第12話:人種:『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ』

ここから第86話までのネタバレを含む魔法の設定を紹介します。

『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜』の設定資料、今回は“人種”についての概説でございます。


さて、こちらの世界設定について。

よろしければ皆さんの作品でも使ってやってください。

その際、「『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜』世界観の一部を使ったよ」的なことを一言、明記していただければありがたい。

もとより、小生が著作権云々を言い立てることはやりたくありませんのでご利用いただければ幸いであります。

ひとつ、よしなに。


本編はこちら〜>https://kakuyomu.jp/works/1177354055528844202

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<<人種:『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ』>>







12,人種 2

<<魔法の適性>> 4

<<人種の勢力>> 8

<<ヒト族>> 12

 ・ヒト族を基準とした交戦の形態について。 14

  <対エルフ戦> 15

  <対ダークエルフ戦> 15

  <対ドワーフ戦> 16

  <対ホビット戦> 16

  <対パタゴン戦> 16

  <対ホビット&パタゴン戦> 16

  <対獣人戦> 17

  <対マタンゴ戦> 17

  <対ハルピュイア戦> 17

  <対リザードマン戦> 18

  <対マーフォーク戦> 18

  <対ゴブリン戦> 19

  <対オーク戦> 19

  <対コボルト戦> 20

  <対ミュルミドーン戦> 20

  <対兵隊アリ戦> 21

<<エルフ族>> 22

<<ダークエルフ族>> 23

<<ドワーフ族>> 25

<<ホビット族>> 26

<<パタゴン族>> 27

 ・ホビット&パタゴン共生国家 28

<<獣人族>> 29

<<マタンゴ族>> 30

<<ハルピュイア族>> 32

<<リザードマン族>> 34

<<マーフォーク族>> 37

<<ゴブリン族>> 39

<<オーク族>> 41

<<コボルト族>> 45

<<ミュルミドーン族>> 47

 ・女王アリ♀ 53

 ・羽アリ♂ 54

 ・兵隊アリ♀ 54

 ・斥候アリ♀ 55

 ・働きアリ♀ 55

 ・学者アリ♀ 57

 ・アリ国家 57







12,人種


 惑星ヴォイデはエレーウォン大陸に住む、多種多様、雑多な人種を記述する。

 それぞれ、生物としての有り様が違いすぎるため、ハーフエルフ、ハーフオークなどあいは存在しない。一見して肌の色が違うだけのエルフとダークエルフでさえ混血できない。

 それでも結婚や恋愛は子供の有無を前提としないので自由である。

 とりわけ、結婚は行政ではなく宗教の管理対象であるから、教義の如何いかんと偉い人の意向によって決定される。その辺は同性愛と同じような扱いである。

 『産めよ、増やせよ、地に満てよ』を標榜して人口の多寡を重視する光明神ブジュッミは同性愛や異人種間の結婚を忌避して禁忌と規定している。逆に個人主義を重んじる暗黒神ゲローマーはその辺りを信者の自由に任せている。

 意外なことに豊穣神マァルトは結婚や恋愛に寛容で、子供が生まれない関係も許容している。

 ヒト至上主義を標榜し、人種の優劣を公然と掲げるヴェズ朝オルジア帝国であっても異人種間の結婚は認められており、帝国臣民の配偶者であれば“名誉ヒト”として正式な臣民として扱われる。

 この場合、重要なのはその人物の人種ではなく配偶者の地位や家格であることは言うまでもない。

 ちなみにヒト族が最も好事家が多く、ヒト♂だけど配偶者はリザードマン♂なんてケースもあり、性文化が発展している。


 食性としてはほとんどの地域で人肉食が激しく忌避されている。

 これは他の人種に対しても禁忌であり、肉が多いからとヒト族がオーク族を食べるようなことはしないし、逆もまた、ない。

 最も野蛮なゴブリン族でさえ、「人語を解する者を食うのは気が引ける」と他の人種を食べない。

 ただし、例外もある。

 宗教的な理由でヒト族がヒト族を食べる風習の人食い人種がいる。

 戦争で兵糧攻めを受けたり、遭難して他に食べるものがない時に緊急避難として死体の食人が行われることがある。

 また、ミュルミドーン族は死者を悼む習慣を持たず、仲間や他の人種の死体を菌類の養分にしてしまう。






<<魔法の適性>>

 魔法については人種によって得意不得意がはっきりしている。


ヒト:{雌雄異体,有性生殖,体内受精,寿命100年,精霊魔法1,修得できる魔法の合計2,平均魔気容量8.0gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差1.2gdrゲーデル

エルフ:{雌雄異体,有性生殖,体内受精,寿命∞年,精霊魔法3,修得できる魔法の合計4,平均魔気容量120gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差10gdrゲーデル

ダークエルフ:{雌雄異体,有性生殖,体内受精,寿命∞年,精霊魔法3,修得できる魔法の合計4,平均魔気容量120gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差10gdrゲーデル

ドワーフ:{雌雄異体,有性生殖,体内受精,寿命300年,精霊魔法1,修得できる魔法の合計1,平均魔気容量7.0gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差1.1gdrゲーデル

ホビット:{雌雄異体,有性生殖,体内受精,寿命150年,精霊魔法1,修得できる魔法の合計1,平均魔気容量6.0gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差0.90gdrゲーデル

パタゴン:{雌雄異体,有性生殖,体内受精,寿命150年,精霊魔法1,修得できる魔法の合計1,平均魔気容量5.0gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差0.77gdrゲーデル

獣人:{雌雄異体,有性生殖,体内受精,寿命100年,精霊魔法1,修得できる魔法の合計2,平均魔気容量9.0gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差1.42gdrゲーデル

マタンゴ:{雌雄の別なし,無性生殖,受精しない,寿命∞年,精霊魔法4,修得できる魔法の合計6,平均魔気容量320gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差30gdrゲーデル

ハルピュイア{雌雄同体,有性生殖,体内受精,寿命∞年,精霊魔法8,修得できる魔法の合計12,平均魔気容量2000gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差180gdrゲーデル

リザードマン:{雌雄異体,有性生殖,体内受精,寿命400年,精霊魔法2,修得できる魔法の合計3,平均魔気容量50gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差6.0gdrゲーデル

マーフォーク:{雌雄異体,有性生殖,体外受精,寿命∞年,精霊魔法2,修得できる魔法の合計3,平均魔気容量30gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差4.0gdrゲーデル

ゴブリン:{ほぼ♀のみ,ほぼ単為生殖,体内受精,寿命100年,精霊魔法1,修得できる魔法の合計2,平均魔気容量15gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差1.6gdrゲーデル

オーク:{大半が♀,ほぼ単為生殖,体内受精,寿命100年,精霊魔法1,修得できる魔法の合計2,平均魔気容量12gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差1.3gdrゲーデル

コボルト:{雌雄異体,有性生殖,体内受精,寿命100年,精霊魔法1,修得できる魔法の合計2,平均魔気容量9.0gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差1.1gdrゲーデル

ミュルミドーン:{雌雄異体,有性生殖,体内受精,寿命100年,精霊魔法1,修得できる魔法の合計2,平均魔気容量18gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差1.7gdrゲーデル

兵隊アリ:{♀,不妊,受精しない,寿命100年,精霊魔法4,修得できる魔法の合計8,平均魔気容量500gdrゲーデル,魔気容量の標準偏差60gdrゲーデル


 パタゴン、ホビット、ドワーフ、ヒト、獣人、コボルトの順で魔法が苦手である。魔気容量の平均値が一桁で使える魔法の属性も少ない。次いでゴブリン、オークもかろうじて二桁であり、生活魔法も使えないため、彼らの社会は不衛生である。

 彼らに比べるとリザードマンやマーフォークは魔気容量の平均値が高く、かなり器用である。

 エルフ、ダークエルフ、マタンゴは魔法に長けた人種で文明そのものが魔法の行使を前提に築かれている。文化水準も比較にならないほど高い。

 ハルピュイアは完全に別格で魔気容量の平均値は4桁、魔法の適性は12種類もあり、他の人種では勝負にならない。競うこと自体が無謀であると敬われている。

 ミュルミドーンは特殊で大部分を構成する働きアリの魔気容量の平均値はそこそこでしかないものの、兵隊アリは“生きた重戦車”と呼べるくらいのスペックを誇る。

 これら、魔気容量の平均値は各人種の素の状態を測定したものである。鍛錬を積むことで上昇する。

 ヒトであれば平均8gdrくらいが25gdrくらいには増える。それでも、極限まで訓練して100gdrを越えることは稀。個人で消費魔気111gdrの上級ズゲイ魔法を撃てる者は尊敬される。

 それに比べてエルフなどの魔法の得意な人種であれば個人で消費魔気535gdrの特上級メダマグを撃つことは容易。消費魔気2680gdrという最大級ゲルグンドの魔法を放てる者さえもいる。

 人種それぞれによる魔法適性について以下に示す。


ヒト族:{甲種精霊魔法1,乙種精霊魔法1,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,運命魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値8gdrゲーデル

エルフ族:{甲種精霊魔法6,乙種精霊魔法2,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値120gdrゲーデル

ダークエルフ族:{甲種精霊魔法6,乙種精霊魔法2,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値120gdrゲーデル

ドワーフ族:{甲種精霊魔法1}:MP平均値7gdrゲーデル

ホビット族:{甲種精霊魔法1,回復魔法}:MP平均値6gdrゲーデル

パタゴン族:{甲種精霊魔法1,強化&弱化魔法}:MP平均値5gdrゲーデル

獣人族:{甲種精霊魔法1,乙種精霊魔法1,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,生活魔法}:MP平均値9gdrゲーデル

マタンゴ族:{甲種精霊魔法6,乙種精霊魔法2,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値320gdrゲーデル

ハルピュイア族:{甲種精霊魔法6,乙種精霊魔法2,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,運命魔法,重力魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値2000gdrゲーデル

リザードマン族:{甲種精霊魔法2,乙種精霊魔法1,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,運命魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値50gdrゲーデル

マーフォーク族:{甲種精霊魔法2,乙種精霊魔法1,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,運命魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値30gdrゲーデル

ゴブリン族:{甲種精霊魔法1,乙種精霊魔法1,回復魔法,防御結界魔法,邪魔法,死霊魔法,召喚魔法}:MP平均値16gdrゲーデル

オーク族:{甲種精霊魔法1,乙種精霊魔法1,強化&弱化魔法,封印結界魔法,聖魔法,死霊魔法,召喚魔法}:MP平均値16gdrゲーデル

コボルト族:{甲種精霊魔法1,乙種精霊魔法1,回復魔法,強化&弱化魔法}:MP平均値9gdrゲーデル

ミュルミドーン族:{甲種精霊魔法1,乙種精霊魔法1,回復魔法,強化&弱化魔法,防御結界魔法,封印結界魔法,聖魔法,邪魔法,運命魔法,重力魔法,死霊魔法,召喚魔法,生活魔法}:MP平均値18gdrゲーデル


 火、氷、風、土、雷、水の6属性である甲種精霊魔法はどの人種も1つくらいは適性がある。光と闇の2属性である乙種は使えない人種がいて、ドワーフ、ホビット、パタゴンが人種的に適性を持たず、使えない。


 社会の衛生管理に重要な役割を果たす、効率のよい生活魔法さえも適性のないドワーフ、ホビット、パタゴン、ゴブリン、オーク、コボルトは苦労している。防疫も含めて社会の衛生問題を積極的に解決する姿勢を示すのはドワーフとホビットだけで、ゴブリンとオークは不衛生を我慢する方向で耐え、パタゴンとコボルトは他の人種に任せる方向で依存している。魔法なしの技術力だけで衛生問題を解決できるドワーフを除けば疫病による子供の死亡率が高く、平均寿命を押し下げている。

 例外的にオーク♂である若君や父君は生活魔法が使え、回復魔法や聖魔法に適性を持つことがある。その場合、只でさえ希少なオーク♂の価値が更に上がることになる。しかし、部族の宝であるオーク♂をみだりに人前に晒すことは忌避されるため、優秀な使い手であっても治療師や清掃員として働くことは稀である。


 衛生管理と医療に直結する聖魔法、呪いによってアイテムに魔法を付加する邪魔法、この2つは倫理魔法と呼ばれる。ドワーフ、ホビット、パタゴン、コボルトが適性を持たず、使えない。鍛冶と冶金を得意とするドワーフも邪魔法が使えないのでせっかく作ったアイテムに自分で魔法を付加できず、涙を呑んでいる。

 そのため、呪いやアンデッドモンスターの回復など暗いイメージのつきまとう邪魔法であるが、使い手は引く手あまたで人気がある。おかげで呪殺などを請け負う暗殺者家業を営む者は少ない。


 聖魔法はもちろん人気だが、回復魔法でなければ治せない病気もあるのでやはり使い手は引く手あまただ。これについてもドワーフ、パタゴン、オークが使えず、苦労している。

 しかし、略奪経済に依存しがちで奴隷を狩る習慣のあるオークであっても回復魔法の使い手であるヒトやエルフのことは丁重に扱う。それはほとんどどこの国でも奴隷として扱われるコボルトであっても同様であり、回復魔法の使える“犬”はきちんと給与を支払われる治癒師として丁重に扱われる。


