるように力を貸す。身体を頑強にして強化した力に対応できるようにする。

 微弱な魔気をも感知できるように感覚を鋭くして魔法が使われていることを検知する。

 考える速度を加速させれば周囲の動きがゆっくりする。

 精神、感覚器、筋肉など、意志の力で動作する部位にのみ効果がある。

 逆に言えば、呼吸の代謝を高めて力を高めるようなことは出来ない。横隔膜を強化しても息を荒げるだけで酸素の吸収量が高まるわけではない。

 この魔法は波動性を示し、効果が重複する。一見、よいことのように思えるが、1人の人間に異なる術者が異なる強化魔法を施した場合、筋肉が断裂したり、骨折したり、呼吸が上手く行かなくなって窒息するなど、ろくなことにならない。

 これを利用して敵を攻撃する手段として使われることもあるくらい危険である。

 よって、魔導師は他者からかけられた強化魔法に対応する必要がある。

 極端な話、舌に強化魔法をかけられてしまうとまともに呪文が唱えられなくなって魔法が使えなくなることがある。また、片足にだけに強化魔法をかけられてしまうと歴戦の兵士であってもまともに歩けなくなり、転んでしまう。

 最悪のケースとして横隔膜の強化が挙げられる。横隔膜が強化されて他がそのままだと息を荒げるだけで肺が破裂して死ぬ。

 強化魔法は場合によっては最もおぞましい死をもたらすことを留意すべきである。


<弱化魔法>

 当然、敵の全身にくまなく掛けるよりも、片足にかけて歩けなくするなどの使い方が効果的である。

 また、敵の力を弱まらせたり、感覚を鈍くする。敵の身体を軟弱にして味方の攻撃が通るようにする。

 筋力を弱めれば敵の窒息も望める。

 動けなくなるほど弱めてしまえば容易に首も取れる。

 単純な方法として片足だけに弱化魔法を掛けるという手段がある。これは相手を転倒させるので味方に有利な状況を作れる。



・回復魔法

 生命力を操作するして傷を治したり、病を治したり、疲れを癒やしたり、魔気を回復させる。

・細胞を賦活して負傷を治す。

・免疫を賦活して感染症を治す。

・疲労物質を分解して疲れを癒やす。

・魔気回路を賦活して魔力を回復させる。

 回復の原理は本人の細胞に含まれる遺伝情報を基に再生を促進させることによる。

 従って、脳障害や神経障害も治せる。ただし、先天的な遺伝形質による障害は治せない。同様に先天的な奇形も治せない。ハゲやデブも治せない。

 また、回復はあくまでも本人の傷口の細胞を再生させることによるのでオーガナイザーを利用できない。従って、細胞や組織の修復はできても器官の修復ができないから、肉体の部位欠損は治せない。潰れた眼球や切り落とされた腕は戻らない。傷口が治癒して出血が止まるだけである。失われた機能は戻らない。古傷のケロイドも治せない。

 心停止などの明確な死も肉体の再生と賦活により蘇生できるが、魂が離れた後(脳死した後)は意識(魂)が戻らず、息をするだけの肉体になってしまう。

 感染症への対応は免疫の賦活によるのであって病原体の排除ではない。それ故、感染症の治療は術者の技量と患者の資質に左右される。

 毒物への対応も難しく、基本的に肝臓の機能を高めて体力を維持することくらいしかできない。

 魔力の回復は可能であるが、戦場などの緊迫した状況では実用的でなく、安全な後方への転送が急務となる。

 最高位の回復魔法は“回春”であり、金満の老人に喜ばれる。

 全体的に聖魔法の下位互換のように思われているが、感染症の治療は免疫の賦活によるので再感染のリスクを低減させる根源治療であり、優秀。



・夢幻魔法

 ずばり、精神干渉の魔法で、精神へ直に影響を及ぼして実在しない幻を見せたり、思考を操ったり、人格を書き換えたりする。心を読み、思考を遠く離れた相手に伝える以心伝心もある。

 投射型テレパシーであり、最も危険な魔法である。

 人間には使えない禁忌の魔法で、一部のモンスターにしか使えない。

 黒龍テネブリスが開発して伝えた。

 天龍アストライアーは実験で悲劇を引き起こしてしまい、酷く嫌っている。



・防御結界魔法

 魔気力線を受け止めて他へ流す結界を魔幹の周りに張る。

 魔力による攻撃に対する防御結界を張って味方を守る魔法であるが、第9の属性として物理攻撃に対する防御結界も張れる。

 ただし、物理攻撃に対する防御結界は特定の金属に限定されるなど制約も多い。具体的に格闘技に対応するカルシウム限定、または、刃物に対する鉄限定である。木製鈍器、またはカルパタイト鈍器に対応することはできないので棍棒などには貫通されてしまう。

