第8話 その罠、奪われました

 アナグマの罠を設置して四日目、二箱ともアナグマが掛かっていた。

 罠ごとそりに乗せ、管理人のいる小屋まで運ぶ。


「おかげで目に見えて被害が少なくなったよ」

 農場の管理人が俺たちを労った。

 初日の3匹はできすぎだったが、翌日も2匹、そして今日も2匹だ。


「それは良かったです。それではまた罠を設置してきますので」

「いや、そのことだが、もう大分捕まえて貰ったから、あとはこっちに任せてもらえればいい」

「と言うことは、もう終わりですか」


「農場主が、罠だけあれば解決すると言い出したんだよ。申し訳ないが、この罠を譲ってくれないか」


 アナグマを捕りきる前に、この様に言われるのではないかと懸念していた。

「それって、もうお終い、という事でいいんですか」

 一応きちんと確認しておく。

 ロビンは不満そうな表情をしている。


「ああそうだ。お終いだ。悪いが罠もこのまま譲ってくれ。そう言っても、材料代を出したのはこちらだから、気持ち程度しか罠の代金を渡せないが」


 もう少し罠を続けたがっているそぶりを見せているロビンを促した。

「ロビンお姉ちゃん」

 俺はロビンの裾を引っ張って、帰ろうと合図をした。


「こちらこそ今までありがとうございました。お役に立てて良かったですわ。教会への寄付もよろしくお願いしますわね」

 にっこりと笑みを浮かべるロビン。


 ロビンの心の中では、お金が得られないことよりも、串肉を食べられなくなることで、はらわたが煮えくり返っているような気がする。

 ロビンは串肉を売りながら、時々つまみ食いをしていたのだった。

 俺はつまみ食いを見越して、ロビン用(つまみ食い用)の串も作っていたので、売り上げに影響は出なかったのだが。


 個人的なことを言わせて貰えれば、お金よりも、お昼のスープが美味しくなっていたので、ちょっと残念だった。


 大部分のお肉は、露店販売で売っていたが、骨から取り切れない部分や、売り物にならない部分の肉は、教会で出すお昼のスープになって、みんなの笑顔に変わっていたのだった。


 結局、害獣退治や露店の販売、罠の作成費等で、総額50シルを手に入れたのだった。



◆◆◆



「ロビンお姉ちゃん、このお金で何を買うつもりなの」

 最後の露店をした帰り、ロビンに尋ねた。


「まあどうせ分かることだから、教えてあげるね。シスターや、教会に来る女の子たちに、髪飾りを買ってあげたいのよ」

「なんでみんなに買ってあげるの」

「この間、クロエちゃんが、髪飾りのお店の前を通ったときに、髪飾りを欲しがっていたのよ。私は教会に来る前に貰ったものがいくつかあるけど、人にあげられるものでもないし、女の子はどんなところにいてもおしゃれの心を持っていなくちゃダメだと思うのよ。ラルフ君にはちょっと難しかったかな」

 ロビンは首を少しかしげながら、俺に答えてくれた。



 クロエは、教会のシスター見習いの女の子だ。

 年は俺の兄と同い年の5歳。

 シスターの仕事も手伝ってはいるが、どちらかと言えば、兄たちと遊んでいる方が多い。

 兄たちのグループでは、お姫様のような扱いだ。


「ふ~ん、それでお金足りるの」

 俺はよく分からない振りをして俺の取り分の確認をした。


「ラルフ君の欲しがっていたものも十分買えるわよ」

「良かった」

 無邪気な笑顔を作って見せる。

 俺の見た目はまだ3歳なのだ。

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