 強化&弱化魔法はドワーフ、ホビット、ゴブリンが適性を持たない。だから、ドワーフ戦士が強いのは素の地力である。


 暁光帝にしか使えないと言われる重力魔法であるが、ミュルミドーンの羽アリ♂とハルピュイアにだけ適性がある。彼らは人間でありながら自由に空を飛べる非常に珍しい存在だ。もちろん、暁光帝のように都市1つをまるまる無重力状態にするなどできるわけもなく、自分の体重を軽くして離陸の負担を軽減するくらいにしか使えない。

 従って、他人に説明することもないので他の人種が重力魔法について知ることもほとんどない。


 金龍オーラムが開発した運命魔法はマタンゴ、ハルピュイア、リザードマン、マーフォーク、ミュルミドーン、そしてヒトが使える。魔法の苦手なヒトなのに適性がある、ロマンである。ロマンなので実用性はない。時空間に圧力を懸けて不確定な現象の結果を偏らせる効果があるものの、「だから何?」と問われそうな魔法である。


 もっとも、これら、魔法の適性には例外があり、かなり稀だが強化&弱化魔法の使えるホビットや生活魔法の使えるオークなどもいる。


 パン観念動力サイコキネシス、夢幻魔法、時間魔法、空間魔法、幻影魔法の5つは完全に幻獣専用の魔法であり、人間には原理や魔術式を理解することも使うことも出来ない。

 これら5つ、幻獣専用の魔法については一切の例外がなく、絶対に人間には使えない。

 つまり、パン観念動力サイコキネシス以心伝心テレパシー(夢幻魔法)、予知プレコグニション過去視ポストコグニション(時間魔法)、瞬間移動テレポーテーション(空間魔法)、千里眼クレアボヤンス(幻影魔法)が使える人間は決して存在しない。






<<人種の勢力>>

 単純な数の上ではミュルミドーン族が他を圧倒している。地下に王国を築き、その人口は定かでないが、その気になればエレーウォン大陸全土を征服できるのではないかと危ぶまれている。実際、休眠状態の蛹を羽化させればとんでもない数を揃えられる。地下に帝国を築いているので、他の人種が執着するほど地上にこだわらないため、強い軋轢は存在しない。


 ゴブリン族はミュルミドーン族の次に数が多く、棲家にしてる土地ももっとも広い。もっとも、荒れ地が多く、本当にただ住んでいるだけで「支配」にはほど遠く、「領土」とは呼べない。

 暗黒教団の教えのままに過当競争を繰り返していて内戦に近い殺し合いを繰り返しているので文化も発展せず、それが原因で強みである数も抑えられている。国家どころか、村かも怪しい集団が原始的な生活をしている場合が多い。

 生活魔法が使えないので社会の衛生問題は深刻であるが、その分、免疫力にも定評があり、毒や病気に耐性がある。


 ゴブリン族よりはましであるがやはり多死多産の社会を築くオーク族は同じく膨大な人口を背景に好戦的であり、暗黒教団の教えがなくても仲間同士で戦っている。

 棲家はやはり荒れ地が多く、内戦を繰り返しているので強みの数が活かせていない。荒れ地なのでまともな農業が出来ず、遊牧生活している場合が多い。ゴブリン族よりは文化レベルが高いものの、魔法技術については惨憺たる有様であり、武器や農具などの重要な工業製品も他の人種との交易に頼っている。

 数と勢いを頼みに侵略を仕掛ける略奪経済も健在だ。ゴブリンと同じく生活魔法が苦手なので、社会の衛生状況は深刻な問題を抱えているが、同じく免疫力が高く、毒や病気に耐性がある。ただし、貴重な♂は守られており、その生活環境は清潔に保たれている。


 ゴブリン族、オーク族に次ぐ数の優位は意外にもマーフォーク族である。海中生活を営む半魚人達は容易に数を増やせそうなものだが、広大な領域である「海」のすべてを支配することはせず、好みの海域を好きに利用している。

 他の人種の港に近い海域を利用することが多いとされている。

 水中で社会を築いたため、冶金やきんに問題があり、そのために地上進出する場合もある。

 その場合、比較的マシなヒト族や獣人族と協力することが多い。


 生活環境が違うマーフォーク族を除くとして地上の勢力として第4位を占めるのがヒト族である。人口と文化レベルのバランスが良く、平地や耕作に適した水源の周辺を開発している。

 他の人種との交流も盛んで互いに助け合って、比較的平和に文明を築いている。

 最大の特徴は篤い信仰心であり、神々から「ヒトは都合のよい優良種」と思われている。


 人口ではヒト族に次ぐリザードマン族は少子少産の社会であるが安定して強力である。

 とりわけ、フキャーエ竜帝国は幻獣である地竜カザラダニヴァインズを“竜帝”として戴き、大陸中央に強大な勢力を築いている。ヒト族を始め、オーク族やゴブリン族その他も従属させている。

 生活水準、文化水準、ともに高く、実質的に国際政治の中心である。


 ダークエルフ族も少産少死の社会であるが、平野や谷間など魔法的に安定した土地を好み、強力な文明を築いている。

 砂漠のような荒れ地も開墾しており、その勢いは住処が森林に限定されるエルフ族を凌ぐ。

 不老種なので出産が許可制という、強烈な産児制限を強いている。従って、無許可の出産は殺人と同程度に罪が重い。文化水準や技術水準も高く、エルフ族と対等である。


 同じく少産少死社会を営むエルフ族は森林のみで人口で劣る。

 それでも技術水準の高さから工業製品、とりわけ、古エルフ語の魔法技術などで信頼されており、国として勢いは強い。

 不老種なのでダークエルフと同じく、出産が許可制であり、無許可の出産に対する扱いも厳しい。


 ドワーフ族の勢力はエルフ族と同程度だ。

 しかし、工業と鉱業の技術レベルが更に高く、一部のゴブリン族を保護して属国を作ってやっている。同じく、コボルト族の面倒を見ることもある。

 ミュルミドーン族のように地下に王国を築いている。

 王や貴族のいる普通の封建制であるが、長命種なので政治も市民生活も縛りがきつい。その分、安定はしている。

 生活魔法が使えないため、衛生は機械と人手に頼っている。


 ホビット族は人口で大きく劣っている。

 小柄なホビット単体では強い国家を築けず、森や谷底の集落で共同生活をしている。

 オークよりは文化水準が高いものの、軍事力で大きく劣る。

 ヒト族やドワーフ族か見つかると属国にされてしまうのでひっそり隠れ住んでいる。

 生活魔法が使えないこともオークと同じだが、清潔好きなので社会の衛生水準は高い。


 更に数で劣るパタゴン族だが、大柄な体格に恵まれ、人種として強い生命力と体力を持つのでその国家は強く勢いがある。

 しかし、文化水準が低く、オークよりも少し増しな程度である。

 生活魔法が使えないのもオークと同じであり、しばしば、衛生問題に苦しめられている。


 ホビット族とパタゴン族の共生国家は互いの弱点を補い合い、文化水準もそれなりに高く繁栄している。

 軍事面をパタゴンが支え、社会インフラの構築と維持をホビットが担う。

 ホビットとパタゴンは家族単位で共同体を作り、助け合って生活する。

 しかし、そのための軋轢が相当のストレスを生じることも少なくない。


 マタンゴ族は他の人種からは謎めいて計り知れない者に見える。

 驚くほど高い魔力を示すが「個人」というものがなく、他の人種が寄り付かない荒れ地や深い森林を開墾して他から知られぬ秘密の国家を築いている。

 ヒト族やリザードマン族の大都市に間者スパイを潜ませて、秘密結社として様々な工作を行い、裏から正解に影響力を及ぼしている。


 ハルピュイア族は数の上ではもっとも劣勢である。支配している領域も狭い。だが、竜帝国をも容易に圧倒する軍事力、ドワーフ族が逃げ出すほどの技術力を誇り、“天空の支配者”と敬われている。

 機械力の助けを借りることなく空を飛べるハルピュイア族は桁外れの魔気容量を誇る、最も魔法に長けた人種でもある。ドラゴンの導きにより最初に魔法を下賜された人類文明であり、その後に他の人種へ魔法を下賜した。

 その業績と隔絶した能力が敬われ、どこへ行っても尊重される。国際政治の調停者である。


 人口ランキングは…

1.ミュルミドーン族(地下に多い)

2.ゴブリン族

3.オーク族

4.ヒト族

5.マーフォーク族(海中に多い)

6.リザードマン族

7.獣人族

8.コボルト族

9.ドワーフ族

10.ホビット族

11.パタゴン族

12.ダークエルフ族

13.エルフ族

14.マタンゴ族

15.ハルピュイア族

…と、ほぼ、このような形になっている。





<<ヒト族>>

 ホモ・サピエンスである。雌雄異体で有性生殖する哺乳綱。

 寿命は100年ほどだが、病気や怪我、戦争や災害で天寿を全うできずに死ぬ者が多い。乳幼児の死亡率も高く、それらを鑑みれば平均寿命が若い世代で終わる。

 異歯性で切歯、臼歯、犬歯の区別がつく。歯の生え変わりは乳歯から永久歯になる一回のみで、虫歯に苦しめられる。

 文化水準はそこそこ高いが、適性や素養のせいで魔法の研究については遅れており、魔法技術のレベルも低い。

 国内外で同じヒト族同士の争いが多く、医療に回すべき聖魔法その他も水準が低いため、平均寿命は長くない。

 その結果、多死多産の社会になってしまいがちで、無駄に数だけは多い。

 農業と並行して鉱工業も営む都市国家から単純な農村、海上で交易を営む港湾都市、未だに森林で狩猟採取を営む集落まで幅広い。広大な草原で遊牧生活を送る遊牧民もいる。

 社会の形態も封建制だったり、平等な原始生活だったり、民主的な集団当地だったり、様々だ。

 また、リザードマンに率いられていたり、オークのような他の人種の街で奴隷として労役を負わされていることもある。

 想像力に優れ、嘘を吐き、嘘を信じる傾向が強い。

 願いを抱き、夢を見て、自分にも他人にも嘘を吐いて、嘘を信じて、ひたすら祈る。その信仰心は全ての人種の中でも桁外れに篤い。

 そのため、神々にとって“都合のよい人種”になってしまった。白色レグホンやホルスタイン、大ヨークシャーのようなものである。

 純粋な肉体の運動能力は他の人種よりも低めで、感覚もあまり鋭敏ではない。魔法も苦手である。それでもここまで勢力を伸ばせた理由は同じヒト同士で互いに協力すること。それによりエルフやドワーフ、パタゴンなどの有力な勢力を出し抜いて拡大できた。

 差し迫った共通の脅威に対しては一致団結して協力する姿勢を見せるものの、平和になった途端、互いに足を引っ張り合う狭量さを見せる。

 おかげで非常に高い社会性を持ち、平和と安定を重んじ、“身分制”や“国家”などを設け、大いに発展している。

 しかし、同じ理由で国家同士の戦争も引き起こし、ヒト同士で殺し合いもしている。

 この「平和を希求すること」や「互いに助け合うこと」などの高い社会性から生じる「身分制」や「国家」が暁光帝らドラゴンから嫌われているのも事実である。

 基本的に多神教であり、国家や地域によって光明神を拝んだり、暗黒神を拝んだり。そのため、天使からも悪魔からも「有望な市場」と見なされて宣教師や魔族の介入を許してしまっている。

 それでも人同士で互いに協力したがることから比較的、光明教団に肩入れする国家が多い。

 魔気容量の平均値は8gdr、標準偏差は1.2gdr、初級魔法や下級魔法ならば技術さえ知っていれば使えるものの、いきなり中級魔法が使える者はいない。魔法は苦手な人種である。訓練しても個人で特級魔法が使える者はおらず、上級魔法が限界である。

PDF=1/√(2πσ^2)*ε^((−(x−μ)^2)/(2σ))より

PDF=1/√(2π*1.2^2)*ε^((−(x−8)^2)/(2*1.2))

normcdf(x,μ,σ)=∫[0→x]{1/√(2π*1.2^2)*ε^((−(x−8)^2)/(2*1.2))}dx

 魔法の苦手な人種であるが、嘘を吐いて嘘を信じる習性のおかげで協力体制も取れるため、魔気容量の問題を解決する集団魔法や奴隷魔法という手段を開発した。

 平和を尊び、身分制を重視する社会構造であるが、しばしばそれに反発する者も現われてしまう。例えば、名家の生まれであれば当主に養われて終生、穏やかに暮らせるものの、退屈してしまう場合もある。また、自由民であれば吟遊詩人の唄う物語に惹かれて一発やってみよう考える者もいる。

 彼らの多くは冒険者や傭兵を志す。

 だから、ヒト社会は冒険者や傭兵を既存の秩序を脅かす無宿者や放浪者ではないかと毛嫌いする傾向もある。


・ヒト族を基準とした交戦の形態について。

 ヒト族について「ヒトは最も血なまぐさい存在」とか「ヒトの歴史は戦争の歴史だ」とか自虐する声があるものの、他の人種と比べると比較的というか、かなり平和的な人種である。

 「世界征服」だの「ヒトこそが最高の存在である」だの威勢のいい言葉をぶち上げる為政者も少なくないものの、それらの言葉は「恐ろしい敵をなくしたい」という不安から生まれているわけで。