 火、氷、風、土、雷、水、光、闇、8属性それぞれの精霊魔法に対応する防御結界の全てに対応できる魔導師は少ない。多くの場合、ヒト族では多くが4つか5つである。

 聖魔法と邪魔法についても片方に対応できる者が少なく、両方に対応できる者は更に少ない。

 とりわけ、呪いや咒毒についてはそれらが発現してしまえば効果がない。あくまでも呪いなどを逸らす盾や障壁であって対照が呪われてから張っても意味がない。

 聖女は例外であり、多くの場合、雷属性を除くほぼ全ての防御結界を張れる。

 特定の精霊魔法による直接攻撃、及び、特定の材質の武器しか弾けないものの、攻撃側よりも少ない魔力消費で効率的に防御できるため、人数を集めれば強力な防衛手段となる。

 もっとも、特定の魔法を弾くだけで、魔法の発現そのものをキャンセルできるわけではない。

 あくまでも盾、または障壁であり、広範囲にかけて内部の者が魔法を使えないようにする、そのような使い方は不可能である。

 また、強化&弱化魔法を逸らすことは出来ない。これらは使われ方によっては非常に危険であるが、個々人でレジストしてもらうしかない。

 そして、幻獣専用の魔法や稀少な魔法についても同様である。具体的には夢幻魔法、時間魔法、空間魔法、運命魔法、重力魔法、幻影魔法が該当する。とりわけ、幻獣専用の魔法は魔術式そのものが人間に理解できないので対抗する手段がない。

 召喚魔法と死霊魔法についても発動してしまっているものについてどうこうすることは不可能である。



・封印結界魔法

 強力なモンスターや神々を封印する。強敵を相手に人間に残された最後の切り札である。使う機会が少ないので、当然、修得する者も少ない。



・聖魔法

 基本的な効果はエントロピーの操作である。

 回復を司る部分は生命力の操作ではなく、直に肉体を処理するので、治療や回復の効力は回復魔法よりも高い。病原体の浄化なども効果が高い。

・聖なる魔法で味方を祝福する。

・肉体と精神の回復。

・汚染されたものを浄化する。

・呪いや咒毒を払う。

・魔物やアンデッドを攻撃する。

・最高位に死者蘇生の魔法がある。

 回復の原理は対象の細胞と理想の肉体の細胞それぞれの情報を調整して最適の肉体に戻す、すなわち、エントロピーの減少による。

 傷ついた魂魄や精神も癒せる。有害な記憶を消去し、人格すらも改造して望ましい人物へ治してしまえる。

 患者の遺伝情報よりも理想の肉体の遺伝情報を参照することによるので、先天的な遺伝的欠陥も治療できる。

 オーガナイザーも利用できるので必要な細胞を用意でき、欠損した組織や器官の再生も可能。

 感染症も魔法で直に異物(病原体や寄生虫)を除去する、すなわち、エントロピーの減少で対処できる。中毒への対処も同様で毒物を除去することで治療する。

 ただし、感染症については病原体と毒素を除去するだけなので免疫を獲得させたわけではない。従って再感染が有り得る。

 欠損した手足などの再生には時間がかかる。重要な器官(頭や心臓、肺)を失った場合は治療が間に合わず助からないことも多い。

 聖魔法が参照する遺伝情報は術者に依存するので、聖女による治療は♂患者の外性器を萎縮させるなど副作用が有り得る。



・邪魔法

 邪な魔法(呪い)や咒毒で物や生物を蝕む。対象をじわじわと弱らせて苦しめ、死に至らしめる、ドットダメージの魔法である。聖なる魔法を打ち消す。魔物やアンデッドを回復する効果は死霊魔法より高い。

 呪いは対象へ直に掛けることも可能だが、人形やアクセサリーなどの媒介物に込めて利用することもできる。これが付加の魔法である。


<付加の魔法>

 邪魔法の一種である。

 呪いの媒介物、“呪物”こそがマジックアイテムであり、様々な魔法効果が付与されている。

 付加される魔法の強さや効果の持続時間、種類などは術者の技量に依存する。それは必ずしも邪魔法の技術とは限らない。付加させたい魔法そのものの技量が大きく関わり、邪魔法そのものの技術は高くなければいけないということは必ずしもない。

