第5話
そこは花畑だった。
風が上空に向かって吹き、花びらが空に吸い込まれていく。
「花が笑えば実がなるのよ」
少女は花冠を作っていた。
僕はまるで景色の一部になったみたいに、少女の様子を見守っている。
「雨が上がったら種になって、流れてゆくのどこまでも」
僕からは見えないが、少女が座って花冠を作っているその先に、崖があるように思われた。今にも落ちてしまいそうな、ハラハラとした感覚が胸の底にある。
「お空に向かって、大きな花を咲かせるのよ」
少女が立ち上がった。同時に強い風が吹く。花畑の花を巻き上げて、ぐらり、少女の身体が傾いた。
まるで自分が崖から落ちるみたいに感じて、心臓が縮み上がる。息も詰まる。僕は弾かれたように駆けだし、今まさに崖から落ちようとする少女に手を伸ばす。
「?」
次の瞬間には、僕は崖から落ちていた。どこに手を伸ばしても掴むものは無く、どうあがいても身体は落ちていくばかり。
崖の上では少女が花冠を作っていた。
全身の筋肉が収縮する。心臓もいっそう縮こまる。落ちていく浮遊感が妙に生々しかった。
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