2章。聖騎士団との対決

14話。果樹園の精霊ドリアード

 私は魔王城の中庭にやって来た。

 元は美しい庭園があったというこの場所は、雑草が生い茂って、見る影も無くなっていた。


「果樹園を、この場所に作成します」


 そう宣言すると、私に付き従ったティファの持っていた10万ゴールドが消え去った。


『了解。決済完了!』


 荒れ放題だった庭園が平らにならされ、雑草が消滅していく。

 代わりに木があちこちからニョキニョキと生えてきた。緑の枝葉を伸ばした木々は、たわわな果物を実らせる。

 

「なっ。す、ごい……っ!」


 ティファが驚きに声を震わせる。

 私も同感で、目まぐるしく変化していく中庭に見入っていた。


 この果物が食べるだけでステータスがアップするモンスターフルーツなのかな?

 リンゴに似ているが、リンゴより一回り大きかった。甘い芳香が漂う。


『パッパラッパパー! 【果樹園】の設置が完了しました!』


 魔王城の見取り図が、私の目の前に出現し、地上部分に『果樹園』が追加された。


「これがアルフィン様のスキル【魔王城クリエイト】ですか!? 果樹園を一瞬で完成させてしまうなんて……か、神がかっていますね」


「私も驚きです……」


 だが驚いてばかりもいられず、検証に入らなくてはならない。


「この果樹園の果物は、食べるとステータスがアップする、みたいです。た、試してみましょう」


「はい。では私が取ってきます」


 ティファが木に登ろうとすると、鋭い声が飛んだ。


「ちょっと、お待ち下さいですの!」


 私の目の前に、頭に白い花を付けた小さな女の子が出現する。

 あらっ、かわいい……


「我らが魔王城の主、アルフィン様ですのね? 私は樹木の精霊ドリアードのリリア! この果樹園の管理人ですの」


 女の子は軽く会釈した。


「ここの果物が欲しい場合は、私に一声かけてくださいの。勝手に持って行かれると、育成計画が狂ってしまいますの」


「あっ、そうなんですか……ごめんなさい」


「も、申し訳ありませんでしたっ!」


 私たちは慌てて頭を下げる。


「そんなに謝らなくても。おかしな魔王様ですのね。とりあえず、2個でよろしいですの? 今度の魔王様は腰が低いお方で、びっくりですの」 


 リリアが指を鳴らすと、彼女の頭上から果物が2個、落ちてきた。リリアは、それをキャッチして渡してくれる。


「魔王はお父様であって、私ではないのですが……?」


「ランギルス様は精霊に転生されて、魔王としての資格を失っていますの。この城の真の主は、あなた様ですのよ」


 リリアは空に浮かび上がって、果実をひとつもいだ。それを一口齧って、幸せそうに頬を緩ませる。


「美味しぃイイイ、ですの! これは見事なモンスターフルーツ!」


 ドリアードは、モンスターフルーツをガツガツ食べ出した。実に美味しそう……

 私も一口、いただいてみる。


「んんんんんん……っ!?」


 すると、ほっぺたが落ちそうな程、おいしかった。


『敏捷性が1アップしました!』


 システムボイスが聞こえた。食べるだけで、ステータスがアップするというのは、本当だった。


 これは毎日、食後のデザートとして食べるべきかも知れない。

 モンスターフルーツのケーキ、フルーツサンドなんかも良いかも……


「アルフィン様! 私の魔力が1アップしました! 甘くておいしいし……この果物を売ったら大金になるのでは、ないでしょうか!?」


 ティファが勢い込んで提案してくる。

 私とは違うステータスが上がっていた。もしかして、どのステータスが上がるかはランダムなのかな?


