次は、あなたの話

「それで?」

「彼女とは関わらなくなりました。私の方から避けたんです。それでも彼女は優しくて、私が告白したことを言いふらしはしませんでした」

「そのあとの恋愛は?」

「…付き合うまではいってません。男性とも女性とも出掛けたけど、彼女ほど夢中にはなれなかった」

「会いたいとは、思わないの?」

「会いたいですよ。でも、悪いことをしたのは私の方だから。突然変なこと言って、勝手に自己嫌悪して、それで解決しようともしなかった。嫌われて当然だ」

「そんなことないと思うけど」

女の人が私を見つめる。その視線と口調にどこかデジャヴを感じながらも、口に出せずにいた。この感覚を言葉に変えるタイミングを掴めなかった。

「その彼女は、別に嫌いになってないと思うよ。だってほら、弱ってるときに慰めてもらってるし、ごめんの言葉の真意も分からないじゃない。何がごめんなのか聞いてないんだし」

「でも、告白の後に言う謝罪は決まってるっしょ?断る以外に何かあるの?」

「ちょ、あんたは黙っててよ。今は私のターンでしょ」

「いやぁ、喋り足りなくて」

「喋った分だけ飲んで店に貢献してくださるとありがたいのですが」

「それもそうだね。お冷おかわり!」

「……今から、水でもお金を取ります」

そんなの酷い、と口を尖らせる柏木さんの奥で、安心したような目の女性と視線が重なる。さっきから拭えない既視感の正体を探る前に、穏やかな声が響いた。

「それで、柏木さんのはまだ聞けないわけ?」

柏木さんは愉快そうに言った。

「そうだね…。じゃあ、いい機会だし話しちゃおっかな。僕が心に残っている恋愛といえば……1つだけ」

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