17話。冒険者登録
私たちは城塞都市ゼルビアに到着した。
門兵から訪問の目的を根掘り葉掘り聞かれた。さらに【分析(アナライズ)】の魔法をかけられたが、無事に中に入ることができた。
ホワイトウルフのシロは都市には入れないので、魔王城に帰ってもらった。
しばらく、シロのモフモフ成分を摂取できないのは辛いけれど……仕方がない。
この地域は危険な飛竜が生息しており、魔王の支配領域だった迷いの森にも近いので、魔物に対する備えが厳しい。
都市を囲む城壁の上には、据え置き式の大型弩砲バリスタや、大砲が設置されていた。
あれで撃たれたら、飛竜でもひとたまりもないだろう。
「魔物や魔族がこの都市に潜入することは、まず無理ね……」
入国審査で、すっかり疲れた私はつぶやく。
魔王の血を引いていることがバレるのではと、気が気ではなかった。
「はい。私たちは難なく入れましたが。噂の冒険者狩りというのは、おそらく人間なのだと思います。何を目的にしているのでしょうか?」
ティファが首を傾げる。
門兵から話を聞いたところ、冒険者狩りは殺した相手から金品を盗ったりしていないそうだ。
冒険者に恨みを持つ魔族の仕業かとも思ったけれど、その線は薄そうだった。
一体、何者なのか? 動機は何なのか? 都市の衛兵や冒険者ギルドが血眼になって捜査しているが、手掛かりすら掴めないらしい。
「……でも冒険者になってしまえば。相手の方から、私たちに会いにきてくれますよね」
「先程も申し上げましたが、囮役は私ひとりにお任せください。私はこれでも誇り高きエルフの魔法剣士。決して遅れは取りません」
ティファは自信ありそうに剣の鍔を鳴らした。
「……ティファひとりに危険を押し付けたくないので、それはダメです」
「で、ですがっ!」
「ティファの気持ちはありがたいけど……これは曲げられません」
私は強情に突っぱねる。
「ティファはいつかヴェルトハイム聖騎士団から、家族を取り戻すのでしょう? その時は、私も戦います。今から連携して戦えるようになっておくべきだと、思うんです。
……危険は分かち合いましょう」
「……アルフィン様」
ティファは瞳をウルッとさせた。
「わかりました。でも絶対に無茶はしないでください。ランギルス様たちに申し訳が立ちません」
「もちろんです」
ティファを説得できて良かった。
上機嫌で街を歩くと、やがて冒険者ギルドの看板が見えてきた。
冒険者ギルドの扉を開けると、荒くれ男たちの視線が、一斉に私たちに注がれた。
うっ……怖い……
冒険者狩りを捕まえようと勇ましい気分で来たけれど、気後れしてしまう。
「ちっ……コイツらが冒険者狩りの訳がねぇか」
舌打ちが聞こえてきた。どうやら、だいぶ殺気立っているみたいだ。
それにギルドの広さに対して、人がまばらに見えた。
「だが、冒険者狩りがクエスト依頼をチェックしているみてぇなのは確かだ。フィーナは依頼をこなした帰り道に……」
ボソボソと聞こえてくるのは、やはり冒険者狩りの噂だった。
「ご依頼の方ですか? こちらへどうぞ!」
受付嬢がにこやかに声をかけてくる。
「あっ、いえ……依頼ではなくて、冒険者に成りたくて来たのですが?」
私の言葉に、受付嬢は驚愕した。
「えっ……!? あの今、冒険者狩りという異常殺人鬼が、この街で冒険者を殺して回っていることをご存知無いのですか? 昨晩もひとり犠牲者が……」
「は、はい。もちろん、知っています。犯人には……30万ゴールドの賞金がかけられているんですよね?」
「いえ、懸賞金は上がって、50万ゴールドになりました。今、各地のSランク冒険者たちに声をかけて対策を練っていまして……できれば冒険者登録は、この件が片付いてからか。別の街で行うことをオススメしますが」
「ご、50万ゴールドですか……っ!? それなら、ぜひ冒険者登録をお願いします」
50万ゴールドもあったら、魔王城をすごく強化できる。書庫も手に入って、夢のひきこもり生活が満喫できるだろう。
私は胸躍る心境だった。
「おいおい、お前、正気か? 人の話を聞いていなかったのかよ」
屈強な大男が、私を威圧するように声をかけてきた。
「えっ……聞いていましたが。な、なんでしょうか?」
「アルフィン様に何用ですか?」
ティファが私の前に出て、大男を睨みつける。
「ケッ! 冒険者ってのはな。メイドなんぞ連れたイイところのお嬢様が、お遊び感覚でやれるもんじゃねえんだよ!」
大声で怒鳴られて、私は身を縮めた。
他の冒険者たちからも、あざけるような同意の声が上がる。
「悪いことは言わねぇから、とっとと帰りな!」
「黙って聞いていれば、アルフィン様に対して無礼千万です。今すぐ、口を閉じなさい。さもなければ……」
ティファが腰の剣に手を伸ばした。
「おっ、なんだ。やろうってのか? 上玉のエルフじゃねぇか、かわいがってやるぜ」
「ま、待ってください。私は、ただ冒険者狩りを捕まえたいだけなんです……っ!」
私は慌ててティファの手を押さえて、喧嘩を止めようとした。
その瞬間、冒険者ギルドが大爆笑の渦に巻き込まれた。
「ヒャハハハハッ! こ、こいつは傑作だぜ! 駆け出しの小娘が、あの冒険者狩りを捕まるだと? ハッ、いいぜ。一応聞いてやるが、てめぇ職業(クラス)はなんだ?」
「……く、薬師ですけど?」
前は神官だったけれど、さすがにもう名乗れない。
「薬師だぁ!? ギャハハハ、お、お嬢ちゃんよ、戦闘能力もない薬師が、どうやって冒険者狩りを捕まえるんだか、教えてくれよ!」
冒険者が腹を抱えてあざ笑う。
私は萎縮して、何も言えなくなってしまった。
「そ、それ以上、アルフィン様を愚弄するなら斬る!」
「おー、怖ぇ。エルフ、てめぇはソイツの奴隷か何か? 大した忠誠心だな!」
「……ティファは奴隷じゃありませんよ。私の大切な仲間です。し、失礼じゃ、ないですか?」
私はビクつきながらも冒険者を睨み返す。
「おい受付嬢! 冒険者の登録試験はCランク以上の冒険者と戦って実力を認められることだよな。このお嬢ちゃんの試験官は、俺ってことで良いか?」
「ええっ!? その娘は薬師ですよ? そんな無茶な試験は認められません!
……そのアルフィンさんですか? 大変失礼ですが、ここは帰られた方が……」
受付嬢が心配そうに声をかけてきた。
「……は、はい。えっと、このお兄さんと戦って。勝てば、よ、良いのでしょうか?」
私は震える両膝に力を入れて、答えた。
その瞬間、冒険者ギルドの空気が凍りついたように感じた。
「バカか。あの小娘、怪我じゃすまぇぞ……」
といった呟きが聞こえてきた。
ど……どういう意味だろう?
「そ、そうですが……本気ですか!? 相手はCランク冒険者の剣士ですよ! あなたに勝ち目はありません!」
「へっ。まさか、ここまで頭が弱いたぁな。
いいぜ。薬師ってことは回復薬(ポーション)を持っているってことだよな? なら、ちょいと痛い目に合わせても、構わねぇだろう。
世間知らずのお嬢様に、世の中の厳しさってヤツを教えてやるぜ!」
「その……えっと……よ、よ、よろしくお願いし、まひゅっ」
私は緊張のあまり噛んでしまった。
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