 自分が消耗品として消費されることを前提として行動するミュルミドーンのような発想をしているわけではない。

 基本的にヒトは自分が死ぬのを嫌い、友人が死ぬことも忌避するが、敵や只の他人が自分のために死ぬことなら容認する、その程度である。

 ミュルミドーンはアリ社会が目的を遂行するためなら自分が死ぬことも他人が死ぬことも厭わない。それどころか、自分と仲間の死を前提にするような計画も積極的に支持する。そこに大きな差がある。

 更に他の人種と比較すれば。

 多死多産のオーク族はしきりに戦争を仕掛ける略奪経済を営んでおり、個々が志として勇敢に戦って死ぬことを希求している。オーク以上に多死多産のゴブリン族は勝ち目のない無謀な戦争も平然と仕掛けるだけでなく、ほぼ常に無意味な内戦に明け暮れている。“個”の概念がないミュルミドーン族は敵対した集団をためらうことなくひとり残らず皆殺しにする。ヒトと同じ多死多産の獣人族も誇り高く、力を示したがる好戦的な人種で、しばしばオークやゴブリンと衝突している。

 概して多死多産の人種ほど増えすぎた人口の調整のために“戦争”という文化を採用することが多い傾向にある。

 ヒトもその例外とならないだけのことであり、取り立てて血生臭く好戦的な文化にあるわけではない。

 ただし。

 ヒト族が“平和のために起こす戦争”が決して少ない回数ではなく、自衛のための戦争がしばしば大きな衝突を引き起こした歴史から目を背けるべきではないだろう。

 オークに囚われたヒト奴隷を解放するために引き越される“奴隷解放の戦争”もオークからすれば獲得した戦利品(ヒト奴隷)を奪いに来た侵略戦争と受け止められてしまうのだから。


<対エルフ戦>

 純粋に肉体的な運動能力ではヒトが勝る。だが、魔法戦では圧倒的に不利なので対魔法戦の準備が必要になる。

 そもそも平和を愛する友好的な人種なので武力衝突よりも交渉によって問題を解決した方が互いに利がある。

 大きな衝突は起こりづらい。


<対ダークエルフ戦>

 能力はエルフとほぼ同等で、ヒトが戦う相手としては厳しい。

 だが、回復魔法や聖魔法に難のあるダークエルフは戦争で負傷者に対応しづらく、エルフ以上に戦いを忌避する。しかし、勝ち目が明らかだと個人主義に傾きがちなダークエルフは功を焦って衝突を起こしがちである。

 従って、ダークエルフを相手に交渉する場合はしっかり戦争の準備をし、戦術面での優位を確立した上で慎重に行うことが求められる。


<対ドワーフ戦>

 主力メイン軍用バトル泥人形ゴーレムの軍団が強力で戦争の規模が大きくなるほどヒトが不利になる。

 しかし、魔法についてはヒトよりも苦手。

 対人戦闘は力の強さでヒトが劣り、魔法戦でドワーフが劣る。

 集団戦は戦術を駆使すればヒトがいい勝負できるが、ドワーフの戦闘機械が出て来ると苦戦せざるを得ない。

 もっとも、ヒト族には友好的な人種であるから衝突を起こす前に話し合いで問題を解決できる。


<対ホビット戦>

 魔法戦が苦手のホビットは純粋な肉体の運動能力でもヒトに劣るため、優勢に戦える。

 しかし、情報収集に優れるため、ゲリラ戦に及ばれると一気に不利になるため、油断できない。


<対パタゴン戦>

 純粋な肉体の運動能力ではパタゴンの圧倒的な有利に終わってしまう。最も魔法の苦手な人種であるから、魔法戦に持ち込めばヒトが有利である。

 また、人口もヒトが多いので人海戦術も有利である。


<対ホビット&パタゴン戦>

 ホビットとパタゴンは互いの弱みと強みをよく理解しており、しばしば共闘の姿勢を見せる。

 2つの人種が協力して対抗されるとヒト族の情勢は一気に厳しくなってしまう。

 ヒト軍の情報を正確に集め、兵站を突くホビット族。罠に誘導されず、力ずくで正面突破を図るパタゴン族。彼らは魔法戦に持ち込もうとするヒト族を撹乱して戦争を優位に進める強敵である。

 ヒト軍の指揮官はしばしばヒト至上主義からホビットやパタゴンを侮って失敗する。


<対獣人戦>

 ヒト族のライバルとして有名。純粋な肉体の運動能力ではヒトが少し不利で、魔法戦となればヒトが少し有利。

 人口でもほぼ互角なので人海戦術の有利はない。

 エレーウォン大陸の覇権を巡って何度も大規模な衝突を繰り返している。

 ヒト軍の指揮官もヒト至上主義から獣人軍を侮って好戦的な態度を取ってしまい、悲惨な衝突に及んでしまうことがある。


<対マタンゴ戦>

 謎めいた人種でヒトと大きな衝突を起こした事件はない。

 魔法戦で圧倒的にヒトが不利であるし、ヒト社会の裏に張り巡らされたマタンゴの人脈が戦争を許さない。

 小国や盗賊団が無謀に挑んで惨敗する事件が見られる。


<対ハルピュイア戦>

 戦っても勝負にならないので無意味。

 対人戦でも集団戦でも上空から圧倒されてお終い。

 平和を愛する友好的な人種であるから、衝突を仕掛けた指揮官が叱責される。


<対リザードマン戦>

 ヒューマノイド型の二足歩行は移動しても立っていても不安定であり、強い力で押されると容易に転倒してしまう。転んでしまえば上から切りつけられて終わるわけで。

 長い尾と上半身でバランスが取れる、鳥類型の二足歩行は転倒しづらい上によろめいても体勢を回復させやすい。

 同じ二足歩行でもヒトよりリザードマンの方が有利なのだ。

 純粋な肉体の運動能力もリザードマンがヒトを凌駕しているし、槍や薙刀などの長柄武器による攻撃に加えてアリゲーター以上の咬合力による咬み付きと長い尾による打撃があるのでヒトは敵わない。2人以上でなければ勝負にさえならない。

 魔法戦もリザードマンの方がずっと大きな魔気容量なので6人掛かりでもなければ勝機が見えなくなってしまう。

 つまり、兵力差が6倍以上でなければヒトはリザードマンに勝てないことになり、まさしく脅威である。

 一応、友好的な人種であるが、ヒト族のヒト至上主義よりも強くリザードマンはリザードマンの優位を知っているのでしばしば高圧的な態度を見せがち。

 それで衝突に及んでしまうこともある。


<対マーフォーク戦>

 海中戦が勝負にならないので、何とか陸戦に持ち込むしかない。

 では、陸戦なら勝てるのかというと力の強いマーフォークを相手にすると純粋な肉体の運動能力でもヒトが劣るため、個人戦では押されてしまう。集団戦の戦術なら勝ち目があるものの、単純な人口でも負けている。

 技術力も高いので水に毒を混ぜれば、井戸に毒を仕込まれる。

 また、魔法戦もヒトが不利なのでそもそも勝負しない方がよい。

 マーフォークの上陸は陸上での活動なので話し合いで協力できれば互いに利益を得られることが多く、大規模な衝突に発展することは稀。


<対ゴブリン戦>

 ヒト族のライバルその3。

 子供ほどの大きさしかないので純粋な肉体の運動能力ならヒトが勝るものの、人口で圧倒されてしまうので人海戦術を使われるとヒトが不利である。

 魔法戦ならばヒトが少し有利だが、部族によってはゴブリンも集団魔法が使えるので必ずしも勝てるわけではない。

 ただし、しばしば、協調性に欠けるゴブリンであるから、戦術で有利な戦況に持っていくことができることが多い。

 ヒト族に対して非友好的な人種であり、暗黒神の信仰やアールヴ森林の大虐殺の恨みに駆られてヒト族を襲うこともあるので衝突が絶えない。


<対オーク戦>

 ヒト族のライバルその2。

 オークはヒトよりも大柄で力強く、純粋な肉体の運動能力ならヒトを圧倒する。人口も多く、多死多産の社会なので人海戦術も取りやすいのも脅威である。

 魔法戦についてはオークの方がまだましという程度だが、個人主義の強いオークは集団魔法を苦手とするのでそこにつけ入る隙ができる。

 ヒトは戦術を駆使してオークを圧倒する場合が多いけれども、個人プレイで負けてしまうこともままある。

 オークは命を惜しまぬ吶喊とっかんでも知られていて、追い詰められるととんでもない被害を出すこともある。


<対コボルト戦>

 体格で劣るも素速くて持久力があるコボルトは敵対すると手強い敵となる。

 とりわけ、個人戦に優れ、ゲリラ戦に持ち込まれるとヒトは受け身にならざるを得ない。

 もっとも、ヒトの側でも「犬は人類の最良の友」という認識が強いので大規模な衝突に発展することは稀である。


<対ミュルミドーン戦>

 膨大な人口に支えられる軍事力は脅威以外の何物でもない。

 安定した四足歩行と怪力は働きアリであっても強力な武装が出来るのでたちまち強敵となる。

 命を惜しまぬ吶喊はオークと同じように見えるが、ミュルミドーンの場合は綿密な作戦の下で遂行されるので失敗が少ない。ヒト軍が数で押して包囲したところで強引に抜けられてしまうこともしばしば。

 武装した働きアリはヒトが3人がかりでもきついので戦力差が3倍程度では勝負にならない。戦力差が10倍以上あっても厳しい。

 これは脅迫が一切効かないことも影響している。

 端的に言えば「命が惜しければ俺の言うことを聞け」が全く通じないのだ。

 これをやってしまった瞬間、敵対したとみなされ、全力で攻撃される。数の不利も状況も不利も一切、鑑みられることなく攻撃されるのだ。

 そして、ミュルミドーンは一度、戦闘を始めてしまうと指揮官の命令なしでは止まらない。どれだけ兵力差があって勝利が絶望的だろうと戦い続ける。降伏勧告は全くの無意味。当然、援軍を呼ぶし、それを止めることはほぼ不可能。つまり、敵対してしまえばその場で勝利しても巣から際限なく増援が駆けつけてくるという悪夢を見ることになるのだ。

 それで軍隊が全滅する。それだけならまだいい方だ。

 ミュルミドーンは敵の鏖殺を前提とする戦闘教義ドクトリンを採用しているので一度、事を構えてしまうと非戦闘員である一般の住民まで皆殺しにされてしまう。

 「ミュルミドーンとは交戦すること自体が自殺行為」と言われる所以である。


<対兵隊アリ戦>

 ミュルミドーン軍の要である兵隊アリは生きた重戦車そのものであり、体重だけでもおよそヒト兵士の300倍を余裕で凌駕するほどで到底、勝負にはならない。魔気容量も大きく、強力な魔法を連発する“生きた兵器”として働く。

 機動力も高く、ヒト軍の主力メイン軍用バトル泥人形ゴーレムでは対応できない怪物である。

 ミュルミドーン機動部隊はこの怪物、兵隊アリを大量に投入するので出てきた時点で勝敗が決まってしまう。






<<エルフ族>>

 有性生殖する、寿命がない雌雄異体の哺乳綱。「長命」なのではなくそもそも寿命がない「不老種」である。知能が高く、高い文化水準を誇り、魔法の研究も進んでいる。

 耳が長く、背が高いことを除けばヒト族とあまり変わらない。♀も♂も見目麗しく、スレンダーな容姿が目立つものの、例外もある。

 ヒト族よりも遠くが見え、素速い動きも観察でき、視覚に優れる。長い耳の聴覚も鋭い。

 異歯性で切歯、臼歯、犬歯の区別がつく。定期的に歯が生え変わるので虫歯に苦しむことはあまりない。

 体内受精で胎生、出産後は母乳で子育てする。成長の速度はヒト族とほぼ同じ。二次性徴も10台後半から20台前半である。

 聖魔法のレベルも高いため乳幼児の死亡率もほぼ0であり、病気や怪我を除けばほぼ死ぬ者がいない。国内は調和を保っていて、対外的に安定してる国家が多い。

 典型的な少産少死の社会である。

 しかし、その文化水準の高さが仇になって、周辺諸国&諸民族が野蛮に見えてしまい、鎖国政策を採用する“エルフの隠れ里”も少なくない。

 自然との調和を訴えて森林や湖に暮らす者も多く、光明神にも暗黒神にも関心が薄い。ニュムペーやユニコーンなどの幻獣を崇めている者も多く、国教として採用している国家も少なくない。珍しい例としては魔獣と恐れられるキマイラを崇めている場合もある。

 平和を尊び、暴力を嫌うため、粗暴なドラゴンを嫌う傾向にある。

 最も大きいエルフ国家は妖精郷エルファムである。

 世界樹が妖精郷エルファムを擁しているので、世界樹崇拝は宗教以前の実利があり、妖精郷エルファムのエルフ達は世界樹を神々よりも上に置いて拝む。

 小さな集落でも一次産業を興し、村や町になれば鉱工業と農業を並行して行う文化に達する。

 宗教について特に規制はなく、主に自然崇拝で各地のニュムペーや精霊を拝んでいることが多い。しかし、刺激を求めて暗黒教団に所属する者もいないわけではない。

 自国を出る者が少なく、交易についてもあまり積極的でない。冒険者を志すものはさらに少ないが、貴重なので珍重される。

 戦争を避けたがる平和的な人種であるが、いざ、戦争となれば勇敢に戦う。

 「魔法と言えばエルフ」と言われるくらい魔法技術が高い。魔気容量は平均値が120gdr、標準偏差が10gdrとばらつきが少なく高い。初期状態でほぼ全員が上級魔法を使え、訓練すれば大半が特級魔法を使える。通常の訓練のみでも超特級魔法が使える者もいる。