「確かにそれも良いけど……う、うーん。これは魔物たちの強化のために使いたいかも……」


 何より聖王国に流れて、敵を強化することになってしまったら目も当てられない。


「あっ。失礼しました。た、確かにそうですね」


「……リリアさん。このモンスターフルーツは、どれくらいの期間で収穫ができますか? 収穫期はいつですか?」


 一瞬で果樹園が完成してしまったため、実を育てるのにどれくらいの時間がかるのか見当がつかなかった。


「良くぞ、聞いてくれましたの! この果樹園は私が魔法で管理していますの。モンスターフルーツの成長促進、病気の防止、雑草の除去、すべて魔法でこなしますの。

 私の魔力が常に満タンなら、一週間ほどで、食べられるまでに成長しますの!」


「そんなに早く……?」


 私は絶句した。


「なので、主様には【魔力回復薬(マジックポーション)】を作って欲しいですの。一日一本! 元気ハツラツ!

 それだけで、果樹園の運営は完璧な状態を維持できますの」


「……なるほど」


 【魔力回復薬(マジックポーション)】は、各種の薬草をすり潰して調合すれば作ることができる。材料集めさえできれば、調合は難しくなかった。

 リリアは、次のモンスターフルーツを頬張る。


「ふぅ! この果樹園のモンスターフルーツは、リリアがセルフご褒美として、一日一個いただきますの! これを味わいたくて、この仕事をしているようなモンですの!」


 かなり食いしん坊な女の子のようだった。

 その程度の報酬で、この果樹園を管理してくれるのなら、とてもありがたい。


「きゅきゅ!?(甘い香りがすると思ったら、果物がたくさんなっているわ!)」


 ウサギ型モンスター、ビックラビットの親子がキョロキョロしながら、やって来た。


「……え、えっと、リリアさん。あの子たちにも、モンスターフルーツをあげてください」


「もちろんですの。リリアの作ったモンスターフルーツは世界一! それを多くの者たちに知らしめますの」


 ドリアードが果実をもいで、ビックラビットの親子に渡してあげる。


「きゅ!(やったぁ!)」


 子ウサギが飛び上がって喜んだ。

 ビックラビットの親子は、一心不乱にモンスターフルーツにかじりつく。余程、おいしいようだ。


「きゅきゅ!(この果樹園は、アルフィン様が私たちのために作ってくださったんですか!? ありがとうございます! こんな上等な果物をいただければ、この子も立派に育つと思います!)」


「きゅう!(お姫様ありがとう! ボク、防御力が上がったよ!)」


 ビックラビットの親子は、私に何度も頭を下げた。


「い、いえ、みんなには、この城を守っていただく訳ですから」


 新設された果樹園の噂は、瞬く間に広がり魔物たちに大好評となった。

 モンスターフルーツ目当てに魔王城への移住を希望する魔物たちが押し寄せてきた。


「ひゅー! すごい! 思っていたより、ずっと美味しいぞ、この果物!」


「うぉおおおっ、よこせぇ!」


「みなさん、まだまだたくさんあるから押さないで、ですの!」


 ゴブリン、オークなどが奪い合うように、モンスターフルーツに手を伸ばしていた。

 ドリアードのリリアが、嬉しい悲鳴で対応している。

 リリアは自分が育てたモンスターフルーツを、みんなが競って食べてくれることに感激していた。


「こんな美味しいフルーツが食べられるなら、ぜひここに住みたいぞ!」


 そんな声に応え、なるべく多くの魔物が魔王城に住めるように、私は地下ダンジョンを増設した。


『パッパラッパパー! 【地下ダンジョン3F】の設置が完了しました!』


 魔王城の見取り図に、地下ダンジョン3Fが追加された。

 王座の間は、4Fに移される。

 ダンジョンが増設されればされるほど、王座の間への到達は難しくなるようだった。


「おおっ! なんて、暗くてジメジメしたダンジョン! 最高の環境だ!」


 コウモリ型モンスターが、喜んでダンジョン内を飛び回る。

 ダンジョンは魔物たちにとって住み良い環境になっていて、みんな喜んでくれた。

 おいしい物が食べられて、みんなにも喜んでもらえて幸せだわ。


―――――――


魔王城ヴァナルガンド


●設備

・薬師のアトリエ

・魔王城放送局

・果樹園

・地下ダンジョン3F(拡張されました!)


●兵器

・魔王の城壁

・煉獄砲

・王城の守護精霊(元魔王ランギルス)

・魔王城の門


●現在の資金

 0ゴールド


―――――――

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