 金龍オーラムが付加の魔法の名手で、様々なマジックアイテムを製作しているが、本人は邪魔法よりも運命魔法の方が得意である。



・時間魔法

 時間を操作する。対象を加速させたり、時間遡行させたり。予知&過去視もできる。

 始原のアーク魔道師メイジアストライアーが開発した特殊な魔法であり、人間には使えないし、魔術式も理解できない。そもそも、存在自体が人間には知られていない稀有な魔法である。



・空間魔法

 空間を操作する。瞬間移動できる。アスタの持っている神器アイテムボックスを造ったのもこの魔法である。

 赤龍ルブルムが開発した。主に宝物を保管するために。

 人間には一切、知られていない魔法である。



・運命魔法

 「幸運」や「不運」といった漠然とした概念ではなく、「確率」を操作する。不確定の事象に干渉して世界線を操り、思ったとおりの結果を導き出す。

 強力なように見えてほとんど使い道がなく、ロマンチックな魔法として知られている。

 博打の結果に興味を抱いた金龍オーラムが開発した。

 人間は多くの人種が使えないものの、ヒト族、リザードマン族、ハルピュイア族、そして、ミュルミドーン族に適性があって使える。



・重力魔法

 重力を操作する。

 一般に『人間には使えない』、『暁光帝だけが使える』との認識が広まっているが、実際には使える人種が少ないだけである。蟻甲人ミュルミドーンの♂(羽アリ)と天翼人ハルピュイアが適性があり、使える。

 空を飛ぶ大型の幻獣、ドラゴンやフェニックス、ペガサスなども飛行を補助する目的で使う。

 太古の昔、始原のアーク魔道師メイジアストライアーが開発し、飛行する幻獣に広め、ハルピュイア族に下賜した。その後、ハルピュイア族からミュルミドーン族へ下賜されたものである。

 人間が使う場合、自分にかかる重力を軽減して離陸を助ける目的で使うことがほとんどである。魔力の消費が大きく、ハルピュイア族でもなければ常時、発動したままではいられない。

 暁光帝のように広範囲へかけて、地上の物体が全て浮くとか無茶苦茶な使い方はドラゴンやフェニックスでも不可能である。そのため、『暁光帝だけが使える恐ろしい魔法』との認識が広まった。

 逆に重力を強めて物体を押しつぶすような、攻撃魔法としての利用は暁光帝だけが使える。しかし、他に幾らでも強力な攻撃手段を持っている暁光帝がそのように使うことは稀。せいぜい、暴れるバカ者を押さえつけることに使うくらいである。



・幻影魔法

 魔気を操作してそこには存在しない幻を生み出す。生み出した幻を動かす。幻はそのままでは質量を持たないが、光に干渉して肉眼に映ったり、音を生じて耳に訴えたりできる。更には幻を実体化させられる。そうなれば無から有を生み出す、食べ物や飲み物を出して喜ばれる、奇蹟の魔法である。透視もできる。

 だから、幻影と言っても実体化していれば触れることもできれば食べて満腹することもできる。

 おとぎ話では定番の、魔法使いが杖を振るとテーブルの上にごちそうが並ぶって奴。逆にコンピューターゲームじゃ、とんと見ない。



・死霊魔法

 死骸や霊魂からアンデッドモンスターを創造し、操る。高位になればかなり強力な者を造れる。

 アンデッドモンスターの修復ができる。

 召喚魔法の幻獣製作方式と違い、一度、創造してしまえばその後は魔力の消費がない。ただし、腐敗などその後の劣化に対応する必要があり、衛生上も問題が残る。また、死霊魔法に馴染みのない者に対して不快感を与えることも考慮すべき事項となってしまう。

 死霊魔法で創造したアンデッドモンスターは裏切ることもないが、まともに思考する能力も持たないため、操作するには技量が必要である。

 とりわけ曖昧な命令に対応できないため、例えば「あいつらをやっつけろ」などの命令には術者以外の動くもの全てを攻撃する態度を示すため、壮絶な相打ちになることがある。



・召喚魔法

 魔力によって魔気を操作してモンスター“召喚獣”を造る、または近場にいるモンスターを呼び出す。


<幻獣製作方式>

 前者は完全に操作できる武器のようなもので、召喚獣が負傷したり破壊されても術者にはまったく影響がない。非常に便利な魔法であるが、召喚獣の感覚を自分のそれと結びつけられるわけではなく、召喚獣を斥候として利用できない。