 現在、人間の使う呪文が古エルフ語で記述されていることもあって修得も早い。

 視力がよいので弓術に長け、強力なロングボウを操る。得意の魔法戦では他の人種を圧倒し、森林での戦闘ではロングボウでゲリラ戦を展開する。どちらも遠戦であるが、白兵戦でも細剣を得物として戦う。

 不老種なので経験豊かな兵士が多いことも特徴。

 見た目に依らず、寡兵と侮ると痛い目を見るつわものである。





<<ダークエルフ族>>

 エルフ族の近縁種だが交配は不可能。

 同じく寿命を持たない不老の人種である。

 知能が高く、高い文化水準を誇り、魔法の研究も進んでいる…と、ここまではほぼ同じ。

 しかし、回復魔法や聖魔法の水準に問題があって乳幼児の死亡率は0ではない。個人主義に走り、過当競争を起こしがちである。そのため、平和を尊ぶとまでは行かず、時に逸っては戦争を引き起こしがちである。

 そのため、粗暴なドラゴンへの忌避感はエルフよりも薄い。

 しかし、回復魔法や聖魔法の問題もあって用心深くもある。

 肌が浅黒く、耳が長い。♀も♂もスレンダーで見目麗しい者が多いが例外もある。この辺りもエルフと同じ。

 個人主義の気風が強いため、暗黒神ゲローマーを崇めて魔族になる者も少なくない。

 荒れ地や水害の多い平地も厭わずに開拓するため、水車や風車のある、工業化された高度な技術水準の国家を築く。

 民族的に荒っぽいので国軍は強力であり、大陸に覇権を唱えた王もいる。

 最大の国家はダヴァノハウ大陸の“龍の台地”に築かれた“極楽郷エーリュシオン”。エーリュシオン国では青龍カエルレアが崇拝される。青龍が龍の台地に雨雲を呼び、雷を降らせて土地を富ませるからだ。

 魔法に関する適正はエルフ族とほぼ同じだが、聖魔法や回復魔法を苦手として代わりに攻撃魔法に長ける者が多い。

 視力が高いため、弓術に優れ、魔法戦も含めて遠戦に特化している。不老のなのでエルフと同じく経験豊かな兵士が多い。

 そのため、ダークエルフは寡兵であっても脅威であることが多い。

 自主独立の気風が強いため、故郷から出奔して冒険者や傭兵を志す者もエルフより多い。

 容姿こそ似ているものの、ダークエルフはエルフに対して特別な親近感を持つことがないので、結託するようなことは少ない。むしろ、自主独立の気風のあるオークと付き合いやすい。





<<ドワーフ族>>

 有性生殖する雌雄異体の哺乳綱で、長命な小人である。♂は長い髭が自慢で、♀はロリ巨乳である。知能が高く、技術水準も高い。

 「ずんぐりむっくり」と評される容姿が目立ち、♀♂の別なくたくましい肉体を持つ。

 異歯性で切歯、臼歯、犬歯の区別がつく。成人してからも歯の生え変わりがあって虫歯に苦しめられることは少ない。

 小人ドワーフ族の寿命は300年ほどと長い。

 高い知能と高い文化水準の例に漏れず、少産少死の社会を築く。

 暗闇を嫌わないので地下に国家を築く例が多い。

 そのため、有望な鉱山を数多く持ち、鉱工業が発達している。

 その分、食料生産は外に頼ることが多く、リザードマン族、ヒト族、ダークエルフ族、ハルピュイア族、オーク族と交易が多い。自然崇拝に熱心なエルフ族だけは反発する者が多いために交易が細い。ゴブリン族やオーク族を定住化させて地上の耕地を耕させる、“文明化”も推進している。

 コボルト族の属国を設けている。

 最も歴史のあるドワーフ地下王国は同じく歴史のある妖精郷エルファムへ侵略を繰り返している。これはエルファムにそびえる世界樹の根を狙ってのことであり、侵攻を仕掛けるたびに手酷いしっぺ返しを食らっている。

 世界樹から害虫扱いされたので暁光帝からも嫌われており、幾度も駆除されているが、そのたびに地下深くへ逃げて生き延び、王国を復興させてきた。暁光帝に滅ぼされた回数ならダントツで多い。

 ドワーフ地下王国の地下道はエルファムの地下を通って世界樹の間近にまで及んでいる。

 反省する気がないらしい。

 世界樹の根に関わろうとする国家レベルの執念、そのため、エルファムとは恒常的な敵対関係にある。

 エルフ以外の人種との交流、平和共存を推し進めているので光明神ブジュッミを崇めるドワーフ国家が多い。だから、ヒト族からは「平和を愛する善良で友好的な人種」と好感を持たれている。

 それに対して世界樹からは“根に巣食う寄生虫”扱いされて蛇蝎のように嫌われている。

 そのせいでエルフからも同じように嫌われている。

 小柄だが体重があって筋力が強い。しかも器用で、白兵戦でヒト族を圧倒し、オーク族に迫る。

 魔法に関する適正は低く、魔気容量の平均値は7gdr、標準偏差は1.1gdr、魔法は苦手でまったく使えない者も多い。

 しっかりした身分制度があるものの、それによる縛りがきつくて冒険者や傭兵を志す者も多い。しかし、同じ冒険者パーティーにエルフがいると妖精郷エルファムとドワーフ地下王国の対立から軋轢を生むケースもある。

 各地の冒険者ギルドでドワーフの戦士や斥候せっこうは優秀なので人気がある。

 魔法戦が苦手だが、しばしば“ドワーフの戦争機械”と呼ばれる主力メイン軍用バトル泥人形ゴーレムの軍団が運用され、強力である。





<<ホビット族>>

 有性生殖する雌雄異体の哺乳綱の小人である。

 小柄で子供ほどの体格しかない。

 ヒト族の子供のような姿で歳を重ねても容姿の劣化が少なく、老いても筋力や内臓機能の低下が出るだけだ。

 異歯性で切歯、臼歯、犬歯の区別がつく。歯の生え変わりは2回のみで、虫歯に苦しめられる。

 童人ホビットはドワーフと違い、細身で体重が軽く、筋力もそこそこあるので素速い。

 寿命が150年とそこそこ長いが、乳幼児の死亡率が高く、平均寿命は40年ほど。

 知能は高いが、統率力のある王が現れず、大きな国にまで発展する例は少ない。主に森林や地下洞窟で村を築いて生活する。

 小さい集落は狩猟採集に頼り、村や町は農本主義。

 文化水準があまり高くないので病気や怪我で死亡することも少なくない。

 パタゴン族と共生して暮らすことが多く、独立国家を営む場合の多くは共生している。

 まともな独立国家を運営できずに大国に隷属している場合も多い。

 魔法技術も低く、とりわけ強化&弱化魔法に適性がなく使い手がいない。回復魔法についてはパタゴンよりはマシなくらい。

 生活魔法も使えないので社会の衛生環境は芳しくない。それでも手作業で掃除するなど防疫に努めている。

 文化水準が高くないので立派な宗教施設を建てることが叶わず、国教に指定される宗教もない。個人で豊穣神マァルトや博打の神ズバットを拝む。また、しばしば、隠れてオルゼゥブ大神に祈る。

 冒険者としての適性は高く、斥候に向いている。

 魔法の適性は低い。魔気容量の平均値は6gdrで標準偏差も1.4と低くてばらつきが多い。魔法への適性はすこぶる悪く、超特級魔導師にまで上り詰めても上級魔法すら行使できる、怪しい。





<<パタゴン族>>

 有性生殖する雌雄異体の哺乳綱の巨人である。

 ヒト族によく似た姿であるが大きい。身長については性的二形が少なく、♀♂とも筋肉質で平均身長2.24mで平均体重150kgある。

 見かけどおり、巨人パタゴンは腕力を尊び、身体を動かすことを好む風習がある。おかげで♀♂の別なくたくましい。

 異歯性で切歯、臼歯、犬歯の区別がつく。歯の生え変わりは2回のみで、虫歯に苦しめられる。

 寿命は150年でヒト族よりも長い。かなり背が高く、頑丈だ。しかし、社会の衛生環境がかんばしくないせいで乳幼児の死亡率は高く、平均寿命は26年と短い。

 意外に思えるが、性格は穏やかで争いごとを好まない。山岳や孤島に住み、強力な国家を築いている。知能にも問題はなく、争いが少ない分、文化水準も言われるほど低くはない

 ただし、総じて魔法技術が低く、回復魔法が使えず、怪我や病気が致命的な結果に及びやすい。その代わり、強化&弱化魔法に長けるのでますます筋肉を志向する者が多い。

 生活魔法も使えないので社会の衛生環境は悪い。その上、細かい作業も苦手なので手作業の掃除も十分ではない。

 小さな集落は狩猟採集に頼り、村や町ほどの規模になると農本主義。海辺で漁業という集団もいる。

 曲りなりに独立していても国教を決めることはなく、豊穣神マァルトや博打の神ズバットを自由に拝んでいることが多い。また、しばしば、隠れてオルゼゥブ大神に祈る。

 魔法に関する適正は全ての人種の中で最低であり、魔気容量の平均値が5gdr、標準偏差が0.77gdrである。

 かなり自由な気風の文化なので冒険者や傭兵を志す者も多い。

 傭兵の場合は軍の統一を図るため、他国がパタゴンばかり集めて巨人兵団を編成されることが多い。

 巨人兵団は強力でありながら慎重なので信頼の置ける軍団となる。

 冒険者を志した場合、魔法の適性が低すぎるため、ほとんどが戦士を目指す。魔法職となった場合も肉弾戦ができる珍しい魔導師となる。


・ホビット&パタゴン共生国家

 パタゴン族はホビット族と共生して暮らすことが多く、住みやすい平原で独立国家を営むパタゴン族の多くはホビット族との連合国家である。その場合、清掃や道具の作成&手入れなどをホビットに任せることで文化水準が一気に上がる。

 ホビットから離れるとまともな独立国家を運営できず、フキャーエ竜帝国の属国になっている場合もある。また、大国の属州になっている場合もある。

 共生国家は力仕事をパタゴンが担い、細かな作業をホビットが担う分業体勢が一般的である。

 漁業も農業も拡大し、水車や風車の利用も可能になる。

 軍隊も情報戦に長けるホビットが参加することでパタゴン特有の力押しが控えられ、効果的な戦術を駆使するようになり、強力になれる。






<<獣人族>>

 有性生殖する雌雄異体の哺乳綱、“獣人”である。

 少々、毛深くて尾があり、強靭な肉体を誇る。嗅覚や聴覚もヒト族より優れ、芸術家も多い。知能はヒト族に並ぶが、若干、直情的な傾向がある。

 個人で長短の差異があるものの、尾があり、自由に動かせる。

 哺乳綱なので異歯性があり、犬歯、臼歯、切歯の区別がある。個人差はあるものの、発達した犬歯を持つことが多い。歯の生え変わりは乳歯から永久歯になる一回のみで、虫歯に苦しめられる。

 ♀は発達した1対の乳房を持つ。2対以上の複乳は少ない。

 寿命は100年ほどだが、活発なので事故や戦争で天寿をまっとうする者は稀。乳幼児の死亡率も鑑みると平均寿命は20歳である。

 オークやゴブリンほどではないものの、多死多産の社会であることが一般的。

 平原や荒野に小国家を築く。文化水準はヒト族と同程度である。独立国家の多くは封建制で国王と貴族が国を運営している。

 また、メヘルガル亜大陸にヒト族と共同で大国を築いている。

 かつては大きな版図を支配する王国を築いていたが、オーク族の大移動に追われて北の大地へ逃げた。スエビクム海の沿岸にノアシュヴェルディ海上王国を築いたものの、獣人戦争はデティヨン海の悲劇に巻き込まれて滅亡。現在も北の大地で凍えながら暮らしている。

 生まれなら特殊な肉体強化の魔法を会得しており、誰に教わらなくても“獣化”してパワーアップできる。

 体力に優れているので傭兵や冒険者、交易商人を勤める者も多い。

 宗教は雑多で統一が採れない。

 魔法の適性はヒト族よりもやや高く、少しばらつきが多い。魔気容量の平均値は9gdr、標準偏差は1.42gdrである。

 冒険者としてはやはり戦士や斥候が多い。魔法職の適性もヒト族より少し高いくらいで十分にあるが、肉体を使うことを好む。





<<マタンゴ族>>

 無性生殖する雌雄の性別がない、二核菌亜界の担子菌門に属するキノコ人間である。

 茸人マタンゴは一つの株がすべて同じ個体のクローンである上、同じ株同士ならば心を通じ合わせられる。

 一人が見たものは全員が見ているし、一人に伝えれば全員に伝わる。

 個人の個性など初めからなく、一つの株ですべての情報を共有する。当然、死の恐怖など感じない。誰が死んでも代わりがいるから。

 どんなに攻められても1人が生き延びていれば元の集団を再生できるので、ほぼ、完全な不老不死である。

 稀に異なる株同士で有性生殖する。

 出産せず、胞子で増える。胞子から子実体が生えてキノコにまで成長すると変態して成人になる。

 平行進化でヒト族にそっくりの容姿。可愛らしい美少女や見目麗しい美女の姿を取っている場合が多いものの、そもそも乳房も外性器もない。

 異歯性で切歯、臼歯、犬歯の区別がつく。歯は定期的に生え変わるので虫歯にならない。

 当然、男女の性別そのもの存在しないので恋愛しない。無性愛である。

 全員が同じ記憶、同じ感情、同じ意志を持つので文化水準は高い傾向にある。ほぼ例外なく独立国家を形成し、強大な軍事力を持つ。

 マタンゴ社会には指導者がおらず、1人は全てであり、全ては1人である。故に、完璧な全体主義社会であり、国家の意思決定=個人の意思という、奇っ怪な構造を取る。

 魔法に長けているので魔法産業も発達しているが、地域の特性に合わせて鉱工業や農林業、水産業もこなす。

 また、マタンゴ文明はしばしば近くの大国に寄生する形態を見せる。大国の裏社会に潜り込んで支配するのだ。そして、国家内国家として潜み、表の経済の裏で闇の社会を形成するのだ。

