第20話ベルモルト辺境伯家
レイが、ラタネ村周辺に広がる、ネルメスト大森林で、盗賊に襲われ消息を絶って2年、ベルモルト家は、以前の明るさはなく、人がいるのに活気がなく皆静かに動いていた。
ベルモルト辺境伯領は、レイがいなくなってから、領地は大きな変化が起きていた。
広大な辺境伯領の穀物地域は、2年連続不作が続き収穫量が激減し、領主や文官は毎日対応に追われ、領主官邸では毎日遅くまで、対策会議が行われていた。
文官の一人が、力なく報告していく
「西部地域6町村の穀物地域は、前年の2割減となりました。
その前の年も同じくらいなので、2年前から4割減の収穫になっています。」
「東部地域5町村の報告を致します…」
領主のバトラーは、肩を落として報告を聞いている
「いったい何が起こっておる…
どの地域も前年より収穫量が減っているとは…
昨年度だけではなかったのか…
シモンズ対策は行ってたのか?」
シモンズは、全地域に対策を行った。
補助金を出し、収穫を向上させるために、各地域に、農地を収穫まで放置するでなく、巡回させ害虫や魔物などの対策をしていた。
結果魔物や野生動物からの被害は、前年より大幅に減ったと、報告を受ける
「では対策がなかったら、もっと悪くなっていたと言うことか…
皆申し訳ないが、各地域の農作物の収穫量と、収穫物の報告書をまとめてくれ、明日もう一度話し合う」
文官が立ち上がり、会議の終了を告げる
「では皆様、今日の会議はここまでです。お疲れ様でした。」
ガチャ
会議から戻ったバトラーは、馬車から降り、出迎えた執事に、屋敷内の様子を聞く
「バスタよ、ミザリーの様子はどうだ?」
執事は荷物を預かり、移動しながら説明をする
「はい!ミザリー様は、今日はご気分がよかったのか、昼間はベッドから起き上がられて、窓の外を見ておられました。
アイラ様は、今日も朝から、つい先ほどまで、剣と格闘術の鍛錬をしていました。」
「そうか… 儂はこのままミザリーの部屋に行く」
コンコン
ガチャ
バトラーは、急ぎミザリーの部屋に入り、ベッドで眠る妻の手を握り話しかける
「ミザリーよ、レイの事はいい加減忘れよ。お前のせいではない!
巧妙に仕組まれてたからじゃ!それにミザリーがいつまでも寝ておったら、アイラや達はどうなる。
あの子達は、レイが犠牲になって助かったのだ。
アイラはあれから、忘れるように剣技に打ち込んでおるぞ!
サテラも、戻ってこいと言っても、聞かず必死にレイの行方を捜しておる。
レイが、盗賊に使役する魔物に襲われ、森深くで行方不明になってから、ほとんど食しておらぬではないか、こんなに痩せ細って、このままだとお前まで… ぐっ」
そう辺境伯の第一婦人ミザリーは、レイが行方不明になってから、心労で寝込み、ほとんど食事もとらず、衰弱している。
「あ…ごめんなさい、お迎えもできず…」
バトラーは、ミザリーの手を握り労う
「気にしなくていい、それより少しは食べてくれんか、このままではレイだけでなくお前も死んでしまう…」
ミザリーは泣き崩れる
「あの時、私が近くにいれば、あんなことにはならなかったのに・・ウゥ・・・」
自分の不用意な発言で、ミザリーが出来事を思い出し泣き崩れ、バトラーは慌てて否定する
「ち・違うまだレイは捜索中だ!
不安だろうが、もしレイが見つかってもそんなお前を見たら哀しむぞ!
だから少しでも食せ」
「ぅう・・ホントはわかってるんです。あの子のあの身体で、魔物が多くいる森で生き抜くのは無理だと・・
でも私は、生きてると信じたいの・・」
バトラーは妻の手を握り頷く
「うんうん、レイの事は今もサテラが捜しておる。だから信じて待つのじゃ」
ミザリーはそれを聞き、安心したのか再び眠りについた。
それを見て、バトラーも自室に戻る
しかし、レイがいなくなって2年で、ここまで我が領地が危機になるとは・・
偶然か?ベルモルト辺境伯領は、バイスル王国の食糧庫と言われるくらい、広大な豊かな農地が広がる領地だ。
それが2年連続で不作、しかも天候不順ではない、大地の恵みが減っている状況・・
これが周辺に広がりを見せている。
このままでは、バイスル王国の危機じゃ!
早急に原因を突き止めねば、我が領地だけでなく国が亡ぶ。
気になるのが、未だにレイの事で王妃陛下から問い合わせが来ることじゃ・・
まさかとは思うが、レイの事を何か掴んでる?