 召喚獣の操作はあくまでも術者の視界の範囲内でのみ可能だ。

 また、存在させるだけでも魔力を消費するし、操作して敵を攻撃させたり、働かせればさらなる魔力の消費が必要となる。

 それでも貧弱な魔導師が自分の護衛として呼び出しておく用法は十分に珍重されている。


<動物愛護方式>

 近場にいるモンスターを呼び出した場合は交渉が必要になる。

 この場合は…

・対象となるモンスターが近くにいる。

・召喚魔法で対象となるモンスターと霊的関係(ラ・ポール)を結び、誘う。

・誘いが成功する。

・誘われたモンスターが人語による交渉が可能である。

・交渉に成功する。

・以下の条件を決めて契約する。

 ○仕事の始まり

 ○仕事の内容

 ○仕事への報酬

 ○仕事の終了

・誘われたモンスターが“召喚獣”となる。

・召喚獣に頼んで仕事をしてもらう。

・召喚獣に報酬を支払う。

…以上の手順を踏む。

 手間であるが、術者の視界の外でも働いてもらえるし、召喚獣の力量によっては十分な成果が期待できる。



・生活魔法

 ヒト族などでは比較的かんたんに習得できる、日々の暮らしに適した魔法である

 魔法の風や水、火で掃除や炊事、洗濯などを行う。

 力率が高く、少ない魔気容量でも使用でき、失敗しても害が少ない。

 習得の難易度は一次方程式の解法くらい。





<<魔法の干渉〜対魔法戦の技術〜>>

 例えば、精霊魔法は術者の想念が魔気の原理によって現実の時空間を歪めて仮初のものを表出させ、操作するものである。そこで2人の魔道士が同じ時間、同じ空間に魔法を発言させた場合について考えたい。


・粒子性と波動性

 2つの魔法が同じ時間、同じ空間で発現した時の振る舞いを考える。

 衝突して弾けるのが粒子性である。

 互いに強め合ったり、弱めあったり、打ち消し合うなどの振る舞いは波動性である。

 以下にまとめる。


1.精霊魔法

 a.火:粒子性。炎と炎は衝突して弾ける。

 b.氷:粒子性。氷と氷は衝突して弾ける。

 c.風:粒子性。風と風は衝突して弾ける。

 d.土:粒子性。土砂と土砂は衝突して弾ける。

 e.雷:波動性。重ね合わせの理が成り立つ。

 f.水:粒子性。水流と水流は衝突して弾ける。

 g.光:波動性。光と光は干渉する。

 h.闇:波動性。氷と氷は干渉する。

2.生理魔法

 a.回復:波動性。治癒の効果は干渉し、結果は不定である。

 b.強化&弱化:波動性。効果は干渉し、結果は不味い。

 c.夢幻:波動性。効果は干渉し、精神に与える影響は不定。

3.結界魔法

 a.防御結界:波動性。同一の空間にかければ効果は重複する。

 b.封印結界:粒子性。封印はぶつかりあって閉じない。

4.倫理魔法

 a.聖:波動性。効果は干渉し、エントロピーは減少する。

 b.邪:粒子性。ぶつかりあって効果が発現しない。

5.時空魔法

 a.時間:波動性。効果は干渉して望まぬ時間経過になる。

 b.空間:波動性。空間は重なって歪む。

 c.運命:粒子性。効果が衝突して無効化される。

 d.重力:波動性。効果は干渉して不安定になる。

 e.幻影:粒子性。衝突して弾ける。

6.人外魔法

 a.死霊:波動性。効果が干渉して制御を失う。

 b.召喚(動物愛護方式):波動性。効果は予知できなくなる。

 c.召喚(怪物作成):粒子性。衝突して消滅する。

7・生活魔法:粒子性。ぶつかり合ってしまい、望ましい効果が得られない。


 以上、同じ魔法が同じ空間で同じ時間に発現する時の振る舞いをまとめた。

 異なる魔法については干渉も衝突もしない。

 ただし、精霊魔法については相克がある。火>氷>風>土>雷>水>火とリング状に優劣があって、例えば火の精霊魔法と氷の精霊魔法がぶつかると火が優勢になって氷魔法を打ち消すが、火の精霊魔法と水の精霊魔法がぶつかると水が優勢になって火魔法を打ち消す。

 光と闇は精霊魔法の相克の輪に入っていない。お互いを打ち消すように働く。



・魔法の管理権

 魔法は呪文を唱えた術者が管理権を持つ。これは呪文の中に術者を判別する“印”が仕込まれているからだ。この印は個人に固有のものであり、他人が模倣することは非常に難しい。