 マタンゴの個体は完璧に『私が死んでも代わりがいる』を地で行く。実際にその通りなので個体の死が問題とならず、不老であることに加えて事実上の不死である。

 その株の全ての個体が死滅しない限り、生きられるのだから。

 その統率力はミュルミドーン族よりも強く、戦場ではまったく死を恐れない強力な兵士となる。また、口頭で兵士に指示を出す必要がなく、全員が指揮官であり、兵士である。

 宗教も株ごとに偏っている。

 社会の強固な協力体制だけを見れば光明神の一択に思えるが、そもそも“個人”の概念そのものがない社会なので“協力”の概念もなく、株ごとの競争を考えれば、十分に暗黒神崇拝も有り得る。

 冒険者として活動する者もいる。同じ姿、同じ顔の女性が大勢で強敵を討つ様子は異様である。その場合はマタンゴ族の国家から情報収集などを目的に送り込まれている可能性が高い。

 傭兵として働く場合は統率の問題もあってマタンゴ兵団を組織されなければ働けない。

 魔法の適性は高く、魔気容量の平均値は320gdrで標準偏差は30gdrと高い水準でまとまっている。





<<ハルピュイア族>>

 雌雄同体で有性生殖する、美しい不老の有翼人。“天空の支配者”と呼称される、とてつもなく強力な人種である。

 天翼人ハルピュイアの肉体はほぼヒト族に近いが、背中に白い翼を持ち、生まれながら質量をごまかして揚力ようりょくを得る重力魔法が使える。魔気容量もエルフ以上に多く、強力な魔法を操る。

 一見、天使のように見えるが、戦となれば空から遠慮なく強力な攻撃魔法を降らせて一方的に敵を蹂躙する魔導師である。天使のようだからと慈悲など期待できない。

 人間でありながら重力魔法を習得でき、機械力の助けを借りることなく空を飛べる。これはミュルミドーン族の羽アリを除けば唯一である。

 異歯性で切歯、臼歯、犬歯の区別がつく。歯は定期的に生え変わるので虫歯にならない。

 主に高山の頂に国家を築く。

 古代ハルピュイア文明が人類最初の文明であり、それはドラゴンに源流があると言われている。原初の偉大なドラゴン達が文字や技術、そして魔法を伝えたのだと。

 個人主義を嫌い、集団で事に当たることを好む。飛空船を駆り、敵対する者に対しては圧倒的な技術力と数で勝負を挑む。文化水準が高く、芸術品には目を見張るものがある。工業や商業も盛んでしばしば他国に赴いて貿易を行う。

 ♀しかいないように見えるが実際は両性具有者である。ますます天使のよう、か。

 エルフと同じく寿命がなく老いないので、病気や事故でしか死なない。乳幼児の死亡率も0なので平均寿命は測定不可能。

 文化水準が高いためか、あまり子供を産まない。典型的な少産少死社会を形成する。

 光明神ブジュッミ信仰がそれなりに強く、ハルピュイアの国家では人気がある。

 しかし、文明が高度であるから、神々の事情にも明るく、盲信することはない。

 また、孤高の八龍オクトソラスに特別な感情を抱いているので一方的に光明神ブジュッミへ加担することもない。

 人口こそ少ないものの、技術力、軍事力、経済力の全てが桁外れで他国とは比較にならない。

 魔法技術だけでなく、科学技術も発展しており、“ネイピア数”や“エネルギー”、“運動量”、“物質量”の概念を知っているし、利用もできる。

 他の人種からすればハルピュイアからの技術供与、軍事支援、経済援助は名誉であり、国際的な信頼の証である。

 他の人種と軍事的な衝突に及ぶことは稀だが、不幸にも事が起きてしまった場合は高空からの爆撃によって一方的に敵を殲滅する。軍事的な行動に及んだミュルミドーンに対抗できる唯一の戦力でもある。

 魔法技術も特異で他国が古エルフ語による魔術式と呪文を使っていることに対して、最初に下賜された難解なドラゴン文字による魔術式を今でも使っている。

 おかげで力率がよく、他の人種が使う古エルフ語の魔法よりも効果が高い。代わりに修得が難しく、初学者は苦労する。もっとも不老種なので時間がかかることは大した問題にならない。

 冒険者を志す者は非常に少なく、極めて貴重である。あまりの能力の高さから、彼らはしばしば「目暗の国では片目が王様」と揶揄されてしまう。

 他の人種からすれば個人で国家と渡り合えるほどの能力を持つハルピュイアであるから、冒険者ともなれば純粋な軍事力として評価されてしまう。

 魔法に関する適正は群を抜いており、魔気容量2000gdr、標準偏差180gdrと桁違いに高い。魔法が使えない者はおらず、少し訓練することでほとんどの者が最大級ゲルグンドの魔法を個人で使えてしまう。ハルピュイアの超特級魔道士ともなればそれを連発できるので小国なら国土の全域が更地にされかねないほど。

 エルフ族やマタンゴ族でも勝負にならず、ミュルミドーン族の兵隊アリであっても遅れを取る。





<<リザードマン族>>

 雌雄異体で有性生殖する、長命のトカゲ人である。全長3.9mの体重150kgほどであり、かなり大型の、二足歩行する、俊敏な恒温動物である。

 呼称の“蜥蜴人リザードマン”と特徴的な鱗から爬虫綱の有鱗目かと思われがちだが、有鱗目からは遠い新鳥盤目であり、どちらかというと鳥綱に近い。

 寿命が長く400年もあり、幼獣の死亡率も低い。古来より高い文化水準を維持している。

 外性器が隠れているので性的二形が見られず、他の人種から雌雄の差はわからない。

 実際のところ、リザードマンは4色型色覚があるので自分達で見分けるのは容易。大きな目には目蓋があり、瞬きする。

 全身を頑丈な鱗に覆われ、力強い筋肉と強靭な肉体を持ち、粗食に耐え、乾燥にも強い。身体も大きいので冒険者

に向いている。

 ただし、手の鉤爪は退化しており、器用な指は字を書いたり、道具を使うことに向いている。

 同歯性で歯は頑丈な牙のみ。定期的に生え変わるので虫歯に苦しむことは少ない。主に肉食で、野菜は消化できず、加熱した穀物なら食べられる。肉類も新鮮なものを生食することが多い。また、歯は定期的に生え変わるので虫歯にならない。

 二足歩行だが、ヒトのそれとは異なり、尾を水平に伸ばして頭を下げた前傾姿勢で歩く。素速い上にバランスにも優れている。腰痛とは無縁。転倒もしづらく、よろけても容易に体勢を回復できるため、格闘戦で投げられることも少ない。

 ヒューマノイド型の二足歩行と異なり、正面から相対した時の被弾面積が小さく、心臓や肺などの重要な器官が狙われにくい。その特徴から剣などの射程リーチが短い武器を容易に封じ込めてしまうので、リザードマン自身の得意武器もまた槍などのリーチの長い武器となる。その分、側面からの奇襲には弱い面もあるが、頭が広い角度で曲げられるため、反撃が容易でもある。

 攻撃に際しては槍や薙刀などの長柄武器とともに牙による咬み付きと尾による打撃を混ぜる。3つの攻撃が飛んでくるわけでリザードマン1人に対して、他の人種は2人以上で当たらなければ圧倒されてしまう。とりわけ、長い首から繰り出される咬み付きは強力で、ヒトやオークは頭を齧られるだけでも大ダメージを負うし、そのままひねられるだけで頚椎の骨折など致命傷に及んでしまう。

 アリゲーターを上回る咬合力の顎と強靭な尾を持ち、武器を持たなくても強い。リザードマン独自の格闘技は拳や蹴りに加えて噛みつきと叩きつけを含むため、他の人種にとっては脅威である。

 また、背中にしがみつかれても首が180°以上回転するのでたやすく排除できる。

 肉体の構造上、盾を嫌って両手持ちの薙刀なぎなたや槍を好み、リーチと威力に優れる。頑丈な鱗があるので頭部を守ればよく、胴体は鎖帷子のみでも十分に重要な臓器を守れる。

 体重の関係で乗馬が苦手で乗犀じょうさいを好む。軍馬ならぬ、軍犀も強力で兵器として育成が盛ん。

 戦闘となればヒトは2人以上で連携を取らなければ勝負にならず、リザードマンに魔法を使われてしまうと6人がかりでも厳しい。体重が拮抗するパタゴンであっても肉体の構造から不利が否めない。

 光明神ブジュッミにも暗黒神ゲローマーにも関心が薄く、個人で豊穣神マァルトを信仰している者が多い。

 エレーウォン大陸のほぼ中央部に強大なフキャーエ竜帝国を築いて、領域外の流通までも管理している。

 竜帝国は大型の重装甲ゴーレムを駆る陸軍国でリザードマン歩兵軍団とともに精強そのもの。国家元首は“竜帝カザラダニヴァインズ”を名乗る。A級の地竜であり、国内の尊敬を集め、周辺諸国からも一目置かれている。

 フキャーエ竜帝国は竜帝カザラダニヴァインズを助けて竜皇后ヴィーオヴィーオが国を率い、元老院が意見する社会体制である。

 竜帝国を除いても多くの場合、国王の下で封建社会を形成している。また、ドラゴン崇拝が強く、他のリザードマン国家も大なり小なりドラゴンを王、または国家の象徴として戴いている場合が多い。

 長命で文化水準が高い者の例に漏れず、少産少死型の社会を築く。自分が誕生した時の卵を重要視し、生涯に渡り大切に保存する習慣がある。名誉を重んじるので「公衆の面前で誕生卵を割られる」のが最悪の処罰であり、死刑制度はない場合が多い。

 農林水産業だけでなく、鉱工業も発達していて文化水準の高い国が多い。

 ヒト族より魔法に適正があり、魔気容量の平均値は50gdr、標準偏差が6gdrと高い。いきなり中級魔法が使える者もいる。

 故郷を出て冒険者になる者も少なくない。その場合、体力も魔力も他の人種を大いに上回る場合が多く、しかも、理性的で感情に流されづらいので頼れる仲間として人気がある。

 長命種であるため、経験を積んだベテランも多い。

 また、国を離れて放浪し、ヒト族などを率いて町や村を築く者もいる。






<<マーフォーク族>>

 有性生殖する雌雄異体の半魚人である。もっとも体外受精である上、卵を産んだら産みっぱなしで子育てという概念がない。♀も乳房がなく、雌雄ともに外性器が目立たない。つまり性的二形が弱く、他の人種から見て雌雄の区別がつかない。

 同歯性で全て犬歯。雑食であるが、海草は上手く消化できないので主に海藻を食べる。海獣の乳や肉も好む。歯は定期的に生え変わるので虫歯にならない。

 歯は定期的に生え変わるので虫歯にならない。

 半魚人マーフォークは顎口上綱の硬骨魚綱条鰭じょうき亜綱、典型的な、いわゆる“魚”の系統にある。水陸両生の生物だが、四肢動物を生んだ肺魚ら肉鰭にくき亜綱の系統ではない。海を住処とし、淡水湖を忌避する。

 海産の生物なので当然、味覚が異なり、塩味がわからない。

 分岐した棘状の背鰭せびれを持ち、尾は退化している。胸鰭むなびれは腕に、腹鰭はらびれは足になっており、やはり棘状に分岐した尻鰭は腰の両側から伸びる。手足の指には発達した皮膜があり、鰭として機能する。

 目蓋のない目は瞬きせず、正面を向いて両眼視野が広い。聴覚器官は側線なので耳がない。肩から伸びる首の両側にはえらが発達して空気中ではしっかり閉じる。

 全身を覆う魚鱗も定期的に生え変わるので古傷のようなものは残らない。髪などの毛もない。

 冷血動物で体温は外気温に合わせて変化する。陸上で体温を維持するためには魔法か、魔法の道具に頼らなければならない。

 海中では鰓呼吸を、地上では肺呼吸を行う、完璧な肉体の構造を持っている。

 もっとも、大気中では上手く発声できず、人類共通語を流暢に喋れないことが多い。

 淡水中では上手く呼吸できず、活動が制限される。飲料水も海水でなければならず、長期に渡る陸上での行動は制限されてしまう。単なる食塩水は代わりに出来ないので、地上に進出する場合はある程度の量の海水を蓄えておかねばならない。

