第6話 そのシスター、欲深い
教会の中にも少しばかり畑がある。
ここでは、促成栽培に向いた野菜や、収穫後、日持ちするような野菜を中心に育てている。
教会では、共働きで預けられた子供たちに、昼ご飯を提供しているほか、日曜日には炊き出しを行っている。
その時にも使うが、当然、シスター達の食料にもなっている。
更に言えば、共働きの親からは多少のお金を貰ったり、寄付により教会の炊き出しは運営されているが、それだけではやはり足りない。
寄付プラス自給自足が基本なのだ。
毎日雑草を抜いて、水やりを行い、丁寧に育てている。
俺は少しでも収穫を上げようと、収穫後の畑を土魔法で耕して、畝を作っている。
「ラルフちゃん、今度の炊き出し、ちょっと野菜が足りなくなりそうで困ってるの」
シスターのロビンが俺に話し掛ける。
「どうして」
「実は、いつも野菜を貰っている農場からの援助が少ないのよ」
炊き出しのスープの味や量は大切だ。
量が少なすぎたり、不味過ぎたりすると、篤志家の心証を悪くしてしまう。
炊き出しは、お金のない人だけが食べるわけではない。
こんなしょぼい村だが、当然貧富の差はあるのだ。
お金のある人も礼拝で教会を訪れて、炊き出しを食べて、寄付をするのだ。
つまり、味や量が寄付金の額を左右すると言っても過言ではない。
「野菜を買うにも、お金がね。お肉を買う分が少なくなるし」
これは俺にとっても大問題だ。
教会に預けられている子供たちは、お昼ご飯を教会で食べさせてもらっている。
親が多少金を出してはいるものの、それだけでは足りない。
足りない部分は、寄付によって賄われている。
俺たちの食事も打撃を受けるということだ。
「話を聞けば、農場でモグラが大発生しているらしいのよ。どうにかならないかしら」
これって、俺に相談しているのだろうか。
それとも愚痴をこぼしているだけだろうか。
俺は大人並みに魔法を使って教会の仕事を手伝っているが、まだ4歳になっていない。
もうすぐ4歳になるのは間違いないが。
「そだねー」
適当に相槌を打つ。
そのうちロビンから本音が出てくるだろう。
「うまくモグラ退治ができたら、お金くれるらしいのよ。私も欲しい物とかあるし」
ロビンの本音が駄々洩れした。
なんかダメな大人の見本のような理由だ。
もっともロビンは14歳になる女性を大人と見るか、子供と見るかはその属する世界によると思うのだが。
「罠でも仕掛けたら」
一応アドバイスしてみる。
この次に返ってくる返事で、どうしたいのかが分かると思う。
「罠って、誰が作るの」
自分で作る気はありません、という立派な丸投げ行為の返事が返ってきた。
「誰でもいいんじゃないですか」
「誰でも、ということは、ラルフ君でもいい訳だよね」
今の俺は3歳だ。もうすぐ4歳だが。
どこの世界に3歳児とか4歳児に面倒ごとを丸投げする奴がいるんだろう。
でも、ロビンを無下に扱う訳にはいかない。
俺が魔力切れを起こしたときは、いつもベッドまで運んでくれる優しいお姉さんなのだから。
一緒に昼寝をしてサボるのは御愛嬌だが、ロビンは良い匂いがして一緒に昼寝をすると、安心して眠れるのだ。
「罠を作る材料費がありませんよ」
「いくら必要なの、いくら欲しいの」
ロビンが喰いついてくる。
俺が罠を作れると確信しているんじゃなかろうか。
「僕は買い物したことがないんです。いくら必要なのか分かる訳ないじゃないですか」
「それもそうだわね。じゃあ、必要な分出してもらおうよ」
俺は急遽、教会の畑から、モグラが大発生している農場まで連れて行かれることとなった。
◆◆◆
ロビンは農場主に、いつも通り野菜の援助を要請する振りをして、モグラ退治の話にうまく持っていき、報酬や罠の材料費の請求を始めた。
シスターは、こういう交渉も得意じゃないと、教会の運営ができないのだろう。
結局罠の材料は、農場で余っている資材を使うならタダ、報酬はモグラ1匹につき1ブロン、100匹につきボーナスで10ブロンが出ることになった。
この世界の貨幣は、銅貨がブロン、銀貨がシル、金貨がゴル、という単位になっている。
価値としては、1ブロン10円、100ブロンで1シルとなり1000円、100シルが1ゴルとなり10万円くらいと思えばいい。
俺の基準からすると、モグラ退治の報酬は激安だ。
割に合わない。
しかし異世界では、そんなものらしい。
モグラ100匹捕まえて1100円、コンビニのバイト1時間分だ。
全く割に合わない。
「1000匹捕まえれば22シルになるんだって。ラルフ君頑張ってね」
ロビンはウキウキしながら張り切っている。
モグラの生態や繁殖についてよく知らないが、一つの農場に1000匹もいるんだろうか。
そもそも俺は、素直にロビンの手のひらで踊るつもりはない。
「そのお金って、全部僕が貰えるの」
意地悪をして聞いてみた。
「えっ、ラルフ君お金欲しいの」
びっくりした表情のロビン。
やはり全部自分で貰うつもりだったらしい。
「僕が罠を作って、僕が捕まえるんでしょ。ロビンお姉ちゃんは何をするの」
「小さい子はお金を貰っちゃいけないんだよ。お母さんからそう教わらなかった」
小さい子に諭すようにロビンは答える。
こんなバレバレの嘘をつくとは。
もう少しからかってやる必要がある。
「じゃあ、ロビンお姉ちゃんが罠を作ってモグラを捕まえてね。僕は他のシスター達と教会でお仕事しているから。ロビン姉ちゃん頑張ってね」
「ちょっと待って。ラルフ君はいくら欲しいの。半分までなら出すわよ」
「僕は教会に戻るね」
「だから、ラルフ君、お姉さんはどうしても欲しいものがあるのよ。お願いだから手伝って」
ロビンが泣きついてきた。
普段から昼寝をしてサボったり、欲しいものを買うために子供を使って上前を撥ねようとしたり、本当にダメな人間だ。
そういうダメ人間なら、俺の思い通りに使っても心が痛まない。
「じゃあ、僕の計画に付き合ってね」
俺はにっこりと笑顔を作りながら、ロビンを俺の計画に引き込むことにした。
計画と言っても大したものではない。
俺にだって欲しいものがある。
それを買えるだけのお金が手に入ればいいのだ。
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