一度相談してみるか・・
☆・☆・☆
お兄様…
あの時私がもっと強ければ…
カンカンカン…
カンカンカン…くっ
アイラの鍛練をしていた護衛騎士の一人が発言する
「はぁはぁ…アイラ様、今日はここまでです」
何言ってるのよ…まだまだ… こんなんじゃダメよ
「私はまだやれるわ!」
「アイラ様、剣のきれが悪くなって来ました、ここまでです!」
アイラは仕方なくおれる
「ありがとうノエル」
ノエルは、2年前にサテラと一緒に、アイラとレイを護衛してた騎士の一人だった。
2年前盗賊達の襲撃から、護衛対象のレイを失くして責任を感じ、アイラの専属護衛として、日々アイラの鍛練を行っていた。
あれから2年か…
アイラ様は、あの時の事を悔やみ毎日剣術に打ち込んでらっしゃる。
おかげで、アイラ様と鍛練している私まで、以前よりも剣技のレベルが、格段に上がった。
アイラ様は凄い、スキルのせいもあると思うが、もう並みの騎士では相手が出来ないほど成長している。
アイラ様も、私も2年前の事件がここまで成長させてくれた…
『もう二度と失いたくないから、レイ様が生きていると信じて…』
☆・☆・☆
はぁはぁ…
お兄様は、私とサテラを魔物から守るために犠牲になって、森深く谷底へ落ちて行った・・
今もあの時の事は、目に焼き付いて忘れられない
もうあんな思いはしたくない…
大好きなお兄様は、絶対生きている!
私にはわかるもん…
だから大切な人を2度と失わない!
もうあんな思いしたくない…
私の大切な人を守るために、私はもっと強くなる!
☆・☆・☆
私は、ベルモルト辺境伯護衛騎士のサテラ
私は2年前、取り返しのつかない事をしてしまった。
守るべき護衛対象のレイ様を、盗賊の使役する魔物に、襲われ失ってしまった。
あの時、私がもう少し冷静であれば・・
そうあの時、ミザリー様が、襲って来た盗賊の殲滅に一人で向かわれ、私とアイラ様でレイ様を守っていた。
盗賊の使役する魔物が、次々襲って来て、何とか退けホッとしていた時、突然茂みから、バーストボアが襲い掛かって来た。
私もアイラ様も、突然の襲撃に反応できずにいた。その時、レイ様が私たちを突き飛ばしてボアの牙突攻撃から、守ってくださった。
しかし、レイ様はその攻撃をくらい、レイ様の腹には、ボアの牙が深く刺さっていた。
あのままなら、私たちにも被害が出るはずだった。
でもレイ様は、あの状態でボアの視界をすぐにナイフで奪い、そのナイフを使ってボアを刺激し崖に誘導して、そのままボアと一緒に落ちて行った。
あの光景は、忘れることが出来ない!
レイ様が、身を挺して起こされた行動。
腹に、牙が深く刺さってるにもかかわらず、冷静にその後も、私達に被害が及ばないように行動された事で、私とアイラ様が救われた。
普段はからは、想像もつかないような行動をされた。
よく本当に強い人間は、窮地に陥った時に、その真価が問われると言われるが、レイ様はまさに強者だ!
心の底からそう思った。
もし私に、主を決める機会があるならば、レイ様を主君に、この身を捧げたい!
私の主レイ様、絶対見つけて見せますからね
☆・☆・・
あまりにもショックな光景・・
2年前の盗賊襲撃事件は・・
あの時私は、自分の力を過信しすぎて、本来守るべき存在を忘れていた・・
襲って来た盗賊の挑発にのり、単身で殲滅に向かい、愛する息子の所に戻った。その時目にした光景は、レイが、アイラたちに襲い掛かるバーストボアの前から二人を突き飛ばし、自分が牙突の犠牲になった。
ボアの牙突を受けたレイの腹には、ボアの牙が深く刺さっていた。
私はそれを見た時、完全に冷静さを失いない呆然と立ち尽くした。
あの時は、レイが一番冷静だった。
ボアは、再びアイラたちを襲う気で動き出した時、レイは、ナイフでボアの視界を奪い、そのまま向きを変えさせ崖に誘導し、そのままボアと共に深い谷底に消えて行った。
私は、ただただ茫然としていた。
起こった事が、信じられなかった。
最愛の息子レイが、ボアと共に谷底に消えていく光景を、何か別の者を見てるようで、見送ってしまった。
気が付いた時は、涙を流しながら叫んでいた。
あの時、私が冷静であれば、スキルを使いボアに近づき瞬殺できていた・・
でも結果は、最愛の子供を失ってしまうことに…
あの時の事を、未だ思い出し泣き崩れる
私のレイ・・生きていてほしい・・
☆・☆・・・
私は、ベルモルト家レイ様専属メイドのメリル
今私のお仕えするご主人様はいない・・
2年前の襲撃事件で、深い森で行方不明になったと、あの事件以来、最愛の子供を目の前で失われて、寝込んでしまったミザリー様・・
あの時の事件で、自分に力がなかったからと、剣技に打ち込む、アイラ様とノエル様・・
レイ様がいなくなって2年、明るかったベルモルト家は変わってしまった。
私も、最愛のご主人様を無くし、気力を無くしてしまった。
今はレイ様が、生きていると信じて、お帰りする日を、ただ待つのみの日々を送っている
「レイ様、早くお戻りください、皆様が待っていますから・・」
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