 出産も発生も海中に限定される。

 エルフと同じく、寿命のない不老の人種である。

 従って、産児計画は厳密に行われる。規定された期間、選ばれた♀があらかじめ決められた場所に卵を産んでおけば、同じく選ばれた♂が自主的に体外受精してくれるので“恋愛”という概念はない。

 孵化した稚魚は予備も含めて複数匹が学校に集められて教育される。

 性成熟までにかかる年月は他の人種とほぼ同じ20年ほど。

 成魚の体格はヒト族の男性と大差ない。

 法的な契約に基づく“家族”の概念はあるが、“親子”の概念はない。家族になることは単純に有力な集団に所属するだけのことでそれ以上の意味はない。“家族”というよりも“職能集団”に近い。

 イルカやシャチと親しく、家畜として利用している。シャチは軍馬としても用いられ、重用されている。

 クジラも家畜として利用されていて、食肉用や乳鯨用がある。

 アザラシは家畜というよりもペットとして人気がある。

 エラ呼吸と肺呼吸の両方をそつなく行い、頑丈で力が強く、乾燥にも強い。知能も高く、海中に独自の文化圏を築く。

 しかし、長期に渡る地上での活動は制限が多く、地上の侵略や支配はあきらめている。しかし、地上進出をあきらめていないので他の人種とも盛んに交流している。

 海中に大きな版図を広げる国家を築いている。

 国際的にはピッシュムスクワマエ連合が目立つ。地上進出を望む派閥を擁して人間の国の沿岸近くに都市を構える。

 海中では冶金そのものが多大な魔力を用いねばならず、実現が難しいので地上の工業産物の価値が高い。そこで地上との交易が栄えるようになった。ドワーフの不銹鋼ステンレス製品が珍重される。

 また、海草で海牛ジュゴン目の海獣を飼育する牧畜や海藻を育てる農業が盛ん。

 特殊な魔法も使えるので魔法産業もあり、邪魔法による魔法の効果を付加したアクセサリーなどの道具が地上で珍重されている。

 光明教団に近いが、暗黒教団に近づく者も多い。特異な姿の海神を崇める宗教団体も盛んに活動している。

 冒険者としても優秀で戦士や魔法使いとして活躍する。

 発声に問題があるので斥候やリーダーには向いていないが、戦士や武闘家、暗殺者や魔導師に適性がある。

 魔法に関する適性があり、魔気容量の平均値は30gdr、標準偏差4gdrとそこそこ高い。初めから中級魔法が使える者もいる。





<<ゴブリン族>>

 単為生殖で増える、典型的な多死多産の社会を築く小人。

 侏儒ゴブリンの身長はヒト族の子供ほどしかなく、白緑びゃくろく色の肌で鱗も尾もない。

 哺乳綱ではなく、イクチオステガのような四肢動物から進化した、二足歩行の両生綱である。

 同歯性で大きな口には犬歯のみがあり、基本的に雑食性で何でも食べるが、野菜は加熱しないと消化できない。粗食にも耐え、繁殖力が非常に強い。

 歯は定期的に生え変わるので虫歯にならない。

 一見、♂ばかりのように見えるが実はすべて♀であり、洞窟や粗末な小屋に隠れて一度に10〜20人の幼生を産む。出産には水が必要なので水辺から遠く離れた場所では集落を維持できない。

 幼生は手足がなくてひれがあり、水棲で淡水でのみ育つ。

 ゴブリン♂は酷い矮雄わいゆうを起こしており、ゴブリン♀の肉体に張り付いた肉瘤にくこぶのような組織になっている。他の人種からそれがゴブリン♂だとはわからない。

 幼生は変態して手足を得て尾を失うと上陸し、二足歩行のヒューマノイド型の小人になってゴブリンらしくなる。

 基本的に集落の外で育ち、ある程度、大きくなると育児専門職である乳母に回収され、3〜50人がまとめて育てられる。

 子供は狐やイタチなどの、成人は狼やクマなどの大型肉食獣の餌にもなっており、自然界の食物連鎖で重要な地位を占める。

 両生綱だが、手足の指に水かきはなく、乾燥によく耐える。恒温動物であり、寒冷地でも防寒具を着ければ活動できる。

 子供は5〜6年で成人し、出産が可能になる。

 寿命は100年だが、とにかく死亡率が高いので老いたゴブリンなどは珍しい。

 再生能力が高く、不具者がいない。いてもすぐに治るので大切にはされない。手足の欠損さえも自然治癒してしまう。

 ヒト族とエルフ族とは“アールヴ大森林の大虐殺”という因縁があり、一部の者は強烈な恨みを抱いている。

 ヒト族やエルフ族に出会うと凶暴になり、自分よりも弱いと分かればためらわずに攻撃する。反面、臆病で自分よりも強そうだと考えると背中を見せることをためらわない。誇りなどなく、短絡的で日々の糧を得て寝るだけの生活を送る。

 その性格から暗黒神の信仰が篤く、光明神を崇める者は少ない。

 村を作る者はまだ知的レベルが高く、光明神に従う。しかし、ふつうは単なる群れで生活し、暗黒神崇拝も原始的である。しばしば魔族の新人が研修として指導に訪れるが、ゴブリンの群れは定住生活しないので探すのも苦労する。

 魔法に関する適正はヒト族よりも高く、魔気容量の平均値が15gdr、標準偏差が1.6gdrとまとまっている。

 冒険者を志す者もいる。発音に問題があるため、リーダーや斥候には向かないが、ヒト族よりは魔法に長けるのでそれなりに優秀で、回復魔法も使える者もいる。因縁があるため、ヒト族のいないパーティーに入りたがる。

 防御結界魔法に適性のある者もいて、いざという時の切り札に使うゴブリン冒険者もいる。

 多くは荒れ地に小規模な集落を築いて狩猟採集生活を営む。

 とにかく多死多産の社会なので規模が大きくなることもあるが、小国よりも成長することは稀。多くの場合、ある程度、大きくなるとゴブリン同士の権力争いが起きて内乱で分裂してしまうのだ。

 かつて、エレーウォン大陸の西端に偉大な女王に率いられた大ゴブリン王国が築かれたが、女王の崩御で混乱し、南北に分裂した後、暁光帝のマラソンできたゴブリン王国が滅亡してしまった。

 生活魔法が使えないため、社会の衛生に問題があり、幼生の病死が絶えず、平均寿命は低い。

 そのため、数少ないゴブリンの大国でも文化水準は低めで略奪経済と奴隷労働に依存しがちである。重要な農業や漁業はヒト族の労働者と奴隷頼みであり、収益は安定していない。ヒト労働者とヒト奴隷の違いは技術力と境遇で決定される。

 ゴブリン達は粗暴で戦争捕虜を虐待するが、奴隷は財産なので傷つけない。





<<オーク族>>

 主に単為生殖で殖えるが、時々、♂が生まれて有性生殖も行う。大柄な半人半豚の生物。ヒト族よりも大きくたくましい。

 豚人オークは再生能力が高く、十分な時間をかければ欠損した手足が生えて戻る。

 哺乳綱ではなく、ゴブリン族と同じく、ディメトロドンのような単弓類から進化した特殊な有羊膜類なので乳房も乳腺もない。

 異歯性で歯は切歯、臼歯、犬歯の区別がつく。♀はよく発達した牙を持つことがある。顔はブタに似ているものの、肉食寄りの雑食性で野菜や穀物は十分に加熱しないと消化できない。

 乳歯から永久歯に生え変わった後はそのままなので虫歯に苦しむこともある。

 ヒト族と比べて嗅覚が優れ、視覚が劣る。血の臭いやオーク♂の匂いに敏感だ。

 粗食に耐え、よく働くが、粗暴で自分より弱い相手にも容赦しない。戦争好きだが、誇りよりも勝利を望む。勝つためなら卑怯な手段も平気で利用する。しかし、その多くは知能が低く、武力ばかりを尊ぶので無謀な突撃を繰り返し軍が全滅することもしばしば。

 オーク♀は卵胎生であり、生まれてきた幼獣はすぐに歩ける。1回の出産で2〜4人の子供を産む。ほとんどが単為生殖なので父親はいないことが多い。ゴブリン同様、育児専門職である乳母がおり、3〜50人をまとめて育てる。成長が速く、子供は十年未満で成人になる。

 やはり多死多産の人種であり、オーク♀は消耗品である。

 寿命は100年だが、病気や戦争で死ぬことが多く、天寿をまっとうできる者は稀。

 その性格から暗黒神崇拝が強く、暗黒神ゲローマーを崇めるオーク国家が多い。

 他の人種から見ると♂ばかりのように見えるが、実は大半が♀である。ゴブリンほどではないものの、オーク♂は矮雄わいゆうを起こしており、華奢で小柄だ。その数が少なく、貴重なので非常に大切に扱われている。

 オーク♂は出自に関わらず、成人前は“若君”、成人後は“父君”と呼称され、一切、荒事には関わらない。たとえ、母親が社会の最低辺であえぐ奴隷であっても希少な♂は生まれた瞬間から貴人として扱われるのだ。

 また、多くの場合、♂を生んだ♀は“若君の母”となって酋長に次ぐ地位を得る。

 偉大なるプガギューの国のようなオーク大国では制度化されて、小さい部族が♂を産むとその母親とともに大きい部族に取り上げられることがある。

 当然だが、オーク♂を傷つけることは絶対に許されない。

 そして、オーク♂はヒト族やエルフ族の侍女が付いて、一切の暴力と関わることなく大切に育てられる。その場合、侍女は奴隷ではなく適切な給与を支払われる自由身分である。

 オーク♂は可憐で小さく華奢で、耳と尾と外性器を除けばヒト族の少女と見まごうような姿をしている。加齢による容姿の衰えはなく、ほぼ死ぬまで美しい姿のままである。

 酋長や近習も率先してきらびやかな衣装を与えるのでやたらと華美である。

 その社会体制からオーク♂は部族の共有財産であり、一切の権限を持たない。それでも酋長の権威付けに利用されるオーク♂は飾りとは言え、最も酋長に近く、強い影響力を持つ。

 オーク♀は適性を持たないため回復魔法が使えないが、例外的にオーク♂は回復魔法が使える。聖魔法が使える♂もいて、部族の医療を支えることもある。

 オーク♂は独特に匂いを放つのでオーク♀は遠くにいても気づき、強く惹かれる。

 多くの場合、社会全体が♂を尊ぶ風習が強く、♂に限定して同性愛も奨励される。

 魔法の適性は低いが、ヒト族よりは高い。魔気容量の平均値は12gdr、標準偏差は1.3gdrとまとまっている。人種の適性として生活魔法が使えないため、社会全体が不潔である。

 ただし、オーク♂は例外であり、生活魔法が使えるの清潔であり、魔気容量の平均値も素の状態で100gdrほどあり、高い。死霊魔法や召喚魔法、更には強力な精霊魔法を習得することもあり、魔道士としても強力である。

 しかし、若君や父君を戦争に駆り出すことは重大な禁忌であり、絶対に許されない。もしも、オーク♂が戦闘に参加した場合は『父君の手を血で汚した』とそしられて、酋長の地位が脅かされるほどである。

 敗戦で捕虜の虐待が起きることはあるものの、オーク♂が酷い目に遭わされることは決してなく、非常に貴重な“財産”であるため、とても丁重に扱われる。

 終戦交渉ではしばしばオーク♂の移譲が話し合われ、父君や若君を取られた部族は明確な敗者と規定されてしまう。

 戦いを好み、自主独立の気風も強いので冒険者を志す者も多い。ただし、偉大なるプガギューの国がペッリャ王国と対立しているため、瓦礫街リュッダの冒険者ギルドでは少ない。

 回復魔法が苦手で強化&弱化魔法が得意という、わかりやすい戦士向きの資質を持つ。脳みそまで筋肉で出来ているイメージが強いが、魔導師としての適性もあって単純な比較ならヒト族よりは優秀。

 また、防御結界魔法が苦手という欠点もあり、そのせいで『何をしてもどうせ死ぬんだから』と命を軽んじる気風が生まれてしまった経緯がある。

 だからこそ、逆にオーク冒険者は防御を重視して盾と片手武器というスタイルを好む場合が多い。

 生活魔法が使えないために社会の衛生問題が深刻で病気による新生児の死亡率が高く、戦争による戦死者も多いため、平均寿命は驚くほど低い。

 小さい集落は狩猟採集に頼り、村や町ほどに発展しても仲間割れを起こして分裂してしまうことも多い。独立国家にまで発展することは稀で、力のある酋長に率いられる部族社会の連合体であることがせいぜいである。

 知識よりも武勇を尊ぶので高度な農業や漁業が育たない。

 鉱工業は他の人種と戦争することで得られる奴隷の労働に頼る。農業は農作業用の奴隷がオーク♀を指導する形で、漁業も同じく水夫の奴隷がオーク♀を指導する形で行われる。

 そのため、共有財産である奴隷は大切に扱われる。奴隷を傷つけるオーク♀が厳しく罰せられるほどに。

 これはオーク♀が放って置いても勝手に生まれてくる者であって、他の人種の奴隷は戦争で勝ち取って得られた安くない財産だからである。つまり、奴隷を傷つけるオーク♀は共有財産を乱暴に扱って壊す犯罪者ということになるのだ。

