第2回/話

「今日ね、いいことがあったの」


〈ほう。それはおめでとうございます〉


「どんないいことがあったのかって、訊かないの?」


〈どんないいことがあったのですか?〉


「好きな人ができた」


〈それはよかったですね、ミス・シロップ〉


「フェルディナン・ド・ソシュールって知っている?」


〈存じ上げませんが。どちら様でしょうか?〉


「その人が、好きになった」


〈その人が、誰を、好きになったのですか?〉


「その人を、好きになったの」


〈誰が?〉


「私が」


〈なるほど……〉


「ん? 何か変なこと言ったかな、私」


〈貴女はいつも変ですよ〉


「そうかな……。……あ、まあ、でも、そうかもしれない」


〈素敵です〉


「どっち?」


〈何がですか?〉


「変なのか、素敵なのか」


〈変だから素敵なのですよ。また、素敵だから変なのです〉


「よく分からないけど……」


〈国語のテストは、如何でしたか?〉


「あ、久し振りに、九十点採れた。デスクが教えてくれたお陰だよ。どうもありがとう」


〈努力したのは貴女です〉


「デスクって、男性なの? それとも女性?」


〈さあ、どちらでしょうか。私も存じ上げませんが、貴女が望む姿になりましょう〉


「じゃあ、男性だ」


〈恋人ですか?〉


「友達です」

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