12話。エルフの少女を救出する

「魔物の殺害の禁じだと!? お、俺たちが冒険者家業を廃業だと……!? そんなバ、バカな……ッ!」


 冒険者たちは、呆然自失としていた。


「闇魔法【呪縛(カースバインド)】か。さすがだなアルフィン。

 お前たち信じられないなら、これからも欲望のまま魔物を狩ることだ。ただ、その代償は命となるがな」


 ランギルスお父様が、彼らを冷たい声で突き放す。


「アルフィンが、人が死ぬのは見たくないというので、この場は見逃してやる。消えるといい」


「……くっ!」


 冒険者たちは、悔しそうに唇を噛むが、もう戦う意思は無いようだった。


「ガルルルゥ!(待て。荷物を置いていってもらうぞ!)」


 ホワイトウルフのシロが、冒険者たちの腰袋を爪で器用に払って落とした。


「こ、このわん公! なにしやがる!」


 反射的に冒険者のひとりが、シロに剣を叩き込もうとした。

 私はあっと、悲鳴を上げそうになる。

 でも刃が届く前に、半透明な死神が現れて、冒険者の背に鎌を突き刺した。


「ぎゃああああッ!?」


「ククククッ、制約を破ろうとすれば、死に勝る苦痛を与えてやる。そして、三度目にはお前は死ぬのだぁ!」


 驚いたことに血は一切流れなかったけど、冒険者は白目を剥いて失神してしまった。


「ああッ。な、なんて、恐ろしい呪いだぁ!」


「これが魔王の力か……!」


 残りの冒険者たちが、私を怯えた様で見る。

 え、えーと……


「アルフィンの闇魔法は、例え聖女であっても解除は無理だろう。

 お前たちは帰って、冒険者ギルドに伝えるんだ。この森の魔物を不当に狩ろうとすれば、死の呪いを受けることになるとな」


「うわぁああああっ!」


 ランギルスお父様の脅し文句に、冒険者らは仲間を置き去りにして逃げ出した。


「えっ、あの、呪ったりはしませんよ……?」


 私にそのつもりは無かったけれど。森のみんなを守るためには、この噂が広まった方が効果的だろう。強くは否定しなかった。


「わんわんっ!(アルフィン、戦利品だよ。魔王城を強化するのに役立てて!)」


 シロが冒険者から奪った腰袋を、尻尾を振りながら持ってくる。

 腰袋から金貨がぶつかり合う音がした。アイテムの他に財布が入っているようだった。


「……こ、これって、強盗なのでは……?」


「遠慮することは無い。他人から奪おうことを是とする者は、他人から奪われることも是とせねばならない。

 俺たちに喧嘩を売って、命は見逃してやったのだから。むしろ甘いとさえ言えるだろう」


「そ、そうでしょうか……?」


 私は首を傾げる。


「そうだ。むしろ、罪に対してはきっちり罰を与えないと、あの手の輩は同じことを何度でも繰り返す。

 呪いの付与も戦利品を得るのも、この森のみんなを守るために必要なことだ。

 資金の獲得は、魔王城の強化にも繋がる訳だしな」


「……わかりました」


 多少、罪悪感はあったけれど、私はシロから戦利品を受け取った。

 中を確認してみると、10万ゴールドくらいはあるようだった。


 これなら、魔王城に新しい設備を増やすことができそうだわ。


「あのっ、も、申し訳ございませんでした!」


 エルフの少女ティファが、地面に手をついて土下座した。


「自分の意思ではなかったとはいえ。アルフィン様に剣を向けたこと、幾重にもお詫びいたします!」


「あっ、いえ、えっと……そんなにかしこまらなくても……」


 私はびっくり仰天して、声をつまらせる。


「ティファとか言ったか。奴隷契約で縛られていたのなら、罪に問う方がおかしいだろう? 顔を上げてくれ」


「そ、そうです。私はそんなこと気にしていませんから……」


「そんなことっ!? 打首になさらないのですか……?」


 顔を上げたティファは不思議そうな表情で、私を見た。

 えっ、もしかすると……魔王とか呼ばれたせいで、私を恐ろしい存在だと勘違いしているのかな? 


「お、お父様もこう、おっしゃっていますし……何もするつもりはありません!」


 慌てて手を振って、害意が無いことをアピールする。


「それより、あなたを奴隷契約から解き放てて、良かったです」


「……あっ、あ、あ、ありがとうございます!」


 ティファは恐縮した様子で、さらに頭を下げた。


「私はエルフの里を聖騎士団に滅ぼされてから、ずっと奴隷として暮らしてきて……アルフィン様のおかげで、よ、ようやく自由の身になれました!」


 感極まってティファは、わんわんと泣き出してしまう。


「聖騎士団……? も、もしかしてアルビオン聖王国の聖騎士団が、エルフの里を襲撃して、あなたを奴隷にしたのですか……?」

 

 私はティファの言葉に引っかかりを覚えて尋ねた。

 そんなことは初耳だった。

 聖王国は奴隷売買を禁止している。神に仕える聖騎士団がそんな非道を行う訳がない。


「……は、はい。実は私と家族は、聖王国のヴェルトハイム聖騎士団に、人体実験の被験体として拉致されました。

 私は家族のおかげで脱走に成功したのですが……衰弱していたため、奴隷商人に捕まってしまったのです」


 私は耳を疑った。

 ヴェルトハイム聖騎士団は、ロイドお父様が団長を務めている。

 勇者であるロイドお父様は、いつも厳格に『神に背くようなマネはするな』『聖女として正しく振る舞え』と、教えてくれた。


「そ、その話を詳しく聞かせて下さいッ!」


 私は思わずティファに詰め寄った。


―――――――


●現在の資金

 20万ゴールド(UP!)

 

 10万ゴールド獲得


―――――――

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