 ちなみにオーク♂については華奢な若君や父君なので奴隷を傷つけること事態が有り得ない。





<<コボルト族>>

 有性生殖する雌雄異体の獣人である。

 犬人コボルトは二足歩行する犬のような生物で、毛ざわりがよい。それこそふわふわだったりもこもこだったり、すべすべだったり。

 哺乳綱食肉目の系統にあるので口の中は犬歯だけ。歯の生え変わりは乳歯から永久歯に生え変わる一回のみで、虫歯に悩まされることもある。

 知能はあまり高くないが、数が多い。一度に3〜5人の子を産む。コボルトの独立国家では育児専門の職業である乳母がおり、まとめて2〜50人を育てる。

 ヒト族よりも体力があって疲れづらい。多死多産社会の住人らしく家族や友人を守る戦いとなれば命を懸けて戦う。また、視力は低いが、嗅覚、聴覚などの感覚器もヒト族より優れており、それなりに夜目も利くので冒険者としての適性は高い。

 とりわけ嗅覚が鋭く、ヒト族の100万倍と言われる。

 個体差が大きく、小柄で子犬ほどの大きさしかない者からパタゴン族よりも重い者もいて、多種多様。歩くぬいぐるみのようで可愛らしい者もいれば、美しく精悍な狼のような者までいる。

 小型犬、大型犬の別なく、コボルト族だけは文明国と非文明国の別なく、奴隷としての利用が認められている。

 大柄なものは護衛として、小柄なものは愛玩用として、姿の美しいものは貴人のアクセサリーとして人気がある。寿命がそこそこあるのでヒト族やオーク族なら子犬の頃から飼えば主人と生涯をともにできる。

 ヒト族、リザードマン族に関わらず、コボルト人気が高く、好事家はどこにでもいて、綺麗なコボルト奴隷はとんでもない高額で取引されることがある。

 「奴隷」という言葉の語感とは裏腹に待遇がよく、珍重されている。

 それ故、コボルト奴隷を乱暴に扱う者は非常に嫌われ、犯罪者よりも疎まれる。

 ちなみに犯罪者や無法者ほど自分のコボルト奴隷を大切にする。

 “コボルトのせいにする奴”は“最低のクズ野郎”という意味を表すし、“自分のコボルトしか信じない”は用心深い人間の形容である。

 それは粗暴なオーク族であっても例外でなく、主人を守って戦死するコボルト奴隷と同じくらい、奴隷を守って斃れる主人がいる。

 個性はあるものの、“忠犬”であることが基本であり、幼少期から育てられた者は絶対に主人を裏切らない。従って、“コボルト奴隷”は“忠犬”とほぼ同じ意味であり、偏屈な者や悪人であっても非常に大切にする。

 コボルト奴隷は主人を全肯定する存在だからだ。批判することも諫言することもなく、そして、主人が落ちぶれても付き従い、決して離れない。

 また、“人類の最良の友”は健在であり、転じて『周りにコボルトしかいない』は寂しい奴を表現する言葉である。そして、『コボルトも取られる』は“破産”と同義であり、『コボルトの飯も用意できなくなった』は“もうお終い”を意味する。

 子供から育てると他の人種にも良く慣れ、寿命は100年ほど。奴隷になっている者ならば乳幼児の死亡率も低く、天寿をまっとうできる者も多い。逆にコボルト族の独立国家や村で暮らすコボルト自由人は死亡率が高く、平均寿命は30年ほど。ヒト族に比べて少し長い理由は保護国が保護しているからである。

 個体差があるものの、一般的に勇敢で非常に忠誠心が高い。また、知能が高くても上手く言葉を話せない者や全く話せない者もいて、更に価値は高いとされる。そのため、コボルト族の子供は奴隷として珍重され、高額で取引されることも多い。

 老化してもあまり外見が変わらないが、能力は確実に落ちる。

 知能が低かったり、肉体や知性に障害があっても他の人種からは嫌われない。むしろ、「けなげにがんばってる」と歓迎されることが多い。

 洞窟や地下に村を築いて暮らす。国家にまで成長することもあるが、たいがい被保護国として半植民地化されている。

 生活魔法が使えないので衛生問題があって多死多産の社会であるからか、独立国家を営むコボルト社会でも子供を他の人種に売ることにためらいがない。

 多くの場合、ヒト族やリザードマン族に率いられたり、支配されていたり、従属しているので農業や水産業もそれなりに発展している。

 冒険者としても優秀であることが多い。もっともヒト族やオーク族の従者または奴隷として参加する場合が多く、どちらも重用されている。

 個体差があるものの、優れた嗅覚を利用して斥候として働いたり、戦士として護衛を努めたりする

 主人を持たず、自由人として生活する“野良犬”の冒険者も少なくないが、先立った主人に操を立てている“忠犬”である場合はその意志が尊重される。ちなみにそういった“忠犬”は更に評価が上がる。

 主人に忠実なコボルトの物語は吟遊詩人にも歌われて人気がある。女性を騙そうとする悪い男を見破ったり、主人の命を狙う暗殺者を退ける逸話が有名。ドラゴン退治の冒険譚などにもしばしば登場し、主人を助けて敵と戦う重要な役どころを担う。また、主人に先立たれたコボルトが“野良犬”になって各地を放浪しながら冒険する物語も人気がある。

 魔法の適性は低く、魔気容量の平均値は9gdrで標準偏差は1.1gdrである。





<<ミュルミドーン族>>

 蟻甲人ミュルミドーンは有性生殖する雌雄異体の節足動物で、少数の羽アリを除いてすべて♀である。

 アリに似た、外骨格の人間で恒温動物である。

 卵生で完全変態、幼虫として卵から孵るとしばらく蠕虫ぜんちゅうの姿で成長し、与えられた養分の質で成長の仕方が決定して蛹化ようかする。成虫になっても複数回、脱皮する。

 昆虫綱に属するので頭部、胸部、腹部に分かれて第1,第2肢、第3肢がまとめて胸部から生える。基本的に第2肢と第3肢の四足で歩行し、第1肢で細かい作業をする。第1肢の先端は複雑に分岐してヒトの指のような複雑な作業をするように発達している。自由に動かせる第1肢で器用に仕事をこなし、残る第2,第3肢で四足歩行するため、移動のバランスが非常によく、転倒とは無縁。格闘戦で投げられたり、倒されたりすることも先ずない。

 触角の聴覚、複眼と単眼による視覚、触角の嗅覚など感覚は鋭い。

 目は1対の大きな複眼と3つの単眼から成り、解像度と動体視力に優れ、驚くほど視界が広い。おかげで頭を巡らせなくても広範囲が見える。熱や気流、臭いや音を感じる敏感な立派な触角を持つ。そのため、耳や鼻はない。

 気門が発達したガス交換器官が腹部に開口部を開けて呼吸する。大顎が目立つ口器は水を飲んだり養分を食べたりするだけで呼吸には用いられない。従って、水の精霊魔法で口をふさがれても窒息することはない。

 だが、その構造上、腹部を水にけてしまうと窒息する。泳ぐためには専用のシュノーケルを腹部の気門に着けなければならない。もっとも、着けたところで6肢の構造的に水泳は不得手である。

 外骨格は黒く頑丈で、自重の5倍を持ち上げるほどに力も非常に強い。

 発達した大顎おおあごは強力で木材などでも容易に噛み砕く。非常に強力であることと引き換えに食べ物を咀嚼することには向かず、上唇も下唇も硬い外骨格なので、もっぱら具材を煮込んだシチューのような料理しか食べられない。

 湾曲した外骨格は打撃にも刺突にも斬撃にも強く、攻撃を逸らす。

 リザードマンよりも低い姿勢で移動するため、正面から相対した時の被弾面積は更に小さく、心臓やガス交換器官などの重要な器官も狙われにくく、防御にも優れる。頭部の弱点である触角は動きが素速く気流を感じ取れるので剣などの白兵戦武器を容易に躱すので傷つけられにくい。

 成虫になっても定期的に脱皮し、手足の欠損や感覚器の喪失と言った、肉体に重大な障害を負っても脱皮によって完全に回復する。

 非常に力が強いため、働きアリであっても重い鎧を着けて重装歩兵となり得る。

 アリ同士の勝負であれば射程リーチの短い武器では重要な器官に攻撃が届きづらいため、第1肢で握る武器は槍や薙刀なぎなたを好む。直に脳を攻撃する目的で鈍器も好むが、リザードマン以外のヒューマノイド型である他の人種と敵対する場合は長柄武器の一択。

 羽アリだけが♂で、他は全て♀。ただし、女王アリ以外はほぼ全員が不妊である。

 寿命は100年ほどであるが、外骨格に覆われた外見から年齢を推測することは難しく、また社会の構造上、天寿をまっとうする者が階級によって偏っている。

 徹底した全体主義、集団主義の社会を築く。女王アリも含めて“私”や“個人”の概念がない。

 “犯罪”の概念もかなり独特である。社会に損失を与えるような行為が“罪”であり、矯正が可能ならば学習させられることが“罰”である。それ故、純粋な教育刑のみであり、応報刑の概念が存在しない。また、矯正が不可能と判断されると問答無用で廃棄、つまり、処刑される。

 死を悼む文化もなく、仲間の死体は肥料にされる。

 単純な多死多産の社会ではなく、戦争に於ける兵士の損耗率は高いが、自己犠牲が当たり前の社会なのでそれが人権上の問題になることもない。人口が多いため、兵站上の問題にもならない。

 女王アリは当然として学者アリや多くの働きアリも天寿をまっとうする。

 羽アリは小柄で軽く、二対のはねで飛ぶ。♂である彼らは遺伝子交雑を目的に都市間、アリ国家の間で商品として取引されることもある。事実上の奴隷だが、他の階級も“私”の概念がないため、同様の扱いである。

 女王アリの産んだ卵を育児専門の乳母アリが飼育する。成長が早く、働きアリの幼虫は10年ほどで成虫になり、働き始める。

 働きアリは汎用性が高く、様々な仕事に就く。農業、工業、軍事、医療と幅広い。自己犠牲が当たり前の社会なのでどの仕事でも文字通り命がけで働く。危険な作業中に死んでも顧みられることはない。それは社会的な損失ではあるが、個人の喪失ではないからだ。

 学者アリによる犠牲の評価は単純で、それを避けた方が社会的な負担が小さいと判断されれば生きて働き続けることが期待される。逆に個体の死が社会的な利益に供すると判断されれば容赦なく犠牲となるよう求められる。

 とりわけ、戦争に於いては特攻が当たり前のように採用される。火の精霊魔法を修得した者による自爆は分厚い城壁をたやすく破壊して後続のための道を開く。

 そのような特攻隊は敵を誘導して自爆することで多数の犠牲を招き、他の人種は傷ついた戦友を見捨てられないので多くの戦術リソースを味方の救出に割くことになってしまう。

 膨大な数を背景に死を恐れない兵士の人海戦術で迫るから、他の人種との戦争は勝負にならない。

 しかも、働きアリでさえ肉体の運動能力が高く、白兵戦でリザードマンを圧倒するほどに有能な兵士となれる。当然、ヒトやオークでは勝負にならない。魔法戦であればエルフやリザードマンが働きアリの重装歩兵に勝てるが、兵隊アリに及ばない。

 故にミュルミドーンは軍事力に優れ、ハルピュイア以外の人種を圧倒してしまう。

 とりわけ、恐ろしいことはミュルミドーンの戦争は鏖殺が基本であることだ。交渉が決裂して戦争になるとアリ達は敵を殲滅する。降伏や休戦の交渉を受け入れることはなく、敵兵の1人も残さないのは当たり前、住民も例外なく皆殺しにする。そして、全ての死体は菌類の養分にされてしまう。

 そのため、ミュルミドーンとの交渉は慎重を期さねばならないし、交渉の決裂が武力衝突につながればほぼ間違いなく破滅的な結果をもたらすので言葉による対話が何よりも尊重される。

 かつて、大陸を揺るがす大事件となったオーク族の大移動はミュルミドーンが原因である。黒龍テネブリスの実験によって恐慌に陥ったミュルミドーン国家がオーク族の領域に押し入ったのだ。好戦的なオークもこれにはたまらず、逃げ出したことが大移動を誘ったのである。

 黒龍テネブリスが夢幻魔法の実験としてミュルミドーン国家に悪夢を送り込んだ。これにおびえたミュルミドーン族の北進を“侵略”と捉えたオーク族が“反撃”に打って出たものの、当然、それはミュルミドーン族から“敵対”とみなされてたちまち戦乱になってしまった。如何に勇猛なオークと言えども、人海戦術の鏖殺戦を繰り広げるミュルミドーンは恐ろしい。全力で西方へ逃げ出して、そこで栄えていた獣人王国を滅ぼし、更に西進してドゥンキルヒンの悲劇を引き起こした。これは暁光帝に強い不快感を与え、超巨大ドラゴンが北の海で水浴びして沿岸の村を壊滅させるスエビクムの大いなる海水浴という悲劇を引き起こした。その後、ミュルミドーン族は占領地を放棄してへ戻ったが、空隙地帯にオルジア帝国が入り込んだ。

 多くの歴史家はこの玉突き現象のような大事件の原因をミュルミドーンに求めている。

 ミュルミドーンの巣は地下に設けられ、大半が地下で生活する。

 食料生産は菌類を栽培する農業である。

 豊かな森林や平原のみならず、荒野や砂漠であっても構わず、河川から水を引いて灌漑農業を行う。地上の畑になる植物は食用に適さないが、その植物遺骸は光合成産物なので地下に運ばれて菌類を繁殖させるための苗床となる。地下の巣は気温が安定していて適度な水分があり、広大な畑となっている。

