11話。アルフィンのステータスに冒険者たち驚く

「なんだッ……召喚魔法!?」


「ティファの傷が一瞬で全快だと。んな回復魔法は有りねぇだろ、って……!?」


 冒険者たちは、口をあんぐり開けて私を見つめた。


「そ、その姿は……か、かわいい! はッ!? 魅了の魔法か何かかよッ!?」


 魅了の魔法? よくわからないけれど……

 冒険者たちは、呆然とするあまり武器を取り落しそうになっている。


「本当に美しい者に接すれば、人は魂を抜かれたようになる。俺の血を発現させたアルフィンの美しさは、魔性の領域にあるということだな」


 ランギルスお父様が、私の頭をポンと撫でた。


「あのエルトシャン王子も同じだ。今後は人前では、なるべくその姿にならない方が良いかもな。変な奴から狙われたら困る」


「……あっ、はい」


 男性が私に魅了されるというのが、まだイマイチ実感が湧かない。


「な、なんだッ、てめぇは!?」


 冒険者のひとりがお父様を睨みつけた。


「この森に足を踏み入れておきながら知らないのか? 俺は魔王ランギルス。この娘の父親だ。俺が魔王城の外に出られるようになった以上、もうお前たちの好きにはさせん」


「……魔王ランギルス様!?」


 奴隷のエルフ少女──ティファが腰を抜かす。

 エルフは人間に奴隷とされてきたため、15年前の戦争で魔王に味方した。そのため、魔王を崇拝している者が多かった。


「ふかしこいんてんじゃねぇ! 確か魔王は勇者ロイドによって討たれたんだろうが!?」


「化けの皮を剥がしてやるぜ【解析(アナライズ)】!」


 冒険者のひとりが、相手のステータスを読み取る【解析(アナライズ)】の魔法をお父様に使った。

 どうやら、彼は魔法使いのようだ。


 自分たちの優位を疑っていなかった表情が、みるみる恐怖に染まって行く。


「ま、魔力6440!

 筋力6200!

 防御力5500!

 魔法防御6600!

 なっ、な、なんだ。このバケモンみたいなデタラメなステータスは!?

 種族識別【上位精霊】。スキル【暗黒剣】だと……?」


 その結果は驚くべきモノだった。


 魔力は4000あれば、世界トップクラスの魔導士だ。

 筋力6200は、古竜をも上回るパワー。

 防御力5500もあったら、もはや通常の武器ではダメージが通らない。魔法防御6600はBランク以下の魔法は、無条件で無効化できるレベルだ。

 さすがは、ランギルスお父様……


「ま、まさか。本当に魔王なのかよ……っ!」


「魔王に娘がいるなんて話も初耳だぞ!」


 冒険者たちは、慌てふためく。


「言っておくが、アルフィンに手を出そうなどとは考えないことだ。この娘は魔力ならすでに俺を越えている」


 お父様が私を庇うように前に出た。


「お、おい! 確認してみろ!」


「わかった【分析(アナライズ)】!

 ま、魔力7400……7600!? バカなドンドン上昇しているだと!?」


 冒険者は私のステータスも調べた。

 ステータスはレベルが上がらない限りは固定なハズだけど、私のステータスは上昇中のようだった。


 もしかすると、変身するとステータスがアップする?

 確かにこの姿になると、力が湧き出して来るように感じる……

 ステータスが変動状態なのは、まだ変身が完全に終わっていないから?


「7800、8000……! ま、魔力8600!? あ、あり得ねぇ。歴代聖女の倍近い魔力だぞ!

 それ以外の能力値もBランク冒険者並だ! あっ……しゅ、種族識別【魔王】……?」


 私の素の魔力は、3800くらいだったので、2倍以上にアップしていた。

 しかも、今まで【分析(アナライズ)】の種族識別は【人間】だったけど、【魔王】になっていた。


「お、おい、こいつら、ステータス偽装魔法とか使ってんじゃねぇのか!?」


「ハァ!? この俺がそんなもんに引っかかるかよ! このステータスは、マ、マジだ……!」


 冒険者たちは青ざめ、逃げ腰になっている。


「……ちょ、ちょっと信じられません」


 特に【魔王】というのが。私はずっと聖女を目指して来たのに、正反対の存在になっていた。


「あまり強大な力を手に入れると持て余すだろうが。それのうち慣れるだろう。元々、それがアルフィン本来の力なのだからな」


 自分でもステータスを確認すると、私の能力値はどれも桁違いな数値を示していた。


―――――――


名 前:アルフィン・ヴェルトハイム


右は魔王の血が発現した状態


体 力: 360  ⇒ 720(UP!)


筋 力: 410  ⇒ 820(UP!)


防御力: 320  ⇒ 640(UP!)


魔 防: 1500 ⇒ 3500(UP!)


魔 力: 3800 ⇒ 8600(UP!)