 例えば、魔導師Aが火の精霊魔法ファイアボールを発現させたとして、これは魔導師Aが操作する魔法であり、起点である魔幹から放たれて対象に向かって進むものである。これに干渉するには相克の水魔法で打ち消すか、同じファイアボールを衝突させて止めるか、火属性の防御結界魔法で弾くしかない。

 しかし、非常に稀なことではあるが、魔導師Bが魔導師Aの唱えた呪文を分析して固有の“印”を読み取り、更に稀なことであるが、これを模倣して新たに呪文を唱えれば魔法の管理権を奪える。

 そうなれば魔導師Bが魔導師Aの放ったファイアボールの操作に干渉でき、あらぬ方向へ飛ばしたり、速度を遅くしたりできるようになる。

 魔法の管理権を奪取することは対魔法戦の究極的な手段である。

 可能である者は稀少な熟達者である。



・対魔法戦

 以下の方法がある。

・発動した魔法を潰す。

 ○専用の防御結界魔法で弾く。

 ○精霊魔法であれば相克を利用して打ち消す。

 ○邪魔法であれば聖魔法で、聖魔法であれば邪魔法で払う。

 ○粒子性を伴う魔法であれば同じ魔法で衝突を狙う。

・魔法の発動を妨げる。

 ○風の精霊魔法で術者の声を封じて魔法の発現を妨害する。

 ○術者が持つ魔力の媒介物を破壊するか、奪う。

 ○舌に強化魔法を掛けて術者がろれつの回らないようにする。

 ○魔法陣を破壊する。

・技量に物を言わせて魔法の管理権を奪う。

・現実の物質で魔法に拠る仮初の現象を抑える。

 これだけである。

 最も一般的な方法は防御結界魔法であるが、魔法障壁を張れる領域の体積に限界がある上、1つの防御結界魔法で防げる魔法は1種類のみである。

 ありとあらゆる魔法を封じる結界などというものは存在しない。術者が設定した防御結界がそれに対応する魔法を弾く、それだけである。

 これはあらゆる武器の使用を禁じる結界が存在しないことと同じである。同様に斥候の探査技術を封じる結界などというものも存在しない。

 基本的に魔法は先に使った者が勝ちである。

 魔法の管理権の奪取は特殊な才能に恵まれた達人にしかできない。相手の呪文を聞き取って“印”を聞き取る能力とそれを模倣する能力の両方が要求される。また、モンスターは呪文を詠唱しないので管理権の奪取は不可能である。

 魔法を現実の物質で抑え込む方法もあるにはある。ファイアボールを大量の水で消すとか、氷の壁で風魔法を防ぐとか、大嵐で土魔法を崩すとか。しかし、あまり現実的とは言えない。また、雷については自然現象そのものが研究されておらず、避雷針そのものが存在しない。







<<儀式魔法>>

 魔法は儀式によって通常より強い効果を発揮することがある。

 人間以上の存在から力を借りられることがあるので儀式が催される。



・集団魔法

 魔法について言えば、人間は弱い。

 魔気容量も魔気回復量も幻獣には遠く及ばない。

 そして、ヒト族はかなり魔法が苦手だった。それでもフキャーエ竜帝国から魔法を下賜されてから、より強い魔法が望まれてきた。

 そこで足りない魔気容量を補うべく、集団で1つの魔法を発現させる集団魔法が開発されたのである。

1.1つの魔法陣を描く。

2.複数の魔導師が互いの魔力の整合を取る。

3.複数の魔導師が魔源として整合された魔流を魔法陣に注ぎ込む。

4.呪文を合わせて詠唱し、魔幹を設定する。

5.魔導師のリーダーが魔幹を励起して魔法を発現させる。

 魔術式はリーダー1人が理解していれば良く、魔法陣もリーダー1人で描いてもよい。

 他の魔導師は足りない魔力を補い、呪文の詠唱を合わせることで魔法の発動を補助する。

 呪文を合わせることも魔力の整合を取ることも難しいばかりでなく、魔法陣を駆動させること1つをとっても余計に時間がかかる。

 同じ属性の魔導師を集めることが望ましいものの、異なる属性の魔導師を集めても魔法の発現そのものには問題がない。ただし、魔力の整合に手間と時間がかかってしまう欠点が生じる。

