第9話 今後の予定
宴会から帰ってくると、知らぬ間に疲れていたのか、すぐに寝てしまった。
僕は会議を聞いていなかったので今後の予定とかは全く理解していなかったが、レオによると、一週間後にこの神殿から出発するらしい。
つまりこの一週間は、この先の魔王討伐への準備期間ということになる。
みんなの一週間の予定を訊く。
レオ、ハイト、テオは教皇付きの騎士の実力を試しつつ、体が鈍らないように訓練を続けるらしい。
ハイトとテオはもとの世界でもめったにいないような猛者だから“実力を試す”などと言っているが、一ヶ月前まで神官みたいなことをやっていたであろうレオは、実力を試すとか言えるほど強いのだろうか。
エリックとヒサコ先生は町の観光をするとか。楽しそうだな。僕もやることがなければ付いていきたいところだ。
もし早めに仕事が終わったら同行させてもらおう。
ミシェルは自室でゆっくりすると言っていたが、おそらく隠れて何かをやるための口実だろう。
だらしないところを見せたくないから部屋の鍵を閉めるとまで言っていた。
あの人が、勝手も知らない異世界で見られて困るほどだらしなくするとは考えづらい。
エオスは神殿の人と、今後の予定の詳細について話し合うそうだ。
資料と計画を見比べたところで気になったところについて訊いたり、非効率的だったり無駄にリスクのありそうな箇所について改善案を出したいという。
性格には難があるとは思うが、学院の所属というだけあって、論理的に何かを突き詰めるのは得意らしい。
昨日夜ふかしをして計画についてとかを検討したのか、目の下にはっきり隈が出ている。
僕が気にすることではないが、あまり無理はしないで欲しいな。
みんな自由に動き回るので、何か必ずやらなければいけないということもなさそうだ。
僕も最初の予定通り、持ってきた設計図をもとにいくつか武器を作るつもりだ。
武器は基本的には僕が使うつもりだが、他の非戦闘職の人に渡してもいいかなとは思っている。
例の長距離射撃の出来る鉄砲も作る予定で、これは多分、運の優れたエリックと相性がいいのではないかと考えている。
ヒサコ先生にも護身用の何かを作ろうとは思っているが、魔王のもとまで一緒に行く人だ。彼女の非凡な才能を活かせるような強力な武器がいいとはしばらく前から考えていたのだが、転移までには結局思いつかず、保留になったままだ。
その武器のデザインや構想も、この一週間で思いつけるといいな。
鍛冶場に行こうかと思ったが、昨日の会議中に思いついた二つの仕込み武器について、記憶が新鮮なうちに設計図に起こしておこうと思う。
仕込み武器の類は、元の武器の形状と収納するときの大きさの目安が分かっていれば、機構をデザインするのは大した苦労ではない。
しかし、作ってみたり実用的なことを考え始めると、どこか思いもよらない場所が干渉したりして動かなかったり、強度に難がある場所が出てきたりなど上手くいかないことも多い。
まあ発想だけしていても設計図を書かなければ、作ってみて試行錯誤することもできないので、しばらく時間をかけて設計図を書く。
自室で三時間ほど仕事をし、正午ごろになって腹が空いてきた。考えてみれば朝食さえ食べていない。
借りた家の中に台所はないし、昼食はどうすればいいのか。そんなことを考えていると、部屋の扉を叩く音がした。
「ハウエル君、いる?」
ミシェルの声だ。僕は扉を開ける。
「ミシェルこそ、家にいないかと思ってました。急にどうしたんですか?」
「エオスが私達を呼びに来て、一緒に昼食を食べないか、って言ってたのよ」
「いつ?」
「ちょっと前かしら。たぶん今、家の外で待ってるんじゃないかしら。」
「ミシェルはどうするんですか?」
「もちろんエオスに付いていくわ。」
「なら、僕も行きます。」
というわけで、エオスと一緒に昼食を取ることになった。
エオスに付いて向かったのは、神殿内の食堂らしき場所である。
