第10話


 王国を上げての宴が始まった。

 皆歌や踊れのお祭り騒ぎで王国のいたるところで魔王の討伐を喜んでいた。

 俺は今回の主役として王国で貴族たちと共に過ごしていた。

 着なれない良い服を着せられ、俺は笑顔を浮かべながら貴族のお嬢様方と話をしていた。


「勇者様! 辛く厳しい戦いだったとお聞きしました!」


「お仲間を失ったと……それでもめげずに勇者様は魔王を討伐されたのですね!」


「ま、まぁ……はい」


 正直貴族の女性は苦手だ。

 箱入りのお嬢様ばかりで話しが合わないし、軽くあしらうわけにも行かない。

 仕舞には是非妻になんて話しまで出てくる始末だ。

 しかし、魔王の言った通り権力者を仲間に引き入れなければこの王国が戦場になりかねない。

 なんとかこの宴を利用し、この国の権力者と信頼関係を築かないと……。

 でも、俺にはカリーナがいるし……あんまり女性にべたべたもしない方が……。


「勇者様」


「は、はいなんでしょうか?」


「私はリマスティ家のミエラと申します」


「リマスティ……あぁ、公爵家の……始めまして」


「この度は長旅ご苦労様でした、お疲れではありませんか?」


「いえ、疲れなどはそこまで……」


「うふふ、それは良かったですわ、でも……もしお疲れを癒したいようであれば今晩私の部屋に是非」


 そう言って公爵家の令嬢であるミエラさんは俺に何処かの鍵を渡してきた。

 いや、これって……そういうことだよな?

 はぁ……一人で来て良かった。

 こんなのカリーナに見られたら……。





「はっ!!」


「どうしたのカリーナ?」


「なんだか今、何か嫌な予感が……」


「え? 何予知? 魔法使いの私を差し置いて?」


「い、いえ……もしかしてラルになにか……」


「お熱いわねぇ~、離れていても心は通じてるってやつ?」


「か、からかわないで下さい!」





「ふー、疲れた」


 宴は終わる気配が無く続いた。

 城の中では忙しそうに使用人が働き、街では王国に住む皆が酒を飲んで騒いでいた。

 俺は貴族様達との話しに疲れ、バルコニーに出てきていた。


「魔王討伐でここまで皆喜ぶんだもんな」


 もし本当に討伐していたら、俺はきっと宴になんか出る気になれなかっただろう。

 きっと城にも帰らず、どこかで首を吊っていたかもしれない。

 

「魔族の平和を奪って、人間が平和を勝ち取るなんてやっぱり間違ってる」


 やっぱりこの世に生まれた者は皆等しく平等に幸せになる権利があるはずだ。

 そんな事を考えながら星を眺めていると、誰かがバルコニーに入って来た。


「あら、なかなか私に会いに来ないと思ったらこんな所にいたの?」


「あ、お久しぶりですユミリア姫……って言って片膝でもついた方がいいか? リア」


「うふふ、公の場で無いのだからいつも通りで構わないわ。大変だったわね……」


 ユミリア・アール・フォールミリア。

 この国、フォールミリア王国の第一姫殿下だ。

 彼女とは魔王討伐に向かう以前からの知り合いだ。

 勇者として選ばれ、城で剣術を学んだり修行をするさいに城で何度も会い、話をするうちに仲良くなったのだ。

 本来であれば身分が違い過ぎるため、話すことも出来ないのだが、これも勇者の特権という奴だ。

 長い栗色の髪に小柄で可愛らしい見た目の彼女は国民からも人気がある。

 歳は17歳で俺の一つ年下だ。

 寂しそうな顔をしているのは、きっと仲間達の死を聞いて俺に気を使っているのだろう。

 それに、リアはカリーナやエリンと仲が良く、友人のように接していた。

 瞳が少し赤くなっている所を見ると、部屋で散々泣いた後にここにきたのだろう。


「……未熟だったんだ、俺が……」


「そんな事ないわ、貴方は魔王を討伐してこうして帰ってきたじゃない」


「でも……」


 魔王に生き返らせて貰わなければ、俺は三人の仲間を失っていた。

 それを考えると胸が痛い。


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