 それでもリーダー1人が優秀で魔法を発動させられれば、他は魔力の供給と呪文の詠唱だけで貢献できる。

 理論的にはヒト族でも最大級ゲルグンドの精霊魔法が放てるのだ。

 もっとも2時間くらいかかるので戦場で最大級ゲルグンドの精霊魔法を撃つことは現実的ではない。ヒト族では特上級メダマグくらいが現実的だが、それでも強力な魔法を放てるメリットは大きい。

 この集団魔法は魔法で劣る人間のための技術であるから幻獣には使えないし、使おうとする幻獣はいない。


・奴隷魔法

 集団魔法をリーダーだけの呪文で発動できるように改良したもの。

 他のメンバーは不足している魔力を提供するだけ、つまり、いるだけでよい。

 極端な話、魔気容量が多いだけの素人を集めても使えるので奴隷を集めても何とか発動できる。

 力率が下がってしまい、威力が心もとなくなる欠点もあるが、優秀な魔導師を集めなくてもよい利点もある。

 もっとも本当に奴隷を集めてもリーダーに反抗して上手く発動できない可能性も出てしまうので動作が不安定だ。

 供給される魔力の整合を取るためのマジックアイテムが必要であり、なおかつ、それを操作できる人間も必要になる。

 具体的には個々のメンバーに魔力媒介物を持たせて、それらを繋いで魔法陣に魔力を送る導線を用意しなければならない。



・生贄の儀式による魔法

 祈りによって神力を得る多くの神々は生贄を欲しない。

 同様の理由で邪神や悪魔も生贄を嫌う。

 生贄になって死んだ人間はもう祈りを捧げてくれないからである。結局、皆、死体にも死にも用がないのだ。

 それでも、わずかな例外として死体や死に意味を見出す者がいる。それが非常に強ければ生贄を捧げることで力を貸してくれる場合も有り得る。

 人間を激しく憎悪する幻獣や神がそういう者に該当する。

 思い通りに祈りを集められないことに憤って人間を恨む神や人間に酷い目に遭わされた幻獣である。

 彼らの憎悪がより強力な魔法の足がかりとなる。

 生贄と引き換えに乱暴に魔力のみを供給してくれるので普通は難しい魔法でも発現できる。

 しかし、効率が悪い上にその神や幻獣の都合が悪いと協力してもらえないので実現するには段取りを踏まなければならない。







<<マジックアイテム>>

 “魔道具”とも呼ばれる、魔法を付加された道具のである。

 童女アスタの持っている神器“アイテムボックス”やエンジェル大戦を引き起こした神器“ウソカガミ”、そして、土竜大戦を引き起こした神器“マコトノツルギ”が有名。

 これらは邪魔法の1つで呪いを付加する付加魔法で様々な魔法の効果を道具に加えたものである。

 孤高の八龍オクトソラスや手先の器用なドラゴン、著名な魔女、一部の神々が製作したものは驚くべき効果を示すので“神器じんぎ”と呼称される。

 ドラゴンの製作するマジックアイテムはしばしば大きすぎて人間の手に余る。そもそもドラゴンがドラゴンのために造ったアイテムだから当然であるが、金龍オーラムは博打の景品として多くに人間に使ってもらうために製作するので人間にも使える。

 邪魔法は人間にも使えるので器用な者が造ったマジックアイテムが市場に流れている。

 もっとも呪いを操り聖魔法の対極に位置する邪魔法は稀少であり、付加魔法が使えるものはさらに稀少なのでマジックアイテムは総じて高価である。

 風の精霊魔法に耐性のある盾や魔力を回復を促す指輪などが人気。

 マーケットでしばしば見られる幸運のアクセサリーにも本当に運命魔法が掛かっていることがある。







<<幻獣の魔法>>

 幻獣は肉体が魔気で結合された分子によって構成されており、魔法との相性が非常によい。

 魔気容量も魔気回復量も人間よりも遥かに優れている。

 知能が高い者も低い者もいる。だが、知能の多寡に関わらず、幻獣は魔法が使える…ことがある。Dクラス(冒険者ギルドが規定する六番手)以下の幻獣は体の外に魔気を放出できないので魔法が使えない。Cクラス(五番手)以上であれば体の外へ魔気を放出できるので魔法が使える。

