第7話 そのモグラ、盗まれました

 俺は、罠を試作して、さっそく農場に仕掛けに行った。

 現場(農場)を見て俺は、大きな間違いに気が付いた。


 畑を荒らしていたのは、モグラじゃない。

 それよりも大きな動物だ。


 そもそもモグラは、農作物を食べるわけではない。

 ミミズを餌にしているのだ。


 ところがこの畑では、農作物が食べられている。

 モグラの穴らしいものもあるが、もっと大きい穴もある。

 モグラをいくら捕まえようが、まったく意味はない。


 俺はロビンに説明して、農場主と再交渉してもらうように頼んだ。

 罠を作るのに今度は材料費も掛かる。

 余り物だけで、この害獣は仕留められない。


 とりあえず、新しい罠を作るまで、モグラ罠を仕掛けることにした。

 モグラも害獣には違いなく、実際に畑を荒らしているのだから。


 翌日、材料が揃い、罠を作って農場に行った。

 案の定、モグラ罠にモグラはいなかった。

 しかし、俺の仕掛けた罠には血痕が付着していた。

「ロビンお姉ちゃん、モグラは罠に掛かっていたようだけど、食べられちゃったみたい」


「私の1ブロンを盗んだのは誰なの」

 ロビンが怒っている。

 欲深い。

 たった10円じゃないか。

 チロルチョコ一つも買えない金額だろ。前の世界では。

 しかしこの世界で俺はまだ1円も稼いだことはない。

 ロビンが欲深いというより、この世界で金を稼ぐ苦労を俺が知らないだけなのだろう。


「ちょっとそんなことより、設置を手伝ってよ」

 俺はそりに載せていた新しい罠の設置を淡々とこなす。

 ロビンにも当然手伝ってもらう。


「本当にこんなものに入るの」

 ロビンが疑問を俺にぶつける。


「多分ね」

 俺は軽く答えた。

 多分大丈夫だ。

 罠が壊れなければ。



◆◆◆



 農場主との交渉は、ロビンの交渉術のおかげで成功裏に終わっていた。

 害獣1頭につき1シル。つまり千円ほど。

 罠の代金は農場主持ち。

 もっとも材料代だけだが。

 捕獲した獲物は、教会で処分して構わない。

 つまり、肉を手に入れられる。

 これは大きい。


 俺達は設置が終わると、すぐに教会に戻り、明日の準備をする。

 獲物を捕まえたら捕まえたで、その処理が待っているのだ。


 翌朝、ロビンと農場に向かうと、しっかりと罠にアナグマが掛かっていた。

 箱罠を2つ設置したのだが、一つにはなんと2頭も入っていた。


「これで3シルね。ラルフ君凄い」

 俺は喜んで興奮したロビンに抱きしめられて息が苦しい。

「ロビンお姉ちゃん、まず管理人に見せて、報酬を貰わないと。逃げられたら報酬が貰えないよ」

 俺は何とかそう言って、ロビンの抱擁から抜け出した。


 アナグマは、農場の管理人に見せた後、あっさりと処分された。

 俺たちがもう一度罠を設置している間に、管理人がサービスで捌いてくれた。


 食べるための処理が面倒な内臓は、管理人が引き取ったので、俺たちは、他の部位を持ち帰った。

 それでも結構な量があった。



◆◆◆



「ロビンお姉ちゃん、ここからが本番だよ」

 俺は、そりに七輪の大きいものと炭を追加した。

 異世界では、雪が降らなくても、そりを運搬の道具として使っているのだ。

 魔法を使うと、そりは便利な運搬用具になるのだ。

 地面とそりの抵抗を魔法で消すのだ。

 異世界で、馬車はあるものの、近場ではあまり使わない。

 魔法があるので、そりで大きい物や重い物を運べるのだ。

 馬車は、長距離の移動に使われるのだ。



 俺達は、鉱山から仕事帰りの鉱夫をメインターゲットに、町中の広場で串肉の販売を始めたのだ。

 大ぶりの肉を刺して焼いた串が1本30ブロン。

 1頭から大体20本分取れる。

 今日は3頭分の肉があるが、60本を無理に売ろうとは思っていない。

 余ったら、翌日のスープになるだけだ。


 仕事帰りの鉱夫達を呼び寄せるため、その場で焼いて、香ばしい匂いをまき散らす。

 俺達の他にも、焼いた肉を売ったり、スープを売ったりしている露店はあるが、俺達ほどの香りは出ない。

 更に言えば、材料費が無料なので、価格を抑えている。

 これも有利に働くだろう。


「お嬢ちゃん、ここで売るのは初めてかい」

 ロビンにそう言って、串焼きを買っていく客が多い。

 初めての店で、物珍しがって買って行くのだろう。

 中には、2本3本と買って行く客もあり、瞬く間に売り切れてしまった。


「ラルフ君、今日だけで20シルも稼いでしまったわよ」

 帰りのそりを引いている俺に、ロビンが感動したように話し掛ける。

「21シルですよ。全部売れてラッキーでしたね」

 想定以上の結果だったが、俺は感動を表に出すこともなく答えた。


 まあ売れて当たり前だったんだろう。

 あの串一本で、大人一人が夕飯にできるくらいの量なのだ。

 それを広場の平均よりも安く出したのだから売れるのは当たり前だ。

 懸念していたのは、初めての店に客が付くかどうかだけだった。

 香ばしい香りで釣ったら、あっという間に客が寄ってきたのだが。


「君は感動が薄いわ。3歳とは思えないわよ」

 俺の体は3歳に間違いない。

 前世での経験を入れれば、ロビンよりも年上だが。

「もうすぐ4歳です」


「ラルフ君が作ったかまどもびっくり。小さいのにきれいにお肉が焼けるし」


 俺は、露店販売のために、土魔法を使って七輪ぽいかまどを作ったのだった。

 やはり炭の持ちがいいし、余計な油は落ちるし、その油が焼けていい匂いを出す。

 他の露店は、直火焼きや鉄板焼きが多い。

 直火より遠赤外線。

 このかまどを使えば、肉が手に入る間はコンスタントにお金を稼げる。

 さすがに3歳児が売る訳にはいかない。

 ロビンに売らせて、稼げるだけ稼ごう。

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