敏 捷: 240  ⇒ 480(UP!)


種族識別: 人間 ⇒ 魔王



●スキル

【魔王城クリエイト】


Lv1⇒神聖魔法が闇属性になる


Lv2⇒魔王城の兵器召喚


Lv3⇒魔王城の設備が作成可能


Lv4⇒????


―――――――


 特に魔力と魔法防御の数値が突出して高くなっていた。それ以外の能力値も2倍に上がっている。


 魔力8600……

 こんな数値は、き、聞いたことがないわ。自分でも怖くなってしまう。


 だけどどうやら、銀髪では無い状態の時は、ステータスは今まで通りで、種族識別は【人間】であるらしかった。

 これには心底、ホッとした。


「チキショーッ、命あっての物種だ! 逃げるぞ!」


「魔王だなんて冗談じゃねぇ!」


「ティファ、お前は死ぬまで、ここでコイツらの足止めをしやがれ!」


 冒険者たちは、エルフの少女ティファを残して、我先へと逃げ出して行く。


「ぐぅうううっ! お願い、避けてください!」


 ティファは剣を抜いて、私に斬りかかってきた。

 その顔は悲痛に歪んでいる。


 おそらく、自由意思を奪って命令を強要する奴隷契約魔法で、行動を縛られているのだと思う。彼女の右手には、奴隷の焼印が刻まれていた。


「お父様、その娘は……っ!?」


 捨て駒にされた少女を傷つける訳にはいかない。


「ああっ、わかっている。殺さずに無力化する」


 お父様はティファの腕を掴んで、地面に転がした。そのまま、動けないように押さえつける。


「私が、その娘を解放します【解呪(ディスペル)】!」


 【解呪(ディスペル)】は魔法や呪いを無効化する神聖魔法だ。清らかな輝きで、身を縛る悪しき魔法を断ち切る……って、あれ?


 私から放たれた邪悪なドス黒い波動が、ティファを飲み込んだ。


「ああああぁっ!?」


 ティファは恐怖に悲鳴を上げる。


「魔法効果を破壊する闇魔法【破壊呪(ブレイクマジック)】か」


 思っていたのとは違う魔法が、発動していた。


 そうだった、そういう体質になってしまったのだった……


 でも、その効果は同じだった。

 ティファの心身を縛っていた奴隷契約の魔法が、粉々に砕け散るのを感じた。


「……あれっ、わ、私は」


 ティファは目を瞬く。


「……あなたを縛っていた魔法は、私が解除しました。も、もう誰かに命令を強要されることはありませんよ」


「チッ! 足止めもできないのかよ。役立たずが!」


 冒険者たちは逃げながら、魔獣シルバーフォックスに向かって、投げナイフや火炎弾を撃ち込んできた。

 多分、私たちがシルバーフォックスを庇うことを計算に入れてのことだろう。


「〈魔王の城壁〉召喚……っ!」


 私の叫びと同時に、地面が割れてシルバーフォックスを守る城壁が迫り出してきた。

 ナイフや火炎弾は城壁にはね返される。


 さらに冒険者たちの行く手に、飛来した巨大な火の玉が着弾した。大爆発が起こって冒険者らは、悲鳴を上げて吹き飛ばされる。


『アルフィンお嬢様。ヴィクトルでございます。〈煉獄砲〉より、援護射撃をさせていただきました。

 その者らの処罰。どうかご存分に……』


 魔王城放送局より、ヴィクトルのうやうやしい声が響いてきた。

 吸血鬼の視力は、こんな遠くまで見通すことができるみたいだ。彼は狙撃手向きなのかも。


「あ、ありがとうございます……っ」


 起き上がろうと足掻く冒険者たちに、私は歩み寄った。


「……あなたたちには、魔物や他人を殺害することを禁じます【聖縛(ホーリーバインド)】!」


 【聖縛(ホーリーバインド)】は、罪人矯正用の魔法だ。制約に違反しようとすると、頭痛がして実行を阻止する、というモノのハズなのだけど……


 冒険者たちを、出現した禍々しい鎖が締め上げる。

 さらに、彼らに鎌を突きつける半透明な骸骨が出現した……って、な、何かしら、これは。


「我が主が定めし制約を3度、破ろうとした時。我は、お前たちの命をいただく。楽しみにしているが良い。グハハハハハハッ!」


 鎌を持った骸骨は、大笑いして消滅した。

 自分でも予想していなかった効果に、私はたじろぐ。


 【聖縛(ホーリーバインド)】は、何か別の呪いじみた物に変質していた。


「あ、あれ……えっと……」


『おおっ、さすがはアルフィンお嬢様でございます。暴力を生業とする者から暴力を奪うとは……っ!

 この者らには、死ぬより辛い所業でありましょう。もはや冒険者を名乗ることは、できなくなった訳ですからな!』


 ヴィクトルの深く感じ入ったような声が響いた。

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