 かつて、始原のアーク魔道師メイジアストライアーによって魔法という技術が開発されて以来、幻獣はこぞってこの新技術を得ようとした。

 そこでアストライアーは魔法を伝搬する魔法を開発して多くの幻獣に賜った。

 この“魔法修得魔法”も幻獣専用の魔法である。体内に魔石を持ち、そこに魔術式を書き込む魔法であり、人間には習得することはおろか、理解することも出来ない。

 けだし、始原のアーク魔道師メイジアストライアーの偉大さは比類なき。

人間による魔法の使用は…

1.魔術式を構築する。

2.自身の肉体を通る魔気力線を感知する。

3.魔力媒介物(魔術杖など)によって魔気力線を操作する。

4.魔術式に従って魔法陣を展開する。

5.呪文(エルフ語の魔法言語など)を詠唱して制御する。

6.十分な魔気容量から魔力を引き出して魔法陣へ流し込む。

7.魔幹を宣言する。

8.呪文の詠唱によって魔法を発動させる。

…という面倒な手順を必ず積まなければならいが。

 幻獣は初めから自分の肉体を通る魔気力線を感知できているし、魔力媒介物などなくても魔気力線を操作できる。魔術式はあらかじめ魔石に刻み込まれているので構築する必要もない。そもそも言語を喋れない者もいるので呪文による魔法の発動は考慮されていない。

 そこで幻獣による魔法の使用は…

1.魔術式に従って魔法陣を展開する

2.十分な魔気容量から魔力を引き出して魔法陣へ流し込む

3.魔幹を宣言する

4.魔石を励起させることで魔法の発現

…という非常にシンプルな手順となる。当たり前だが、多くの幻獣は字も絵も描けないので魔法陣を地面に描くことは有り得ない。魔法陣はデフォルトで浮遊魔法陣サークルフロートを用いる。

 そもそも、魔法を始原のアーク魔道師メイジアストライアーが発明した時点で呪文も魔力媒介物も存在しなかった。幻獣は言葉が喋れるとは限らないし、腕があるとも限らないからだ。

 魔法は魔石の励起によって発動し、魔力の操作は自身の肉体で行うものだったのである。

 それを魔法の下賜にあたって、“呪文”や“魔力媒介物”を追加して人間が魔法を使えるようアストライアーが修正したのであった。

 けだし、始原のアーク魔道師メイジアストライアーの偉大さは比類なき。

 つまり、幻獣は魔法を使うに当たり、魔力媒介物が不要で呪文も唱えず、浮遊魔法陣でほぼ瞬時に魔法を発動できる。

 また、腕達者になると浮遊魔法陣よりも発動の早い瞬間魔法陣サークルインスタントが使える。


・瞬間魔法陣

 魔石に刻まれた魔術式の概形を状況に合わせて適宜、修正しながら魔気力線で空中に実現させる技法である。

 瞬間魔法陣サークルインスタントは魔石の上であらかじめ修正を加えた魔術式を空中へ瞬時に発現させるものであるから、魔法の発動は浮遊魔法陣サークルフロートよりも早い。

 また、魔石から伸びる魔力場で実現されているため、移動しながら魔法を使うこともできる。



・魔法修得魔法

 幻獣が新しい魔法を教わる、または教えるための魔法である。

 そもそも文字が読めなかったり、言葉が喋れなかったりすることもままある幻獣であるから、魔法について説明されてもわからないこともある。

 その辺を考慮した始原のアーク魔道師メイジアストライアーが魔法の魔術式を直に魔石へ書き込んで伝える方法を考案し、魔法として実現させたものである。

 この魔法修得魔法が開発されて以来、幻獣の間へ一気に魔法技術が広がった。

 魔石に直に書き込むことや呪文の詠唱がないことなどから魔法修得魔法は人間には使えない幻獣専用の魔法である。



・変化の魔法〜旧来の人化〜

 緑龍テアルが人化の魔法を開発するずっと前からトロールやシェイプシフターは人間をたぶらかしてきた。

 幻獣が日々を過ごすことに特別な物は必要ないが、幻獣が人里で日々を過ごすとなると人間から違和感をもたれないような工夫が必要になる。

 先ず、その異様な外見を人間の容姿に近づけなければならない。

 幻獣が人間に化ける方法はいくつかあり、一つは旧来の“変化の魔法”である。

 これは外に向かって魔力を放出できるCクラス以上の幻獣であれば魔法技術を習得することで誰でも使うことが出来る。

 この変化の魔法も様々なタイプがあるが、主なものは2つあり、低ランクの精神干渉の魔法を応用する方法と光魔法と風魔法を組み合わせる方法がある。

 これらとまったく違うのが“獣化魔人ライカンスロープ”という存在だ。まったく固有の特殊能力によって自身の存在のあり方そのものを変えてしまう方法である。ふだんは人間として暮らしながら、何らかのきっかけにより本来の怪物に戻る“ゾアントロピー(獣化)”を起こすのだ。