僕がここに来るのは初めてだ。
食堂の中に入ると、教皇と三人くらいの枢機卿みたいな人がこちらに手を上げて合図をしている。
初日の印象とは違って気さくな人だなと思いつつ、僕達はそちらに向かう。
「いやはや、勇者様一行の人は素晴らしい人が多い。」
僕らが席についたところで、教皇が言う。
何かの話の続きだろうか。話の流れが分からないが、僕も部分的にではあるがそう感じるところがあるので、頷いて同意しておく。
「あなたもですよハウエルさん。聞くところによれば、誰も思いつかないような素晴らしい技術を発明したとか。」
なるほど。エオスは僕のことをそう紹介したのか。
確かに誰も思いつかないような技術だが、素晴らしいというのはとても主観的だし、有用だとか、便利だとかそういった言葉も入っていない。
僕を紹介するには良い言い回しだ。
「ミシェルさんも、仕組みは分からないが有用な能力をお持ちだとか。聞いたところによると、秘匿すべき技術のような感じも受けましたが、ぜひ私も見てみたい。」
「いえ、見せるほど大した技術ではありませんわ。」
教皇の言葉に対する返答は、向かいに座る教皇の真後ろで、つまり僕の真正面から聞こえた。
もちろんミシェルは僕の隣に座っているし、声のする方向には誰もいない。
「どうだねパイロンくん。君には何か、今の現象の仕組みについて分かったかね。」
「仕組みは分かりません。ただ、教皇の後ろに転移魔法に似たマナの歪みがありました。」
教皇が隣に座る男と少し話す。
パイロンと呼ばれたその男は、フードを深くかぶり、両目を覆うように肌色の大きな布を巻いている。
見るからに怪しい。
「視線も動かさずに周囲のマナを読むなんて、私もつい最近まで出来なかったわ。もしかして、パイロンさんも私と同業の方なのかしら。」
「そうかもしれません。」
パイロンとミシェルは、互いに口角を上げるが、二人の間に緊張感というか、いわゆるバチバチが走っているのが幻視できる。
「エオスくんは私達の考えの至らなかったところをたくさん指摘して下さったんだが、その中に、想定外のときに対処が遅れる可能性、というのがあってね。」
ふむふむ。
「いざとなったときにこの神殿と連絡をつけられるように、連絡要員としてパイロンくんを君たちの一行に入れさせてもらいたい。」
「面白い人っぽいし、僕は別に構いませんよ。」
「私も、決定権があるわけじゃないけれど、構わないわ。」
ということで、夕食のときにまた、パイロンの参加の是非について全員で決めることになった。
エオスは、あらかじめ三人が了承している状況を作れば、夜の話し合いの結論も早いだろうという考えで、そういうつもりで僕たちを昼食に誘ったらしい。
「パイロンさんの隣のお二人は…」
「私達の計画を立てて下さった、教皇の参謀よ。」
「その件は、ありがとうございます。」
「そんな感謝されることでも…」
「そもそもこの世界の問題ですしね。」
参謀達はやたらと腰が低い。
この昼食はおそらくパイロンと僕らの親睦を深めるためのものだろうなと思いつつ、昼食を待つ。
ここの昼食は日替わりの一種類で、注文しなくても待っていれば出してくれるらしい。
「私は教皇になる前に、一度勇者様に会ったことがありまして。」
教皇が突然話し出す。
「勇者は僕たちが初めてでは無いんですか?」
「そうです。今の魔王が現れてから、この世界で勇者を呼ぶのは二回目です。」
「前回の勇者は、魔王を倒せなかったってことかしら。」
「前回の勇者様は、一人で召喚されたのですが、この世界とは上手く馴染めなかったらしく、魔王領に旅立つ直前に病気で亡くなりました。」
「魔王の手下による攻撃ではなくて?」
「それは、すいません。私達にはもう分からないのです。」
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