第11話 武器選び
昼間のうちに設計図を書き上げ、エオスが帰宅する数分前くらいから僕が考えていたのは、パーティーのうちの誰に、どんな武器を持たせようかということである。
近接戦闘職のレオやハイトは、自分の得意な武器や気に入っている得物を持っているだろうから、僕はそれを手入れしたり修理して、常に使えるようにすれば良い。
テオとエオスは魔法使いの部類に入るから、鍛冶屋の作るようなものにはほとんど縁が無いだろう。テオは近接でも戦える
ミシェルもまあ大丈夫だろう。
このあたりまでは考えてすぐに結論が出たのだが、残りの非戦闘職の人に持たせる武器が思いつかない。
戦闘になってしまえば、武器のないエリックやヒサコ先生、そして僕はただの荷物だ。しかもなんとしてでも守らなければいけないような類の、重要で厄介な荷物である。
僕達三人は最低限、自分の身を守れるようにはならなければいけないし、理想を言えば、十分に戦力として数えられるほどにはなりたい。
そのためには、武器を持つだけでなく、それを使いこなせるようになる必要があり、武器に慣れるまでの時間も考えると、この一週間の準備期間のうちに武器を完成させるのが望ましい。
というわけで、今の夕食というタイミングは非常に丁度いいので、そのあたりの相談をしてしまおう考えた。
平べったいパンのようなものを手に取りつつ、僕は話す。
「武器に関して、みんなに相談したいことがあるんだけど、いいかな。」
空気感的には続きを話しても問題が無さそうなので、話す。
「僕の考えでは、今、戦闘職にいない人も、いずれは武器を持って戦うことになると思う。でもって、武器を使うなら、早めに使いこなせるようになったほうがいい。だから、この一週間のうちに、みんなが使いたい武器は一通り作っておきたい。」
「なるほど。いい考えじゃな。」
「そうね。」
賛同を得つつ、僕は自分の考えを話していく。
レオやハイトは近接で、テオは魔法使いだから云々と、先程考えていたくだりを簡単に説明し、何か持ちたい武器はあるかと、主にヒサコ先生とエリックに対して訊く。
「私は、このウクレレがあればなんとかなりそう。」
「楽器でどうやって戦うんだ?」
「そりゃ、聞けば分かるわよ。」
先生はウクレレを取り出し、一音、弦を
先生が二音目を
詩作聖というのは音楽も司る聖でもあるが、たとえ音楽を介さない詩作家の一人であってもやはり、詩作聖に最も近い人と呼ばれるくらいにもなると音楽の才能にも秀でているらしい。
たった二音であってもその旋律が頭の中を反響するようで、どうしようもなくいい気分だな。脳内麻薬でも出ているのかな、うん、ヤバい、眠気で頭が回らなくなってきたな…
と思ったところで隣に座っていたミシェルにビンタされた。
「痛っ。なんで?」
「ハウエル君、なんで気付かないの?今、明らかに体の制御が奪われてたのよ?」
「魔法も使わずにこの威力とは、どうなってるんじゃ。」
「他の四人は…寝ちゃってるのか。」
「まさかみんな、こんなに弱かったなんて。」
ウクレレを弾いた本人さえ驚いている。
「何をしたの?ヒサコ。」
「ほんのちょっと音を奏でただけだよ。秘術でもなんでもなくて。詩作聖会の人って結構華奢な女の子が多いから、音で人を眠らせたりする術っていうのは護身術みたいな感じでみんな使えるように練習するんだよ。」
ミシェルの圧に、ヒサコ先生はたじたじになりつつ、事情を説明する。
ミシェルは小声で何かを呟いているが、よく聞き取れないし、テオも黙りこくっている。
残りの四人も起きる気配は無い。
「明らかに護身術ってレベルじゃ無いし、それだけ出来れば僕が武器を作る必要は無さそうかな。」
「テオ爺にはほとんど効いてなさそうだし、耳が遠かったり聞こえなかったりする敵には使えないわ。やっぱりなにか他の武器が欲しい。」
「儂の耳が遠いわけではない。一音目を聞いた直後に、耳に魔力障壁を張ったんじゃ。」
「とにかく!この技は使えないことがあるから、武器を作って欲しいな!」
「耳がキンキンしよる。」
「元から何かしら作るつもりだったから、良いですよ。で、何が欲しいんですか、先生。」
先生の思うがままに言う、ロマンに偏った性能を持った武器の数々を、無心でメモする。
こんなに大量の発想がよくすぐに出てくるものだと思う。
しかし、ほとんどは鍛冶師の領分を超えた魔法やら謎パワーやらを必要としそうなものだから、僕には到底作れそうにない。
いずれ武器に魔法を付与する技術を学んでみたいとは前世界でも思っていたのだが、結局機会を逃してしまった。
またこの世界で似たような技術を持った人がいれば頼み込んで、教えてもらうことにしようかな。
武器の発想をしているうちにテンションがあがったらしく、先生がやたらと大きな声で話すので、寝ていた四人も順次起きた。
僕は先生との話を一回止め、エリックに話を振る。
僕ばかり夕食の時間を使ってしまって申し訳ないと思いながら皿に残った最後の鶏肉を取り、なにか欲しい武器はあるかとエリックに訊く。
もう夜もやや遅いし、エリック以外の人は解散してもらってもいいと言おうと考えたが、武器選びというのはパーティーのバランスにも関わってくることになるから、一応何も言わないで残ってもらうことにした。
「例の、鉄砲が僕には合ってると思うんだよね。ほら、あれって運の要素が強い武器でしょ。」
技術さえあれば決して運要素のある武器ではないのだが、エリックの言うことも分かる。
鉄砲、と呼ぶと誰かが混乱しそうなので狙撃銃と呼ぶが、この狙撃銃を使って最大射程である二キロ先にある的を当てられた人は一人しかいない。
その人は、何年か前に歳をとって退職しまっているので今も存命かどうかは分からないが、どこかの都市のアーカイブに所属していた、凄まじい視力を持つ壮年の女性だった。
この人との出会いや、狙撃銃を試してもらうことになった経緯などは話せば長くなるので省略するが、狙撃銃で遠くの狙った場所に当てるのは視力という面で困難で、照準の先を極限まで削ったとしてもゴマ粒の中心に毎回
つまり、僕ら常人にとっては、狙撃というのは運の必要な技術の一つということになるのだ。
当然、望遠鏡のようなものを使って遠くを狙えるようにしようとしたこともあるが…
いや、やめておこう。狙撃銃のことを考えていると永遠に時間が過ぎてしまい、話が進まなくなる。
「了解。確かに狙撃銃はエリックに向いてる。多分、完成するのは準備期間の終わり頃になると思うけど、問題ないよね。」
「うんうん。問題なしだよ。」
これで一週間分の予定は確定したな。他にも色々したいことはあったが、設計と鍛冶にほとんどの時間を費やすことになりそうだ。
中途半端に寝て起きたせいでみんな頭が変に冴え、夜も更けてきているのに、誰も眠そうな気配はない。僕も夜更しはよくする質なのでまだ眠くないし、エリックとヒサコ先生が町の話を始めたので、それを聞くことにする。
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