18話。冒険者試験に合格
「ブヒャハハハハ! お、おい、お嬢ちゃん、まさか喧嘩は初めてなんて言うじゃないだろうな?」
ギルドに併設されている試験会場に移動しながら、冒険者はゲラゲラ笑った。
「……くっ、アルフィン様。この男を叩き潰す許可をください」
ティファが歯ぎしりして、今にも男に飛びかかりそうになっている。
「あぅ……け、喧嘩はダメです」
「ちっ……ああっ、わかった。わかった。とりあえず、たんこぶ作るくらいで、カンベンしてやるからよ」
冒険者はイラっとした様子で、訓練用の木刀を取り出すと、私に放り投げた。
「剣術勝負。俺の身体に一度でも木刀を叩き込んだら、お前の勝ちだ。単純だろ?」
私は木刀を握ってみる。
ロイドお父様との剣術修行で使って物よりも、だいぶ軽かった。
そう言えばヴェルトハイム聖騎士団の木刀は、真剣と同じ重さにするために【重量増加】の魔法がかけられていた。
思い返せば聖騎士たちに混じって修行させられて、本当に大変だったな……
『聖女たる者、剣術くらいできなくてどうする!?』とビシビシ、しごかれた。
聖女に剣術は必要ないのでは? と反論することなど、絶対に許されなかった。
私はいつも怒られてばかりだった。
「……こういった訓練用の木刀は、は、初めて持ちました」
「はぁ、冒険者になりてぇんならよ。後衛職でも、護身用に剣を習うことくらいはしておけ。お前、本当に舐めてるだろう?」
冒険者は、非常に怖い顔になった。
「えっ……そんなことは、ありませんが……」
なぜ怒られるのかわからず、私はびっくりしてしまう。
「まあいい。お前は棄権しない限りは、何度でも挑戦できる。俺の剣を一発でも受けて、泣かなかったら褒めてやるよ」
男は嗜虐的な笑みを浮かべた。
「アルフィンさん無理をせず、かなわないと思ったらすぐに棄権してくださいね」
受付嬢が心配そうに忠告をしてくれる。
「は、はい、では……よろしくお願いします」
相手の職業(クラス)は剣士。私と違って剣一筋に生きてきた人だ。全力をぶつけなければ到底、試験には合格できないだろう。
初撃は様子見でなく、最高の一撃でなくては、ダメだ……
私は力を抜いて自然体になった。
「ケッ……構えもしねぇのかよ、ド素人が」
「では、始めてください!」
受付嬢が試験開始を告げる。同時に、私は踏み込んだ。
ヴェルトハイム流剣術【無拍子】。構えも予備動作も無い一撃で、相手の意表を突く技だ。
でも、これは奇襲技。一流の相手には簡単に防がれてしまう。
相手の動きを見て、次の攻撃を組み立てていかないと……
0.1秒経過。
冒険者は動かない。
0.2秒経過。
まだ、冒険者は動かない。
ギリギリまで引き付けてのカウンター狙い……?
0.3秒経過。
冒険者は微動だにしない。
おかしい、さすがに0.3秒も捨ててしまっては、受けることも避けることもできなくなると思うけど……
0.4秒経過。
迷いを捨て、私は今できる最高の剣を叩き込んだ。
「グハ──ッ!?」
胴を打たれた冒険者は、吹っ飛んでいって壁に激突した。
あ、あれ……? おかしい。木刀がクリーンヒットしてしまった。
私は呆然と立ち尽くして考える。
も、もしかして、あの冒険者さんは、初めから私を合格させる気で、手を抜いてくれたのでは……?
周りから不審がられないよう憎まれ口を叩いていたのかも。
「……あ、ありがとうございましたっ!」
私は倒れ伏した冒険者さんに向かって、お辞儀した。
こんな素敵な先輩に巡り会えるなんて、なんて幸運なんだろう。
「ジェイク、おい! しっかりしろ!」
「だ、駄目だ。完全に伸びているぜ……」
冒険者たちが倒れた男性──ジェイクさんの周りに集まって介抱する。
「お見事でございます。アルフィン様!」
ティファが私に駆け寄って来た。
「アルフィン様のご経歴はうかがっておりましたが、ここまでの剣の使い手とは……!」
「えっ……私は剣の才能は無いと、さんざん駄目出しされて来たのですが……?」
今だって、手を抜いてもらわなければ勝てなかっただろう。
「ご冗談を! あっ、アルフィン様の育ての親は、あの人でしたね」
ティファはなにやら納得した様子だった。
「アルフィンさん、おめでとうございます。ご、合格です。そ、それにしても、すさまじい剣技ですね。まるで動きが見えなかったです!
それで登録職業(クラス)は、剣士でよろしいでしょうか?」
受付嬢はなぜか顔を引きつらせていた。
「……えっと? 薬師でお願いします。剣術は苦手なので……」
「き、規則により、最初はFランクからになりますが。アルフィンさんの戦闘能力は最低でもBランク以上かと思います。
剣士などの戦闘職として登録していただければ魔物や野盗の討伐など、アルフィンさんの能力に合った依頼を紹介できますが?」
「……討伐依頼ですか? 魔物と戦ったりするのはちょっと……怪我や病気の治癒などの依頼があったら、しょ、紹介してください」
私は頭を下げた。
「お、おい、冒険者になるのに魔物と戦いたくないって、なんだよ……」
「今度のルーキーは大変人だな」
「てか、剣士じゃねぇのか……」
冒険者たちが、ざわめく。
注目されて、私はたじろいでしまった。
ジェイクさん、負けてくださるのはありがたいですが、ハデにやられ過ぎでは……
あれ、そう言えばジェイクさんは、まだ気絶したままだった。打ちどころが悪かったのかも知れない。
「わかりました……では、薬師として登録させていただきます。作成された回復薬(ポーション)があれば、提出していただけますか? 薬師としての能力評価をさせていただきます」
「わかりました。えっと……これです。これでジェイクさんの怪我を治してください」
私は鞄から【闇回復薬(ダークポーション)】を取り出した。
「な、なんですか……黒い回復薬(ポーション)!?」
受付嬢は目を白黒させた。
他の冒険者たちも、顎が外れんばかりに驚愕していた。
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