第13話
リアとの話を中断し俺がやって来たのは国王や上流貴族が食事をしている部屋だった。
酒を片手に全員楽し気に話をしながら料理を食べていた。
部屋の中には十数人のメイドと執事がいて、頼めばなんでもしてくれる。
国のトップの宴会はこんなに至れり尽くせりなのか……。
「勇者バエラルよ良く来た」
「お招きありがとうございます国王陛下、そして上流貴族の皆さま」
「かしこまる必要はない、今宵は無礼講じゃ、ここに居る皆が勇者殿の旅の話を望んでおられる、よければ語ってくれぬか? 旅の話を……」
旅の話しか……。
魔物を殺した時に出る血液は赤く無いとか、人間に勝手売り物にされている魔物の事、それに魔物も俺達人間と同じであると話せば良いのか?
いや違うな……この方が望んでいるのは魔物とは人間の敵であり、邪悪な存在で汚らわしく、人間こそがこの世界の上位の存在であり、その中でも上位人間である自分たちは神にも近しい存在なのだと改めて実感したいのだろう。
「お父様、申し訳ありません遅くなりました」
「ユミリアも来たか。丁度良い、今から勇者殿の旅のお話を聞く所だ」
「そうでしたか、私も是非お聞きしたいと思っていたので丁度良かったです」
俺に少し遅れてユミリアがやってきた。
先ほどまでの砕けた話しかたとは違い、お姫様らしい話し方をしている。
まぁ、王子や他の姫もこの場にはいる上に上流貴族ばかりのこの部屋では当たり前か。
「さぁ、それでは聞かせてくれ旅の話を……」
「はい、分かりました陛下」
俺はゆっくり旅の話を始めた。
「皆さんは旅に出て私たちが最初に遭遇した敵はなんだと思いますか?」
「ふむ、城の周囲にも居るスライムか?」
「はい、その通りです。スライムは意思を持たず、基本は攻撃もしない無害なモンスターです。しかし、魔王の配下に置かれているスライムは人間を敵と認識し攻撃します」
「まぁ、恐ろしいわ」
「しかし、こんな奴らに負けていては勇者は名乗れません。私はスライムを剣で切りつけ前に進みました。森からスタートした我々はスライムを倒しながら前に進み、とある村を発見しました」
「村?」
「まさか魔物の村か? なんと生意気な」
「魔物ごときが村などと」
「はい、おっしゃる通り魔物の村でした」
「まぁ! きっと汚らしくて変な匂いがするに決まってますわ」
最初に見つけた村。
そこにはゴブリン達が住んでいた。
ゴブリンは知能が高く、群れで行動する事の多い魔物で全身が緑色の身体をしている。
しかし、そこで出会ったゴブリンは少し違った。
「そこに居たのは私達と同じ言葉を発するゴブリンでした」
「なんと!」
「ゴブリンが言葉を!?」
「汚らわしい!」
ゴブリンとは通常言葉を話さない。
ギャーギャーと言った鳴き声で仲間と意思の疎通を図っているとこの国では言われていた。
しかし、そのゴブリンは人間のように言葉を使い生活をしていた。
俺はそんなゴブリンを見て驚いたのを覚えている。
「それで勇者殿はもちろん討伐を?」
「えぇ、そうしようとして襲い掛かりました」
「流石は勇者殿!」
「言葉を交わすゴブリンにも立ち向かったのですな!」
「はい……」
確かに襲い掛かった。
しかし……切れなかったのを覚えている。
そこにいたゴブリンはいわゆる非戦闘員だったのだ。
魔王軍の庇護下にあっても戦いを望んでいる訳ではなく、ただそこで平和に暮らしていただけだった。
言ってしまえば普通のゴブリンより弱く、その分知能が高かった。
危機を察したゴブリンたちは俺たちに泣きながら殺さないでと懇願してきた。
俺はそんな魔物を今まで見た事が無く、剣を鞘から抜けずに固まってしまった。
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