 ミュルミドーンはこの菌類を主食とする。人間の食用に適さない植物遺骸であっても、この菌類はセルロースやリグニン、ヘミセルロースごと分解してアリ達が消化しやすい養分に変えるので、ミュルミドーンは荒れ地であっても植物を育てて農業ができる。光合成産物を無駄なく利用する技術と言えよう。

 菌類の養分は植物遺骸の他に動物や人間の死体、そして、排泄物である。ミュルミドーンは仲間も含めてそういった物を菌類の養分にしてしまうのでアリ社会の清潔が保たれている。

 地上で農作業や河川の灌漑に勤しむ働きアリはミュルミドーン保安隊によって警備されている。

 それ故、他の人種が利用できない荒れ地であってもミュルミドーンなら文明を築ける。

 怪力と頑丈な肉体、個体の犠牲を厭わない膨大な人口により、強固な地下都市を運営する。

 とりわけ戦争に長け、ハルピュイア以外の人種では絶対に勝てない。

 それでもミュルミドーンが世界を征服しない理由は多様性の尊重にある。他の文明がミュルミドーン社会の発展に供すると考えられているのだ。

 それでも他国が露骨に敵対してミュルミドーン社会を害することが明らかになれば戦争になる。その場合、確実に敵対勢力が滅ぼされる。しかも、鏖殺戦を戦闘教義ドクトリンとするミュルミドーンは敵を1兵卒に至るまで皆殺しにする上、非戦闘員である一般国民まで鏖殺する。

 頑丈で力強く、命を惜しまないアリ兵士による人海戦術は他の人種にとっては悪夢でしかなく、交戦したところでほぼ勝ち目がない。

 だから、他国からは『ミュルミドーンとは交戦すること自体が自殺行為』と言われている。

 他の人種がミュルミドーンの地下都市に住み込むこともある。

 その特異な社会形態から“孤児”という概念がないので、他の人種から見れば親なしの子供でも暮らせるというメリットがある。幼虫の育児のついでに他の人種も育ててもらえるのだ。もっとも“個人”も“私”の概念も教わらないのでミュルミドーン的な考え方をする人間に成長してしまう。

 また、ミュルミドーンは発声に重大な問題があり、人類共通語が話せない。本来、第1肢にあるクシ状の器官と大顎をこすり合わせたり、打ち鳴らしたり、それでミュルミドーン語の言葉を作る。特殊な言語を喋るわけで他の人種とは発声の方法が根本的に違うのだ。魔法の拡声器もあるが、それとて同じことでミュルミドーン語しか作れない。

 他の人種は打楽器のような道具でミュルミドーン語を表現するしか、意思疎通の手段がない。

 ミュルミドーン国家としては宗教についてあまり関心がなく、個々のアリ達の選択に任せている。そして、個々のアリ達は自分の仕事に供するご利益の有りそうな神様に祈る。そこに祈りはあっても信仰心はない。損か、得か、只、それだけだ。

 国家は効率重視で運営され、祝い事や忌み事もほぼなく、すべての物事が淡々と進められる。

 女王アリと羽アリを除く社会の構成員がほぼすべて姉妹であり、ほとんど競争はない。上下の別もなく、二人称は「お前」で一人称の「自分」はあまり使われない。

 感情の起伏が薄いように思われることもあるが、戦争や女王の誕生などで激しく興奮する。

 個人の価値が薄く、女王アリですら必要に応じて死ぬ。自己犠牲が当たり前の社会である。

 勤勉で怠けることを知らず、命を惜しまないのでこの上なく勇敢に見えるが、勇敢なのではなくそもそも死への恐怖がない。単純に女王アリへの忠誠心に篤く、決して裏切らない。

 「巣」を単位として考えると代替わりがあるので女王アリもまた「消耗品」であり、部族としては“不老不死”とも言える。

 そして、見かけ以上に人口は多い。

 蛹は休眠状態になると非常に高い耐久性を得る。

 戦争や災害などの緊急時にはこの休眠状態の蛹を羽化させて兵力を増強させて対応する。一気にとんでもない数の戦力増強が見込まれ、その軍事力は圧倒的である。

 若い女王アリが率いる巣や脱走した羽アリなどが冒険者になることがある。

 労働力としても兵力としても最上級の逸品なので「巣」を単位として他の国家に雇われることもある。

 女王アリを筆頭に兵隊アリや羽アリ、働きアリ、学者アリなどで構成され、階級により能力や外見の差が著しい。

 どの階級に成長するかは幼虫の時代に与えられる養分の質によって決定される。


・女王アリ♀

 平均身長3.3mの平均体重1440kg、大柄で2対の翅があり、空を飛べる。多くの娘達にかしずかれている。魔気容量は大きく平均値300gdrもある。

 部族の存亡に関わるほどに重要な個体であり、非常に大切にされている。

 ミュルミドーン社会を支配する独裁者であり、1部族に必ず1人という条件がある。

 自主独立が求められるが、“私”や“個人”の概念は希薄で、“自分も含めたミュルミドーン社会の発展”を重視する。そして、状況によってはその“自分”を切り捨てることもためらわない。

 冒険者になることもあるが、その場合は1つのミュルミドーン部族がそのまま冒険者パーティーになるので非常に強力。


・羽アリ♂

 平均全長1.1m、平均体重53kgと2対の翅がある。小柄で2対の翅があり、自由に空を飛べる。貴重なのでそれなりに大切にされている。ヒト族よりも小柄だが魔気容量は大きく平均値30gdrもある。

 個性的であることが重んじられるので、ミュルミドーン社会では例外的に“個人”や“私”の概念が認められ、自主独立の気風もある。

 そのため、ミュルミドーン社会から離れて遊学している間に冒険者になることもある。

 その場合、女王アリからも巣からも離れて独立して活動するようになる。


・兵隊アリ♀

 平均全長8.2m、平均体重22000kg(22㌧)、大柄で強靭な肉体を持つ。発達した大顎が特徴で働きアリよりも遥かに大きく、体重にして140倍の巨躯を誇り、パタゴンやリザードマンの軍隊をも圧倒する。

 この大きさは瓦礫街リュッダを悩ます単眼巨人キュクロープスのポリュペーモスよりも少し軽いくらい。

 第1肢の先端は五指にならず、鋭い鎌のような刃になっており、刺したり切り裂くことに適している。金属を含む外骨格は非常に硬く、金属光沢で輝く。

 大顎も大きく鋭く硬い。咬合力も凄まじく、岩なども容易に噛み砕く。対人戦の武器としては過剰であり、主力メイン軍用バトル泥人形ゴーレムなどの魔法兵器を対象にする。

 魔気容量も非常に大きい。魔気容量も平均値500gdrもあり、8種類ほどの魔法を習得できる。戦場では高火力の精霊魔法を連発したり、強固な防御結界魔法を張るなど三面六臂の活躍を見せる。訓練することで魔気容量は1500gdrほどに増え、稀に9000gdrほどに増える者すらいる。そこまで行けば最大級ゲルグンドの精霊魔法を放つ自走砲なので火力が凄まじくなる。

 他のミュルミドーンと同じく、命を惜しまぬ吶喊もこなし、自身の死を前提とするような作戦にも喜んで参加する。

 1人で軍用ゴーレムをも凌駕する戦力はミュルミドーン族の軍事力を支えている。


・斥候アリ♀

 平均全長1.2mの平均体重70kg、斥候に適しており軽くて力強く、その分、働きアリよりも素速い。持久力も高く、睡眠や食事の取れない過酷な任務も平然とこなす。

 体重はヒト族よりもわずかに思い程度だが、パワーは比較にならないほど大きい。しかも素速いので戦闘に際しては敵をスピードで翻弄して手も足も出させない。

 魔気容量の平均値は30gdrほどと高めであり、しばしば優秀な強化&弱化魔法の使い手となる。

 ミュルミドーンだけで構成される冒険者パーティーにいる場合、しばしば斥候と魔導師を兼ねる。

 急ぐ場合は第1肢も含めて六足で走るので更に速くなる。しかも姿勢が低いので被弾面積が小さくなり、矢をかいくぐりやすい。岩や壁、天井も登れるので


・働きアリ♀

 平均全長1.6m、平均体重160kg、中くらいの大きさで6肢の分、若干重い。

 ミュルミドーン社会の9割以上を占め、中核を担う。

 時に労働者として、時に兵士として、時に工員として過酷で危険な仕事も余裕でこなす。デフォルトで自己犠牲が基本であるミュルミドーンの体現者だ。

 怠けずによく働く印象が強いが、一部に怠ける者がいる。彼らは予備役であり、社会の変動に合わせて働いたり、怠けたりしていて、アリ社会に柔軟性を与えている。

 非常に力が強く、体重の5倍の物を持ち上げるパワーを発揮できる。当然、動きも素速く、4肢を操り、とんでもない速度で移動できる。鉤爪のある第2肢&第3肢は強力で垂直の壁もやすやすと登れる。

 ヒト族よりも遥かに大きく、その怪力はパタゴン族やリザードマン族を余裕で凌駕する。

 戦場でも活躍し、個人の死を前提とするような作戦にも喜んで参加する。

 硬い外骨格は頑丈だが、兵士として働く場合はしっかり鎧をまとい、第1肢で武器を持って突撃する。その吶喊はとりわけ強力で基本的に命を捨てた特攻である。

 人海戦術による鏖殺を戦闘教義ドクトリンに組み込むミュルミドーンに適しており、死を覚悟した吶喊はそれを下支えする。

 故に敵からすればこの上なく恐ろしい強敵となる。

 地平線を埋め尽くするほどの巨大アリが武装して突進し、白兵戦を仕掛けてくるのだ。敵兵1人がミュルミドーン兵10人を相手にすることになる。

 そもそもリザードマン以外は体格で劣るため、個の戦闘でも劣勢であるから、それが数を揃えて襲ってくるのだから初めから勝ち目はない。リザードマンが相手でも力と素速さは勝る。

 冒険者として働く場合は女王アリに率いられるミュルミドーンだけのパーティーを構成する。その場合は指揮官の下、魔導師や戦士として働く。人食いオオカミ程度の幻獣ならソロで討伐できるし、2人いれば人食いライオンも余裕で討ち取れる。

 魔気容量の平均値は18gdrで標準偏差が1.7とそこそこ高く、ヒト族の2倍ほど。


・学者アリ♀

 平均身長1.4mの平均体重110kg、小柄でよく発達した触角と複眼を持つ。

 ヒト族よりも小さい。

 著しく知能が高く、魔気容量も大きい。平均値300gdrもあり、訓練することで1700gdrに達する。鍛え上げることで5000gdrを越えるので最大級ゲルグンドの精霊魔法も連発できる者もいる。

 女王アリに意見具申ができる、事実上、ミュルミドーン社会の為政者だ。

 戦場では指揮官として働く。前線には出ないし、自身を犠牲にするような作戦は基本的に立案しない。

 冒険者パーティーに入ることもない。もしも冒険者と行動をともにする場合があれば、護衛対象になる。

 しばしば、個性的であることが求められ、変人も多い。


・アリ国家

 冒険者となった女王アリが他の人種の国家で働くこともある。

 彼女達はいずれ成長して多くの働きアリを生むようになる。その場合は確実に文字通りの国家内国家になってしまう。為政者にとっては頼もしくも頭の痛い存在になりがち。その扱いは慎重を期さねばならず、為政者が受け入れる場合は“巣の総人口の制限”や“巣への定期的な視察”などを求めることが必須となる。

 しかし、それは他の人種にとってはチャンスでもある。

 女王アリと友誼を結んで国土の地下に棲んでもらえれば強力な軍事力が得られ、外敵に対する完璧な国防が成り、まさしく国家の基礎を任せられるのだ。

 これが“アリ国家”である。

 その場合は光合成産物を含む様々な物資を提供する代わりに国を守ってもらえる。その軍事力の中には他に並ぶ者のない、巨大な兵隊アリも含まれるので、他国に見せつけるだけで強力な戦争抑止力にもなる。

 だから、しばしば、街の周囲を練り歩く軍事パレードを行ってもらうことで為政者は民からの信頼を得られるのである。

 もちろん、他国からの侵略であればミュルミドーンが参戦してくれるので負けはない。只、相手国が非戦闘員である一般の国民も含めて皆殺しにされることが避けられないので、おいそれと戦争はできなくなる。

 しかも、糞尿の処理も任せられる。それらもまた菌類の養分として利用できるからだ。

 その上、ミュルミドーンは巣の衛生環境にこだわるのでついでに街の衛生管理もやってくれる。

 もっとも、よいことばかりでもなく、他の人種を守るミュルミドーン達は攻撃のための戦争に参加してくれない。あくまでも国土、ミュルミドーン達の巣を守っているだけなのである。だから、内乱の鎮圧や治安維持には働いてもらえない。

 また、ミュルミドーンの巣が拡大して他国の領域を侵したとしてもそのまま自分達の国土にできるわけでもない。ミュルミドーン達が当該地域の為政者と新たな交渉を始めてしまうからだ。

 必ずしも都合のよいものではないが、アリ国家になることは小国にとってかなりのメリットがある。

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