第7話

 僕はその後星々を転々とした。

 花より小さな蟻になったり、延々と部屋の掃除器をかけていたり、誰もいない街中で何かから逃げ続けていたり。


 喜び、悲しみ、驚き、恐怖……知っていた感情のそれをまるで初めて知ったかのような感覚でいられたのは、なぜだろう。

 今までに感じたことのない新鮮な感覚を、僕は取り戻した。


「支度が出来たのね、支度が出来たのね」


 不思議に顔を傾げた僕の手を指して、少女が言った。

 僕は自然と両手をおわん型にすると、そこにあの青い光が溢れ始めた。

 月はもう目の前だ。


「あの星に行くための切符なのよ。その中には、たくさんの種があるの」


 僕は跳んだ。途端に、一緒に飛んだ少女が大きくなり、僕を包み込む。

 あたたかな、懐かしい感覚がする。


「ああ、愛しいお空に抱かれて。あなたは何処へ行くの?」


 遠い昔、微かに知っている言葉。


「何処へだっていけるさ、あなたに貰った切符があるから」


 少女が満足げに微笑んだ気がした。


「さぁさぁ、お行きなさい。月の光を辿って、大きく息をするのよ」


 そのままそっと、僕は月の光の道に降ろされた。

 長い長い道を辿って、やがて目の前に青い星。道中拾った星屑が、光の切符の中で輝いた。

 青い光以外何も見えない。あの光の中に何があるんだろう。


 僕はゆっくり、青い光の中へ踏み出した。



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