 以下に利点と欠点を示す。


<夢幻魔法による変化の術>

 目の前の幻獣や人間に対して夢幻魔法をかけて惑わし、自分を人間だと思い込ませる方法である。


【利点】

 魔法による精神干渉であるから、いったん成功してしまいさえすれば、相手からは自分が人間であると認識され続ける。

 自身の肉体的な特徴は無視されるので、人間からはかけ離れた姿であっても問題ない。

 夢幻魔法が効きさえすれば、犬猫やペットも惑わせる。


【欠点】

 魔気を感じられる幻獣や敏感な人間に注視されれば露見してしまうことがある。

 低レベルとは言え、精神干渉の魔法であるから使い手の熟練度により効果が左右される上、習得が難しい。

 魔道具など機械の目はごまかせない。

 騙す対象が普通の人間ならともかく、意志の強い者には魔法抵抗されてしまう事がある。

 一度に複数の相手を騙そうとすればそれだけ魔気の消費も大きくなる上に、夢幻魔法がレジストされる可能性も増える。

 あくまでも自分の姿を人間と思い違いさせる夢幻魔法であるから、鏡に映る象は本来の怪物の姿である。また、地面に映る影も怪物のそれとなる。


<光学的な変化の魔法>

 自分の周囲に光学的性質を変える魔力場を形成して光を屈折させ、容姿を人間に見せかける方法である。


【利点】

 特異な光学的性質を持つ力場を魔法で形成するだけなので、習得が容易である。

 見かけを変えてしまうのでカメラなどの機械の目や視覚に頼り切りの人間を騙せる。

 一度に複数の相手を騙すのも容易である。


【欠点】

 魔気を感じられる幻獣や敏感な人間に見られれば魔法を感じ取られる危険がある。

 特異な光学的性質を持つ魔力場を形成するだけなので、自身の外見的特徴に左右されてしまう。余りに大きかったり、大きな角や尻尾があるとはみ出してしまう。人間に化けても尻尾が覗いていたり。

 また、体臭や体重は変わらないので犬猫にはバレてしまうし、足音もそれ相応のものになってしまう。


<ライカンスロープの特殊能力>

【利点】

 まったく固有の魔法的才能によって自身の存在のあり方そのものを変えてしまう特殊能力である。

 体臭、身長や体重はおろか、記憶や人格までもまで変わり、人間そのものになってしまう。

 獣化魔人ライカンスロープは人間である間、自分が怪物であることを忘れてしまい、普通の人間のように振る舞う。

 変身を解く、すなわち獣化をもたらす“きっかけ”は様々であらかじめ決めておいたキーワードを唱えたり、持ち物などを見つめることである。

 相手を騙すことについては完璧であり、高位の幻獣や徳の高い人間からも見破られることはない。


【欠点】

 特殊能力であるからライカンスロープである、その幻獣固有の能力だから、他の幻獣が習得できない。あり得ないレベルで不可能。特定の幻獣にしか使えない。

 獣化をもたらす“きっかけ”を失ってしまうと死ぬこと以外で幻獣に戻れなくなってしまう。

 人間である間は人格も記憶も違ってしまっているから、幻獣であるときの欲望や恐怖も忘れ去られてしまう。

 例えば、幻獣である時は特定の人間を襲って食いたいと切望していても、人化してしまえば誰を食べたかったのか忘れしまうし、人格も一般的な人間のそれであるから食人の衝動も失せてしまっている。

 人化しているときは人間並みの能力しか使えないので戦闘になればたやすく傷ついてしまう。死んでも遺骸が朽ちぬ限り、元の怪物には戻れない。


 これらの手段で外見をごまかしておけば幻獣も人里で日々を気楽に過ごせる。

 さて、一部のトロールなど、初めから人間に近い姿の幻獣もいる。だからといって何の用意もしなくていいと言うことにはならず、異常な習慣や価値観を隠す必要がある。

 また人間そっくりであっても勘の鋭い者にはわかる。幻獣はふだんの生活でも強い魔気をまとっているわけだから。

 飼い犬や飼い猫でも野生が残る動物や直観に優れる人間が厄介である。

 違和感、「普通とは違う」という感覚を持たれたら早急に人里から離れるべきである。

 そのまま疑われ続ければいずれ正体が露見すると考えていい。そうなれば然るべき処置を実行しなければならなくなるだろう。

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